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閉話 救いの手

GW投稿五日目


4月27日,28日, 29日

5 月3日, 4日, 5日, 6日


上記の午前八時二十分投稿します

 双子の少女が夕暮れ時の森を彷徨っていた。そこはどこかの山の、木々が生い茂る林の中。とある四人家族は、この近くのキャンプ場で午前中過ごしていたが、火を起こすための木が足りないと両親は山の方に取りに行った。子供二人だけで留守番をさせることに妻は怪訝な態度を示したが、自分たちで待てると一歩も引かないので、それを許した。


「お姉、ここどこ?」


 双子の妹、瑞稀(みずき)は手を握っている姉に不安から声を掛ける。子供二人だけで迷子になったのだ。その不安は計り知れない。妹が不安を口にしたが、姉の(なぎ)も同じことを胸のうちに秘めている。


「わかんない。てゆうか、私は瑞稀が探しに行くと言い出すからついてきたんだ」

 

  凪も自分たちが置かれている状況に不安はあったが、それよりも妹が自分を誘ってきたことに怒りを抱いているようだった。


 片割れは不安を。片割れは不安と怒りを。様々な感情を抱きながら、二人は元いたキャンプ場に戻ることを決意した。


__________________________________________ 

 来た道を引き返したはずの二人だったが、動いても動いても元の場所に戻らなかった。子供の足で動いているのだ。そんな離れたところに行けるはずもない。


 だが、子どもたちは入ってしまった。禁忌の場所に。


「ねぇ、なにか聞こえない?」

 

 凪は瑞稀に問いかける。

 

 姉の凪は、先程から自分たちの足音に被さるもう一つの音を聞いていた。一緒に歩いていた瑞稀はその問いかけで足を止め、周囲を確認する。太陽はほとんど沈んでしまい、今森の中を照らす光は殆ど無い。


 人の五感は有能だ。視力が使えないのならば聴力がより鋭くなる。二人の耳には何かが動く音が聞こえた。ズルズルと動く何かが枯れた葉っぱを踏みつけている音が聞こえてくる。二人が動けば”それ”も動き、音を立てる。二人が止まれば”それ”も止まる。何かが二人を追ってきていた。

 

「瑞稀、逃げるよ」


 そう言った後、凪は握っていた瑞稀の腕をより強く握り、逸早く走り出した。”何か”はそれに合わせて速度を上げ、後を追う。


 見えない何かがまだ後ろから来ている。逃げても逃げても後ろから聞こえる音は小さくならない。むしろ音はどんどんと二人に近づいていく。子供の体力では長く足を動かせない。火事場の馬鹿力というものか、限界を超えて走り続けていた二人。だが流石に限界を迎え、大きな木の陰に息を潜めることにした。


 ズズズ。と何かを引きずる音が少しずつ二人のいる木の近くへと迫ってくる。さっきまでは自分たちの足音に合わせてなっていた音が、急に獲物を狙うかのように聞こえだしたことに、妹の瑞稀が叫びだしそうになった。凪は自分と瑞稀の声を必死に抑えようと、口を手で塞ぐ。


 ”何か”は鼻が利いたようだった。近づいてくる。近づいてくる。どんどんと二人のいる木へと近づいた”それ”。そこで音は止まった。二人の体感時間でだが、十秒、二十秒、一分、三分とその”何か”が動いた音は一切聞こえなかった。やがて二人は安堵した。もう何かは追ってきていないのだろうと。


 口を抑えていた手を外し、すぐさま動き出そうとした凪と瑞稀。


 木の陰から出た次の瞬間、二人の目には女の顔が映った。口を大きく開け、上下の歯をむき出しにしながら自分たちを見つめる女、”何か”がそこにいた。音を出さずにどこかに行ったと思っていた”何か”はずっとそこにいた。隠れられていると思っている二人に恐怖を与えるために。



 六つの腕を持つ、髪の長い女。『都市伝説』の『姦姦蛇螺』が瑞稀と凪のことを襲っていた。ネット掲示板に書き込まれたそれは、多くの人に知られ、恐れられた。姦姦蛇螺が実在するものだったのかは分からないが、『怪異』の『姦姦蛇螺』は実在する。上半身に人に近いものを持ちながら、下半身が蛇のような怪物。



「ギリギリだが、()()()は間に合ったか」


 あまりの恐怖で目を閉じながら立ちすくんでいた双子の耳に男の声とともに、何かが大きく吹き飛ばされる音が聞こえる。目を開けるとそこに女の顔はなく、四十代くらいの男がこちらを向いて立っていた。暗くて顔は見えていないが、凪たちはなぜか安心した。森に入ってから両親がいない中で、妹と二人きりだった。姉としての責任感から、何かに追われているときも自分よりも瑞稀の心配をしていた。やっと大人に会えた、そう感じた凪。妹は助けが来たと安堵した。


「あとはおじさんとおばさんが---」


 おじさんが話している最中に上から黒い影が急降下。そのままおじさんの頭を勢いよく殴る。


「だぁ〜れぇがババァだよ。まだ三十代のお!姉!さ!ん!だよ」


 ギリ三十代(現三十九歳)の...お姉さんがおじさんの横に立ちながら言った。今の凪と瑞稀は知る由もなかったが、この二人は陰陽師だった。今回の『姦姦蛇螺』ではこの二人以外にも多数の者が封印作戦に参加していた。


