第35話 限界
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(そうか、拓真が言ってたラッパの音ってそういうことか)
生き返った俺は、紅が言っていたことを思い出した。なんで死んだのかを確認するのに、ラッパの音の有無を聞いたのか。それは大罪が死ぬことでラッパの音がなるからではないかと推測する。
俺は、立ち上がりすぐさま手の中に神刀を戻す。神祝には必ず空間に収納、そして自分の周囲に好きなように召喚できるらしい。
そして俺は何が起こったのかを理解し、瞬間的に振り返りすぐさま離れたところに転移する。また奴が攻撃してこようとしていたが、当たる寸前のところで俺は攻撃を回避した。
なぜ拓真が死ななかったのか。それは明治神宮で凪が『記録』を使っていたからである。あの時に身代わりを作っていたことで、『無効化』を貫通したグリードの攻撃から一度だけ生き残ることができたのだ。
「ボボッボッ、ボクガ、ボクはし、『しじjsじなないいいいいいいい』」
振り返って確認すると、そこにはグリードが立っていた。切られたはずの左腕はもとに戻っており、恐ろしい形相を浮かべながらこちらを見ている。
「化け物が…」
グリードは自身が生き続けることを想像し、結果を捻じ曲げ、それを実現させた。しかし、魂は2つに切り裂かれており、自我はほとんど失っている状態。しかし、強欲の大罪が持つ、大きすぎる欲望。ただそれに従うだけの化け物へと変化し、蘇った。
俺は確信した。やつを完全に倒すには、『神化』した天恵と『焔祓』を合わせた奥義で倒すほかないと。
「マ”ズ”ハ”!オ”マ”エ”ダ”ァ”」
俺の方に向かってくると思ったグリードだったが、こちらに背を向けて走り出した。
「来ないのか?!まさか────」
拓真が考えた通り、グリードの狙いは凪であった。グリードからしてみれば、カメラがもう使用できないことなど知らないため、邪魔な方から排除を優先した。十字架に磔になっていた凪の腹を勢いよく殴ったあと、何度も顔を殴りつける。
凪の意識を奪ったグリードは、俺のもとに一目散に駆けてくる。グリードが凪を殺さなかった理由は特に無い。強いて言うのならば、ただ腹がたったから攻撃しただけで、邪魔さえできなくなれば何でも良かったのだ。
「オマエダゲハ、ゴゴゴ、コロスススス!!!」
一直線に俺を目指しているグリードに橙乃は仕掛ける。
「油断しすぎじゃ、『時斬』」
今までとは違い、グリードに攻撃が回避されず、胴体の位置に横振りの太刀筋が完璧に合わさる。時空を越えた一撃は、グリードの上半身と下半身を二つに斬り分けた。が、次の瞬間には何事もなかったかのように上半身と下半身はもとに戻っている。
「『キ”カ”ナ”イ”』」
「そんなバカな!?」
橙乃は信じられないものを見た。胴体を真っ二つにされても即死しないどころか、全回復してきたことに橙乃は驚く。
「ゴ”マエハ、ジャマボォ”スルナ!」
橙乃が驚いていたのもつかの間、グリードは空気の壁を操作し、橙乃を斜め上に吹き飛ばす。グリードは『改変』を最大限活用、結果ではなく世界の真理に作用し、空気を固めて押し出すという荒技を行った。橙乃も何もせずにただ吹き飛ばされたわけではない。草薙剣は時空を越えて斬ることができる代物、その刃先は鋭く研ぎ澄まされている。空気の壁であろうとも斬ることは容易かったが、いかに細かく斬られようとも、すぐに空気の壁はもとに戻る。抵抗も虚しく、戦いの場からはじき出された。
「ダァア”グゥ”ブゥネ”!オ”マ”エハ”ボクガァァァァ”ゴロス”」
もはや言葉を喋れているのかも怪しいそれだが、お前を殺す、そう言っているのは拓真には理解できた。
(何一つ出し惜しみはしない、今度こそ俺が、お前を、殺す)
