二章03話 近衛騎士団分隊長02。
「……シュウ、どうした、の――ひゃぁっ⁉ え、えええ、えええええっ?」
「いや、何というか、本当にすいません。子として愛して貰い感謝もしているだけど、どうやら俺ことシュウくんは、母さん相手だと性的興奮を覚えるみたいなんだ」
「ちょ、ちょっとシュウ? 一体な、何を言ってるの? わ、私達その、お、親子なのよ? それに私には旦那様が居て――はっ⁉ い、今はもう居ないわ! ど、どどど、どうしましょうぅぅぅっ⁉」
「だ、大丈夫落ち着いて母さん。スキンシップさえ控えて貰えればその、問題ないと思うから、多分」
「そ、そうね! ごめんなさい! 今すぐ離れま――きゃぁっ⁉」
「あ、危ない母さんっ! ……あっ」
「ひゃぁぁぁっ! か、硬くて大きなものが私のお腹にぃぃぃっ⁉」
母さんの慈しみを込めた抱擁にこんなにも感動しているのに、絶対に護らないと思っているはずなのに、男性として反応をしてしまう下半身には絶望すら感じるね。
困ったな。乳母であるベニヒメさん相手には一度として無かったんだけど、どうやら実の母親であるシャルルロアさんには興奮を覚えるらしい。ふむ、実に難儀だ。
何より実母に覆いかぶさり、隆起した一物をこすりつけてしまうとは、はははっ。飛んだ事案が発生中だぜ。……いや、俺は分体だしセーフなのか?
いや、いやいやそんな訳あるか。何より今すぐ立ち上がらねば母さんに、要らぬ誤解とトラウマを与えかねん。実の息子として愛していると宣言した相手に襲われたとか、正直洒落にすらならないからな。
「ご、ごめんなさい! い、今すぐ退きます、ね……えっ?」
「にゃぁぁぁっ⁉ しゅ、シュウ? え、それもしかしてシュウのシュウくん……」
「あぁぁぁっ⁉ ちょ、何でパンツがずり落ちて……って、ベルトが切れてるっ⁉」
「あわ、あわわわっ。し、知らぬ間にむ、むむ息子がこんなに立派に……? 本当にだ、旦那様とお、おおお、同じものなのかしら……」
お、俺のパンツがぁぁぁっ⁉ やっとの思いで手に入れた前世とほぼ同品質のデニムだったのにぃぃぃっ⁉
ぐぬぬ。ただでさえ教国産の品は流通が少なく、滅多に手に入らないんだぞっ!
それに今となっては冷戦になっちゃったし、次いつ手に入るか分からないんだぞこれぇぇぇっ!
く、くっそぅ。今日という日は許さない。か、必ずぎゃふんと言わせてやるっ!
「ちょっとリドリーさんどうしてくれるんですか! このパンツ、お気に入りだったんですよ! まったくもうっ!」
「ばっ⁉ こ、この馬鹿弟子がぁぁぁっ! な、なんて恐ろしいものを見せつけてきやがるんだ、このっ! このぉぉぉっ⁉」
「危ねぇっ⁉ ちょ、ちょっとリドリーさん! 今俺を息子ごと斬ろうとしたでしょ⁉ この狂犬めぇぇぇっ、今日こそは許さんぞぉぉぉっ⁉」
「ひ、ひぎゃぁぁぁっ⁉ や、やめろ馬鹿弟子! 凶器を振り回しながら私に近づくなぁぁぁぁっ! ――『魔障壁』、『反射』、『発破ぁぁぁっ!』」
「ちょぉぉぉっ⁉ リドリーさん、母さんも居るからそれは駄目だってぇぇぇっ⁉」
ま、不味いこのままだと母さんの珠のような肌が月の裏側みたいにボッコボコになってしまう⁉
実の母の眼前に息子の息子が粋る姿を晒す愚は恥でしか無いが、致し方ないっ!
