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3、事故

 アルマ達は教室に荷物を置き、中庭に向かった。私もその後を追う。


 中庭には、他の生徒達がもう集まっていた。

「これで皆さん、揃いましたか?」

 確か、ゲームの中では担任の先生の名前はキース・ウェインと言っていた。

 30代半ばだけど、中々美形だと私は思った。

「キース先生、遅れて申し訳ありません」

 アルマがそう言うと、ユークが付け足すように話した。


「スノー様がいらっしゃったので、急ぐことが出来ず申し訳ありませんでした」

「……ごめんなさい」

 私が謝ると、クラスメートの目が刺さるように私に集まった。

「え? あのスノー様が謝っている? まだ調子が悪いんじゃないかしら」

「もう少し休まれてはいかがですか?」

 私はクラスメートの思いやりあふれる言葉を聞いて、スノーの過去の行いの悪さに苛立ちを覚えた。


 キース先生は私を見てゆっくりと頷くと、生徒達に声をかけ直した。

「さあ、皆さん。今日は今まで教科書で学んだ基礎魔術を実際につかってみましょう」

「はい!」

 皆が元気よく返事をする。

「スノーさんは、見学にしておきますか? まだ調子が戻られていないようですし」


 キース先生の言葉を聞いて、私は首を横に振った。

「大丈夫ですわ」

「そうですか。では、授業を始めます。皆さん一列に並んで下さい」

 生徒達はキース先生の号令に従って、横一列に並んだ。

「それでは、炎の魔法から始めましょう」


 私の横にはアルマが並んでいた。

「スノー様の隣だなんて、気が引けますわ」

「そうですか?」

 微笑むアルマに、私は適当な返事をしてから炎の魔法を使うことに集中した。

「……手に意識を向けて……炎が……燃えさかるイメージ……」


 私が呟きながら目を閉じて、心の中で炎が爆発するシーンを思い浮かべた瞬間、悲鳴が聞こえた。

「きゃあ!」

「アルマ!」

「アルマさん!」

 目を開けて、私は愕然とした。


 私の手から放たれている巨大な炎のかたまりが、アルマに襲いかかっていたのだ。

「……!!」

 私は魔力を両手に集め、燃えさかるアルマの火が消えるイメージを創った。

 アルマを包んでいた炎は消えたが、アルマは気を失いぐったりと倒れ込んでしまった。

 ユークが私の襟元を掴み、怒鳴りつけた。


「アルマになにをするんだ! そんなにアルマが気にくわないなら、近づかなければいいだけだろう!?」

 ジュリアスが怒り狂うユークを私から離し、冷たい目で私に問いかけた。

「……スノー様、わざとですか?」

 その言葉に、私は震えながら返答した。

「まさか! そんな酷いこと、わざとするわけがないでしょう!?」


 ジュリアスとユークが私を睨み付けていると、キース先生が言った。

「喧嘩をしている場合ではありません。幸い、アルマさんの周りが燃えただけで、火傷は大したことは無さそうです。保健室に連れて行きましょう」

 キース先生はアルマを抱き上げ、保健室に歩き出した。


 クラスメートの視線は、残された私に集中している。

「待って下さい、キース先生! 私も行きます!!」

 私は早足でキース先生の後を追った。

「気にくわない奴は、燃やすの? スノー様、怖すぎなんだけど」

 誰かの台詞が私の背中に投げかけられた。

「うるさいわね! わざとじゃないわ!」


 私は振り返って叫んだ後、保健室に向かって走って行った。


 ***


 保健室につくと、キース先生はアルマをベットに寝かせていた。

 私は保健室に入り、アルマの傍におずおずと歩み寄った。

「アルマ様、大丈夫ですか?」

 キース先生に確認すると、キース先生は私をじっと見つめて言った。

「……スノーさん、貴方がアルマさんを傷つけたんですよ」


「……はい」

 私はアルマの腕に出来た、火傷にそっと手をかざして目を閉じた。

「……ヒール……!」

 アルマの体が柔らかな光に包まれて、火傷は消えていった。

 私はやはり、魔力がかなり強いようだ。

「スノーさん!? まだその魔法は教えていないはずですが!?」

 キース先生は私にそう言うと、アルマと私の間に立ち塞がった。


「回復魔法は……教科書に載っていましたわ」