人のことを殺しにくるんだ、自分が死ぬ覚悟はできているだろう。俺もこいつをもう一度殺す覚悟を決めた。
「『焚』」
『碧焔』じゃ足りない。守りを突破できるだけじゃなく、攻撃の邪魔をする全てのものを燃やせる火力。今の俺に必要なのはそれだ。
「黒焔:『祈消』」
この刀の刃は本来空間さえも斬り裂く性質を持つ。さっきはグリードの守りは完全に突破できなかったが、使い慣れればあの守りを刃の性能だけでできるが、鍛錬が足りていない。だが、今は『焔』と『消失』の天恵を纏わせている。いかに『改変』して守ろうとも攻撃は通る。
俺は一度鞘から抜き、刀を振り下ろしておく。
グリードも西洋風の剣をどこからか取り出し、間合いの外にいる俺の方に向かって、それを振り下ろす。
「『オマえハ、ギ、キラレル』」
拓真のことを斬った、と結果を改変しようとした。しかし、何も起こらない。
「ナ二ナ、ナニガ、オゴゴ、オゴッタ?」
「消しただけだが?」
あいつの『改変』は攻撃したという結果に改変しているのではなく、攻撃の座標をずらしているだけだろう。今までの感覚からそれを読み取っていた。つまり、いかに『改変』されようとも、斬られるということは攻撃が存在しているわけだ。それを刀で斬り『消』せば何も問題はない。今の刀はそういうことができる状態だ。
「刀は近づいてナンボだろ」
俺はそう言いながら、体を前に動かす。
(こんだけ強い能力だ、何かしらの制限があると思っていたがヒットだな)
拓真が考えている通り、大幅な『改変』が起こるものでは言葉がない限りそれは起こせないというデメリットがあった。今までの攻撃で『改変』を使用した際には拓真の読み通り、攻撃の座標を変えているだけなため、迎撃するのは不可能ではない。だがそれには、グリードの『神化』した能力を突破する必要がある。
接近し、刀と剣が交差し、互いの位置が入れ替わる。黒の焔はこの世の全てのものを消し炭にすることができるが、神に関わるものとは互角以上の性能というところ。グリードの剣はシンプルなものではあるが、神が作り出したものであるため、斬り合いが行われている。一歩も引かない剣捌き。互いが全力の力を出し、負けず劣らずの攻防。目の前に居る拓真、それだけを意識しているグリードは考えていない。なぜ拓真が近づく前に、刀を振り下ろしたのか、など。
(今だ!)
突如としてグリードの背後を襲ったのは『黒』く燃え上がる斬撃。拓真の攻撃を警戒して能力を解いていなかったグリードの守りを、焔を纏った斬撃は簡単に突破。そのまま斬撃は守りを破壊し、背中を深く切り裂く。
「ウ”ガ”ァ”ァァ”ア”ア”ア”ア”」
あまりの痛みに叫ぶグリード。
「『ゼ”ン”ブ”ギカ”ナ”イ”』」
そして、グリードは天恵を使おうとした。濁音混じりの言葉であろうと、体はもとに戻る。
────天恵があればの話だが。
「無理だよ?今お前天恵ないし」
拓真の斬撃には、『神化』した天恵、『消失』が込められていた。グリードの肉体を斬ると同時に、能力も斬り、消した。魂に根付いている能力は、魂がある限り一定の時間を経てもとに戻る。だが、戦闘の中で一瞬でも能力が消えることは大きな不利となる。グリードは自身の天恵である『改変』を使えなくなった。
本来であれば直接魂ごと燃やしたいところではあったが、魂の器は燃やし尽くせそうにもないため、黒焔は火力を底上げするために使用している。
「バカ”ナァ”!?ボクノ”、ボ”ボ”ボ”グノノウリョグハ”『カミ』ガ”、『カミ』ガアダエ”…」
「神も仏も知ったことか。俺の邪魔をするやつは誰であろうと消してやるよ」
倒れたグリードに刀を振りかざし、勝ったと油断した次の瞬間、グリードの左手が俺の足に伸ばされる。
(強欲の能力はもうないはず…しまった!?)
