二章07話 ヴェネティア帝国03。
「武器を捨てて投降しなさい。この村で一体何をしているのか、厳しく取り締まらねばなりませんので」
「れ、レベッカちゃんでば辛辣ぅ。わ、私だよ? ローズだよ?」
「それではローズ様、大人しくお縄について下さい。抵抗しなければこちらも悪いようには致しませんから」
「うえぇ……。どうしてこうなるの? そしてなんで私だけ後ろ手にロープを掛けられてるの?」
「後ろのお二人は一切の抵抗をなさらなかったからですが?」
「ぐぬぬ。納得はいかないけど、二人を傷つけないのは正解だよレベッカちゃん」
「恐縮です。それではローズ様、此方に要らして下さいね」
「……女神としての威圧すら効かないんですがそれは――」
あ、あれ? おかしいな。俺の予定では村の住人に好意的に受け止めて貰ったうえでワイバーンを換金し、買食いしながらお米の情報でも仕入れようかと思っていたのだが……どうしてこうなった?
ていうかこの子、レベッカちゃんで合ってるよね? 確か俺が初めて魔の森に迷い込んだときに出会ったはずだから、四年前だっけか。
成人迎えたばかりの女の子が涙を堪えて必死で部下たちを鼓舞するその姿があまりに儚く健気だったから、ついつい声をかけちゃったんだよね。
……あ、そうか。そういえばレベッカちゃん、俺が声かけたせいでびっくりしてお漏らししちゃったんだったな。
辺境伯と言えば侯爵に相当するほどの大貴族みたいだし、その娘さんに恥をかかせたのならばこの対応の差も頷けるような気がしないでもない。
うーん。それにしてはレベッカちゃん、好感度が高いんよね。数値的に同じ失禁仲間のセリアと同様だし、もしかして似たもの通しなのかな?
ちなみにローズとは俺のミドルネームをもじった偽名だ。城を抜け出してシュアとこっそり冒険出た先だったから、咄嗟に嘘ついちゃったんだよね。
「……ローズ様。なにか失礼なことを考えてはいませんか?」
「――えっ? いやぁ、まさかそんな。暫く見ない内にレベッカちゃんってば、凄い美人さんになったんだなぁと思ってね」
「…………そうですか。ローズ様は相変わらずですが」
「え、嘘? 成長してない? おかしいな。確かにラヴィニスやシュアには負けるけど、中々に良い身体してると自負していたんだけどな〜」
「……コホン。中身の話ですよ、ローズ様。それと私はもう十九です。流石にちゃん付けは止めて頂きたいのですが?」
「えぇ嘘、駄目? 私の中ではレベッカちゃんはずっと可愛いレベッカちゃんのままなんだけどなぁ」
「何を思ってそうお考えになるのかは敢えて聞きませんが、ダ・メ・で・すっ!」
「ちぇー。……分かった、分かったよレベッカ。これで良いでしょ?」
「――っ! ……はい。結構ですよ、ローズ様」
鋭いなレベッカちゃん。そういう所もセリアに似てる。しかし顔にも態度にも出る分、いくらかレベッカちゃんの方が分かりやすいかな?
しかし俺に対する好感度が高い娘って、どうして少し当たりが強めなんだろう。
確かにそういった娘を誂って軽めに虐めたりするのは嫌いでは無いけれど、個人的には他より優しく接している自負があるんだけどなぁ。
それにレベッカちゃんは分からないけど、ラヴィニスにしろシュアにしろ皆一途な反面マゾヒズムな性癖を持っているんだよね。
縛って放置したりお尻を虐めたり、言葉責めしたり強引に咥えさせたりしたのに感度も好感度も爆上がりするという統計も取れているし。
ん? 待てよ? ということはレベッカちゃんも同様に、強引な何か求めているということになるのか? うーん。
呼び捨てにしたら好感度メーターがピクついたことを鑑みるに、然りげ無く褒めたりするよりも、少々強引に好意を伝える方が有効的な予感がするが。むむむっ。
今回の婚約は是が非でも成立させたい。本来であれば時間をかけてじっくりと攻略すべきだとは思うが、その時間がない。
ええい、ビビるな! 俺は他と違って好感度という有利な情報があるんだぞ! 仮に失敗したとしても、挽回のしようがあるはずだ!
