第20話 脱出
二章の六話の霊障に関して変更しました。
GW投稿一日目
4月27日,28日, 29日
5 月3日, 4日(未定), 5日, 6日
上記、午前八時二十分頃投稿
グリードが斬られるほんの少し前のこと。拓真はどこか知らない空間にいた。見える景色が全て白で染まっており、広さを把握することもできない場所。そこは明らかに現実世界でも、『空想世界』の中でもなかった。
「やぁ、二度目だね。拓真」
背後から、どこかで一度聞いたことのある声がする。振り返るとそこには白い光の塊のようなものがいた。
(この声は確か……)
俺は記憶の中から同じ声を探す。この包まれるような心地よい声。どこかで、どこかで聞いたんだ。確か……黒い手……?
あ、思い出した。
「そうだ。トンネルで怪異に捕まったときのあの声だ」
「正解。覚えててくれて嬉しいよ」
その人物は少し嬉しそうな声を出した。この声の人物はトンネルで俺が捕まった時に助けてくれた?人物のはずだ。
「あのときのトンネルで、黒い手を祓ったのはあなたですよね?」
前々から感謝したいと思っていたが、思い返しても不思議な体験で、正直夢や幻覚のたぐいだと思っていたが、どうやら違うらしい。またその人に会えるとはラッキーだ。
「そうだよ?あの状況だと君が絶対に逃げられなかったからね」
声の主はそう言った。
確かにそうだ。あのままでは俺は怪異に取り込まれ命を落としていた。いきなり手が消えて、奇跡だと思っていたが、あれも幻覚ではなかったようだ。
「あの時はありがとうございました。それで、あなたは一体?なぜ、どうやって、俺を助けたりこうやって話して……」
この声の主が俺に害をなす存在ではないことはほぼ確かなのだが、誰なのか、そしてなぜ助けてくれたのかなど、様々な疑問を俺は口にした。
声の主は俺の言葉が言い終わるより先に話し始めた。
「お礼はいいからいいから。時間もないし、全部を説明するから聞いてて」
声の主は急かすように言った。
(まず第一、この空間は何なんだ?)
俺は最初から気になっていたことを改めて不思議に思う。明らかにここは現実ではない。むしろ、夢や天国のほうがしっくりくる。いわゆる死後の世界なのだろうか。
「いいや、正確にはここは死後の世界ではないよ。ここは君の意識の中さ」
俺の思考を読んだのだろうか。考えていたことを読み当てられて動揺する俺。
「私は----」
一部分、そこだけその人の声に砂嵐がかかり聞き取れない。
「君ではまだ知ることができないみたいだ。そんなことは置いといて、私が君を助けた、助ける理由だけど、君の肉体に潜んでる...というよりはお借りしているからだね」
説明によれば、俺の体の中にこの人はいるということか?それなら助ける理由にある程度は納得できるが、一つ理由がわからないことがある。なぜ俺の体だろうか。
声の主はまた俺の考えていることに対する説明をしてくれる。
「君なら『カミ』を止められる可能性があるからさ。私が助けた理由も、君に強くなってほしいから。君一人では無理だけど、彼らと合わさればあのバカにも対抗できそうだからね」
俺が死にそうになったから助けてくれたということか。というか、彼ら?あのバカ?誰を指しているんだ?
