第4話 時間稼ぎ
「菜華ちゃん!?」
菜華が一人でやつらを、いや怪異たちをコンパクトナイフ一本で相手していることに驚いた紗黄。さっきからは予測できないほど、今は華麗な戦闘を見せている。ホラー映画とかに出てくるゾンビとかとは違い、怪異の動きは人そのものに近く、それが複数かかってきているがそれをものともしない様子。武器を持っていない怪異はサクサクと斬られて倒れていく。
「ふぅ〜、とりあえず第一波は防げたはずだけど…」
顔を上に向け、肩を下ろしながら息を吐いた菜華。今の戦闘で数十体いたはずの怪異は全て消えた。
「急いでここから離れないと。結月、二人をよろしく」
「菜華ちゃんはどうするの?」
結月に任せる発言をした菜華を不思議に思った紗黄は聞いてみた。
「私はこいつらの相手を」
菜華が振り返った方を向くと、そこにはさっきと同じように影が群がっていた。その数は先程の5倍以上、数にして百と言ったところだ。
「ひとりじゃ無理だ、早く逃げよう!」
俺の提案に首を横に振る菜華。現状、俺の眼には勝ち目が無いように見える。
「二人とも、見ててね」
口元に軽く笑みを浮かべてそう言った菜華はどこからか御札のようなものを取り出す。左手でそれを正面に構え、右手の人差し指と中指をクロスさせる。
「祓────え、清────」
菜華はお経のようなものを唱えた後、言葉を強く言い切る。
「『雷撃』!」
瞬間、稲妻が空を駆ける。暗闇に一閃の光が怪異たちへと向かい、人ならざるものの一体にそれが当たったあと、周囲へと光は伝播し始める。一瞬だったためはっきりとは見えなかったが、俺にはそれが菜華の手から放たれたように見えていた。稲光に貫かれた怪異は黒い靄を放ち、その姿は夜の闇へと消えていく。
「早く行くよ!」
結月は二人の手を取って走り出した。菜華は3人が走り出したことを確認して目線を別の方向に向ける。
「やはり無限湧きか……」
そう言った菜華の眼は地面から湧き出す黒い影、怪異の姿で埋め尽くされていた。
実はだが、さっきは軽々と祓ったように見えたナイフを使った戦闘だったが結構無理をしていた。肉弾戦は数が多いほうが圧倒的に優位だ。最初に使っていたナイフも、さっきの数は捌ききれない。近づかれないように神術を使ったが、流石に連続しては撃てないため近距離戦も覚悟しなければならない、あまり長くは持たないだろう。
それと私は一つだけ紗黄先輩たちに嘘をついた。結月も涼介も紅もわざと何も言わなかったが、この世界は二人が逃げれば崩壊する?そんなはずはない。怪異は自身のテリトリーに入ったものを決して逃しはしない。
(私一人でここを凌ぎきれるだろうか。)
下向きな感情にになりかけた私を自覚した私は頬を叩いて覚悟を決める。
「涼介と紅にああまで言い切った手前、私が負けたら恥ずかしいからね。ちゃっちゃと終わらせないと」
自分を鼓舞するように、言い聞かせるように独り言をつぶやく。
まだ涼介と紅がこちらに来ていないが、十中八九さっきの怪異たちに苦戦しているのだろう。自分の前にいる怪異は『都市伝説』である『きさらぎ駅』に巻き込まれて魂を奪われたものの残滓のようなものだが、涼介たちの方にいるのは怪異そのもの。そう簡単に倒せる敵ではなかったのだろう。後からこっちのサポートに来るかもしれないがあまりあてにはしないでおく。
(とりあえず今は『神術』と『天恵』でこいつらを蹴散らして少しでも結月の方に行くのを減らさないと)
結月は手を相手の方に押し出し、口を開いて神術を使用するために祝詞を唱え始めた。
報告
月曜日に投稿するはずが、まさかの書き終わったので投稿します。紅の話と菜華の話は自分の中の一章が終わったあとに書くことになるかと思います。
裏話?
・神術=魔法みたいなもの
・天恵=スキルとか特殊能力みたいなもの
次回上の2つは詳しく書くと思います。分かりづらかったらこっちのほうの認識で大丈夫です。
・怪異=妖怪+都市伝説+怖い話から生まれた霊(悪霊)の総称
・怪異の強さ:妖怪>都市伝説>悪霊 (例外あり)
・妖怪は噂から力を得るが、魂を奪っても何も起きない。噂が元ではなく普通に存在する怪異のため、祓われると二度と復活しない。(例外あり)
・都市伝説は噂と魂から力を得る。また、大本となる話によって持っている能力が決まっている。強さはその個体次第。倒してもまた現れる。
・悪霊は怨念が主な原因。噂と魂から力を得る。祓われると二度と復活しない。(例外あり)
長々と書いてある後書きを読んでくださり本当にありがとうございます。
今後も皆様に見ていただけるような展開を書けるように日々精進してまいりますので、ご愛読の方よろしくお願いします。ありがとうございました。