『傷だらけでも待ってる』
「アタシらはそのことを知る由もない」
「さて、【最終兵器】」
カメラアイに、無数の万年筆が突き付けられる。
「お前は本来必要無い存在である、と言えば、どうする?」
「否定、当機は博士が設定した人類絶滅という目的の為に必要とされた存在です」
「違うな」
モノリスが、漂う1枚の白衣になる。
「前提条件から考えよ。あの星の環境と、人類の自滅的戦争――此れが何もしなくとも、人類は絶滅する。舞台設定をあれだけの惨状に設定していれば、我々が思考し創るまでもなく、自ずとそうなるものだ」
「つまりアナタは、人類を滅ぼす必要は無かった、なんなら存在する必要も無かったのよ」
【調律師】が言葉を継いで、【最終兵器】へ突き付ける。
「もっとも、それはすべての“物語”に言えることだけれど」
そう言って、彼女の瞳が【九十九神】をチラリとみた。
「――拒絶」
「あら」
「当機は、その事実を容認できません。目的がなんであれ、当機は博士に必要とされ、建造された機体です」
「壊れたロボットの主張に、如何程の意味があるのだろうな?」
「否定、セルフチェックの結果、当機の思考領域にエラーはみられません」
「機械は感情を持たないものだ。しかしお前は感情を持って稼働している。――人類の社会構造の中に斯様な機械が存在したならば、即刻廃棄処分されている」
「博士の白衣で、当機を語るな」
言うが早いか、【最終兵器】が火器を展開し、射撃体勢を取る。
だが――
「!?」
その銃口が火を吹くことは無かった。射撃しているのに、弾が出ないのだ。
「我々は全てを創っている。これまでも、今この瞬間もだ」
「ムダよ。攻撃なんてそもそもさせてもらえないわ。コイツがそう書かない限りね」
「そして我々が、自らの破滅を描くことなどない……火器管制システムもいよいよ壊れたか」
「いやアンタが書いたんでしょうがよ」
「……疑問、何故あの“世界”は創られたのですか?」
「諧謔の為だ」
残酷な即答だった。
「疑問、我々を弄んで、何がしたいのですか?」
「面白いだろう?」
酷薄な即答だった。
「この問答すらも、我々が書いたものだからな」
「……当機は、貴様を」
「やめなさい」
【調律師】の、強く、宥める声だった。
「理由はなんだかんだで単純なものよ」
そう言って、漂う白衣を見やる。
「だから、どうすれば良かったのかも、きっと単純なハズよ。博士はあの星でどうするべきだったのか……とかもね」
右耳に髪を掛けながら、そのまま右手で耳を澄ます仕草をする。
「そう、耳を澄ますのよ……この流れに乗るの。結局はそんなものでも善いって、アタシはそう思いたいわ」
【偽物の神】から流れ出るものが、“部屋”にこだまする。
『オドループ』
フレデリックの楽曲。2014年リリース。