第31話 老兵
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舞台は戻り、東京。『都市伝説』との戦いを経て疲労していた瑞稀と紅の元に一人の男が会いに来ていた。
月村燿、あの人は私の師匠だ。最後に見てから結構経ったはずだが、あまり老けていないように見える。それに、放たれているオーラが以前と比べて格段に練り上げられている。私達と特訓していた時の何倍もの技量を持っている様子。師匠はここに何しに来たんだ?
「久しぶりですね、月村先生」
「あぁ、久しぶりだな瑞稀。ずいぶん大きくなったなぁ」
「えぇ、それなりに年を食ったものですからね」
「そうかぁ、もうそんなに経ったかぁ」
私の記憶の中の先生と様子は何ら変わりはない。だが、なにかおかしい。感情がふわふわしているというか、オーラに対して気力が少ない気がする。なぜだ。
「先生は何をしにここへ?」
聞いた瞬間、私達を取り巻いていた空気が変わった。『雨乞い』はすでに終わっているため、土の匂いがさっきまでしていたが、この一瞬、空気が一変した。
「そりぁ────お前らを殺すためだろう」
先生は、敵だ。
瞬時に先生から殺気が放たれた。そして恐ろしいほどのオーラを放ちながら先生は右腕で刀を構えるかのような体勢を取った。まずい。
「『居合 太刀』」
あの人はこれだから、やばいんだよ。下手すれば防ぎきれないかもしれないな。
先生の技に対抗するために、私はすぐさま天恵を使う。あの人の『太刀』は妖力じゃ対抗できず、物理現象で干渉させないと意味をなさない。あの人は『闘気』をメインに使って戦う類を見ないタイプの陰陽師だ。
「出力最大 『空振壁』」
瑞稀は空気を勢いよく振動させ、太刀筋を防いだ。以前の先生のままであれば、どんな技でも私の力で対抗できるはず。私もあれから何年も修業を重ね、強くなった。今まで一度も勝てなかったが、今日こそは勝ってみせる。
「甘ぇな。『闘術 剛破』」
聞こえてくる声とともに右の横腹に衝撃が走る。視線を横にずらすと、そこには先生が。
(いつの間に移動を!?いや、それよりもまずい。近づかれ────)
「『封印:妖気』」
途端、瑞稀の体に流れ、攻撃から身を守っていた妖術の流れが止まった。心臓から流れ出ていた妖力が、全身に流れなくなったのだ。
「先生、面倒なことをしてくれますね」
「あれだけ体を鍛えろと言ったのに、随分やわな体をしてるじゃないか。簡単に骨が折れたぞ」
片手を握り込むようにして骨を鳴らす月村。最初のどこか抜けた雰囲気から一転、今は恐ろしいほどの殺気と実力者の風格が見て取れる。
「ウグッ」
私は呻きながら口から血を吐いた。今の一瞬で肋骨が折れたらしい。一瞬たりとも目を離さなかったが、先生は肉眼で捉えられないほどの速さで私の横にまで移動してきた。しかも、先生に妖力を『封印』されてしまった。これでは『神銃』も使えない。
「弟子にひどいことしてくれますね、先生」
「いやぁ、今の俺は先生じゃねぇ。グリードの刺客さ。そこにいる紅とか言う男を殺しに来た」
「そんな冗談は……」
正直、冗談だと思っていた。先生はよく嘘をつく。殺気だって、何度も味わわせられたし、今みたいな攻撃だって何度もされてた。だから、本当ではないと……思いたかった。
だがそれは本心だったようだ。
私の言葉を遮るかのように、先生はポツリと呟いた。
「信じる信じないのはお前の勝手だが、弟子が死ぬぞ?────『居合 太刀』」
構えからまたも太刀筋が放たれた。私はさっきと同じように、それを天恵で防────
(しまった。妖力がない)
先生の天恵によって私はただの人間と同じになった。神術も、天恵も一切使えない無力な人だ。私の後ろにいる紅に向かって太刀は一直線に飛んできている。それは僅かながらに見える空間の歪みが物語っている。
紅は『都市伝説』との戦いですでに限界だったようで、膝をついて息を整えていた。すぐさま回避できる状況にない。
