IF4 起こり得た現実
遅めのエイプリルフールネタです。二章の四話のときに與嶺原がいなかった場合の話になっています。
GW投稿三日目
4月27日,28日, 29日
5 月3日, 4日, 5日, 6日
上記、午前八時二十分投稿します。
文化祭があと僅かというところまで迫ってきた今日このごろ。俺と紗黄は、とある任務を受けて住宅街に足を運んでいた。
「今回の任務は『口裂け女』かぁ」
俺はため息をつく。『都市伝説』、『口裂け女』。その存在は1978年頃から人々の間で語られるようになり、一躍有名な都市伝説となった。全盛期からは落ち着いたが、今も人々の間でその名は語り継がれている。
そんな古くから存在している怪異が弱いわけがない。『刃物生成』、口裂け女が有するそれは並大抵の陰陽師では対処が難しい。
「まぁまぁ、私と拓真なら余裕っしょ?」
紗黄はそう軽々と言うが、そうはいかないだろう。
なぜならば、今まさに俺達は怪異の空間にのみこまれたからだ。
反応がわずかに遅れた。妖気を感じたときにはすでに現実の空間が異界に侵食されており、逃げることはできなかった。
「妖気あったぁ?」
紗黄は地面を蹴りながら少しキレ気味に呟く。いつ怪異が襲ってきてもいいようにと、普段から持っていた折りたたみ式のナイフを取り出し、その刃を出して構える。
あの瞬間まで妖気は完璧に絶たれており、一切怪異の気配を感じることはなかった。だが、異界に飲み込まれたときに感じた気配。それは夏祭りで遭遇した『強欲』のそれに匹敵するものだった。明らかにこの怪異、『口裂け女』は他の『都市伝説』とは一線を画している。
(これは、自然発生じゃないかもな)
俺は心のなかで一つの可能性に辿り着く。ただ、それは極めて空想上の話、あり得るはずもない。
今までの異常に、何かが干渉しているのは明らかだった。ここ数ヶ月の怪異にはすべて異変があった。拓真たちを飲み込んだ『きさらぎ駅』の異界に飲み込まれる際にも、紅たち四人はギリギリまで妖気を感じていなかった。祓われた怪異の存在の回復が早く、妖気を隠す技術も上達している。
その全ての元凶は、これから起こるであろう聖戦。『カミ』と『人類』、その戦いの前触れ。
拓真の有り得ない、馬鹿げた推察。今までの怪異に起こっていた異常、そしてこれから新たに対峙する怪異には全ての元凶がいるのではないか。その考察が正しいことは本人さえも知る由のないことだった。
戦いが始まっていた。異界に飲み込まれるや否や、周囲を確認する俺達。異界の中はどこかの住宅街のようだったが、月明かりすら殆ど見えない闇の中。一本道の突き当たりにいることを二人把握した。『口裂け女』の位置を妖気で探そうにも、異界にいる影響で妖気が乱れて、近くに居ない限りは居場所がわからない。
「なぁ、紗黄あれ」
俺は隣にいる紗黄に言う。
一本道の終わりは見えず、脇には街灯がある。点々と並んでいるそれの一本、50メートルほどの、ギリギリ見える位置のそれに人影が見えた。
「来たね」
更に目を凝らすと赤い服を着た”何か”、『口裂け女』がそこにいるのがはっきりと見えた。
俺達を囲んでいる三方向の壁は高く、身長の二倍は軽くある。逃げ道はないらしい。この異界から出るには『口裂け女』を倒すしかないため、逃げるという選択肢は元々無いのだが...
