『報われない気持ちも整理して』
「全部、アイツの思うがまま」
「まずは、招集ご苦労、【調律師】」
【神】は、多様な解釈が可能であるが故に不定形だった。瞬きするたびに姿が変わっている。机に向かう老人だったものが、残酷な目をした子供になり、次の瞬間にはワードプロセッサを打ち込むマネキンへと変化する。
そのマネキンが、ことばを発していた。
「全部アンタの書いた通りになるんだから、苦労もなにもあったもんじゃないけどね」
【神】からの労いを、金髪ポニテは不敵に無意味と切り捨てた。
「貴様が……“物語”を創った?」
【偽物の神】が、ホーンを震わせて問う。
「そうだ。【縦と横の糸】の惨劇を、お前に紡がせた。お前も労う必要があるか」
「私に、紡がせた?」
「“世界”を、“物語”を、創ったのは確かに我々だ。だが、実際に紡いでみせたのはお前であること、そのレコードを抱えた分際で言い逃れる術などあるまい」
血の糸が絡まってこびりついたレコードが、【偽物の神】の中心で回り続けている。
「ふたりを【縦と横の糸】にした瞬間に、お前はふたりを地獄に突き落としていた」
罪を証明する記録が、【偽物の神】の中心で回り続けている。
「ふたりに降り掛かる破滅を振り払う【機械仕掛けの神】を気取る? 違うな、お前が災厄そのものだ」
反駁も、流せる涙も、剥がれるメッキも無いまま、レコードが回り続ける。
「あーあ、壊れちゃった」
【調律師】が物言わぬ蓄音機にツカツカと歩み寄る。
「仕方ないわね。これも“そうなるようになってた”んだから」
手を差し出し、レコードを裏返す。不断の背景音楽が流れ出す。
「ところで」
マネキンの顔が、【調律師】の横にいる【九十九神】に向く。
「何故、【縦の糸】だったものが此処に居る?」
怪訝警戒する声色だった。
「アタシのお気に入りだからだけど?」
【調律師】の右腕が、庇って【神】の視線を遮る。
「……勝手な真似をするな」
「そんな性格に仕上げたのはアンタでしょ」
憎らしげな口調で【神】を指差す。
「そもそも、何故そんな残骸が?」
「さあ? ちゃんと消してなかったからじゃないの? ちゃんとしなよその辺」
鼻で笑いながら、肩をすくめ両手を持ち上げてみせた。
「それに、アンタがなんにも書かなければ【九十九神】はなんもできない……それはアンタが一番わかってんじゃないの?」
「生意気な」
「そういうわけだから、この子は連れてくわよ」
音楽だけを流し続ける機械を置いて、ハイヒールが楽し気に鳴った。
『私以外私じゃないの』
ゲスの極み乙女。の楽曲。2015年リリース。