刻一刻と近づくそれから弟子を守るために、私は紅を覆うようにして二人の間に入り、紅を体で守った。
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何が起こったのかはよく覚えていないが、『都市伝説』を倒して、謎の男が来たことまでは憶えている。それで、神術の反動で倒れて。その次は……
体がなにかに覆いかぶさられた。何も見えない。何が起きた。数秒後、覆いかぶさったものは俺の体に寄りかかって、重さで俺は後ろから地面に倒れた。
何が覆いかぶさったのかを確認した俺は、ポツリと呟いた。
「師匠?」
コートには一直線に線が走り、そこから肉が見えている。そしてその服の隙間から水が流れ出ていて、それはコートを赤く染めていく。染みている何かに触れて、それが何なのかを理解した。血だ。
何度も呼びかけたが、意識はないのか返答はない。そんな。嘘だ。師匠が。あの師匠が、こんな……。
すぐさま俺は自身の妖力を師匠の肉体に治癒力に『変換』する。流れていた血はすぐさま収まったが、未だに背中からは肌の中が見える。だが、ひとまず応急処置はできた。
「おいボウズ、楽に殺してやっから動くなよ」
男は俺に呼びかけてきた。俺を殺すだと?目的は?いや、だって、あの男は師匠の師匠で……。
「なら、なんで、師匠を斬ったんだよ」
「そいつが勝手にオマエを庇ったからだな」
違う、そうじゃない。なんで自分の弟子にここまでの攻撃を与えて、そんな、そんな表情してられるんだよ。
男の顔には何の感情も浮かんでいなかった。ただ目の前で起きた事実を淡々と処理する機械のような男が、紅の目の前にいた。
「死ね『風刃』」
俺は一切躊躇わずに神術を放った。詠唱も手印もなかったものの、この距離ならば確実に傷は負わせられる。そんなはずだった。
「『封印:妖力』」
男は右手を前に出しながらそう唱えた。勢いよく進んでいた刃は男まで残り僅かというところで消失した。そしてなぜだか、体から一気に力が抜けた。
もう一度同じものを放とうとしたが、打てなかった。体内から、”空間”から妖力が消えたのだ。
「お前はこれで無力だ。それに対して俺ぁ『闘気』がある。諦めて首差し出せ。一瞬で殺ってやっから」
男はゆっくりとした足取りで紅へと近づいていく。
くっそ。ここまで陰陽師にメタ貼れるとか、無敵すぎる。集中してなんとか妖力を使おうとするが、一切使えない。
(まずい。万策尽きた。鍛えた技も、こんなにあっさりと封印されるなんて。もう何も……)
持っていた技術も力も全て封じられ、抵抗などできない状況に追い込まれた紅。
絶望のその縁で、彼は────
(いやだ、諦めたくない。俺は、こいつに勝ちたい)
────強く願った。いや、覚悟を決めたのだ。
俺の力だけでは及ばない。そんな事はわかっている。だから、
「お願いだ。力を貸してくれ」
全神経が一瞬にして、最大限まで研ぎ澄まされた。そんな感覚を俺は味わった。そして、体がなにか温かいものに包まれているような、そんな感じがする。
心臓から、なにかの力が流れているのを俺は感じる。それと同時に、何かが目覚めたような感覚がした後、俺の意識は深い闇の底へ沈────まなかった。こうならないために、俺はここ数ヶ月自分を鍛えてきたんだ。
《成長したな、紅》
誰かの声がした。初めて聞いた声だが、それが誰なのか俺はすぐに分かった。
ああ、ついに彼に会えた。長かった。あの日から何度も彼には助けられたが、ついに声を聞くことがかなった。やっと、あの日の感謝を伝えられるのだ。
彼の名前は────神威 瑛司。
俺の中に眠る、もう一つの魂だ。
設定:
・月村 燿-天恵『封印(神化済)』 空間にまで能力を作用できる。だが、相手に封印できるものは自身が────
・神威は魂の力が弱っているため、基本的に沈んでいる。
・力があり、なおかつ紅が誰かの助けを必要としているときにのみ現れる
作者のコメント:
味あわせ?味わわせ?
次はこれ(月村の────)が内緒
(次回分かる)