「初撃は俺が凌ぐかr...」
俺が『無効化』で紗黄壁の役割を担うと伝えるよりも早く、一瞬で飛んできた”あるもの”が俺の右肩を掠った。
『口裂け女』の天恵は『刃物生成』。能力で作り出したそれを自由自在に操作してくる『都市伝説』だ。遠距離攻撃をメインとしながらも、作り出した大型の武器で近距離戦も可能とする万能型の戦い方。俺の肩に当たったのは医療用のメス。一本だけだったが、すぐさま弾薬の雨を降らせてくるだろう。
今の俺達では少し荷が重い気もするが、『無効化』を常時発動しておけば攻撃は防げる。
「紗黄、遠距離からの援護頼んだ!俺は---」
「近距離任したよ!怪我したら許さないからね!」
俺は遠距離攻撃をする手段が神術しかないが、戦闘面に関して一つの術以外使えないため近距離戦で『口裂け女』を攻めに行く。俺がそうすると長年の勘から分かっていた紗黄は、俺の言葉が言い終わるよりも早く、言葉をかけてくれた。
俺は『閃雷』を発動しながら走り出す。当たらなかったとしても、攻撃の手は止まるはず。そう考えていた俺だが、現実は違った。電柱の影から勢いよく飛び出した『口裂け女』は、一直線に向かってきた稲妻をひらりと飛び越した後、大きく耳元まで裂けた口をあらわにする。それを大きく開き、こちらに狂った笑顔を向けるそれは、子供の頃に想像していた都市伝説そのもの。恐怖が体を凍りつかせる。潜在的な恐れだろうか。いくら動かせと体に”命令”を下しても、俺の体はうんともすんとも反応してくれない。
『口裂け女』の顔を見たものを弛緩させる。能力でもなんでもない、ただの感情の発露。狩人の笑みは、獲物に恐怖を与え、体を動かせなくなる。同じく『都市伝説』の八尺様には似たような力があるが、それは『呪い』として。恐怖に関係なくそれは発動できるが、『口裂け女』の笑顔はそれに匹敵するものだった。笑顔と呼ぶにはおぞましすぎるそれ。
生成した大きなハサミを手に持った『口裂け女』が近づいてきているが、俺の体はまだ動かない。
動け。動け。動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け動け
『きさらぎ駅』。『都市伝説』のそれは拓真が初めて遭遇した『怪異』だった。男は今と同じ願いを祈った。拓真の肉体にはもう一つの魂、拓真が『彼』と呼ぶ者のそれがあり、力を貸してくれた。だが、今この瞬間その人物の魂は目覚めなかった。
奇跡は二度起きない。たしかに、それも一理あるだろう。
人々は奇跡を願う。だが、それは人が作り出せるものでもある。
「”敵を退けろ 拓真”!」
俺の体は『命令』に従い、動かなかった体に無理やりエンジンを掛ける。今の俺に恐怖はない。消え去った体の力は嘘のように戻り、そして溢れてくる。
俺は邪魔だからと武器を持たないタイプだが、唯一攻撃に使えるものがある。剣でもなく、銃でもない。槍でも、斧でも、ツルハシでも。
「拳一筋ぃぃぃぃ!」
右手を勢いよく振りかぶり、瞬間移動で一気に距離を詰めた俺は『口裂け女』の顔面に一発お見舞する。威力は十分。込めた妖力も結構あった。正面から勢いよく顔を殴打された『口裂け女』は後ろに吹き飛びながら頭から地面にぶつかる。
「紗黄、アシスト!」
「ナイフ一個しかないからそんなにはできないからねっ!」
紗黄の能力『支配』。拓真と時を同じくしてそれだが、今回の怪異『きさらぎ駅』との相性は良くはない。むしろ『支配』は『刃物生成』の下位互換と言っていいまである。
『支配』、あらゆる物を対象とし、自身の支配下に置く力。最愛の者にまで使えるように鍛え、すぐさまそれを拓真に使った。それにより拓真は、他の女子に好意を向けること。紗黄に攻撃すること。紗黄を裏切ること。嘘をつくこと。その四つを禁止されている。その副次的効果として紗黄は拓真の考えていることがなんとなくではあるものの読み取れるのだった。
