第15話 実力者達
私の天恵『加速』は自分の動く時の流れを加速させ、肉体の動きを早送りすることができる。現実世界で経過する時間は百ミリ秒。その動きは目を閉じる間に行われ、反応するのはほぼ不可能である。
天恵が発動され、私の目に映る景色が止まったかのように遅くなる。私はまず、『口裂け女』に向かって走り出した。私の動きはいつもと同じように動いている。この『時間の流れ』が続くのは十秒の間だけ。早急にケリをつけるとしよう。
こいつが攻撃するよりも速く私はこいつを祓わなければならない。万が一これで決着がつかなければ、私はもう何もできなくなる。一度天恵を発動すると、そのあと動けなくなり、妖力の使用が一切禁止されるため、この後何かが起こったら拓真と紗黄に任せよう。私から見てもあの二人には異質な気配と言うか、何かを感じている節がある。
(いや、今はそれよりもこいつを祓おう)
色々考えてしまったが、私の効果時間は残り少ない。紗黄から借りたナイフで『口裂け女』に傷をつけていく。腕、腹、頭、そして首。一切の手加減なく、攻撃を与えていく。人の見た目をしているが、こいつは『化け物』だ。油断したらコッチがやられることは知っている。
攻撃をし終わった私は能力を解除した。『口裂け女』の姿が黒い煙に包まれたかと思うと、徐々に体が灰になっていく。
「これが、校内最強の実力……」
拓真は藍乃の戦闘を目の当たりにして絶句する。今から戦闘が始まることを予感した拓真は目を凝らしていたが、かろうじて見えたのは藍乃の動いた跡、残像だけだった。
『口裂け女』が消滅した。本来であれば三人でも苦戦は強いられるであろう『都市伝説』だったが、藍乃の能力を前にそれは敗れた。
藍乃は振り返ろうとした。
そして、九死に一生を得た。
「『弾け』!」
どこからか投げられたナイフが首筋に迫っていたが、紗黄が瞬時に『支配』下にある藍乃の持つナイフに命令を下した。
藍乃の手に収まっていたナイフはいきなり動き出し、背後から首に迫っていたナイフを防ぐ。間一髪というところ、あと少しでも反応が遅れていたら頸動脈を切っていただろう。
ナイフが向かってきた方向を向いた私が見たのは、謎の男だった。
体制を立て直し、男と対峙しようとした私だったが、全身が筋肉痛のような症状になり、体が動かせなくなる。この状態はあと十秒続くだろう。あの時の流れの時間と同じ分だけ、私は体が動かせなくなる。そして妖力が一切使用できない。警戒はしていたが、まさか妖力を使用せず、感知できない攻撃をされることは想定していなかった。紗黄に助けられたな。
「あとは俺達に任せてくれ」
拓真は戦闘を覚悟した。なぜならその相手のことを拓真は知っているから。
「まさかお前とまた会うとはな、グリード」
「誰かと思ったら『きさらぎ駅』の時の...なるほど、やはり邪魔なのは君だな」
すぐさま拓真は回避行動を取り、以前と同じことが起きないようにする。初めてグリードと対峙した拓真は何が起きたのかを理解する前に、一撃で敗北した。拓真は天恵『無効化』をある程度使用できるようになったが、能力頼りの防御はしないようにしている。
「今戦うのは分が悪い、か」
紗黄と藍乃をちらりと確認したかと思うと、グリードはそう言って姿を消した。
「終わったのか?危なかった...」
もう一度周囲を確認し、安全を確かめた拓真は安堵を口にする。あのまま戦っていれば、下手をすると三人全員が死んでいた。ここは住宅街で、一般人が多くいる。戦いの被害の規模は想像もつかない。
なぜここにやつが居たのかは分からないが、一応今回の任務は無事に終了した。
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「当てる気はなかったが、まさか止められるとは」
グリードは何処かで一人、つぶやいた。
「次は直接二人とやるか」
二人、果たして誰を指すのか。ただ一つ言えるとすれば、今のグリードの興味は拓真と紗黄の二人であった。
ネオンが街を照らし、そこかしこに人が集まっているのをグリードは建物の屋上から見下ろしていた。
展開
・藍乃が敵が複数いることに気付いたのは、霊障があまりにも強いから。長く存在した怪異はある程度霊障を抑え、人を騙してくる。強いやつは霊障を必ずと言っていいほど抑えるため、ここまで抑えないのはなにか別のものから干渉を受けてると予測した。




