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第27話 開戦

 二の鳥居までは問題なく来れた俺達だったが、三の鳥居まで残り僅かという曲がり道のところで足止めを食らっていた。道を埋め尽くすのはおびただしいほどの怪異。ぱっと見『都市伝説』はいないようだが、それでも十分な脅威である。この数を相手するのは、流石に三人居ても厳しいところ。


「待て、お主ら」


 凪さんが先陣を切って戦おうとしていたところを橙乃が止めた。


「お前たち、妖力はどのくらい残っておる?」


 山の戦闘では刀メインの戦いをしていたからか、それほどの傷は負っていない。強いて言うなら身体や刀の強化と天恵に妖力を使ったくらいだ。俺自身あまり神術を使うタイプではないし、そのおかげか他の人よりは妖力の消費は基本少ないのだが、どうしても中距離、遠距離の攻撃手段が乏しい。あ...


(今武器ないわ)


 今更ながらとんでもないことに気づいたのは置いておき、橙乃に残りの妖力を伝える。


「俺は七割近く」


「私は九割ぐらいだね」

 

 橙乃の問いかけに、俺は七割、凪さんは九割と言った。


「そうか、ならよい。こやつらはわしがすべて倒す」


「え?妖力使ったらまずいんじゃ」


 このあとはグリードとの戦闘も確実に控えているのだ。グリードの『改変』の守りを突破できるのは現状橙乃ただ一人なため、なんとしてでも妖力は温存しておきたいはず。


「奥の手を使うからよい」


 一体どんな奥の手を使うというのだろうか。


「『狐火』」


 炎が空に突然上がった。一つの炎だ。赤く、紅く、()()()輝くそれは、見るものを虜にする何かがあるように思えてくる。


 ────炎が揺れた。


「増えよ」


 一つの青い炎が二つに分かれる。そして四、八、一六、三二、…と増え続け、空を埋め尽くすほどにまで増殖した。その姿は満天の星空のように美しく、薔薇よりも鋭いトゲを秘めている。どこからか取り出したのか、扇を広げ、橙乃は言葉を詠みながら、舞い始める。扇の下には鈴がついており、動きに合わせ、チリンと音がなる。


「かの魂たちを 正しき所へと導け 指し示すは魂の通り道 炎とともに消し去り給え これにておしまい『導きの炎』」


 扇を閉じてそう言い放つ。夜空にあった炎全てが、怪異たちめがけて落ちてくる。何体か向かってきたが間に合わなかった。あたり一面を埋め尽くし、その全てを焼き尽くす炎に、怪異は一瞬にして燃え尽くされた。しかし、まだ炎は消えていない。徐々に、徐々に小さくなり、やがて消えた。その炎は魂だけを燃やし、『あの世』に導いた。


「これでおっけーじゃ」


「奥の手ってこれ?」


 俺は橙乃に聞く。


「いいや?これじゃ」


 橙乃は瑞稀さんが空間から銃を取り出したかのように、なにかのグラスと刀を取り出した。


「それと、ほれ。お主の武器じゃ」


 そう言って橙乃は刀を俺に投げ渡す。これがどこから持ってきたものなのか聞いてみると「学校とやらからちょいと拝借してきたやつじゃよ」と言われた。許可は取っているのだろうか。


「これはなんだい?」


 日本ではなかなか見ない形のグラスに、凪は魅入ったような視線を向けながら言う。


「これは『聖杯』、『聖遺物』じゃ。聖遺物は大罪の名を冠するものに与えられた、特別な能力が備わったものじゃ。あの師匠が持っておった『神祝』と似たようなものじゃな」


 ということは、これは橙乃が色欲の大罪の時に手に入れたものということか。たしかにきれいだが、特に能力があるようには見えない。


「それで、その聖杯の能力とは?」


「色々聞きたがるな〜拓真。まあ良い、教えてやろう。この聖杯の能力は、ここに注いだ水を飲むと、傷以外の気力、妖力、霊力、その他諸々!ありとあらゆるものが全回復するのじゃ!」


「そんなものが!?俺にも使わせてもらえたり?」


 それさえあれば、グリードに勝つことも可能だろう。奥義というだけあって、凄まじい効果だ。


 俺の予想とは裏腹に、橙乃は冷酷なことを告げた。


「無理じゃな。これは一日に一度だけ所有者にしか使えんようになっておる。それにこの聖杯は夜にだけ、それも月が見えているときにしか効果は発動しないよう、弱体化が入ってしもうたし」


 上を見上げてみると、星が見える。暗晦の夜空、そこに煌く星。その中心にあるのは満月。周囲の明かりは殆どなく、街灯と、月明かりだけが俺たちを照らしていた。橙乃は水を聖杯に注ぎ、月明かりに捧げてからそれを飲み干した。