「あの、ローズ様? 一人だけ縛られていることに不満を持つのは分かるのですが、それほどまでに熱烈な視線を私に向けられると――」
「――ドキドキ、しちゃうかな?」
「いえ。部下が今にも攻撃してしまいそうで……」
「おう、しっと! そういうことかい、べいべー」
しまった。流石にガン見しすぎちまったようだ。ここは少々大げさにアメリカナイズな反応で誤魔化すしか無いな。
おいおい。完全にグリップに手がかかってるじゃないかジョニー。確かに怪しい自覚はあるが、仮にも一国の女帝様に向かってそれは無いじゃないかな。
ま。俺は寛大さが売りの女帝だからその程度、許してあげなくも無いけどね。
……決してビビったわけじゃないぞ? 俺ってば俺以上の神じゃなきゃ傷すら負わない無敵ちゃんだから、そもそもビビる必要も無いからね? ホントだぞ。
「……はぁ。この状況下でよく巫山戯ることが出来ますね」
「ふふっ。ローズさんに怖いものなど無いからね!」
「そうですか。ではローズ様、何やらロープが外れているようですがそれは――」
「――げっ、しまったっ⁉」
「ふふっ。この私から逃げ出そうとするなんて、怖いものを知らないのは本当のようですね、ローズ様?」
やべっ⁉ ついつい手を広げて首を振るという典型的なオーバーリアクションするためだけにロープを蔦で解いちゃったよ!
ま、不味い。先ほどまで柄に収まっていた西洋の立派な剣さんが出てるってば!
ラヴちゃん! シュア! ちょっとこれなんとかして――あれ? なんでそっぽ向いているのっ⁉ ほら見てっ! あそこの女剣士さんなんてもう今にも飛びかかって来そうだよっっ⁉
く、くっそうこうなったらヤケだ! 両性類アイヴィス、ここで逃げるわけにはいくまいよ! ――『転性』。
「武器を捨てて投降しなさい。この村で一体何をしているのか、厳しく取り締まらねばなりませんので」
ううっ。私の顔、ニヤけてないかしら。ローズ様のお顔が女神過ぎて、まともに見ることすら出来ないのでどうにもなりません!
それに私の領民を無償で治療までして頂いただけでなく、ワイバーンまでもを始末して下さったとなってはどう御礼を申して良いかも分かりません!
せめて会話だけでもきちんとせねばと意識し過ぎたせいで強制連行する形になってしまいましたし、ここからどう話を広げてれば良いのでしょうっ⁉
「恐縮です。それではローズ様、此方に要らして下さいね」
と、兎に角ここはヒトの目が多すぎます。取り敢えずこの村の領主邸に向かい、道中で今後の対応を考えることにしましょう。
……それにしても、相変わらずローズ様は堂々としていらっしゃいますね。
同盟国とは言えこのような片田舎では作法など知らぬものも多く、無礼な態度や不躾な視線に晒されているというのにまったくもって揺らいでおりません。
事実この村に常駐している部下の報告の中に、罵詈雑言の雨霰だったとありましたが、既に気にしておられるご様子もありませんし。
むむっ。何やらローズ様の視線を感じます。……この感じ、もしかして。
「……ローズ様。なにか失礼なことを考えてはいませんか?」
やっぱりそうでしたっ! あんなに焦ってらっしゃるし、間違いありませんっっ!
うぅぅっ。今絶対あの時のこと思い出してました! 褒めて下さることは嬉しいですが、恥ずかしくてとても素直に喜べませんっ!
はぁぅ⁉ ちょ、ちょっとローズ様! そんなにご自身のお身体を弄らないで下さい! あ、ああっ! ほら今少しお胸が揺れて、あぁぁっ! お御足までそんなっ⁉
ま、不味いです! ここには部下や村の者の視線もあるのですよ! ほ、ほら今あそこの男性がいやらしい目をローズ様に向けてます! ゆ、ゆゆ許しませんよたとえ領民でもっ!
「ちぇー。……分かった、分かったよレベッカ。これで良いでしょ?」
ひぁぁぁっ⁉ い、今ローズ様が私を呼び捨てでお呼びになって下さいませんでした⁉ あ、いえ。頼んだのは私なのですかそれでも――ひぁぁぁぁっ⁉ そ、そんなに見つめないで下さいぃぃぃぃっ!
……ぐっ。さてはローズ様。私がテンパっていることを承知で誂ってらっしゃいますね?
思えばローズ様ってば、とても意地悪な方でしたね。今だって私がお慕いしていることなど百も承知でしょうに、反応を楽しんでいらっしゃいますし!
「ふふっ。この私から逃げ出そうとするなんて、怖いものを知らないのは本当のようですね、ローズ様?」
ふふふっ。私だって四年もあれば少しは成長するのですよ? 皇帝にかの国との国交樹立を直訴してから今になって、まさか本当に私が妻として娶られることになるとは思いませんでしたが、これも運命の導きに違いありません!
