第30話 奥義拮抗、崩すは乱入者
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「遅れた。ん?誰?」
そこに死神によって分断されていた凪が合流した。今の橙乃は姿が違うため、誰なのかを分かっていない。
「凪!わしじゃ!橙乃じゃ!それよりもわしのアシストを頼む!」
「了解」
理解できない状態を、無理やり理解する凪。少し開けた土地で、月明かりに照らされた中で三者は向き合っていた。
(二対一、わしらが圧倒的に有利な状況ではあるが、こちらが一歩決め手に欠けている。それと、今のわしでは『時斬』のストックは三本がいいところじゃな)
いくら別の次元を斬るといっても、それには限度がある。能力の対象となる太刀筋は橙乃が自由に決められるがそれでも三本が限界であり、一つはいざというときのために自身の目の前に置いてある。相手からすればそれを知る余地もないことだが、一度攻撃を食らっている以上むやみやたらに近づいては来ない。グリードができる選択肢は、限界まで能力で近づいて斬られる前にやるか、遠距離から削るかの二択。
「『カミの審判』」
グリードが選んだのは後者、遠距離攻撃である。しかし、ただ削るのではなく一撃で葬るつもりだが。現れた炎を操り、弓のような形にして、それを構える。橙乃とグリード、二人の距離は迎撃を許さない。
(僕が近づかなきゃお前は何もできないだろ?そしてダメ押しに……)
この距離からでは止めるのは間に合わない攻撃と予測し、発動を防ぐのは諦めた橙乃。グリードの考えは橙乃にとって最悪の一手。しかし、『已眼』の使用回数が残り一のため、近接戦闘になったとしてもどちらにしろジリ貧。八方塞がりであった。
(たった一度の技じゃが、やるしかないなのぉ〜)
「凪よ、やつの回復を止めてくれ。矢はわしが止める」
「わかりました」
すぐさま凪は神機を空間から取り出してグリードに向ける。
「カミの怒りをここに刻む」
グリードの詠唱は未だ続いている。
凪は呼び出したカメラのレンズにグリードを捉えた。シャッターを押して『傷録』を使い、グリードの回復を禁じることに成功した。
「主を害する罪なるものに 罰を与える 『終炎 裁きの矢』」
カメラから印刷写真が出てくるのと時を同じくして、何百、何千という炎をまとった矢が上空へと放たれた。橙乃が技を使う前に確認したグリードの姿は何も持っておらず、両手を胸の前で開いているものだった。
「時の皇帝 『操針 不刻』」
その瞬間、すべてが止まった。矢も、人も、グリードも、凪も、頂上に向かっていた拓真も、地球上の全ての動きが、時間が一斉に止まった。神の力をその身に宿すことで、天恵と同レベルの技を使用することができる『神技』を使用したのだ。
橙乃は止まった時の中で視線を上へと向ける。夜空には何千という炎、もとい矢の姿が見えた。
(まずはあの矢をなんとかせねばまずいのぉ)
あの炎の矢が地面に落ちれば木に燃え移るのは確定しているため、何もしない場合、わし達だけではなく周囲の被害が尋常ではなくなってしまう。
「『地獄の門』」
剣を地面に突き刺し、両手を合掌する。そして手を開きながらその言葉を発した。
────現れたのは大きな門。名前の通り、地獄をモチーフにした装飾がされた門がどこからともなく出現した。その大きさは6mほどあり、重厚感を醸し出している。
「開門『地獄の業火』」
時が止まっているというのに、門は開いた。門が開かれると、炎がそこに存在した。その炎は形を成していた。触れたものを消し炭になるまで燃やし尽くす龍の形をした火が上空で止まっている矢に向けて放たれたのだ。この技は『霊術』己の力を媒介に、神の力を使用する神術の上位互換の技。奥の手を使い、橙乃は矢の対処を優先した。
突如、門は姿を消した。何事もなかったかのようになくなり、そこには龍を形作った炎だけが存在している。
(時が止まっているため撃つことはできたが、本来であればグリードに邪魔されておったな。これで後はオマエだけじゃ!グリード!)
時を止めていられるのは今は合計で10秒ほど。霊力の消費が激しいそれを使えば、後に色々と響いてくる。
(時が動き出すまで、残り時間は四秒。)
剣を引き抜き、一気に距離を詰めにかかる。残り三秒。
「斬れ 『時ぎ...」
剣を構え、迷わずに一太刀で仕留めようとした。
止まった時の中で初めてグリードに視線を向けた橙乃が見たものは、グリードではなく、さっきの地獄の門よりも少し小さい門だった。その門は既に開いており、さっき自らが使用した『地獄の門』とは対照的な雰囲気を醸し出している。言うなれば天国の門だった。残り二秒。
(やられた…まずい今は凪を守らなくては)
一瞬でそう判断した橙乃は斬りかかるのを諦め、踵を返し、凪のもとへ向かう。
残り一秒。
凪のもとにたどり着いたのは良いものの、回避は間に合いそうにない。
「『大地獄の門』開門」
回避は諦め、攻撃の相殺を狙う。これではグリードを傷つけることはできないだろうが、今はそんな事を言っている場合ではない。
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橙乃が時を止める少し前のグリードに視点は変わる。ダメ押しの策としてグリードは『霊術』を放とうとしていた。
(そして、これも使う!)
