『ただそっとあなたの幸を祈った』
「すべてが予定調和だなんてね」
「アレ? アナタ、会ったっけ?」
「えぇ?」
【露出狂】を見るなり、【調律師】がそんなことを言う。
「……」
「……」
「……」
「」
「……あー、“調律”すんの忘れてた」
「案ずることは無い。我々がそう書いただけのこと」
「へぇ?」
「『「情」の哲学』の、【雁字搦めの識者】よ――何か言い残すことは?」
「なんというか、むず痒いね」
目を閉じて苦笑いしながら、普通の青年は答えた。
「それこそ、自分の運命を物語みたいだって言って酔っ払ってたわけだけど、それを改めて“物語”だぞって突き付けられるのは、ね」
「……いやつかアンタ、なんでこの話に限ってアタシを遣わせなかったの?」
半笑いで、【調律師】が【神】を見遣る。
「自分で創った玩具を好きな様に弄んで、何か問題が有るのかね? 我々が気紛れを起こしてはならぬ、などと云う道理は無い」
「神はサイコロを振らないんじゃなかったかしら?」
「それは物理学での話じゃなかったか?」
「お前達の言動は、賽となって我々の手中にある」
巨大な掌から、サイコロが湧き出す。
「じゃあなんで、自我が俺たちにあるんだよ」
「其れは仮初の自我――己に自我がある、とお前達が認識しているに過ぎない」
「“世界”が創られたものだって言うんなら、それは仮想世界でシミュレーションのハズだろ。ならその世界で生きるコマには、簡単な思考回路だけ持たせときゃ良い。なんでわざわざ自我っぽいものを持たせてあるんだよ」
「面白くないからだ」
「うーん単純明快で良い理由だ、キレそう」
真顔で【露出狂】は舌打ちした。
「でもまぁ本当にそうだわな、自我はあるだけで価値がある」
「お前は何を言って居るのだ?」
零れてゆくサイコロの出目は、すべて1だった。
「お前に自我などない」
「白々しいったらないやね……!」
金髪の美少女は、心底可笑しそうに笑った。
『線香金魚』
NOMELON NOLEMONの楽曲。2022年リリース。