第17話 真実
何処かから聞こえてきた鳥の鳴き声で俺、片桐 拓真は目を覚ました。ここはどこなのだろうか。地面に寝ていた俺は体を起こして周囲の状況を確認する。
(どこだここは?)
俺の目に映った景色には、コンクリートの地面や視界を覆い尽くすビルや建物がなく、広がるのは蒼蒼と生い茂った草と、鬱蒼とした森だけだった。
なんでこんなところに、と記憶を辿るが何も思い出せない。俺の最後の記憶は誰かと何処かに居たもの。それは誰だったか何度も思い出そうとするが、顔に靄がかかっており、思い出すことができない。それもそうだが、俺はなんでここにいるのか分からない。自分が自分であることは覚えているが、記憶がない。まるで記憶に鍵がかけられているような、そんな感覚がある。
「こんなところに居たんだ?」
いきなり背後から声をかけられた。振り返った先にいたのは、自分と同じくらいの年に見える男の人。右手の人差し指で何やらナイフのようなものを回して、座っている俺のことを眺めていた。
誰だこいつは。俺の何かが目の前のこの男に警報を鳴らす。記憶の奥底、鍵のかけられたところが一斉に動き始める。この顔、この声、何処かで...
男は遊んでいたナイフを上に弾き、空中から落ちてきたナイフを華麗に回収すると一度拓真の方に向かってそれを振り、言葉を放つ。
「『斬れ』」
男の言葉が耳に届くよりもわずかに早く、俺の記憶の扉にかけられた鍵が破壊された。すべて思い出した。眼の前にいるこの男が『七つの大罪』、『強欲』のグリードであることを拓真は認識した。そしてとある”違和感”を体から感じたが、それを考える余裕は今の拓真の状況には残されていなかった。
「なんだ、思い出しちゃったか」
殺気を感じた拓真が一瞬にして移動し、自分自身から距離を取ったことにグリードはひどく残念そうに言う。
俺はグリードの殺気を感じるとすぐに天恵を発動させ、『瞬間移動』を行い大きく距離を取った。木に囲まれていたため視線が遮られていたため、振り返って直ぐに移動した先は五メートルほど後ろの位置だったが、距離は取れた。
一度俺はあいつに『無効化』を突破された経験から、天恵頼りの守りはしないようにしている。攻撃の『無効化』の後に発動させた『瞬間移動』、今回もこの選択が正解だったことだろう。
なぜならば、さっきの立ち位置では届くはずのない攻撃が俺の頬をかすっており、わずかに肌から血が流れていた。ダメージは殆どないが、やはり問題なのは攻撃『無効化』を貫通してくるやつの一撃だ。どこまで俺の能力が通用するのか分からない以上、この戦いは不利と言わざる負えない。
頭をフル回転させ、この状況にどう立ち向かえばいいか考えている俺にグリードは話しかけてくる。
「この『世界』のルールについて教えとくんだけどさぁ〜」
この『世界』というのは、今俺がいるこの謎の世界のことだろう。記憶と照らし合わせればある程度この世界が”いばら姫”の中だろうと予測はついているが、紗黄の姿は近くに確認できず、少し不安だ。
そんな不安をよそにグリードは話を続けていく。
「この『世界』、天恵『空想世界』の中で死んだものは、元の世界でも死ぬ。”そして”……」
衝撃的な一言に俺は表情を歪める。すでにここが現実ではないことは推測できていたが、ここでの死が実際の死につながることまでは予測していなかった。
「”そして”ってなんだよ」
俺はキリの悪い終わり方をしたグリードの言葉に、不満を口にする。そして、グリードの次の言葉は俺にさらなる衝撃と絶望を味あわせた。
「────そして補足だが、紗黄は僕に敗北した」
グリードのその言葉を俺は疑うことはなかった。
俺の『主人』、そして彼女である紗黄が目の前のこの男、グリードによって殺されたことを俺は察してしまう。
俺が感じていた”違和感”、紗黄の天恵である『支配』の感覚が、俺の中から消えていることからもその発言は嘘ではなく、真実だと悟ってしまった。
設定
・拓真が紗黄の記憶とかを思い出せなかったのはこの世界が夢のメカニズムに近いものだったからです。記憶が戻ってからは明晰夢みたいに、自分の体を思う通りに動かせています。
筆者のコメント
グリードと紗黄の一悶着が今回の話の中の前にあるのですが、それはまた二章が終わったら幕間とかのほうで伝えていきたいですね。
話の大半が拓真主観以外のものを幕間で書いていきます。今後とも宜しくお願いします。