僕は『終炎 裁きの矢』で橙乃を簡単に倒せるとは思っていない。むしろ狙いは凪とかいう女がメインだ。あの女ではこれに対処するなんてことはできないだろう。問題は橙乃、やつだ。剣が未来に…時間に干渉する能力なのは確定したが、それがどこまで影響するのかが未知数。万が一として、これも発動させておこう。
(『天国の門』開門)
矢を放ったグリードは門を呼び出す動作と開く動作を同時に行い、それは成功した。召喚前から門を開けるのは難しいが、何度も使ってきたグリードにとっては容易い。
(『祝福の灯火』)
これなら矢を対処しても、凪というあの女と橙乃には確実にダメージが入る。開いた門が現れたのと同時に時が止まったため、グリードの思考はそこで止まった。
時が再び刻みだした時、火の龍が上空へと舞い上がり矢を燃やし尽くしたのをグリードは見た。そして、自らが放った火の龍が橙乃に向かったが、もう一つの黒い火を纏った龍と争い、黒火が火の龍を飲み込んだ。そのままこちらに向かっている。ただ、グリードの守りに弾かれてはるか上空へと消えていった。
(一瞬にして何が起きた!?まさか龍まで対処されるとは)
あまりにも前後の状況が噛み合わない。橙乃がなにかしたはずだ。そう思い橙乃を確認すると、相当体力を消費したのか、息が上がりきっている。
(あいつは時間に干渉できる…はっ!?)
僕は何が起こったのかを理解した。
「時間停止か!」
「チッ、正解じゃ」
マジックのタネが分かった子供のように僕は声を出して自分の推測を口にした。
そしてやはり、僕の推測は合っていたようだ。
(橙乃が答えたということは、もう使えない可能性が高いな。いや、思考から除外させる策かもしれない。十分警戒しておこう)
グリードは橙乃の時間停止、確殺の一手と、奥義であった地獄の門、大地獄の門を封殺した。これにより、已眼も使用した今の橙乃は決定打を失うことになった。
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(今のでやりきれなかったということは、もうわしにできる手は使い切ったぞ?)
橙乃は時間停止という最強のカードを使ってまで決定打にかけたが、失敗した。まだ手札は残っているが、距離が十分にない今はそれを使えない。
(今は戦えんな)
今の攻撃で多大な霊力を消費した橙乃、一度インターバルを挟みたいと考えていた。
「助かりました、橙乃さん」
そんなときに凪は自身の前にいる橙乃に話しかけた。
「橙乃でよい。すまんがわしは一旦戦えそうにないのじゃが…」
「だったら私がやっていいよね?」
刀を写真から取り出し、柄に手をかけながら凪は橙乃に聞いた。
「それは良いのじゃが、できるのか?」
「それはもちろん。では、強欲。殺ろうか?」
刀を抜きながら、笑みを浮かべながら凪は言った。
「まだやるのかい。」
いい加減戦いに飽きてきたグリードはひどく退屈そうな表情を浮かべながらそう返した。
亡を倒した凪は元の場所に向かう最中である程度ではあるものの飢餓の回復を済ませていた。今なら完全とまではいかないものの、刀を振るうことは可能である。だが、呪具ではグリードの守りは突破できない。ならばどうするのか。
「ねぇ強欲。ブラックホールって知ってる?」
凪はいきなりブラックホールという、話のつながりが全く見えないことについて尋ねた。
「それは知っているさ。膨大な質量が密接することによってできていて、様々なものを吸い込む引力があるものだろう?」
ブラックホールを解説するグリードに対して私は新たに質問をする。
「おお、博識だね。ならこれは知っているかな?その引力は周囲の時間を遅くするんだよ」
「なんで今その話をする」
グリードが問いかけてくるが、その答えは自分の体で味わってもらうとしよう。私は刀に能力を使用して距離を詰める。グリードもただで受けるわけでは無い。正面から向かってきた凪の刀をナイフで防ぎ、反撃しようとした。
「こういうことだよ!」
刀が近づくとグリードの動きがひどく遅くなる。そしてその刃に自ら引き寄せられていく。ナイフで迎え撃とうとしたグリードだったが、それからズレた位置から刀が振り下ろされ、浅くではあるが、肌に傷を入れることができた。
「なるほど〜?神化した能力か。あ〜〜〜〜〜ほんとに面倒くさい面倒くさい」
声を荒げて不満を口にするグリード。
「さぁ、今度は私が相手になろう」
それとは反対に、凪は勝負を楽しそうに申し込んだ。
(さて、残りの印刷できる枚数は二枚。1枚は残しておきたいから、残りは1枚…『型録』は少なくとも数十秒は止めていられるのに、流石に相手が悪いから一秒か二秒ってところかな〜)
凪は思考を巡らせていた。
『型録』も神機の能力であり、その効果は生物を対象とし、物体の動きを止める能力。効果時間は相手にもよるが、見たところほんの一瞬の隙を作るので精一杯だろう。それならば、今はこれを温存することを凪は決めた。隙は天恵の引き寄せと時間遅延をした今の攻撃のように作ることができる。
「来ないのか?」
頭の中で色々考えて立ち止まっていた凪にグリードは言った。それに対し、凪は刀を構えて心のなかで言い放つ。
(すでに攻撃に転じているがなにか?)