 様々な都市伝説があるが、強さにはある程度の法則性がある。『口裂け女』や『きさらぎ駅』のようなものにはあまり聞き覚えがないものだが、一部の都市伝説には封印されていた〇〇のような記載があるものが存在する。それらは空想上の話がほとんどではあるものの、その『都市伝説』は倒すことがほぼ不可能である。他の都市伝説よりも一段階上、架空の話であるにもかかわらず、封印という根本的対象ではない方法が取られているそれは、強い。今回の任務が封印であるのもそれが原因だった。


「あんたはその二人、逃がしといて。私が食い止めておくから」


 女は視線を横に向ける。その方角は『姦姦蛇螺』が男に吹き飛ばされたほうだ。全力で蹴られても、そこまでのダメージはない。もうじき獲物を求めてこっち側に戻って来るため、子供を逃がすことを女は優先した。


「死ぬなよ」


 陰陽師にとっても、『姦姦蛇螺』の呪いは厄介だ。蛇の下半身を見たものは呪いにかかる。能力ではないが、他のものよりもその効果は絶大。一歩間違えれば精神崩壊まであり得る。そんな相手と、()()()()が戦うことを心配する男。


「疑ってんの?」

「まったく」


 女は自分が負けると本気で思っているのか男に聞いたが、男はすぐに返事を返す。自分が惚れた女はそんなヤワな女じゃない。そのことを知っていたからだ。


 二人の子供は無事に逃げることができた。だが、その両親は他ならぬ『姦姦蛇螺』の手によって殺害されていた。男の発言にあった「『こっち』は間に合ったか」、それは男が両親を助けられなかったことを意味していた。二人はそれを程なくして説明された。


 陰陽師に保護されている最中、妹はずっと泣いていた。男に「おかあさんと、おとおさんは苦しまなかった?」と泣きながら言うのだ。男はすぐに声が出なかった。だが、「あぁ、一切苦しまなかったさ」と、男は告げる。それが、その”嘘”が今男にできる精一杯の贖罪だった。


 姉はというと、結論から言えば泣かなかった、人前では、だが。その後二人は男のもとで育てられた。『怪異』と遭遇したことで、双子は妖力に目覚めた。強くなりたいと願った二人は男のもとで陰陽師になることを決意し、訓練を続けた。

 

 姉は毎晩泣いていた。妹は辛いことがあったときや、ふと涙をこぼしていた。あの日から時が流れても、二人の涙が止まる日はなかった。姉は”怪異を減らし、自分のような人を一人でも作らせないようにするために”。妹は”『怪異』で困っている誰かを、男のように救えるように”。別々の目標を持ちながら切磋琢磨した二人だった。


 やがて成長した姉の凪は、少し無口でクールな印象を崩さないようになった。その内側にはしっかりと感情を秘めている。感情を表に出さない彼女だが、『怪異』との戦闘時には豹変し、獲物を狩る狼となる。


 それに対して妹の瑞稀は、お酒を飲んでいない時は冷静沈着で姉と同じクールな印象を抱かせるが、一度アルコールが入ると少し年上の幼馴染的のノリでダル絡みをするようになった。


 二人の性格は似て非なるものだった。

__________________________________________

 月日は流れ、どこかの山奥。女はどこかを目指しながら、あの日のことを思い出していた。


(あれから数十年経ったけど、先生どこ行ったんだ?)


 (さかい)瑞稀(みずき)神崎(かんざき)(こう)の師匠でもあり、(さかい)(なぎ)の妹でもある彼女はとある人物を探していた。そして今、その子を見つけた。


 私は『神祝(かんほく)』を虚空から取り出して、小銃を構える。この距離で『神化』した天恵を使えば、彼を巻き込んでしまう。だからこそ、妖力で使えるこの『神祝』という訳だ。


 右手の人差し指でトリガーを構え、左手で銃を構える。と入っても、実際に火薬などを使うわけではないので、音もせず、反動もない。反動のオン・オフ可能みたいだが、今はあまりロマンを求めている場面ではないので反動を無くし、さっさと狙いを構える。


 トリガーを引いたまま、標的を照準器の中心に合わせる。暗闇だが、まだ森に月明かりが入ってきている。全ての『怪異』を倒した私は彼、片桐(かたぎり) 拓真(たくま)であろう人物のもとに向かい、そして聞く。


「キミが拓真くんかな?」


 彼の表情はくぐもっていた。


(ああ、それもそうか)


 私は彼の気持ちを読み取り、心のなかで同情した。


 心の支えを失った彼は、今深い闇の中にいるのだ。暗く、光の届かない底から救えるのは、私ではないだろう。


 アルコールが回ってきた。ああ、飲んできて正解だった。彼の前でいつもの態度は取らないほうが良さそうだからな。今は、明るくいなければ。少しでも暗闇を自覚させないために。そして、私が持っている”光”を、弟子が持ってくる”希望”を、彼に与えなくては。

設定

・『姦姦蛇螺』は封印されていましたが、とある団体によりその封印は解かれてしまいました。その団体は本編で登場させたいと思っています。 

・おじさん(仮)とお姉さん(ギリ三十代)も上と同じくで。

・おじさんの妻は死んでいます。


作者のコメント


さて、今回幕間やら閉話やらの場所でこれを書いた理由なのですが、三章に出てくる人の掘り下げがしたかったからです。おじさんの名前などが書かれてないことは察してください...


さて、唐突な展開が描かれたラストですが、三章序盤付近の予告くらいだと思っていただければ助かります。


遂に明日から三章突入!書いている私自身も三章を心待ちにしておりました!明日、明後日とまだまだ続くよ連続投稿!乞うご期待!

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