第24話 宴会
3章2話のあとがきに二文追加しました。
・拓真の”死”の『無効化』は妖力の殆どを使用するため、連続して使えない。(また、強い意志が必要)・死の瞬間のみに可能(強い意志が必要)
諸事情により、暫くの間投稿ペースが落ちます。
拓真は森で話し終えたあと、紅と瑞稀と橙乃を含めた四人で『神祝』を取りに明治神宮に行くことになった。『神祝』が置かれているのは伏見稲荷大社なのだが、橙乃の天恵を使えば四,五人は明治神宮から空間転移ができるというので、電車で原宿に向かうことに。その最中、なんやかんやで拓真が紅達に焼き肉を奢ることにもなった。
「な〜ら時間もないし、ちゃちゃっと行くとしよう!あ、たしか今日はあの人、あそこにいたはず。ちょっと待ってて〜!電話だけしてくる〜」
瑞稀がそう言ってどこかに電話をかけ、その話が終わった拓真達は、ひとまず駅へと向かった。
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山から出発して四十分で駅にたどり着いた俺達は、駅で紺色のロングコートを羽織ったウルフカットの女性に声をかけられた。その顔は、瑞稀さんとなんとなく似ている。
「要件も言わずに私を呼ぶとは、随分偉くなったな。瑞稀」
その人の名前は堺凪、瑞稀さんの双子の姉だった。
「おっひさ〜お姉!いや〜さ?弟子の頼みだから引き受けたは良いものの、私だけだと不安だからさ〜。お姉が近くにいるって言ってたから、呼んじゃった!」
このように、瑞稀はお酒が入るとテンションが非常に高くなるのだ。ある程度は自制できるものの、真面目な場面以外は酔いが回り、ダル絡みを起こし始める。
「今度からはアポを取れ、ばか」
「は〜い」
そんな瑞稀の扱いに慣れている凪は、抱きついてこようとした瑞稀をかるがると避けると、後ろから頭を軽く小突く。
文句を言いながらも、わざわざ時間を取る辺り、瑞稀さんとの関係は悪くないんだろうな。拓真はそんなことを思っていた。
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凪さんと合流した後、コンビニで色んなものを瑞稀さんに奢られ、グリーン車まで奢ってもらってしまった。申し訳ない。お金を払おうとしたが、それ以上駄々こねたら私とお姉は帰るからと言われて断れなかったため、後でもう一度感謝を伝えよう。
二列席を使って俺たちはボックス席にしているが、凪さんは同じ列のは向かい側に、俺と紅はボックス席の通路側、窓側に橙と瑞稀さん。そしてその二人は駅の売店で買ったつまみとお酒を開けていた。乗ったのはグリーン車の二階。普段乗っている車両よりも高いため、車窓の景色がいつもよりも見える。
(まさか師匠、酒飲むために電車に乗ったわけじゃないよな?)
紅の推察は当たっていたとだけ言っておこう。
「あ!お姉、写真撮って!」
袋からお酒を取り出していた瑞稀は、突然何かを思い出したかのように言う。その対象は自身の姉である凪だ。姉の趣味が写真撮影だと知っている瑞稀は、いまこの光景を写真に撮るように頼む...いや、お願い... いいや、命令とも言えることをした。
「はぁ、めんどくさい…」
ああ、またか。という顔をしながら、凪は窓の方に顔を向けた。妹はいつも自分の要求を飲ませようとしてくる。アルコールが入っていないときには私のように口数が少ないが、一度酒が入れば、いつもこうなる。無視しようとしていた凪だったが、「早く早く!」と急かしてくる瑞稀に負け、写真を撮ることにした。
「ん〜と、私は缶ビールをっと」
瑞稀は窓の縁に置いていたビールを手に持つ。俺と拓真は無難なピースを選択。橙は気にせず酒をのんでいる。
「五枚ね」
そう言って凪さんはどこからか取り出したインスタントカメラをこちらに向けた。
カシャ。と言う音が5回なった後のこと、プリントアウトされた写真が5枚出来上がっていた。
「はい、これ」
凪は全員に撮った写真をあげた。スマートフォンなどで撮るのとは違う、どこか昔を感じさせるその写真。拓真は部屋に帰ったらそれを飾ると決めた。
「それと瑞稀、後で誰を撮るかは決めとけ」
「あ〜あれね。了解」