 私の答えを聞いて、キース先生はアルマの様子を観察した。

「火傷が消えている……」

 キース先生が呟いた時、アルマが目を覚ました。

「う……ん…? スノー様? キース先生? ここは?」

「授業中の事故でアルマさんは、スノーさんの炎に包まれたんですよ」

 キース先生の言葉には棘があった。


「痛いとか、気持ちが悪いとか、、ありませんか?」

 キース先生は優しい声でアルマに訊ねた。

「いいえ、大丈夫です」

 アルマはちいさな声で答えた。

「……アルマ様、申し訳ありませんでした。私の魔法が暴走したようです」

 私はアルマに頭を下げた。


「スノー様の魔法が暴走? でも、私、怪我をしていないようですが……?」

 アルマはゆっくりと上半身を起こし、自分の両手をじっと見つめた。

「私の回復魔法で火傷は治りました。一時的とはいえ、怪我を負わせてしまって申し訳ありません」

 私がアルマに謝る様子を、キース先生は冷めた目で見つめていた。

「今回は、事故と言うことで学校に報告します。スノーさん、わざとではないのですね?」


「キース先生まで、私を疑うんですか!?」

 私は悲しくて涙が出そうだったが、その前にアルマが言った。

「確かにスノー様は誤解を招く言動が多いかも知れません。ですが、魔法で人に怪我をさせるような恐ろしいことはなさらないと思います!」

「アルマさんがそう言うのなら、これ以上この話はしないようにしましょう」

 キース先生はアルマの頭をそっと撫でて、微笑んだ。


「アルマさんは優しすぎます」

「キース先生……そんなことはありませんわ」

 私は冷めた心で、目の前のやりとりを見ていた。

「もう、このようなことが無いように気をつけて下さい。スノーさん」

「はい……。ごめんなさい、アルマ様」

 私は素直にアルマに謝った。


「いいえ、誰にでも間違いはありますわ」

 アルマの優しさが、チクチクと私の心に突き刺さった。

「ふうん、事故ねえ……」

 そう言って、保健室のドアを開けたのはユークだった。

「スノー様の傍は、事故が多くて危険ですね」

 ユークの嫌みを私は無視した。


「そのくらいにしたまえ、ユーク君」

 ユークの後ろに立っていたのは、マーク王子だった。

 マーク王子は冷静で厳しい面もあるキャラクターだったはずだ。

 私が何も言わずにユークとマーク王子を見ていると、マーク王子が話し始めた。

「事故は事故だ。皆から話は聞かせて貰った。不慣れな魔法で魔力が暴走したのだろう」


 マーク王子は私をかばうように言った。

 私は初めて味方を見つけた気持ちになって、ホッとした。

 次の瞬間、マーク王子は私に微笑んだ。

「スノーさん、魔力の強い者は慎重にならなければいけない」

「はい、マーク王子……」


「結構。それでは、今回は事故ですから、キース先生の責任になりますね」

「……はい。申し訳ありません」

 キース先生は私をチラリと見て、ため息をついた。

「……マーク王子、ありがとうございます」

 私がマーク王子にお礼を言うとマーク王子は私から目をそらしたが、その頬は赤く染まっているように見えた。


「私は皆に平等でありたいだけです」

 マーク王子はそう言った後、呟いた。

「スノーさんの魔力の強さは、この国にとって重要なものになるかも知れません」

「え?」

 私は驚いた。


「それでは、午後から授業に参加しますので、よろしくお願い致します。キース先生」

 マーク王子はそれだけ言うと、去って行った。

「皆さんも教室に戻って下さい。アルマさんはもう少し休みますか?」

「いいえ、私も教室に戻ります」

 ユークがアルマに手を差し出した。


 ユークとアルマ、キース先生が保健室を去ってから、私は一人でボンヤリしていた。

「どうしよう、悪役令嬢のフラグが立ってしまったかもしれないわ……」

 保健室を出て教室に戻ると、皆がキツい目で私を見た。

「スノー様、おかえりなさい」

 アルマが微笑んで私を迎え入れた。

「アルマは優しいよな」

 誰かの声が聞こえた。


「文句があるなら、直接言って下さらない?」

 言った後に後悔をした。私、また悪役フラグを立ててしまったような気がする。


  

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