「なるほど。ある程度の制限があるってことね」


 凪さんは橙乃の説明に興味を持ったようで、独り言を呟いた。水を注いで月明かりに注ぐだけで傷以外が全て回復する聖杯など、いかに強い『呪物』であろうと不可能だろう。神が関連している『神器』『聖遺物』『神祝』。これらは常識外の性能を持っているようだ。


「さて回復も終わったことじゃ。そろそろ本拠地に行くとしよう」


「ですね」


 怪異たちは全て祓われた。三の鳥居までの道を邪魔するものはもういない。特に何事もなく、無事に三の鳥居の前に来れた。


「よいか?繋げると同時にゴーじゃ。一歩でも遅れて空間の狭間に落ちるとたいへんなことになるからの?」


「任せとけ」


「了解」


 俺も凪さんも了承する。次元の狭間というのは、初めて聞いたが良くないことになるのは想像できた。


「三、二、一、ゴー!」


 橙乃の合図と共に駆け出した。そして鳥居をくぐり抜けると、あたりの景色が急に大きく歪み始める。空間が混ざるように円を描き始め、やがて周囲の景色が変化する。周りを確認すると、暗いが周りには鳥居がいくつもある。俺達は伏見稲荷に無事に着くことができたようだ。


 何も起きないか、と油断したのもつかの間、


「避けろ!拓真」


 危険にいち早く気付いた凪が叫ぶ。


(やばい!)


 そう思ったときにはすでに遅かった。既に何者かに背中を触られている。


「『磔刑』」


 その言葉が聞こえると同時に、眼の前に現れた自分と同じ程の背丈の十字架から鎖が伸びてくる。体に巻き付いて、背中から十字架に拘束される。


「くそッ!やられた」


 逃げようにも能力が封じられている。というよりは、妖力を自身の中でコントロールできない。目の前を見ると、やはりそこには強欲の大罪であるグリードが笑って立っていた。


「やっほ〜!拓真くん、久しぶりだね!てか、元気にしてた?」


「やっぱり生きてやがったか。ずいぶん調子がいいみたいだな」


 前回グリードと会った本の世界では、その中で死んでしまった人は現実で二度と目覚めなくなってしまうようだったが、こいつは死んだのに今目の前で生きている。やはり、コイツ自身は能力のペナルティの対象外か。最悪の想定があたってしまった。心のどこかでは死んでいるかもしれないと希望を抱いていたが、現実はそううまくはいかないようだ。


「まあね~、流石に自分の能力で死ぬようにはできてないってことさ」


 あのときに倒しはしたが、多分だが本気ではなかった。俺は遊び相手といったところだろう。こちらに集中して背中を凪さんたちに向けているグリードだが、この間もグリードは『改変』の守りと、敵に対する警戒心を一切緩めていないため、二人は距離を詰められていない。


「お前が紗黄の記憶をいじったのか?」


 一番の疑問について。元凶の可能性が高い、いや、十中八九そうであろうことを俺はグリードに聞く。


「ちらっといじっただけさ。彼女には生きててもらわないとだからね」


 発言の内容は分からないが、やはり原因はこいつだった。


(生かす理由は前に聞いた山崎との取引か?)


「山崎との約束だろ?本人から聞いた」


「知ってるのか。確かに彼とは約束をしたよ、ただしそれを今君たちが知ってなんの得になる」


 そんなの簡単だ。俺がお前を消すために、知っておきたかったからだ。どうせならスッキリした状態でこいつは消し去りたい。


「俺がお前を潰すのに必要なもんでな」


「愛する彼女の記憶を消したこの僕を潰すのに、まだ理由がいるのかい?」


 不快な笑みを浮かべながら一切動けない俺を煽ってくる。 だが、グリードの見え見えの挑発に乗るほど俺もアホではない。


 俺と話して油断している隙に背後から橙乃が術を放った。風の神、風神の力を借りた『風刃』

狙いを定めて撃ったはずのその術はグリードに当たる前に無惨に散る。


「甘いよ?気づいてないとでも思ったの?それ以上なにかしたら、こいつを殺す」


「くっ…」


 自身の攻撃を容易くいなされたことに、いらだちを見せる橙乃。拓真を人質に取られてしまい、下手に動けない。


 先に動きを見せたのは強欲(グリード)だった。


「来い死神。そして向こうの女をやれ」


 ついに、決着を告げる戦いの火蓋が切られた。

作者のコメント:


テスト期間は筆が進む模様。まだまだ行ける。


告知?これが完結したら、ちゃんと本編の方を作成しようと思います。今よりももっと、何十倍も面白いストーリーを。今よりもずっと引き出されたキャラの個性を。自分の想像力を最大限出して、新たな物語を作り出したいと決めています。どうか、楽しみにお待ち下さい。



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