瑞稀と凪、二人だけの間で意思疎通が行われた。凪は話し終えるとカバンからイヤホンを取り出し、一人の時間に入った。今のが何を意味していたのか、拓真は少し疑問に思ったが、そこまでの関係じゃないので聞くのはやめておくことにした。
「師匠、あれってなんですか?」
二人の会話に同じ疑問を持った紅が問いかける。半年近く瑞稀と共に時間を過ごしている彼であれば、聞きづらいことはあれど、ある程度会話に入り込むことはできる。
「後で教えるから、まずは飲ませて!」
弟子より酒、まだ開けていなかった缶の蓋を開けると、プシュという炭酸が逃げる音が聞こえる。缶を開けるとそれを一気に喉へと流し込む。ゴクリというビールを飲み込む、いや、流し込んでいる音がボックス席に座っている俺たち全員に聞こえる。
「ぷはぁ〜〜〜!最高!これとタバコのために生きているといっても過言じゃないね〜」
缶を窓際に置き、瑞稀は両手を上に伸ばす。一息ついた、そんな様子だ。実際には一息どころか、まだ何も始まってもいないのだが。
「はいはい、酒飲んだんだから早く教えてください」
待ったんだから早く教えろよという顔をして紅は言った。ダル絡みをしてくるときの師匠に対して、紅はあまり尊敬している様子は見せない。今はこんな様子の師匠だが、やる時はやる人だと紅は知っている。なぜならば、数少ない『神化』した天恵を持ち、自分を何度も助けてくれたから。尊敬と呆れは表裏一体である。
「めんどいからやっぱなしで。それよりも、前から話してはいたけど、なにげに橙乃とお酒を一緒に飲むのは初めてだよね?」
紅に説明するのが大変だから、と話を切り上げた瑞稀。話し相手を目の前にいる橙乃に変えた。紅に訓練をつけている時、実体化した橙乃と度々話していたが、こんなのんびりと酒を交わすような時間は今までなかった。
「そうじゃの〜。はて、このお酒は初めて飲む酒じゃが、なんというものじゃ?」
「それはですね、────」
紅の質問を置き去りにして、二人の晩酌は始まった。
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お酒が回ってきたのか二人のテンションは上がってきている。幸いにもこの上のフロアには人がいないため、周りの人に迷惑をかける心配はなさそうだ。
「酒がそろそろ回って来おったわ。はあ、思い出したくないことを思い出した。」
「う〜ん?あ、『色欲』の大罪になったっていう?」
橙乃の独り言のような呟きを拾い上げ、瑞稀は聞いた。
「そうじゃ。なんとか正気には戻ったが、危ないところじゃった」
「紅から話は聞いたのですが、紅が触れたことで意識が戻ったんですよね?」
「そうじゃ」
「知っての通り、彼の能力は『変換』。それで助けられるとは思えないんですけどね」
「わしにも分からん。」
そう言うと、橙乃は窓の方から外の景色を眺めながらお酒を飲んだ。昔のことを思い出しているような仕草をしていた。
噂には聞いていたが、橙乃は『色欲の大罪』に体を奪われていたらしい。なかなかそれについて聞くタイミングがなかったため、詳しくは知らない。『強欲』『色欲』、そしてその前に『暴食』の大罪と戦ったらしい。この順番は確か、七つの大罪の罪。その罪が軽い順番。聞くところによれば、『暴食』よりも『色欲』、『色欲』よりも『強欲』のほうが、身体能力や天恵など、”強さ”が増しているらしい。
(この順番で続けば、最後は《嫉妬》。どんな強さなんだ)
想像の答えは見つからなかった。
橙乃の話だが、たしかになぜ助かったのかが分からない。本来であれば、使徒の魂に体を乗っ取られた場合救う手段はないとされている。魂そのものが体の一部と化しているため、救い出すのは困難なはずだ。それこそ、魂に干渉でもしなければ不可能。だが、さっきも言っていたが、紅の天恵はそのようなものではない。『暴食の大罪』は肉体ごと紅が滅ぼしたと聞いた。
俺の肉体にも誰かの魂があると、夢?なのか、現実なのかははっきりしていないが、彼は言っていた。九十九%夢ではないのだが、他の人に話すと死に際に幻覚と軽く受け流されそうなので、トンネルのあれとともに他の人に話してはいない。まぁ、最近のあれは紗黄の色々があったから話す機会がなかったのだが...
