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第21話 忘却

GW投稿二日目


4月27日,28日, 29日

5 月3日, 4日, 5日, 6日


上記、午前8時20分投稿します。

「--ま-輩!た--先輩!」


 誰かを呼ぶ声が聞こえる。何も見えず何も感じない闇の中で、誰かの声だけが俺の耳に届いていた。


 ただ、それも遠ざかっていく。


 俺の意識は更に沈んでいく。深く、深く、深く、さっきまで聞こえていた声が聞こえなくなる奥底へと俺は迷い込む。


「ほんとのほんとにこれが最後だよ?」


 誰かが、()()()が俺の手を掴み、引き上げてくれる。


 最後と言ったのに、()はまた俺のことを助けてくれたみたいだ。


「拓真先輩!」


 周りを軽く確認すると、ここは病院の一室で、ある人物がお見舞いに来ていた。


「ああ、紅か。わざわざありがとな」


 俺は紅に優しい声で言った。


 俺の意識は無事に現実世界に浮上したようで、さっきの呼びかけは紅がしてくれていたらしい。


 こうして無事に()()()()から抜け出せたのは、紅とあの人のおかげだろう。


 余談だが、俺達の通っている専門学校には専用の病院が建てられている。怪異と戦う上で、無傷で任務をこなすのは簡単なことではない。命に関わる重傷を負うこともざらじゃない。そんな陰陽師の治療をを普通の病院で行うことは難しいため、今俺が入院しているこの病院が建てられたというわけだ。


「心配でお見舞いに来ただけなんで、大丈夫ですよ。涼介たち三人はジュース買ってくるとか言って、さっき一階に行ったんで、そろそろ帰ってくると思うんですけど。」

 

 四人ともわざわざ来てくれたらしく、なんだか申し訳ない。


「あれ、拓真さん起きてるじゃん。てか、はい紅。一本やるよ」


 その時病室のドアが開き、涼介が中に入ってくるや否や、片手に持っていた缶の清涼飲料水を紅に投げ渡した。紅はそれを右手で受け取り、缶を開けると中身を一気に飲み干した。


「それにしても先輩、まさか丸五日も寝てるとは、驚きましたよ」


 紅が飲み終わった缶を両手で潰しながら俺に言ってきた。


 今日が何日なのか気になった俺は、ベッドの隣の棚にある電子時計で日にちを確認する。


(あ、ほんとだ。文化祭も終わってる)


 図書室のあれから日は経っており、今はちょうどお昼時だ。起き上がろうとした俺だったが、ずっと眠っていたからか、全身に力があまり入らない。


「それで拓真先輩、あの日何があったんですか?」


 あの日というのは、俺()が図書室で意識を失った日のことであろう。


「それなんだが、グリードの能力を受けて本の世界に閉じ込められた」


 俺の言葉に、紅も涼介も一気に顔が強張る。それはそうだろう。あの七つの大罪の一人、グリードと戦って無事に生きて帰ってこれたんだ。相手が戦う気がなかったならともかく、今回のは確実に俺達を狙った攻撃なのは明らかだった。


「そうだ、そんなことより紗黄はどこだ?」


 さっき病室を見回してみたが、この部屋には俺以外に誰も居ない。四人部屋なのだが、どこも片付けられ、紗黄の姿どころか紅と涼介以外の人はまだ見ていない。同じタイミングで運ばれてきた可能性は高いだろう。


「それなんですけど...拓真先輩が目覚めるよりも数時間早く、紗黄先輩は無事に目覚めました」


 せっかく二人が無事だったというのに、なぜか紅は気鬱な様子で俺に言う。グリードが敗北したと言っていたが、『空想世界』の中では一切感じなくなってしまった『支配』の感覚が今僅かに戻っているため、無事であることは目覚めてすぐに気づいていた。そのおかげでいきなり自分の理性を保てなくなるというのは避けられたが、紅たちの重苦しい様子に違和感を感じる。


「よしっ!紗黄は無事なんだろ?部屋の場所と番号を教えてくれ」


 紗黄が無事だと確証を得たため、俺は体に力が戻った。紅には紗黄の居場所を聞いた俺はすぐさま病床から飛び起きて、その場所に向かおうとする。


「拓真先輩!紗黄先輩は記-----」


 紅がなにか言っていたが、ドアを横にスライドさせ、一目散に走り出した俺の耳にはちゃんと届かなかった。まぁ、重要なことではないだろうと、俺は気にせずエレベーターに乗り込んだ。


__________________________________________

 さっきまで一人の患者が寝ていたその病室には、二人の来訪者だけが取り残されていた。紅と涼介、その二人の間を取り巻く雰囲気はとても重苦しいものだった。


「おい、なんで()()を早く言わなかった」


 涼介が紅に問いかける。それは紅がわざとあることを拓真に伝えなかったためだ。それはひどくその人を傷つける。


 自分の言葉では余計混乱を招いてしまう、そしてその人を苦しめてしまう。そんな言葉を俺は拓真先輩に言いたくなかった。


 だから、病室を去ろうとするギリギリまで言わなかった。言えなかった。


 言おうとしなくても良かったが、直接()()を本人から聞くのは耐え難い苦痛だと思い、言おうとした。だが、その言葉は想い人のところへ向かおうとする人の元へ。絶望が希望へと変わった心には届く、届かせる勇気は俺に持ち合わせてはいなかった。


