第34話 神化
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神刀、焔祓。この刀は神化している能力を三つ有している。
一つ。斬撃を飛ばす。刀の太刀筋をそのまま飛ばすというもの。距離は込めた妖力に比例する。
二つ。全てを斬り裂く刃。妖力を込めれば込めるほど切れ味は増し、あらゆるものを斬れる。斬る対象を指定できる。
三つ。『焔』の生成と操作。実体を持たないものを燃やすことができる『焔』を操作する能力。対象の指定が可能。『焔』の火力は全部で────。
この三つは刀の封印がある場合は使うことができないが、今は封印が解かれているため使用できる。
俺が放った斬り裂く刃と併用した一撃は斬撃となって勢い良く空間を進み、グリードに向かう。その斬撃は、グリードには見えない不可視の斬撃。スピードも相まって回避や防御をするのは至難の業。
「その位置から振っても僕には当たらないよ?」
命中するかのように見えた斬撃はグリードの言った通り、当たらなかった。神祝をもってしても、グリードの防御は突破できないかのように見える。
だが、実際には違った。グリードめがけて一直線に飛んだ斬撃は肌からあと僅かという横を通り過ぎた。やはり神祝はグリードの天恵、『神化』したものに対抗できる。慣れていないため、性能を引き出しきれていないなどの問題点はある。しかし、守りを貫通できるということにグリードはまだ気づいていない。つまり、まだチャンスはある。
「試し振りしただけですけど?」
正直、いまのでいけてたら良いなとは思ったが、現実はそう甘くはないみたいだ。ただし、斬撃を飛ばせることにはまだ気づいていない様子。次の攻撃で一気に決めにいく。
「はいはいそうですか。お前がいない間にこいつらと戦ったがなかなかに強かったね。橙、色欲は当たり前として、そこの凪とかいう女。なぜお前まで時間に関わる能力が使える、なかなかに手強いな」
急に凪に対して感情をむき出しにしたグリード。
「戦いの最中にペラペラ喋ってんじゃねーよ。三対一だぞ?」
俺は刀を構えながらそう問う。
「これで二対一だ」
そのセリフが聞こえると、さっきまでいた位置から消えているグリード。一瞬にして凪の真横に回り、体に触れながらこう唱える。
「『磔刑』」
「またぁ〜?」
凪は拘束されながら不満を口にした。また凪を狙った拘束、裏を返せば一番警戒している存在は凪ということを裏付けるものでもあった。拓真と橙はまだ分かっていなかったが、神機の能力はグリードにとって非常に厄介であり、身代わりを作られるなど不愉快極まりないものだった。
グリードからの追撃から守るために、攻撃したいのは山々だが、この位置からでは攻撃に必ず凪さんを巻き込んでしまう。なんとかやつを引き剥がさなくては。
「『引力』」
そう思ったのもつかの間、凪は能力を使用した。十字架に捕まるより前に使用していた能力がグリードを拓真たちの方向に勢いよく引き寄せる。
「申し訳ないけど、後は頼んだ」
動けず何もできなくなってしまった凪は戦いを二人に任せた。
(写真の残りは予備まで考えると実質一枚。確実な場面でやつに決める)
凪の能力を使えるのはあと一回分しかない。この状況であと一回分だけある状態、下手なところでは使えない神機。
凪はこれにより直接的な戦闘は終わった。そして戦いのメンバーは入れ替わる。
(あの人、橙乃でいいのか?)