拓真が図書室で食らった能力はグリードの能力ではなく、その肉体が持っていた能力。空想世界、触れたものを自身が作り上げる世界に引きずり込み、死へと誘う。俺の足に、あと数センチで手が届くというところ。どこからか何かが風を切る音が聞こえ、グリードの手に矢が刺さる。
弓を撃ったのは橙乃。遠くに飛ばされたが攻撃手段がないわけではない。橙乃はあらゆる神社の信仰心から生まれた神である唯一の存在。『八咫鏡』『草薙剣』『八尺瓊勾玉』は三種の神器と呼ばれ、陰陽師の中でも特に神聖視されているものである。ただし、この3つ以外にも神器は存在している。加護を持っているものではないと召喚できない『天十拳剣』がその例だ。そして他にも『天之麻迦古弓』、それは橙乃が所持している。
その弓が有する能力は、自身が目視している範囲の敵に対し、必中の矢を放つ。
グリードの空気の壁に飛ばされた橙乃はあるところを目指しながら、弓を構えていた。強欲の執念深さ、欲深さ、その強欲さは同じく七つの大罪に目覚めた者同士、痛いほど分かっている。必ず最後に仕掛けてくる、その時の準備はしていた。
遠くに拓真が見えた。拓真は気付いていなかったが、やつは一瞬たりとも殺意を失ってはいなかった。その殺気を感じ、橙乃は足を止める。狙いを定めてすぐさま矢を放った。矢が刺さったことを確認し、すぐさま走り出した。
『霊力』を含んだ矢は、グリードを苦しめた。
「ウ”ガァァア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”ア”!!!!」
拓真の足に近づいていた腕が暴れまわる。
(この気配は橙乃か!?助かったみたいだな)
手早く済ませるとしよう。
「『魂だt────」
「マ”ダ”ボ”ク”は”シ”ナ”ナ”イ”」
濁音混じりの声とともに、勢いよく体を体を捻り刀を避けた後、飛び起きる。
『改変』の天恵が封じられているグリード。だが、依代の能力である、触れれば勝ち確定の天恵『空想世界』は残っている。対して、残り少ない妖力の拓真。
だがそれでも、条件は拓真のほうが優勢であった。しかしそれは、不変ではない。ちょっとしたことで、状況は、世界は変わるのだ。
これ以上斬撃を飛ばすと妖力が後に響きそうなため、今はこの『黒焔』を纏わせた刃だけで斬る。そう決めて刀を構えた俺。
『黒焔』を纏った拓真の刀と、シンプルな剣を片手に持ったグリード。言葉を交わさなかったが、風が木を揺らすと同時に二人は前に駆け出し、距離を詰めた。
最後の一撃を決めるために走り始めた拓真だったが、突然の激痛に胸を押さえて足が止まり、膝から崩れ落ちる。
今までに感じたことがないほどの痛み、その原因は妖力の過剰使用だった。あまり運動しない人がいきなり激しい運動を行ったときに起こるような、妖力の筋肉痛のようなもの。陰陽師になってから今日以上に妖力を使ったことは一度もない。というよりも、妖力が多い拓真が妖力を節約を考えるほどにまで使ったことはなく、今日の使用量がどれほど異常なのかがうかがえる。この瞬間、全ての妖力が使用不可になった。
(一秒あれば落ち着いた後にアイツを斬れるが、)
だが、そんな時間は一切ない。すでにあいつの左手と剣の刃が俺へと向かって来ていた。
今度こそ、詰みか。
設定:
・拓真が攻撃を打ち消したのは、刀の能力ではなく、『消失』の天恵で消し去りました。
・七つの大罪は死んだ場合、ラッパの音が鳴る
『黒焔』
・燃やすという概念的な『焔』
・対象を指定できる
作者のコメント:
『黒焔』は対象を指定できます。対象は一つですが、同一のものは一つとみなすことが可能です。(重要)
あ〜〜〜〜〜〜〜三章が終わりに近づいている。やだ〜終わらないでぇ〜〜〜。一番のお気に入りはこの戦いです。今まで拓真が手も足も出なかったグリードとの決戦。一対一では勝てない戦いだと自覚し、今までの行動が繋いできた結果の集大成。人とのつながりで訪れる結末、私は好きです。
次回VSグリード完結(予定)
お見逃しなく。