本来の対象である物に発動させた場合、他者の所有物に天恵を発動させることはできず、失敗に終わる。支配下に多くの物を置いている紗黄だったが、あまり遠くからはそれを呼ぶことはできない。だが、ある程度の距離であれば簡単な命令を下すことが可能。『攻撃しろ』と命令したときには、その物は物理現象を無視して空を飛んで対象に向かう。
それに対して『刃物生成』、”生成”と書いてはあるがそれは物質的な物ではなく妖力でできた仮初の物であるため、拾うことなどはできない。そして、生成された刃物は発動者、『口裂け女』の意思で自由自在に動かすことができる。
紗黄は能力の対象を近くに持たなければならず、自分の意志で細かく動かせないのに対し、『口裂け女』は持ち運ぶ必要がなく自由自在に取り出し動かすことができる大きなアドバンテージがあった。もちろん『支配』の方にもアドバンテージはあるが、今この場ではそれを活かすことができない。
一つのナイフに『拓真の援護をしろ』と命を下した紗黄はすぐさま神術の準備をする。手に持っていたナイフは弧を描きながら『口裂け女』にその刃を突き刺そうとするが、それは華麗に避けられる。他の『都市伝説』に比べてもフィジカルが数段高い『口裂け女』に決定打を与えるのは難しい。
拓真もナイフの援護を意識しながらの戦闘に切り替える。大きな後隙とまではいかないが、それなりの隙を作る強い一撃を攻撃に組み合わせながら攻撃に転じ始めた。
(回し蹴りッ!避けるか!?だが、避けたとしても)
渾身の力を込めた回し蹴りを喰らわぬようにと空中に避けながら、拓真の頭上に移動した『口裂け女』はそのまま首をハサミで挟もうとした。だが、またもそれは当たらない。『口裂け女』の攻撃を三度ほど避けきれず、体の何処かに当たりかけた拓真だったが、『無効化』のおかげでそれらを防いでいた。
命令を受けているナイフが空中で身動きの取れない『口裂け女』の右足のスネを掠る。さっきから攻撃を食らっていたからか、体から黒い煙のようなものとして妖力が少しずつ漏れ出し始めてきた。『死神』と戦ったあのときとは違い、拓真の攻撃は幾重にも進化を遂げている。ただの殴りや蹴りであってもそれは同じで、妖力の纏わせるコツを掴んだため、以前よりも大幅な強化が起こっていた。
「脚止めて!私が神術で奴を祓うから」
紗黄の準備が整ったらしい。俺と紗黄の戦闘スタイルだが、俺がタンクで敵の注意を引き、紗黄が命令を出しながら神術でとどめを刺すというものだ。似たようなことは他の陰陽師もやっているが、俺達の一番の特徴はタンクが被弾しないというもの。怪我と隣り合わせである任務だが、無傷で任務をこなすのは普通は不可能である。だが、『無効化』を持った俺が攻撃を引き付けることでノーリスクで紗黄から注意をそらすことができる。
万が一、紗黄の方向に注意がいったとしても、命令や拓真のおかげで、今日この瞬間までは何の問題もなかった。そう、今日この瞬間までは...
このときまで、紗黄の方に一切意識を向けていなかった『口裂け女』だが、大型のハサミを右手に持ち替え、それを勢いよく拓真に向かって投げつける。攻撃自体は『無効化』されたものの、拓真の体は一直線に勢いよく後ろへと吹き飛んでいく。攻撃の喰らわない相手に対して、無策で殴りつつけるような真似を、『口裂け女』はしなかった。
そして『口裂け女』は邪魔な男を排除し、視界に映る女を新たなターゲットとする。紗黄は混乱はあれど、冷静さは失っていない。ただ、拓真が瞬間移動を駆使して戻って来ようにも、連続しては不可能だ。そのため、今この場で紗黄は口裂け女と一人で戦うしかなかった。
設定
・霊障は起こる人や起こる場合の条件がある。
・陰陽師は霊障を治せる。
・紗黄の天恵『支配』は一度触れたもの(時に)発動できる。
作者のコメント
PVが伸びているのを喜びながら日夜生活しています。読んでいただいている皆様に心からの感謝を。




