お化けの学校
ハイ、皆さん、入学おめでとうございます。
それでは、これから我が校の入学説明会を行いたいと思います。まずはじめに、学校長から挨拶をいただきますよ。
「皆さん、はじめまして。お化けの学校校長です。我が校は、お亡くなりになった皆さんのための学校です。清く正しいお化けとして存在していけるよう、どうぞ真面目に学んで、立派なお化けになって卒業をしてください。誰一人として、途中退校することのないよう、がんばるように。」
それでは、この学校についてのご説明をします。質問はあとで受け付けますので、まずは最後まで話を聞いてくださいね。
この学校は、お化けの学校ですよ。死んでしまった人が入学する学校です。人間生活が長かった皆さんは、お化けの常識というものを持ち合わせていませんよね?それを学ぶための学校です。
皆さんはここにきたばかりで不安も多いと思いますが、きちんとお化けとしての常識を身につけることが出来るよう指導させていただきますのでご安心下さい。
今日のスケジュールについて説明しますね。
このあと、各クラスに分かれて、オリエンテーションを行いますよ。
そのあと、部活見学がありますからね。
何か質問のある人はいますか。
ないようですね。
ハイ、それでは皆さん、並んで教室まで移動しましょう。
先生について行ってくださいね。
さっそくオリエンテーションが始まりましたよ、のぞいてみましょうか。
「ええー皆さんはじめまして、一年あ組担任の鴉ヶ丘です。これから一年間よろしくね」
制服の取り扱い方に学校で過ごすルール、給食当番に学級委員、自己紹介などなど一連の流れが終わりました。
皆さん大人しく先生の言うことを聞いているようですね、けっこう、けっこう。
「今から正しいおばけの成り方を学びます。ではまず、おばけになったら何をしますか、ハイあなた」
指されたしにたてほやほやの人が、上目遣いで先生に答えようとしてますね。
「・・・憎い人を呪って憑りつきます」
「はい、アウトー!そんなことをしたら、あっという間に悪魔がやってきてパク―です。それでは、あなたは何をしますか」
指されたしにたてほやほやの人が、目をあわさずに先生に答えようとしてますね。
「・・・おばけになんか、なりたくなかった」
「はい、アウトー!もうおばけになるしか道がないのにぐじぐじ言うのは、腹ペコの悪魔の前に三ツ星シェフの最高傑作を並べるようなもんです。では、あなたはどうでしょう?」
指されたしにたてほやほやの人が、にこにこして先生に答えようとしてますね。
「女風呂に侵入してずっと暮らすんだ!!」
「うーん、ぼちぼちファウル?人の裸なんてね、三日で飽きるんですよね!へたに誓いたてちゃうと取り返しがつかなくなっちゃうんです。じゃあ、あなたはどう?」
指されたしにたてほやほやの人が、遠くを見ながら先生に答えようとしてますね。
「大好きだったあの人に、会いに行きたい」
「うーん、デッドボールに近いね。会いに行っても時間の流れが違うからもう消滅してるかも?行ったは良いけどもう土になってるとかよくあるんですよ、何もない場所で佇むのきついんですよ。次で最後にしようかな・・・じゃあ、端っこのあなた!」
指されたしにたてほやほやの人が、先生に答えようとしてますね。
「よくわからないです。何をしたいのか、考えたい」
「おお、最後にいい答えがでましたね。そう、このおばけの学校は、あなた方が考える時間を得るための学校なんですね。色々思うところはあると思うけど、怒りに任せて暴走したり悲しみに飲まれてヤケクソになったりしちゃうとね、即消滅しちゃいますからね。ゆっくりと自分がどうしたいのかを考えながら答を出していきましょう、いいですね」
みんな緊張しているようですね。誰一人返事をしません。
「まあまあ、そう皆さん暗い顔をしないでね。春の遠足は日本一大きな霊園ですよ。ひょっとしたら親族にあえる人もいるかもしれませんから、楽しみにしたらいいですよ」
少しだけ表情が和らいだ人がいますね。
「テストもありますけど、ここでは落第はありませんから安心してね。ちゃんとやってはイケないことを覚えたら誰でも合格しますよ。引っ掛け問題もありますけど、落ち着いて考えればちゃんと答えは出ますからね。投げ出さない、諦めない、恨まない、それをわかっていたら大丈夫ですよ」
不安そうな顔をしている人がいますね。
「あとはそうですね、林間学校もありますよ。みんなで霊能者に触りに行く肝試しもあって、ドキドキ気分が味わえますよ。なあに、貧弱な霊能者しか狙いませんから、消える心配は無用です」
ちょっとだけ笑った人がいますね。
「もちろん運動会もありますよ。命綱引きやたましい入れ、卒塔婆倒しも白熱しますよ。参加者全員に葬式饅頭が配られるんです。ちょっと線香臭いけど、甘いものなんてなかなか口にできませんからね、みんな楽しみにしてるんですよ」
神妙な顔つきになった人がいますね。
「学芸会は盛り上がるんですよ。自分の人生を劇にして発表して同情を集めたり、不幸な出来事を歌にして涙を呼んだり、生きてるうちにできなかったことを絵にして慰めの言葉をもらったり、得られるものが多いのでみんな張り切るんですよ」
みんなそわそわし始めましたね。
「楽しい行事がたくさんありますからね、皆さん楽しみにしていて下さいね。じゃあ、この後は部活見学ですよ。皆さん教室移動の準備をして下さい」
聞き分けのいいおばけ初心者の皆さんが、教室の後ろに並び始めましたよ。
「この学校には楽しい部活が色々ありますからね。念仏クラブに宗教コマンタレブ、十字架を愛でる会にイタコ同好会、指先に乗り移ろう会にラップファイヤー、束縛サークルに無の境地倶楽部、最近は自動書記ゴーストライター部もできたんですよ。先生のおススメは調理部でしょうか、腐敗したものをいかにしておいしそうな見た目に仕上げるか、部員は命もないのに命をかけてね・・・・・・
おしゃべりな先生は、部活の説明をしながら部活紹介が行われるお堂のほうに向かいましたね。
あ組は大人しい生徒ばかりのようです。誰一人列を乱すことなく、先生の後をついていきましたよ。
どうやら私の出番はなさそうです。チョッピリ残念ですが、まあこういうことも……。
……おや、い組からなにやらいかがわしい怨念が漏れ出しておりますね。
コレはまずいですねえ、伝播しないうちに回収しなければ。
・・・・・・ちゅるん!!
長い舌をちょいと伸ばして、しっぽをチョンとまっぷたつにし!ぬめぬめした魂をぱくー!!
ずいぶんのど越しの悪い魂ですが、飲み込んでしまえば……げふー!!
さてさて、今年はあとどれくらい、私の胃袋の中に消えますでしょうか。
できることならば、あまり舌を伸ばさずに過ごしたいところなのですけれども。
去年はやんちゃな生徒が多くて、体重がずいぶん増えてしまったのでねえ……。
私のズボンのベルトが短くなってしまわないよう、先生方には、生徒さんたちには……がんばってもらいたいものですね。
私は、舌なめずりをしながら、長い廊下を歩き始めたのです……。