第33話 神祝 神刀────
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凪が橙乃に合流するよりも少し前、その場からは離れていた拓真はなんとか頂上にたどり着いていた。
「っは〜。なんとかたどり着いた」
ここへ辿り着くまでに戦闘はなかったものの、移動のために妖力をある程度使ったが、そこまで支障が出るほどではない。
俺は今すぐにでも目的の品を手に入れるために、社を見てみたが何もない。
「何もない?今更だけど、神社で祀られているもの取ったら犯罪か?」
紗黄を助けるために犯罪を犯してもいいのだろうか。そう悩んでいると強い風が吹いてきた。とっさに目を閉じ、次に見た光景はあたり一面を覆い尽くしている闇。そこに一本の刀が浮いている。
「なんだこれ?いや、これが神祝か」
刀を取った。高校で刀を持ったことはあるが、ただならぬ気配が滲み出しているそれは、持っているだけでも圧を感じる。だが、それ以上のことは何も起きなかった。
鞘から抜こうとしてみたが、抜けない。錆びているとかではなく、一切動かず、びくともしない。前に覚醒したことで、天恵を自分以外のものに使えるようになったため、試してみたが抜けない。
原因は明白だった。これには何かしらの封印がかかっていて、それを解くには神の力と同等、すなわち『神化』した天恵でなければ対処できない。だが、『神化』するためには、この刀の封印を解くことが必要らしい。今俺に何も変化がないことからも、それは明白だろう。
なすすべなしだ。
(無理なのか)
力技で鞘から抜こうと、どれだけ引っ張っていても、一切動かない。俺には彼女を救うことができないのか。嫌だ。嫌だ。嫌だ。絶対に助ける。たとえ、俺が死ぬことになったとしても。
拓真の感情が最高峰まで達したとき、誰かの声が聞こえた。
「なぜ君はここに来た?」
突然男の声が優しく諭すような声で俺に問いかけてきた。この声は、あの人だ。俺を何度も助けてくれた、彼だ。
「またあなたが。ほんと、優しいですね」
彼はまたここでも俺の助けになってくれるらしい。
「私は君の味方だからね。さて、もう一度聞こう。なぜここに来た?」
なぜここに来たのか。俺がここに来た理由……そんなもの一つしかない
「俺はこの刀を手に入れるためにここに来た」
「それはどうして?」
「俺の大切な人を助けるために」
「なぜ君は戦う?」
「それは……」
さっきまで即答できていた俺だが、この質問には言葉が詰まる。自分自身、なぜ陰陽師になったのかといえば、妖力に目覚めたからというふわっとした理由でここまで来ている。家族が傷ついたわけでも、なりたかったわけでもなく、俺が────
「────俺が誰かを救うためにだ」
「ふむ……」
声の主が悩んでいるのか何なのか、やけ間がある。
「だから俺は君に宿っているのかもね。いいだろう。一瞬だけ、解除してあげる。あとは君自身の力でやるんだ」
俺の答えに納得した様子の彼はそう俺に言った。その言葉を最後に声は聞こえなくなった。
その時、鞘が刀から少し、一cmにも満たないほどだが動いた。天恵が目覚めたときより、天恵が覚醒したとき、その時以上の力が刀から流れ込み、腕から胸、そして全身へと広がる。力の流れを感じると同時に、刀は元の鞘に入った状態に戻り、周りの風景も元いた頂上の社へ。試しに天恵を神祝に発動した。今度こそ、上手くいくかと思った。だが、現実はそう簡単にはいかなかった。
『神化』した天恵でもこの刀に能力を使うことが、付与することができなかった。残念ながらまだ、拓真の覚悟は足りない。ただこの場所に来て、力を得る。そんな目的で、そんな覚悟で、これは手に入れられない。
「橙乃!あと十秒、死ぬ気で時間稼いでくれ!」
腹から絞り出した声は無事に橙乃まで届いた。
「任せるのじゃ!」
十秒あれば十分だ。今からすることは本来、死の間際に天恵を未来に託すためにされていること。自身の天恵をゆかりのある物に『恵渡』する。それをすると天恵は元の人から完全に移り、使用するにはそれを持っているという条件が発生するものの、一人が複数の天恵を使用するにはそれ以外の方法はないとされている。
また、死の間際でない今は、成功確率は、ほぼゼロに等しい。だが、その利点として自分以外に天恵を使用するのと違い、恵渡された物の所有者が能力をコントロールできるというものがある。
新たに手に入れた力は、ありとあらゆる理、神が定めたものでさえも超越するものだった。だがしかし、それでもこの封印を壊すことはできなかった。外側から封印に干渉するのは不可能と悟った。さっき能力を使ったときに、封印を一度も解除できなかったのはそれが理由。