更に言うならば、圧倒されて中腰でへたり込んでるから目線が完全に一致してしまうというトラップカードまで発動してしまっているのだが、これもしょうがない。
ぐあぁぁっ⁉ ちょ、リドリーさんてば手加減をどこに忘れて来ちゃったの? これ、下手すれば死人出ても可笑しくない威力だと思うんだけど。
「ま、ままま、任せて下さい分隊長っ! ここは私がシャルルロア様、を――」
「ナイスセリア! 流石は親愛なる副長さんだぜ! ぐぅぅぅっ⁉ さ、さぁ早く。俺が持ちこたえている内に、母さんをこの場から避難させてくれっ!」
「う、あ……あぁぁぁ」
「ど、どうしたセリア! 顔を真っ赤にしている暇があったら早くどこかに!」
「――はっ⁉ そ、そうでした! で、では――んぐぅぅぅぅっ⁉」
「ぎゃぁぁぁぁっ⁉ ち、ちくしょうリドリーさんめぇぇぇっ! いくら再生出来るとはいえ良い気分はしないし、いくら痛みを無効化出来るとはいえ衝撃は伝わるんだぞ? それに何か股間が生暖かくて心地良いんだが――はっ⁉ ま、まさか俺去勢されちまったんじゃ…………えっ?」
「むごごごぉっ⁉ んっ⁉ んぼぉ⁉」
「せ、せ、セリアぁぁぁっ⁉ す、すまん今直ぐ抜くか、らぁぁぁっ⁉ ちょ、ホントいい加減にしろってば阿呆師匠っ!」
「んじゅるぅ⁉ んぼぉ! んぅぅぅっ⁉」
「ちょ、馬鹿セリア舌絡めるなって! あ、やばいこれ喉奥が気持ち良すぎて――くっ」
「んおぉっ⁉ ごぼぉぉぉっ⁉ ――ゲホッ! ゴホッ!」
「あわわ、わわ、わわわわわっ⁉ ……きゅぅぅぅ」
「……まさにこの世の天国と地獄を味わったわけだが、はぁ。ま、まいっちんぐぅ」
なんて、馬鹿なことを言っている場合じゃないな。
リドリーさんは喚きながらどこかに逃げて行っちゃったし、母さんは混乱の極みに達したせいか目を回して倒れちゃったし、セリアはその、あまりの衝撃のせいか人様に見せてはならない表情のまま失禁しちゃってるし……あれ? これ不味くない?
え、それにもしかしてだけどこれ、俺が悪かったりします? 休憩時間が欲しくて少しばかりの逃避行をしただけなのに?
ぐ、ぐぬぬ。実際全身ズタボロなうえ下半身も丸出しのまま元皇妃様を抱え、放心状態の副長を連れ歩くのは事案以外の何物でもないわけでして。
困ったな。まさか男性寮に二人を連れ込むわけにも行かないし、どうしようか。
はぁぁっ。前も言ったが露出癖など無いし正直言って気が進まないけど、なるべく人に会わないように願いながら速やかに皇妃様の部屋に向かうしか無いよな。
追伸。案の定多くの女性に目撃されて、有る事無い事噂が飛び交うことになった。
一番多かったのが母さんの新しいフィアンセなのではないかというものだったが、本人が強めに否定したためにそれ以上追求されることはなくなった。
しかし、普段感情を見せることがない彼女の珍しい姿などから邪推され、何やらただならぬ関係であるという暗黙の了解を生む結果となってしまったのが残念だ。
セリアに関しては二週間ほど掛けて誠心誠意謝ることにより、今では何とか会話してくれるようになるまで関係も回復している。
別に叱られたいわけではないが、その一切が無くなるとそれはそれで見限られてしまったのだと実感するから切ないものなのだと密かに理解した。
そうした行き場のない感情を原因の一端となったリドリーさんとの修行に当てたことで、彼女から初めて一本を取ることが出来たのが唯一の救いだろうか。
駄目になってしまったデニムの恨みもその際に、尻をしばくことでしっかりと解消させて頂いたので問題はない。
師匠に敬意を払えとか、人妻の尻を叩くとか鬼畜だだの言われた気もするが、幾度となく殺されかけてる身としてはかなり甘い措置だと思うのだ。
ともあれ。そんな他愛もない? 日常こそに価値があり、何物にも代え難い大切な時間だということを、我らはまた知ることになるのだろう。
「……分隊長。何やら思案されておられるようですが、手が止まっていますよ?」
「あ、ああ。すまないセリア、先日のことを思い出して少々愉悦に浸ってしまった」
「――ゆ、愉悦に⁉ あ、あああ、あの! い、いつまでもあのような事故のことを引きずるのはよくありません! だからその、わ、忘れてくださいっ!」
「そうは言うが、あの最高に気持ちのいい瞬間を忘れるなんて無理だぞ? セリア、キミだって気持ちが良かっただろう?」
「そ、そんなことあるわけないじゃないですか! 苦しくてニガくて、喉に纏わりついて! ……た、確かに自分が女なのだと自覚こそしましたが、それだけですっ!」
「お、女? ……あ、あー。そ、そっちのことか。いや、すまん。実はリドリーさんに一泡吹かせたときのことを思い出していてだな? その、キミも散々扱かれていたから、ね」
「あ、あぁぁぁっ……。う、うぅぅっ。嫌、嫌だ。こんなの、こんなの私じゃない」
しまった。なんかいい感じで思考の沼から抜けようかと思ったのに、とんでもない地雷を踏んでしまったらしい。
というのもどうやらセリアさんってば、この前の強制イマ――こほん。喉の奥で男性を味わう経験がトラウマになってしまったようなのだ。
