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第26話 再会

「……これは私がやるとしよう。下手に手を出すな」


 瑞稀は苛立ちながら言う。


 全てを倒しきったと思ったが、また新しい怪異が現れた。その中でも相手はなんと『都市伝説』。


 都市伝説は私たち陰陽師が最も祓っている怪異だ。強い感情を持った人の魂が、現世に残ろうと、怪異、それも都市伝説の伝承を取り込み自身の存在を確立した存在。人が持つ潜在的な恐怖の存在として自身を確立するのが、名も無い怪異達。潜在的な恐怖による怖い噂、それがあるからこそ、怪異たちはなくならず、俺たち陰陽師も存在している。


 怪異は基本的に能力を持っている。都市伝説は一つの存在に対して全てが同じ能力をもっており、八尺様なら目が合うと呪われてしまう。呪われた時点で、奴らは呪われた人に精神攻撃を仕掛けてくる。日夜問わず、視線や気配を感じさせ、弱ったところを呪い殺す。


 八尺様の呪いは、陰陽師にとって、そこまで驚異的なものではない。その呪いは比較的弱く、解呪することは簡単にできるが、厄介なところはそれとは別にある。やつの目を見ると、全身の力が抜け、妖力が一切コントロールできなくなり、一時的にスタンが入る。そうなると四肢を引きちぎるなど、命を奪ってくる物理攻撃を仕掛けてくるため、厄介だ。


 それに対し、口裂け女は、あらゆる刃物を創造し、自由自在に動かしてくる。紗黄先輩の能力に近いそれは、あまりにも厄介だ。一対複数の図になると言っても過言ではない。


「さて、これは少し手間取りそうだね」


 瑞稀はそう言った。自身の銃撃を避けたということは、反射神経が並外れていることを示している。生半可な攻撃では決着がつかないと判断し、とある作戦を頭の中で瞬時に構築した。


「『雨乞(あまごい)』」


 発動させた神術は至ってシンプルな雨を降らせるもの。さっきまで晴れていた夜空も雲に覆われて雨が降り始めた。ザーザーと音が聞こえてくるほどの雨、この戦いにおいてなにか影響を出すようには紅は思えていなかった。


(これ単体で意味はないが、私の奥義を使えるようにはしておいた。さてと、どう動けばこいつらを倒せるか…)


 瑞稀が作戦を考えていると、いきなり口裂け女はメスを何十と生成し、こちらに向かって飛ばしてくる。


「『土壁(つちかべ)』!」


 紅がとっさの判断で作った壁により着弾を逃れた…かのように思われたが、実際にはメスが壁に当たることはなかった。瑞稀はメスがこちらに向かってきたことを瞬時に確認すると、散弾銃に銃を変化させ、全てのメスを弾き飛ばしたからだ。


(危ない危ない。少しでも反応が遅れたら、弟子に助けられるところだった。でもまずいな、近づかなきゃこの銃で攻撃してもまた避けられるだろう。近づこうとしても、距離を取って仕掛けてくる。なら、能力を使うタイミングは、今!)


 瑞稀の能力は元は『衝撃』だった。自身の手から衝撃波を発生させ、空気にそれが伝わり、相手にぶつけて攻撃する。中距離範囲型の攻撃手段を持ちながら、様々な形で応用できるそれは『神化』する前においても、強靭なものだった。


 だが、確固たる事実として、今の瑞稀の天恵は前のものとは別次元のものへと至っている。『振動操作』、『神化』した能力であるそれは様々なことができる。


 その一例が、


「まずは一手目!」


 口裂け女の周囲の水分子を限界まで振動させた、ただそれだけある。事前に雨を降らせておいたため、下準備は十分にできていた。怪異の周囲にある水分子が熱を持ち始める。それはとどまることを知らず、刻一刻と、ある現象に近づく。


 全体にして一秒にも満たない僅かな時間のあと、温度は沸点、水蒸気が発生する温度に達した。本来であれば水蒸気がある程度発生したからと言って、視界が悪くなることや熱さを感じさせることが限界である。とは言っても、水分子が百度に達する時点で熱いで済む訳がないが、祓うことは難しい。


 ならばどうするか。今、瑞稀は一定範囲内の水分子を振動させ、その全てを、同時に水蒸気を発生させた。液体が気体へと変化したとき、その体積は一瞬にして増大する。一斉に発生した水蒸気は爆発に近い多大な熱エネルギーを持ち、口裂け女に向かう。


 零距離よりも近い位置からの攻撃、いかに反射神経が良かったとしても、それに反応などできるはずがなかった。怪異は爆発を食らい、ついにダメージが通る。至近距離でのダメージを受けた口裂け女、祓うにはあと一歩と言ったところだ。


 だが、一筋縄で行くわけがなかった。


 爆発の影響で吹き飛んだ口裂け女は、離れた位置からこちらに近づいてくる様子はなく、私達を観察するだけになった。逆に、恐ろしい速度で帽子を深く被った八尺様が距離を詰める。ポポポと発しながら近づいてくるそれは、恐怖の塊。


 この状況においても、瑞稀と紅は何一つ動じない。瑞稀は今までの経験から冷静な精神状態、紅は師匠が隣りにいる状態で恐怖したらどうなるかのほうにビビり散らかし、体から血の気が引いている。


 瑞稀は散弾銃のトリガーにかかった指に力を込めようとする。本来であればそれで勝負は決まったはずだった。


 ────それがただの都市伝説の怪異であるとするならば、だが。


 今戦っているのは、『カミ』の使徒が用意した都市伝説。帽子を被っている八尺様の目を見なければ発動しない呪い、意識さえしていれば何も問題はないという油断。


 それは致命的だった。


 ────突如として紅や瑞稀の周囲は闇で覆われた。紅の『月蝕』に近いそれだが、違うところが一つあった。闇になにか横線が複数入っている。


((…!?まずい!))


