3 エアー家のお嬢さん
俺はとりあえずエアー家に、うちの自慢の酒を土産に持って指揮官ベーラと商人たちの代表格のマーキンって奴を連れて訪ねることにした。いきなり攻め込むなんて乱暴なマネはしないよ?できれば友好関係を結びたいんだ。
行きは馬車だが俺は移動の際馬車に「帆」をつけて風魔法で速度を上げる、というアイデアを試してみた。
「うほほほほ!これは速い!すごいですなー!爽快じゃあ!」
「若!この方法は普段でも役に立ちますぞ!ああもっと早く若が生まれていたら……」
好評のようでなにより。それに馬の負担も減るし、旅の間俺たちが取る水や食料なんかの馬車に積む荷も少なくてすむからな。
「はしゃいで振り落とされないようにしろよ?」俺が言うと「はい……おや?」ベーラが地平線に目を向ける。
「馬に乗った者が……10人。こっちに来ますぞ。
油断の無いところはさすがベーラだ。長年うちの指揮官をやってるだけのことはある。俺はすぐに水魔法で空中に「凸レンズ」型の水のかたまりを作り出してそいつらを望遠で観察した。
剣と槍で武装している。盗賊だろうか。それともエアー家に従うこのあたりの領主の兵だろうか。うちの近辺の家なら紋章でわかるんだが紋章を付けていない。なんにせよ警戒したほうが良さそうだ。
「蹴散らすのは簡単だがせっかくの土産の酒の瓶を割られちゃかなわんな。さらに速度を上げるからしっかりつかまれ!」
俺は風魔法で馬車を馬ごと宙に浮かばせた。驚いておびえる馬をなだめながら水平飛行にうつる。
騎兵?たちは馬を止めて呆然と俺たちを見送る。
「若……これなら最初からこうやって移動すればよかったんじゃ……」ベーラとマーキンはもっともな疑問を口にする。
「切り札として取っておきたかったんだ……あちらさんに警戒されるのも避けたいし、な。」
「まあ……こんなものを見て警戒するなと言うほうが無理ですわな。」
ずっと馬に気を使いながら飛行ってのも精神的にしんどいのでそろそろ降りようと思っていると、小さな街、もしくは村が見えたので着陸し、近づいて行く。
レンズで眺めると槍を持った門番が5~6人、入り口に立っている。俺は馬車の帆をたたんで普通の荷馬車に見えるようにしてからそいつの所へ行って声をかけた。
「やあ。エアーの殿様に貢物を持って来たんだけどこっちの道で良いんだよね?」
「ああ。ここはエアーの門の街だ。悪いが荷をあらためさせてもらうぞ」
「はいよ。良い酒だから割らないでくれよな。」
俺たちは水を飲んで一息入れる。この乾燥した荒野はとにかく喉がかわくのだ。
門番たちが荷を調べていると、騎兵が数名エアー家の方角からやって来た。
「失礼ですが、アール家のラン様でございますか?」
俺はつい「あ、ああ」とうなずいてしまう。何だ?
「ようこそいらっしゃいました。我らはエアー家に仕える騎士であります。我がエアー家の姫君ユリコ様の命によりお迎えに参りました。」
ユリコ……って、まるで日本人のような名前だな?まあでもナオミっていう欧米人もいたからなあ。まさかね。
俺たちの馬車は彼らの後をついて行くことになった。少なくともこれでもう盗賊に襲われる心配はあるまい。そう言ってベーラとマーキンを安心させてやる。細かい気配りは大事だよね。
やがて高い壁が続いて周りから何か(おそらく屋敷)を囲んでいるその正面に、馬鹿でかい門が見えた。こりゃもう地方領主の屋敷じゃないぞ。王宮かよ。
おやじに教わった知識だが、一応この世界にも王(やっぱり自称だけど)は存在する。そのママント王家とやらは500年くらい前からあって、わき水の出る言わば砂漠のオアシスのような水の豊富な地域を独占して「いやがる」そうだ。俺たちが水が無くて困っていても助けてはくれないが、な!……とのこと。
「お、大きいですな……」ベーラとマーキンが驚いている。
おかしい。こんな水のない荒野の、ろくに農作物も取れないだろう場所でどうやってこんなに栄えていられるんだ?ありえない……俺には川を引くことしか思いつかなかったが他にも方法があったのだろうか?それともここにもオアシスがあるのだろうか?
あるとしたらぜひとも同盟を組みたい……などとあれこれ考えているうちに馬車は門の前に着いた。「姫の命によりアール家のラン様をお連れした。門を開けよ。」先導の騎士が叫ぶ。門番が門を開くと俺たちは門の中へと入って行った。
「でか!」
まさしく王宮だった。巨大な城に高い塔がいくつもそびえている。俺たちが扉を開けて中へ進むと、一階は大広間でそこには大勢の騎士や召使い、そしてその真ん中に一人の美少女がいた。その子は言ったのだ。
「ようこそ『日本から』」