グリードの前にいたはずの凪が、途端に視界から消え去ったグリード。凪は一瞬にしてグリードの背後へ移動していた。引力によって瞬時に自分をグリードの横から弧を描くように動かした凪、構えた刀でグリードに牙を向ける。『神化』している能力、『引力操作』を刀に纏わせて、守りを突破させることが狙いだ。
(これで決める”)
凪は全力を持って一撃に賭けた。完璧な奇襲、認知するよりも早い高速移動を受けてグリードを仕留めにかかる。
「どうせ後ろだろ?」
正面を向いていたグリードが後ろを振り返る。残念ながら、凪の奇襲は読まれていた。いかに反応できない奇襲でも、それが予測されていれば対処は容易い。
「!?」
陰陽師の経験が長い凪であったとしても、予測されるのは想定外だった。安易に後ろを取ることは、経験豊富なグリードにとって悪手だった。回避をしようにもすでに攻撃の体制のため、すぐには下がれない。
自身の腹の前にグリードの左手が押し出された。その手のひらには小さな十字架が見える。
その十字架は聖遺物、『カミ』が自身の使徒である七つの大罪に与えた神祝に近しいもの。だが、それとは違い人よりも上位の存在が使うものなため、能力はどれも頭ひとつ飛び抜けている。『聖十字架』は『磔刑』と唱えて触れたものを拘束する。それに囚われた者は妖力を操作できなくなり、神術や天恵を構成できなくなってしまう。
「『磔刑』」
その言葉と同時に凪の背後には大きな十字架が現れた。大人一人を固定するのにちょうどいい大きさのそれから二本の鎖が飛び出し、凪の両足にそれぞれ巻き付く。
「壊せ、村正”」
刀で鎖を破壊しようとしたが、びくとも動かない。もう一度斬りかかろうとしたが、新しく飛び出した二本の鎖が両方の手首に巻き付き、体ごと十字架に引き寄せて拘束する。
このまま刀を出しっぱなしだと理性を飲まれる、そう感じた凪は刀を投げ捨てる。地面に落ちたときには、刀にはどこからか現れた鞘がついていた。
状況は二対一、しかし一人はもう何もできない。傷はなく、まだ力も手札も未知数の使徒に対し、橙乃はほとんどの手札を使っている。不透明な戦況だが、互いにこの結末を感じ取っていた。
(わしたちの負けじゃな)
【私達の負けか】
(僕の勝ちだ)
三者三様の考えが頭の中にあった。この戦いの決着はそれぞれが予測した通りのはず……だった。しかし、この戦いにはとある人物が一人欠けている。
────それは誰か。
グリードは急に視線を橙乃たちからずらし、伏見稲荷大社の頂上へと向けた。それはなぜか。山頂からなにかの光が放射されており、それに全員が気付いた。だが、グリードが気づいたのはそれだけではなかった。
驚くほど濃密な神々しい神の気配。身震いするほどの”何か”がそこにいた。直感でそれが何なのか、いや誰なのかを強欲は理解していた。
「来るか!拓真」
そして、第三ラウンドが開幕した。
設定:
霊術
・神術よりも威力が高く、効果も特殊なものが多い。
・発動には霊力が必要
・霊力は神の力と同等でもあり、たとえ神祝を手に入れたものでも持っていない。神になること。すなわち『神装』で擬似的に霊力は得られるが、『神装』自体凄まじい技量が必須。
・霊術の例 地獄の門、大地獄の門、祝福の炎、狐火、etc
作者のコメント:
また拓真たちのほうに戻ります。(そっちは後二話で終わる見込み)
現状、凪は身代わり一回分残っています。それと────もまだ使ってないよ。