本来『大罪』の魂は一つ下の『大罪』が消えるまで目覚めることができず、一切の干渉ができないため、彼の魂は違うとわかる。ならば、あれは一体何なのだろうか。少なくとも俺達の仲間なようだが、その存在は人ではないだろう。さて、その正体が分かるのはいつだろうか。
俺は一人彼について考えた。
「今はそれよりも、早くこやつの天恵を『神化』させねばのぉ」
いきなり俺の方に視線を向けてそう言ってきた橙乃。
「橙乃、『神化』がなんで紗黄の記憶を戻すことに繋がるんだ?」
俺は駅に向かう途中で気になったそれについて質問する。『神化』させたところでいまいち紗黄の記憶を戻すプロセスが見えてこない。
「お主の能力は『無効化』。『神化』すれば、カミの使徒の天恵とその肉体が持つ天恵、『神化』しておるその二つにも対抗することができるのじゃ」
なるほど。だから俺の攻撃はグリードに届かなかったし、紗黄の記憶も戻せなかったと。ということは、俺がグリードを倒せたあの時は、彼のお陰で『神化』に片足を突っ込んでいたのだろう。
「『神化』すれば、グリードの天恵に作用できて、記憶喪失も治せると?」
「そうじゃ。だからこそ、やつが邪魔しに来ないとは思えん。何の目的かは知らんが、グリードは紗黄に目をつけておる。ここで決着をつけなければいかん。奴の天恵への対抗策としても、『神化』は必須条件じゃ」
あいつが生きている限り、紗黄に災いは降りかかり続けることだろう。絶対に奴を殺さなければいけない。
考えてみれば、紗黄に『改変』を施したのは、十中八九『空想世界』の中だろう。その後殺されたのに能力は持続するとか厄介過ぎる。
「あいつ、一度殺したけど能力は消えないのか」
「「「「え?」」」」
俺の言葉に全員がこちらに視線を向ける。病院で何が起こったのかを軽く紅たちに説明したからか、前後関係でグリードが紗黄の記憶喪失に関わっていることを同じように考えていたみたいだが、あいつは俺が殺した。
まぁ、山崎がグリードと繋がっていて、強欲も生きているみたいだが...というか、先に山崎をやりに行くべきだったか?いや、『神化』しなければこの問題の解決には至らない。何よりも先に、今は『神祝』だな。
「先輩、ラッパの音聞きました?」
俺が一人で色々と考え込んでいると、さっきの俺の発言に驚いていた紅が質問してきた。
「いいや?聞いてないけど」
なぜラッパの音?そんなことよりも、ラッパがどうしたというのだ。
「何らかの方法で死ななかったのか?いや、それだとしても、どうやって拓真先輩はあの守りを……」
紅は急にブツブツと何かを唱え始めた。何かしらの推察をしているみたいだが、俺にはよくわからない。
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適当に話をしていると、瑞稀が話を始めた。
「酒が回ってきたし、今度は私の話をしようかな〜」
「お〜ええのぅ。わしもお主のことを見ておったが、なかなかに強い。ぜひとも怪異との話が聞きたいわ」
俺から見ても、瑞稀さんは相当強い。オーラというべきか、存在感がすごい。姉の凪さんはよくわからないが、瑞稀さんが助けに求めるような相手なのだからその実力は折り紙付きだろう。
「う〜んと…あ〜!あったあった、面白い話というか、記憶に残っている話が!私とお姉がまだ幼かった頃の話なんですけどね?『姦姦蛇螺』と遭遇したんですよ」
「え!?あの『都市伝説』と!?」
俺はあまりの衝撃に驚いて、声を大きくして驚いてしてしまった。『都市伝説』の中でも封印というもので話が伝わっているものは、とりわけ強い。架空の話である都市伝説の中で、その存在が倒されたり、行方がわからなくなった、のような流れがあるわけでもなく、封印という処置が取られているそれは、事実上祓うことが不可能。そんな相手と遭遇して逃げ切ったのだからすごいことだ。
「そうそう。さっっっすがに死んだと思ったよ?あの瞬間、私は”死にたくない”って祈ったんだ。強く、強くね」
小さい”っ”が多い。よほどギリギリだったのだろう。今目の前に瑞稀さんと凪さんがいるということは、そんな状況からどうにかして逃げられたということだ。
「どうやってそんな状況から逃げることが?」
「てか、あれ?師匠って陰陽師の家系だっけ?」
俺の質問と同時に、とあることを疑問に思った紅が瑞稀さんに声をかけた。紅は被ったことを軽く謝罪しながら、先にどうぞどうぞと言ってくる。
紅の質問はその通りだ。子供の頃に怪異を見たことを話しているということは、記憶を消されていないらしい。一般人が怪異や超常現象に遭遇した際、その後その人物から話が広まり、より多くの恐怖を引き起こさないよう、特殊な方法で過去の記憶を消している。それは陰陽師、妖力を持つものには効かないものである。