ならばと、その対抗策として天恵を刀に移し、刀自体から理を『消失』させることを思いつく。外側からどんなに守りが強くとも、大抵のものは内側の守りが弱い。恵渡が失敗するリスクも、封印の解除が失敗するリスクもある。だが俺は『神化』した能力を信じる。
『恵渡』を俺は実行した。心臓に宿っていた何かに俺は意識を集中させ、それを両手で持っているこの刀へと移す。
これでだめならこの刀は諦めよう。別の方法を見つけて、俺は絶対に紗黄を救う。どんな手段を、何年かかっても、俺はもうあきらめない。そう覚悟を決めた俺。
恵渡は────成功した。成功する望みが零に等しかったそれは、彼のおかげか、俺の思いが届いたのか、何事もなく終わった。
天恵はこの瞬間から刀に切り替わり、その刀の所持者である俺が能力を発動できる。妖力を刀に流し、新たに『神化』した天恵を使い封印を『消失』させた。それにより一つの事実が発覚した。
この刀は、何かしらの条件下で鞘が抜けるように封印が世界そのものからかかり続けているようだ。これでは、もし『消失』を刀に付与できたところで一度のそれでは意味をなさなかったわけだ。連続しての付与は不可能なため、どちらにせよ使うには恵渡しか方法はなかったらしい。
天恵を発動させた結果────刀にかかっていた封印が一時的ではあるが壊れた。それを維持するためには普段自分で能力を使っているときの何倍もの妖力が必要らしい。
鞘から引き抜かれた刀身は、暗いこの頂上の神社を光で照らす。あまりの光に木々の中にいたグリード達もその光の方を向く。
「来るか!拓真」
そう言いながら、橙乃から距離を取るグリード。とっさに標的を拓真に切り替える。
(戦っている音と、さっき聞こえた橙乃の声から大体の居場所は掴めてる)
俺は数百メートルはある距離を一気に天恵で移動する。能力が『神化』したことで、移動できる距離も格段に伸びた。
移動した拓真だが、流石にグリードの直ぐ側には移動することができなかった。ただし、移動先は凪のすぐ隣。状況を飲み込んだ拓真は瞬時に能力を使用し、十字架から凪を助ける。鎖から抜け出せた凪は地面に落ちている村正を拾い上げ、もう一度刀を抜いて構えた。
先ほどまで橙乃と凪は刀や剣などのリーチの長い武器で戦っているのに対して、グリードは小さいナイフ一本だけ。本来であれば数的優位も合わさって、前者のほうが圧倒的に有利であるが、能力を駆使しながらそれを使うグリードとは互角であった。
戻ってきた拓真によって助け出された凪、それにより人数の差は大きく開き直した。
(ぶっつけ本番だが、この距離からだとそれしかないな)
俺は手に入れた新たな力を感覚ですぐに理解すると、今できる最大限のことを実行に移す。予想よりも距離があるため、俺は行動に移す。グリードと数十メートル以上距離がある。今までであれば、ここから攻撃するには神術以外の選択肢はなかった。だが、『無効化』は既に『神化』を遂げて『消失』に至り、俺の右手にはついに手に入れた神祝が握られている。
拓真は刀を構えて、その名を叫びながら振るった。
「神刀────焔祓」
設定
『無効化』
・自身に発動する場合=プログラムされたものにエネルギーを流し続けて使用。
・付与=使い切りのプログラムを設定し、それにエネルギーを流して一度使用。
『神祝』
・『焔祓』
三つの能力を有する。
①─を─ばす
②全───り──刃
③焔─生成と──
・神祝であって神祝ではない。
・本来神祝は7つ。刀のそれは含まれていないものだった。
・使用条件は八番目の螟ァ鄂ェ繧帝未縺吶k菴ソ蠕偵′髯阪j遶九▲縺滓凾
作者のコメント:
堺瑞稀は生きているが重症な状態です。紅の応急処置により、一命を取り留めました。
ここで定義をはっきりとさせてください……非物質とは空気、水、電気や赤外線、水蒸気、妖力、霊力その他諸々。殴った時に、あ〜殴ったわという感覚がないものとしています。
次回とても関係しますので……
今回の話は設定を後出しにしてしまった気がします。恵渡はもともと考えていたのですが、名前が決まったのが割と最近=前の話に書いていないため、唐突になりました……決して、後出しではないんです……だったらわざわざ封印どうこうの話は作りませんので……
さて!!!!!ついに私の中でこの作品のメインとも言える戦いが始まります。書けて嬉しい。みなさんも戦いに興奮していただけるように頑張ります。しばしお付き合いしていただければ幸いです。