「そんなこと言ったって、俺には言えないよ。紗黄先輩が-----」


 紅はぽつりぽつりと、下を向きながら言う。俺自身、その言葉を聞いて信じられなかった。涼介も、菜華も柚月も、全員が驚愕したその事実。


 それは────

____________________________________________________________________________

(404号室は...あ!ここだ)


 完全個室のその部屋にはある女性がいるはずだった。自身の彼女であり、中学時代から長い時間を一緒に過ごしてきた最愛の人、志島(しじま)紗黄(さき)


「紗黄!久しぶり」


 その部屋の扉に手をかけ、中に入るとそこには紗黄と、菜華と結月がいた。紗黄は病室のベッドに乗りながら、上半身だけを起こして二人と会話しているところのようだった。


「拓真先輩、無事に起きたんすね!?よかった」


 菜華はずっと寝ていた拓真のことも気にかけていた。目立った外傷はなく、植物状態でもなくただ眠っているだけの状態。心配するならまだしも、底しれない不安を持つようなものではないものに、なぜそこまで気持ちをざわつかせられたのか。


 なぜならば自身の天恵、『保存』を活用した治療が効果を持たなかったためである。自身に近しい人の肉体の状況を『保存』している菜華は世界のルールを無視して、あらゆることを治すことができる。制限はあるが、今回の場合は拓真も紗黄も治せるはずのものだった。


 それが効かない理由があるとするならば、『強欲』が使用した能力が『神化』しているものであったということ。


 『改変』と『空想世界』、『七つの大罪』は依代となる肉体に魂を移し替え、この世界で活動する。その目的は自身が冠する『大罪』に基づいている。グリードは『強欲』、己の欲に従い、『カミ』が現世に舞い降りるその時に、歓迎をする。その下準備をしながら自由気ままに世を渡り歩くのが『強欲』の使命だ。


「紗黄、無事だったんだね」


 男はほっと一息つく。拓真は目の前で生きている紗黄に心の底から安堵した。一安心、そう思った。







 グリードの下準備、それは様々なものに振りまかれる。この世のすべて、『カミ』が現れたときに、人々が歓迎できるように。


 『カミ』は人に裁きを下す。それまで『カミ』はこの世界を外から見ている。『強欲』が『カミ』に見せたいものは、劇だ。人の人生、それが壊れていく様。絶望の表情、混乱、恐怖。そのすべてを見せたい。







「あなたは、誰ですか?」


 男は信じられなかった。目の前にいる女性がそんな事を言うなんて。冗談かと拓真は思った。だが、()()は、その()()は、無常にも壊された。


 男を、拓真を見つめる紗黄の目には、無事に生きていた恋人を喜ぶような素振りもなかった。むしろ、初対面の人に話しかけられたときと同じような、驚きに近しいもの。それと、僅かながらの()()()。なぜそれがあるのかは、本人さえも知る由もないことだった。


 ただ一つ確実なことは、紗黄の記憶が消えていた。

__________________________________________

「はぁ〜よく寝たよく寝た〜」


 男は軽くあくびをしながら体を起こす。


 残念ながら、拓真の一撃では『強欲』を完全に殺すことはできていなかった。


「やはりあの中に『神』がいるみたいだ。だが、それももうないだろう。輝きは失われた。これで『カミ』に捧げる供物は整った」


 ()()()()は邪悪な笑みをしながら独り言をつぶやく。誰も居ない建物の一室。忘れ去られた商業施設でただ一人、グリードは笑い始めた。


 記憶の改竄。グリードは洗脳に近しいことは不可能だと思っていたが、案外できるものだった。魂を直接世界に引きずり込む『空想世界』、様々なものを変化させる『改変』。その二つが合わさることで、記憶、意識の改竄を行った。それはとある二人に抱いている好意の反転。


 その対象の一人が拓真である。紗黄が拓真に抱いていたものは、際限のない愛。それは今、他の人に向けられつつあった。


 もうじき紗黄は()と会うだろう。僕自身、まさか彼があの状況から生き返るとは思っていなかった。あの世界だからよかったが、もしも同じことが現実世界で起こっていたらと、架空の想像をするグリード。その予想は、死にはしないが重症だろうというもの。


 攻撃を与えてきた拓真に対してグリードは殺意を持っているが、今はやめておく。なぜならば、拓真はこれから死よりも辛い地獄を味わうのだから。


 彼と契約をしておいてよかった。あいつはただ殺すだけでは生ぬるい。


 この後に起こるであろう出来事に悪魔の笑みを浮かべながら、グリードはこの部屋を後にした。

設定:

・拓真や紗黄など、一般人から陰陽師になる場合、その親族の記憶から対象の記憶をすべて消去します。

・グリードの『空想世界』内で負った傷は現実世界の肉体に影響は与えませんが、死んだ場合、現実世界の心臓が停止します。治療は不可能です。

・『空想世界』を本に作用させることで遠隔で発動できます。単純に世界を広げるだけなので、グリードがその世界に干渉はできません。

・『空想世界』の発動者はその中で死ぬことはありません。

・『空想世界』内での時間の進みは現実世界と同じではありません。

作者のコメント:

ついにぃいいいいいいい!二章の投稿(幕間とか、エイプリルフールネタを除く)を終えることができましたぁ!

なろうに投稿を始めた理由が、自作で書いていたこの話を部活などで掲載できなくなったからだったので、無事にここまで投稿できて嬉しいです。見てくれる人がいるおかげでここまでやってこれました。 まだまだ初心者未満の私の作品ですが、多くの人に見ていただければ嬉しいです。


より魅力あるストーリーや表現ができるよう、日々精進してまいります。これからもよろしくお願いします。

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