俺としては気持ちこそ良かったが裸体晒すどころか味われてしまったので恥ずかしく、記憶の外へと弾き飛ばしてたんだよね。
原因を作ったのは確かにリドリーさんではあるが、対処を誤った俺にも責任がある。
ふむ、こうなってしまっては誠心誠意誤っただけでは足らないな。現代日本だったらまず間違いなく裁判沙汰だし、おそらく賠償責任が発生していただろう。
お金の話をしたらセリアは憤ると思って一銭も渡していなかったが、少しでもその心を癒やすためにも休暇と金銭を幾ばくか与えたほうが良いように思えてきた。
そ、そうだ! そういえばセリアは実はいいとこのお嬢さんで、婚約者も居るのだと母さんが言ってたな! よ、よし。この切り口から責めてみようじゃないか。
「あー、そうだセリア。キミには確か婚約者が居たね? この前の詫びという訳じゃないが気持ちばかりのボーナスと休暇を与えるから、その彼と旅行でも行ってきては如何だろう?」
「……分隊長。この非常時に、近衛騎士が旅行など行けるはずも無いでしょう」
「な、何を言っているのだねセリアくん。非常時だからこそ休めるときに休むのが大事だろう? そうさ。心に余裕のない人生なんて実りがなくて寂しいじゃないか」
「それに、この前の一件で婚約は正式に解消されることになりました」
「え、嘘? も、もしかして半裸の俺が連れ回したせいだったりする?」
「そうですね。おそらくはその噂が外部に漏れてしまったのでしょう」
「ば、馬鹿な⁉ 後宮には母さんの味方しか居ないはずなのに。……まさか、誰かが裏切って――」
「……はぁ。良いですか? もし裏切りものなど居たら、既に私が処分しています」
「だ、だったらどうして……?」
「人の口に戸は立てられないとは分隊長の世界の言葉でしたか。つい誰かに話してしまうほどには悪目立ちした。そして、その噂を耳にした第三者が居たのでしょうね」
な、ななな、なんてこったい。地雷を踏んだ先の不発弾を誘爆させてしまうとは。
まじかよ、決まっていた婚約を台無しにしてしまうとか疫病神にもほどがある。
こ、こうなったら本体に頼んでどこかいいとこのお坊ちゃんを見繕って――。
待てよ? 最近は角が取れたように思えるが、どうしてもキツいイメージが抜けないセリアに次なんてものが存在するのか? 無理無理! 絶対無理だよ!
くそったれ! 千載一遇のチャンスだったのに俺はなんてことを……っ!
そもそも成人前に婚約し、下手したらそのまま年を待たず結婚までする貴族もいるこの社会で、二十を超えた彼女は一体どうしたら良いんだっ⁉
「なにかとても失礼なことを考えられておられるようですが、婚約の話ならむしろ感謝しています。どんなに冷たくあしらっても納得されず、困っていたのですよ」
「――なっ⁉ どうしてそんな勿体ないことを! も、もしかしてとんでもなく貧乏でさらにはブサイクなおっさんだったとか?」
「いえ。私より四つほど若く、私の実家よりも格が高く、分隊長よりも更にお顔が整ってらっしゃったと思いますよ」
「だったら何故――」
「……私よりも、弱いからです」
「へ……?」
「だ、だから! 私よりも、弱かったからですっ!」
「え、えぇぇ……。嘘、そんな考えを持っている人って、本当に居るんだ……」
ちなみにセリアは母さんの守護という防衛上の関係もあり、俺がアイヴィスの分体であることも異世界からの転生者だということも知っている。
師匠であるリドリーさんも同様であり、そういう意味では信頼していると言える。
そう。つまりは部下であり飲み友でもあるセリアには、酔った勢いのままに日本のアニメやラノベなどの文化を幾度となく語ったことがあるのだ。
顔を真っ赤にするセリア。おそらくはその際に話した典型的なキャラクター像に自分が嵌ってしまっていることが先日の事件よりも恥ずかしいのだろう。
自分を倒した相手に恋心を抱くものの相手には既に想い人がいて、更には自分同様に彼を好きな相手もまた沢山いるというアレだ。
いわゆる鈍感系とか難聴系と言われる体質で、自分に好意を向けている人間に気が付かず無自覚に周囲の女の子を次々と落としていく主人公。
その特異体質は自分の好きな相手の好意にすら発動し、故にいつまでも結果が付かずに最終局面まで長引いて結果二人が結ばれるというくそったれな物語だ。
馬鹿野郎。現実はそう甘くない。色んな人と付き合い経験し、ようやっと結婚したかと思えば別の男との間の子供だったりすることだってザラにあるんだよ、と。
おかしいだろ! 流石に気がつけよっ! 今この瞬間自分を好きなやつを逃して逃して逃し抜いたやつが、どうして最後に幸せになれるというんだっ⁉
しかもそれまで想ってきた相手全てを泣かすだけでなく、その後の人生を未婚で終えることを強要するストーリーの、何がハッピーエンドじゃこらぁ。
一夫多妻やその反対も許される折角の異世界なうえに力も甲斐性もあるのなら、自分を好いてくれた女全部を幸せにするとか言って魅せろ! 貴様は主人公だろうが!
――はっ⁉ しまった熱く語りすぎた。きょ、今日のところはこれくらいで勘弁してやるぜ!




