第16話 毒牙
『口裂け女』の一件から数日経ったが、未だグリードから攻撃を仕掛けてくてくる様子はなかった。ここ数日はいつも通り小さな怪異はちまちま祓ったが、流石に『都市伝説』の怪異はそこにいない。まぁ、そんなにポンポンと『都市伝説』の怪異が出てきたら、俺達では対処できない。
前回は運が良かったが、俺と紗黄だけであればあいつは対処できていたのかと、『もしも』を考えてみる。あり得なかった訳では無い。藍乃の任務が重なったりしていたら俺と紗黄だけであいつに対処するしかなかった。果たして近隣に被害を出さずにできただろうか。
俺が開いた本のページを進めず、ぼーっとそんなことを考えていたため、紗黄が気になって声をかけてくる。
「たっくんは何読んでるの?」
「え!?あ〜、一応神術の本をちょっとね。イマイチ使い慣れないからさ」
紗黄に呼ばれたことで意識が戻った俺は、すぐさま返事を返した。
陰陽師になってからはや数ヶ月経ったが、未だに俺は神術を使い慣れていない。俺が使えるのは、前に口裂け女の時に使った『閃雷』くらいだ。雷に適性がある俺だが、いまいち他のになれない。イメージする力が原動力の神術だが、俺はそのイメージを構築するのが苦手だ。適正と初めて見た印象から『閃雷』を使えはするが、他の術まで手が伸びない。そんなことを思い悩んでいた俺は、紗黄と一緒に図書室に行き、神術の本を読んでいたのだった。
「たっくんってさ、多分だけどイメージができないんじゃない?」
「!?」
図星だ。まさかの質問に俺は驚いた表情をする。紗黄との任務でもあまり神術を使っていなかったし、『閃雷』以外に関しては一度も使用していなかったため、紗黄はある程度の予測を立てていたのであった。
「実のところ、紗黄の言う通りイメージができなくて」
俺の天恵『無効化』はある程度使い慣れてきた。この能力は意外と応用が効くもので、概念に近しいものまで無効化できるようだった。最近自分の中で流行っているのが、移動という概念を消失し、視界内の好きな場所に移動する疑似『瞬間移動』だ。これが結構便利なもので、妖力の消費が激しいものの、数十メートルは優に移動できるため、ちまちま使っている。
ただ何と言うか、武器がほしい。陰陽師になってからまともな武器もなく、ステゴロで怪異を祓っている。相手からの攻撃は無効化できるものの、これも瞬間移動と同じく妖力をバンバン喰うため、戦闘を優位に立ち回れる武器がほしい。だが、大きすぎると動きづらく、小さすぎると威力が物足りないというジャストな物を探しているのだが、なかなか見つからない。最近はコンパクトナイフが主流だ。
あと最近知ったのが天恵の『覚醒』だ。天恵には確認できる限り、二回強化が可能とのこと。1つ目が今言った『覚醒』。能力を自分以外のものにも発動できるようになったり、効果や対象が向上、拡大するといった変化が起こるというもの。
そして、もう一つの強化が『神化』、これは現時点で使用が確認されているのは片手で数えられるほどに少ない。その人物曰く、覚醒の一段階上、天恵の解釈が広がったらしい。個人差はあると予測されているが、必ず効果や性能は大きく向上するだろう。
なぜならば、その『神化』した天恵を持っている五人だけが、現代最強を争う陰陽師なのだから。
紗黄がこの後帰りながら神術のコツについて教えてくれると言うので、俺達は晩飯の買い物がてら、帰ることにした。
読んでいた本を元あった棚に返そうとした俺だったが、あるものが地面に落ちているのを発見した。
(これは……)
「その本ってさ、いばら姫?」
しゃがんでその本を拾い、表紙を見ていた俺に後ろから紗黄が声をかけてきた。いばら姫、たしかグリム童話であった気もするが、内容がいまいち思い出せない。
「いばら姫っていうのは、主人公の姫様が永遠の眠りから王子様のキスによって目が覚める話だよ」
紗黄の説明はところどころ端折られてたが、俺はなんとなくだが思い出せた。
「あ〜なんかあったわ、そんなやつ」
そう言った俺だが、一つ疑問が残る。なぜ陰陽師の本があるこのコーナーに、こんな本が落ちているのか。
「紗黄、この本何かおか...」
この本何かおかしい。そう紗黄に言おうとした俺だが、その時には俺の手から紗黄が本を取っていた。
「なんだ、なにもないただの本だね。妖力も感じないし」
一応俺も確認したが、たしかに妖力は感じない。俺は杞憂だったかと思いながら、紗黄と一緒に本を読み進めていたが、突如紗黄が意識を失い倒れかける。ギリギリでキャッチし、とりあえず本棚を背もたれにするような感じで地面に下ろす。
(何が起きたんだ?外傷は...血も流れていないしなさそうだ。なら何が起きたんだ)
辺りを確認した俺の目に、地面に落ちていたあの本、いばら姫が目に入る。
寒さを感じる。いや、これは悪意、悪寒だ。途端に感じた悪寒に全身の毛がよだつ。
天恵、『無効化』を発動しようとした拓真。いかなるものであろうとも、自身が設定したものを『無効化』するこの天恵であれば耐えられるはずであった。ただし、拓真は一度その天恵を破られている。他でもない、強欲のグリードに。
「『無効化』!これなら攻撃は効かないは────破られた!?」
『物理攻撃』『精神攻撃』、いかなる攻撃をも『無効化』させたはずの防御を突破したその攻撃は拓真に牙を剥いた。
紗黄の意識を奪ったのもこの攻撃、グリードが使用する天恵『空想世界』。それを活用、応用したこの攻撃によって、拓真、紗黄の両方は魂を本の世界に閉じ込められた。
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「彼のお陰で上手くいったみたいだね。よかったよかった」
今度はどこかの建物だろうか。周囲から人の気配が一切しない古びた病院のような場所でグリードは一人つぶやいた。彼、それは誰を指すのか。今の発言は何を意味するのか。それらを知るものはただ一人だけ。
「後は、僕が彼女の記憶を消すだけだ。それで契約は成立する。」
グリードの目的は二つ。一つは紗黄の記憶を消すこと。これは先程の彼との契約、そして自身の目的でもある。
「そして拓真、君はこの世界に存在してはいけない存在、いや、器だ。お前はいずれ必ず『カミ』の邪魔になる。その前に...」
そして、もう一つの目的は────
「拓真、君を殺す」
────『カミ』の邪魔になる存在、拓真を殺すこと。
祝:PV1,000突破!
設定:
・グリードの天恵は『改変』。使用できるのは『改変』と『空想世界』です。
・『カミ』と『神』は別のことを指します
・七つの大罪は『カミ』の使徒です。
作者のコメント:
投稿頻度が落ちて申し訳がないです。
話は変わりますが、PVが1000を突破しました。嬉しい限りです。誰かに見てもらえたら嬉しいと思っていたこの話がこんなにも見ていただけて驚きと喜びが一斉に押し寄せてきます。
今後の話ですが、勉強の関係上、投稿頻度は週一ほどになります。7日ぐらいで一本という形でこの話を最後まで書ききって完結させることをここに宣言します。
あとは、本編も書いていこうと思います。余談ですが、本編は「神崎紅」が主人公になります。(前に読んでいる人から指摘されて、これを言ったら驚かれたので一応ここで報告を...)