 師匠と弟子、同じ考えが浮かび、目を閉じようとするが、時すでに遅し。


  ポポポポポポ、と先程までとは違う少し高い音、喜びが含まれたかのように聞こえるそれが聞こえると、全ての横線が開く。いや、全てのまぶたが開いた。行われたのは凝視、ありとあらゆる方向に八尺様の目が生まれる。目を開けていれば、必ず視界に入るそのその目は、二人の目を捉えた。目をつぶったのはその後だった。


 途端、立っていることが不可能な脱力感。それに二人は支配される。


(届かないか…)


 手から滑り落ちた銃は、倒れている瑞稀ではわずかに届かない位置。瑞稀は経験から理解しているが、スタンは一度食らうと解呪まで十秒ほどかかる。二人とも既に呪いを解くことに全力を注ぐものの、未だスタン中。


 目を見ないために、目を閉じて何も見えていない瑞稀をいきなり八尺様は首を掴み持ち上げる。


「ッ”!?ウグッ…アガッ!!!」


 首に込められた力が少しずつ強まっていくとともに、苦しそうな声が瑞稀の口から漏れる。首の骨が壊れる寸前、突如として右手を八尺様の顔の前に持ってくる。


「ーーーーッッッ、死ね”!」


 落ちていたはずの銃がハンドガンに切り替わり、それが瑞稀の手の中に突如として現れた。いかにスタンが入っていようとも、瑞稀がトリガーを引くのに手間は取らなかった。


 脳の位置、そこに銃弾は命中し、八尺様は消え去った。周囲も元の雨が降る夜の神社へと戻っている。


 空中から落とされた瑞稀だが、何とか着地する。しかし、首を掴まれていたことで酸素が足りておらず、起き上がる力が出ない。息が荒れているが、呼吸を落ち着かせる暇もなく、戦いは動き出す。


 今度は口裂け女が戦いを仕掛けてくる。


 瑞稀を警戒しているため、遠距離からの攻撃。大小様々な大きさをした刃物を所狭しと向かわせる。瑞稀が動けない状態のため、紅はもう一度『天十拳剣』を呼び出し、剣に光を纏わせ、守りに移った。



 『天十拳剣』が有する能力は神術を纏うこと。剣などに神術を纏わせることは、特段珍しいものではない。だがそれは他とは違う、唯一無二の性能を持っている。それは纏っているものと同じ属性、今であれば太陽の神術を祝詞なしで発動させられる能力。


 一切の言葉なく完全状態の神術を発動できる、祝詞の完全破棄。それは対人・対怪異において圧倒的なアドバンテージになる。発動する神術が悟られない他、瞬発的な神術の発動は戦いを優位に進められる大きなアドバンテージになる。使う意志さえあれば発動するため、妖力に気をつけなければいけない以外は何もデメリットがない。



(『日蝕』)


 紅は『日蝕』を、自身と瑞稀を含む球体を設定。そこを除いて周囲に神術を発動させ、勢いよく迫る刃物を一瞬にして溶かした。だが、口裂け女はそれでも刃物を飛ばしてくる。


 妖力の消費が激しい『日蝕』の維持をし続けるのは不可能。そして紅の妖力が残り少ないことを見越して口裂け女は攻撃の手は緩めない。


(この守りも限界が近いぞ…)


 紅自身も防御していられるのがあと僅かなことは理解している。どうしようかと頭を働かせていたその時、瑞稀が立ち上がった。


「助かった、紅。あとは私がやる」


 紅の肩を軽く叩きながら言った後、瑞稀は攻撃を再開する。


「二手目!」


 口裂け女の周囲の空間に、瑞稀は能力を使う。


(相手に並外れた反射神経があるのなら、それよりも早く能力を使うか動けなくさせればいい)


 二手目、一手目と同じく能力を使ったが、それとは違い振動させるのではない。むしろその逆、振動を停止させる。熱運動、それが止まり、温度は一瞬にして絶対零度であるマイナス二百七十三度に到達する。


 空間がその温度に到達するということは、口裂け女も巻き込まれている。回避に転換しようとしたが間に合わず、一瞬にして体が凍る。しかし、凍った状態でそこにあるということは、まだ祓えていない。


「これでトドメ!三手目っ”!」


 散弾銃を構えながら距離を詰め、トリガーを引く。放たれた銃弾がすべて命中、口裂け女の氷をバラバラに砕く。割れたガラスのように氷の欠片が地面に降り注ぎ、全て消えた。


「助かった、紅」


「どういたしまして」


 一仕事を終えた二人は、笑みを浮かべながらハイタッチした。紅と瑞稀、師匠と弟子のコンビ。その二人は怪異たちを打ち祓った。


「────久しぶりだな、瑞稀」


 振り返るとそこに男がいた。男の胸元には銀色のネックレスが輝いていた。


 紅はその男のことを知らなかった。


 一方、瑞稀はその男のことを知っていた。自身の師匠であり、姿を消していた男の姿がそこにはあった。

作者のコメント:

瑞稀が水蒸気を振動させて爆発させたシーンですが、科学的に可能なのか?と疑問が出ると思います。(作者自身も)神術で!!!!解決しました(ということにさせてください...)


全体的に今回のは三人称になった気がします。なぜだ


このまま拓真くんを放っておくとあれなので、次回は拓真たちの方を出します。

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