「今知るにはまだ早いよ。もう少ししたら自力で気づくはずさ。あと、私はもう君のことを助けられない」
声の主は残念そうな声で言った。
誰を指しているのかはいいとして、なぜもう助けてくれないのか。それを聞こうとした俺。
「それは……悪いけどそろそろお開きの時間みたいだ。頑張って強欲を倒してね」
無常にも、時間は進んでいた。そう長くはここで話すことができない。声の主は終了を拓真に伝える。
拓真の肉体が完全に死を迎えるその瞬間、魂の器から零れ落ちそうになるその僅かな時間。それが今この世界を形作っていた。
この時間は二度と訪れない。声の主が拓真を助けることは二度とできない。あとは拓真自身の力でやるしかないからだ。『妖力の目覚め』、そして天恵の『覚醒』。その二つが声の主にできる唯一のことだった。
完全に器からこぼれた魂は、自力では二度と肉体には戻れない。そのギリギリの状態が今の拓真。少しでも長く拓真と話そうと声の主は色々時間を引き伸ばしていたが、それも限界だ。
(そんな。まだ気になることがいくつもあるのに)
俺は少し寂しさを感じる。たった一人で何時間もグリードの相手をしていたため、心を許せる相手との時間は貴重なものだった。
グリードを倒してと言われたって、俺は判断に迷って首を切られた。あいつの守りを突破することは『無効化』ではできないし、それに、死んだ俺にはもう何もできない。
「それについては問題なし。今ここで願え。自身の死を強く否定しろ。そして生き返ったら奴を倒せ。今なら一撃分くらいは『無効化』で守りを突破できる。君ならあいつに勝てるよ」
声の主は俺に強く言ってくる。
やはり俺は死んでいるらしい。だが、俺は生き返れるらしい。そして、この人が問題ないと言ったんだ。死んでいることも、グリードの守りを打ち破り、勝つことも本当にできるのだろう。俺は彼を信じる。
「また会えたら、次はもっと話そう」
白に染まった世界が崩壊していく。視界の先から、白の空間が零れ落ち、漆黒の闇が侵食をしていく。そんな中で彼は言った。
「色々と、ありがとうございました」
俺の言葉を聞いて、白い光の塊がなぜか笑っているように感じた。
そして世界は崩壊した。
俺の視界が黒に染まる。
だが、俺に恐怖はない。
移動という概念を超越することのできた天恵『無効化』、その可能性を。
そして俺を助けてくれた声の主の言葉を。
俺はそれを信じる。
(『無効化』)
死という概念、その否定を俺は強く願った。
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紗黄に危害を加えたグリードを殺す。その目的のために俺は天恵を発動させた。死という壮大な概念、それは以前の『無効化』では不可能なものだった。
しかし、今の『無効化』は違う。自身の死を体験するという経験を得て魂が強く成長し、『覚醒』したそれは、『死』という概念を否定する。
卵が先か、鶏が先か。肉体の死後に発動したその天恵は、拓真の死を否定することに成功する。
生き返った拓真。目の前には最愛の人を傷つけた張本人、グリードが背中を見せている。起き上がるよりも先に周囲の状況を確認した拓真は自身の体の側にグリードの使っていたナイフが落ちているのを発見した。
ナイフを取り、グリードを殺しにかかる。もう迷わない。確実にこいつを殺す。守りがあるということは一切考慮せず、最速最善の攻撃を繰り出す。
俺から発されていた殺気に反応してグリードは振り返ってきていたが、すでに首を斬り終えている。
グリードは何かを発する間もなく命を落とした。すると、グリードの作り出した世界、『空想世界』が崩壊していく。紗黄に関する情報をグリードから聞き出したかったが、そんな余裕もなかっただろう。たった一撃、されど一撃。それで決着はついた。
あいつは全く本気を出していなかったように感じる。死の間際も、面白いものが見れた、そんな目をしていた。
(もう二度とやつとは戦いたくない)
そう願う俺は、この壊れゆく世界から脱出した。
設定:
・死の『無効化』、その発動条件は死ぬ瞬間に使うことです。なんで拓真が生き返ったのかは、死が起こる中で拓真たちは話していたため、ぎり発動条件が間に合う中で使えたと思っていただければ助かります。
・死の否定により、拓真の怪我は全て治っています。
・拓真の『無効化』ですが、『怪我』というものを対象にしては治す(天恵を使うこと)はで
きません。やるなら怪我をした瞬間に限ります。
・死んだものとかを生き返らせることも不可能です。”結果”(過去)ではなく今に作用し『無効化』という状態にしています。
・声の主→彼/と変わったのは、拓真がなんとなく男だと感じたためです。正確には性別のない存在。人じゃありません。
・拓真がもう一度グリードの守りを突破して攻撃しようとしても、今の拓真ではできません。あの人(拓真の体の中にあるもう一つの魂)が最後の手助けをしてくれていたからできました。一瞬だけ『神化』に足を踏み入れていました。
作者のコメント:
拓真の『無効化』については上手く説明することができなくて申し訳がないです。今起こっているなにかが対象とかと認識してもらえれば嬉しいです。
さて、今回拓真はグリードに勝利しましたね。この中で死んだものは、現実世界でも死ぬ。つまり、これで全て一件落着!...となるのでしょうか?
自分に危険がある条件下にわざわざ敵を引き込んだりしますかね?
私なら、圧倒的有利なポジションから、スナイパーでチクチクと...
話が逸れてしまいましたが、まだまだ拓真たちの戦いは続きます。これからも読んでいただければ幸いです。
今回の幕間と閉話は紅の師匠。それととある人物の話になります。(閉話のみとなります)
長々とあとがきを読んでくださり、ありがとうございました。