私はレベッカ。今では私一人となってしまった『未来視』のユニークスキルを持つスフィア族の巫女の末裔。
魔の森での出会いもこの会合も、全てはアヴィスフィアのお導き。
ヒトの未来を垣間見ることが出来る私から逃げるなど、不可能だと教えて差し上げ――ひぁぁぁぁっ⁉ え、嘘っ⁉ ローズ様がだ、だだ男性にっ⁉ そ、そういえばお母様がそんなことを言って要らしたような……?
「――レベッカ、迎えに来たよ。……ほら、顔を上げて? ふふっ、驚いた顔も可愛いよ、レベッカ」
あ、あぁっ。壁! 壁に退路を塞がれました! あぁ、そんな! 腕が、顔が、ち、ちちち、近すぎますぅぅぅっ!
ひぅっ⁉ ろ、ろろローズ様? あ、あの。目が、目が逸らせないので、あ、ああ顎をクイッと、もも、持ち上げないで欲しいのですががががっ⁉
あ、熱い⁉ え、ええ? えええええっ⁉ ちょ、これってもしかしてキスなのでは⁉ あ、あわわわわ……。ローズ様のお顔がこんなにも近くにぃぃぃっ⁉
「んっ。……ふふっ、こんなに顔を真っ赤にして。本当に可愛いな、レベッカは」
「――あっ」
「ん? もしかして、足りなかったかい?」
「――ッ⁉ い、いえ。そ、そういうわけじゃ……」
「構わないよ。ほら、力を抜いて――」
う、あぁっ。ろ、ローズ様の唇が私のに触れて――んんぅっ⁉ な、なな中には、入ってきま――んぅぅぅぅぅぅっ⁉
し、しし舌がっ! んじゅるぅ⁉ ろ、ろろローズ様の舌が私のに纏わりついてぇぇぇっ⁉ んはぁぁぁっ! ま、待ってこれ凄すぎて力が、力が入らないぃぃぃっ⁉
あ、甘い……。ローズ様の舌、甘いのぉぉぉっ。や、やだぁ。気持ちいいよぉ。私、気持ち良いのぉぉぉっ。はぁぁっ。端ない私を見ないで、ローズ様ぁぁぁっ。
「ぷはぁっ。……おや? 立ってられなくなっちゃったか」
「ごめ、ごめんなさいぃぃぃっ」
「ん? どうして謝るの? 大丈夫だよ、ほら。捕まって?」
「あ、ありがとうござ――んむぅっ⁉」
「んちゅるっ。どうかなレベッカ? 気持ちいい?」
「……はぃ。――ッ⁉ あ、いえ! そ、それほどでもっ⁉」
「嘘、これでも駄目? おかしいなぁ。悔しくてこそ錬してたのに、もしかして上手くなってない?」
待って? 本当に力が入らないのですが。……お陰様でローズ様に寄り掛かれているので約得なのですが、モニカに見られているのが恥ずかしすぎます。
うぅぅっ。ローズ様が既婚者なのは存じておりましたが、キスだけでこんなヘロヘロにされてしまうとは。我ながら、何とも情けないですね……。
あ、あぁっ⁉ 大変です。恥ずかしさから否定してしまったせいで、ローズ様が悲しそうな顔をしてらっしゃいます!
で、でも気持ちよかったなんて端ないこと言えません! い、一体どうしたら……。――ええいレベッカ! 勇気を出しなさいっ!
「その、ローズ様? でしたら私で練習されては如何でしょう?」
「――良いのっ⁉ い、嫌じゃない?」
「滅相もございません。ローズ様の時間が許す限り、いつまででも構いませんよ」
「やったーっ! では早速――」
「――続きは領主邸にて行いましょう。……皆に見られて居ますので」
「あっ……。ご、ごめんレベッカ! 夢中になりすぎて、配慮が足りてなかったね」
い、いえ。私もまさに今モニカに見られていることに気がついたので大丈夫です。
ていうか私、なんて約束をしてしまっているの⁉ これでは私から誘っているようなものでは無いですか!
長旅で疲れてらっしゃるはずのローズ様と物凄く深い接吻をしただけでは飽き足らず、その奥方二人の目の前で床に誘うとかどこの淫売なんですかって!
「良し。そうと決まれば領主邸にー、れっつらごーっ! ラヴちゃん、シュア。そういうことだから準備の方、よろしく頼むね?」
「まったくアイヴィス様はもう。本当に仕方がありませんね」
「流石ん切り替えん速しゃやなあ。うちは何だか自分ば見よーごたって、共感性羞恥ば覚えるね」
あ、あの! お、お姫様抱っこも恥ずかしいのですが! そもそも、準備ってなんですか?
それとラヴィニス様とシュア様がちょっとえっちな目で私を見ている気がするのですが、これは一体どういうことなんですかっ⁉
……あれ? えーっと、もしかして私。とんでもないこと言っちゃいました?