拓真は謎の男に疑問を持っていた。さっきから橙乃の姿はなかったが、謎の男が凪さんと一緒にいたため、反応を見るに多分あっているだろう。
「橙乃でいいんだよな?俺に合わせてくれ!」
「そうじゃ!了解!」
俺と橙は走り出した。
さっきの斬撃だけでグリードの守りを突破できないのなら、他の能力も使用してやるよ。
「焔:断」
走っている最中に俺が飛ばした斬撃は一度目とは違い、別の能力も使用した斬撃が空を斬り裂いていく。その斬撃はグリードの真正面から守りに入るあと僅かというところで赤い『焔』を一瞬だけ帯びた。それはグリードの守りを突破し、横髪をわずかにかすり斬り落とした。斬撃は一直線に守りを突破できなかったのだ。『焔』を使った能力フル使用の一撃、それでも無理らしい。
「斬撃か、いい技だが無駄だ。僕に近ければ近いほど守りは強固にしてある。何発撃っても無駄なんだよ!」
あいつの守りはただ一つだけではなく、幾重にも体を覆っているため、『焔』を纏わせた斬撃でもまだ足りないらしい。
俺の斬撃は見破られてしまったが気にせず、距離を詰めに行く。橙乃もそれに合わせ、挟み撃ちの形で攻撃を狙う。俺と橙乃に挟まれたグリードを左右から斬りかかろうとした。
「邪魔くさい」
上へと回避しながらそう言ったグリード。
「そこは既に斬っておる『時斬』」
空中に避けようとするグリードに対して橙が技を放つ。
「まじか、」
グリードの対応が僅かに遅れる。この瞬間、グリードの意識は橙乃に向いているのではなく拓真、正確には拓真の持っている神刀に警戒心を持っていた。警戒心と言っても、一応気に留めておこう程度。たった一つの守りを突破できたところで、自分自身の守りはいくつもあると高をくくっていた。だが、その僅かながらにでも欠けた意識が一つの結果へとつながった。
一回目の『時斬』のときとは違い、橙乃への警戒を怠っていたグリードは回避が間に合わず、左肩から斜めに大きく斬られた。左腕が空から地面へと落下する。拓真が間髪入れずに空中に斬撃を飛ばすが、それは全て明後日の方向に飛んでいった。攻撃を回避したグリードは地面に着地。そして、腕を斬られた者が絶対しないであろう高笑いをする。
「ハハッ、ハハハ、ハハハハハハ!」
グリードは急に大笑いを始めた。今までに見たことがないほど、感情が揺れ動いているのが見て取れた。
「何を笑っているんだ?」
疑問に思った俺は聞く。それに対するグリードの反応は、
「お前ら全員、覚悟しろよ?」
グリードの雰囲気がおぞましく邪悪なものに変化し、悪寒がする。
「『怪異共、殺し尽くせ!』」
名を持たぬ怪異や、都市伝説である口裂け女まで。命令に従い現れた、化け物共が橙乃を取り囲む。
「何度も言わせるでない。そこは既に斬っておる『時斬』」
都市伝説の怪異までを楽に消滅させるその一撃。今は能力で別の人物に変身しているが、流石に時間制限があった。
「早くしろ!もう持たん!」
ここまでの戦闘で橙乃の妖力、霊力ともに結構な量を使用している。橙乃の『時斬』はグリードにダメージを与えることはできるが、何度も攻撃を食らわせた以上、警戒心は高まりきっていた。だからこそ、拓真との連携を乱すために、橙乃を囲むようにして怪異に命令を下した。
警戒されている橙乃ではなく俺がやつを倒さなくてはいけない。だが、俺の斬撃は守りに防がれてしまう。能力の性能はヤツのほうが強いため、まだ守りは完全に突破できず攻撃は当たらない。刀そのもので斬りかかれば問題はないが、近づくのはあまりにリスキーだ。ならばどうするか。刀の力をフルに利用して、やつを飛ばした斬撃で斬るだけだ。
俺のこの攻撃ならば、天恵で守ったところで関係ない。心を落ち着かせ、刀を構える。俺とグリードの距離は、十m程度。
「また同じ技か」
完璧に守りを突破できないと身をもって体験しているというのに、また同じ攻撃をしてきたと、グリードは呆れてもいた。
(警戒してそれなのか?それなら俺の勝ちだ)
さっきまでのと違う、新たな一撃を撃つために刀を鞘にしまう。今の俺では切れ味を上げたところでやつの守りは完全に突破できない。赤色の『焔』を纏わした斬撃だけでは足りない。なら、
「その斬撃は僕には届かない。分かるでしょ?」