「先に弟子から返すけど、私は普通の両親から生まれた子供だよ」
つまり、その事件以降、妖力が目覚めて陰陽師になったということ。元一般人、どんな人でも最強の一角にまで上り詰められるという象徴でもある偉大な人なわけか。これは、すごい人を紅は師匠に持っているもんだ。
「そして次に拓真君。私たちはその時に食べられかけてね…。『姦姦蛇螺』の任務で来ていた陰陽師たちとあの人が私たちを助けてくれて、そしてその人のもとで修行を経て今に至るというわけさ」
その人のもとで修行したということから、その誰かは陰陽師と推測できる。『姦姦蛇螺』の任務で来ていたということは、相当な実力の持ち主なのだろう。
「その人が『姦姦蛇螺』を倒して、お二人は助かったっていうことですね」
なるほど、と視線を下に向けて頷いた俺に、瑞稀さんは大笑いをした。
「それはちょっと違うかな」
「え?」
瑞稀さんはビールを一口飲んだ後、話を続けた。
重くない話だと思っていた俺の予想とは大きく異なる言葉が帰ってきた。
「その人は別に戦わなかったよ?あの人の奥さんが戦ったらしいけど、負けちゃったってさ」
「……」
全員言葉が止まった。橙乃と話していた紅も、俺も。空気が豹変する。
軽々しく聞きすぎた。それもそうか、相手はあの『姦姦蛇螺』だ。犠牲0、そんな夢物語のように行くわけもない。俺は軽率な発言をしてしまったことを瑞稀さんに謝ろうとしたが止められた。
「いい、いい!そ〜んな暗い雰囲気にならなくったって。私もそれは割り切ってるし、あの人も気にして……それはないな」
私もと言ったその言葉には、凪さんもそれを乗り越えたということだろう。詳しく知ることはできなかったが、少しだけ初対面の二人の内面、または人生というものが分かった気がした。
「あの人、今はどこで何やってんのだか」
瑞稀は窓の外から明るく照らされている街を眺めながら、そう呟いた。
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とある人物のもとに、男が……いや、『カミ』の腹心とも呼べる存在である『七つの大罪』の『強欲』が訪ねてきていた。その場所は至ってシンプルなバーであり、銀色のネックレスを身に着けた男と『強欲』だけがそこに存在していた。
「ほんとにオマエが俺のもとにわざわざ訪ねてくるとは驚いた。いってぇ何の要件だ?」
『強欲』と面識のある男は、ここに彼が来たことに驚いた。あの約束を本当に守るとは。
「いや〜ね?面倒くさいガキが一人いてさ〜。そいつのこと、殺してほしいんだよね」
(弟子の弟子、か。あいつとはもう何十年も会ってないし、もう弟子を取るようになったのか)
弟子の顔を見たいと、そう思った彼だったが、すぐにその考えは打ち消す。
ある事実を知ってからこの組織に入り、妻を殺した犯人、陰陽師を統括する権力者の粛清という目的のためにありとあらゆる手段を講じてきた。そして数日前のある日、こいつは俺の前に突然現れた。「妻を生き返らせたくはないか?」と。そして取引を持ちかけられた。「俺の要求を一つ叶えてくれたら、お前の妻を生き返らせてやると」本当だと思わなかった俺は、「次会ったときなら取引してやると言った」二度と会うわけがない。そう思っていた。
ここ数日、俺はぁ、あれだ。迷っていたんだ。探して、探して、一つの事実にたどり着いちまった。妻を殺した犯人が、『姦姦蛇螺』の封印を解いた団体、その背後にいたのが誰だったのかということに。その正体は、カミだった。神ではなく、カミ。『七つの大罪』を従えるものでもあるそいつが、指示していたとのこと。
(こいつに従うべきなのか?)
そう迷う俺だったが、次の瞬間、誰かの手が俺の頭に触れていた。振り払おうとする俺に、『強欲』は言った。
「『お前はすべてを考えず、彼を殺しに行く』」
男の意識は霧に包まれた。
「はぁ〜、これだから優秀なものは困るんだよ。まぁ、コマとしてならいいんだけど」
『強欲』は男と、もう一人、女がいる部屋で一人呟いた。
「もう彼は用済みだから、後始末は君に任せるよ」
感情の乏しい顔をした女は、軽く頷いた。
設定
・使徒の魂は、あらかじめ依代の肉体に入っていますが、現世からも干渉できず、現世にも干渉はできません。(能力が発動している場合あり(現世に影響は出ない範囲))
作者のコメント:
さて!さてさて!!!凪のカメラはどこから取ったのか〜な?
無敵になりそうなので拓真の無効化についてしっかりと記述しました。
紅を定之と間違えていたため、修正しました。