グリードの言葉を気にするわけもなく、集中した俺は『焔』の火力を上げる。鞘にしまうことで、『焔』火力は進化する。
「『焚』」
『焔』の火力を上げるために、俺は唱えた。
そして抜刀。横薙ぎの斬撃を飛ばしながら言葉を発し、勝利を確信した。
「碧焔:────」
グリードは天恵の守りに慢心しきってはいなかった。斬撃はまた守られ、どこかに飛んでいくかと思っていたが、万が一の場合に備え、回避行動を取れるように構えていた。だがしかし、先程とは違い、目にも止まらぬ速さで飛翔し、守りに到達した斬撃から『碧』色の『焔』が上がった。空気を切り裂いて進むその斬撃。それが『焔』に包まれ、ありとあらゆる障壁を燃やし尽くす。物質、非物質、その両方とも焔祓の全てを振り絞った一撃の前では意味をなさない。空間を切り裂き、能力を焼き斬り、守りを破壊した。その事に気づいたグリード。
「馬鹿な?!何故守りが……いや、今は回避を────」
「させるわけがないだろう?」
グリードの後ろで、凪は貼り付けになりながら言った。その右手には、カメラを持っている。亡との戦闘中ではそれを使う余裕もなかったが、戦っていない今なら使える能力。カメラのレンズがグリードを捕らえた。
「『型録』」
凪の言葉に従い、神機は能力を発動させた。その効果は、相手の動きを無条件で止めるというもの。カメラから印刷された写真が出てくる。後ろ姿ではあるが、敗北寸前の使徒の姿。印刷された写真を見た凪は言葉を使徒に送った。
「これでチェックメイトだ、強欲」
守りを突破するのではなく破壊されたため、逃げろという司令が頭から出されたが、神機によってそれを阻まれグリードは叫ぶ。
「ヤ”メ”ロ”ォ”オオオオオ”オ”オ”」
拓真が勝負を決めるのにかけた一撃、その名は────
「『魂断』」
俺が叫んだのと同時に、斬撃によってグリードの魂は真っ二つに斬られていた。
「きちっとお前の魂だけを斬った。じゃあな、強欲」
俺はグリードに別れを告げた。肉体を傷つけることそのものに抵抗はないが、依代となった体は何も罪を犯していないため、殺すのは忍びない。そのために、グリードの魂だけを斬った。
ただの斬撃では、グリードの守りを完全に突破することができないのなら、対策をするに決まっている。だからこそ、『焔』だ。対象を設定した『焔』を使用することで守りを完全に破壊、そして刃の対象を魂に指定することで、最大威力の斬撃で守りと魂を燃やし斬る。これで決着はついた。
「無事に倒せた……。橙乃ありがと。それと凪さん、さっきはありがとうござ…」
橙乃の方を向いたあと、凪さんにも感謝を伝えようと振り返ろうとした俺だが、二人の顔が引き攣れている。
「後ろじゃ!拓真!」
「逃げろ!」
橙乃と凪さんの叫びが拓真の耳に届く。
天恵で移動しようとしたが、間に合わなかった。瞬間移動を発動させるよりも早く、背中から何かが俺の心臓を貫いた。俺の体には攻撃の『無効化』を付与している。それであれば、防げるはずだ。『神化』しているため、いかなる攻撃も通さない、はずだった。
最後の力を振り絞って振り返り、何が起きたのかを確認した俺は絶望の表情を浮かべた。
まだ、死んでないのかよ。お前。
『無効化』で死を逃れるのが間に合わず、俺は命を落とした。
第三ラウンド。勝者、強欲の大罪。
設定:
『焔祓』
『焔』
・『焔』=最もシンプル。
・『碧焔』=『焔』より威力が上がる代わりに、妖力の使用量増加
・『─焔』=現状最大火力。自身が望むものを必ず燃やすという、概念的な『焔』
・『焔』の火力を上げるのは鞘にしまうことでのみ可能。シンプルな『焔』はいつでも出せる。
・『焔』自体を飛ばすことも可能。
・『神化』しても前の天恵は使えます。
・『神化』した能力VS『神化』した能力は基本的に攻めるほうが強いです。
・もしも拓真があの瞬間にのみ、あの攻撃だけを『無効化』の対象としていた場合は防げていましたが、そんなことは一度もしたことがないため知らないし、できなかった。
・死の『無効化』は判定がシビアのため失敗。
作者のコメント:
やったーーーーーーついに拓真の神祝が出てきたぁぁあぁぁぁぁぁぁ!!!一番楽しんでいる自信があります。
すごい。すごいぞ。執筆欲が止まらない。まだまだこの流れは続きます。




