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アヴィスフィア 〜両性を駆使して異世界を謳歌する〜  作者: のんから。
一章 皇国騒動
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一章24話 道化の仮面02。

「ジョーカー? それにクイーンとジャックって、まるでトランプみたいだね」

「偶然なのか私達のような転生者が流行らせたのかは分かりませんが、発症の地は聖アイシュ教国であるとされていますね」

「トランプと。うちんギルドでも良う賭け事なんかに使われとーね」

「お義姉ちゃん惜しい! 正確にはね、アイシュで召喚された転移者――所謂”勇者様”が広めたの。ちなみにジョーカーというのはその名の通り、教国の切り札という意味だよ」

「つまり今回の騒動はその切り札(ジョーカー)とやらが関係しているということか」

「断定は出来ないけどそうだと思う。実際にジョーカーと呼ばれるヒトを傀儡化する操作系の”職業(クラス)”を持つ勇者の存在をアイシュで確認しているからね」


 皇帝が崩御する数日前、アイヴィス達は何度目かのエルクドへの面会要請も虚しく拒否され八方塞がりとなってしまっていた。


 あまり仲の良い兄弟では無かったとは言え、状況説明すら無しに拒絶されるのは異例であり、何かしら良からぬ者の意思が存在するのではないか。


 そう考えたアイヴィスにリンネが一つの可能性を提示したというのが事の経緯だ。


 純血派の一部がアイシュ教徒と内通しているというのは公然の秘密であり、彼らが皇国の法律である”教徒による集団行動の禁止”に抵触して投獄されるという事案も事実として後を立たないのが現状だ。


 どうやらリンネは此度の転生で役目を終え霊体となった後も祖国の動向を『要人監視(モニター)』で伺っていたらしい。


 彼女の情報によると禁断の秘術とされる”勇者召喚”はアイシュ教国の総本山である聖アビス教会でおおよそ年に一度の間隔で試行されているそうだ。


 この大聖堂は皇国の白鷺城同様に”龍脈が合流する稀有な土地”であり、同時に人々の祈りが集まる魔術的に特別な所謂パワースポットである。


 故に教国はこの二つが交わる中間地点である地下に召喚場を設けたのだ。そうすることで従来まで机上の空論とされていた異世界からの物資や人材の調達――いわゆる”勇者召喚”という大規模な召喚魔術が行使できるようになったのだろう。


 しかしその成功難度はかなり高く、失敗した際は最悪携わった全ての召喚士とその魔法陣が消し飛ぶ可能性すらあるのだという。


 実際にリスク対効果を鑑みた結果、成功とされたのは七年前と今回の召喚の計二回のみであり、他は実質マイナスであると判断されたのである。


 拉致に等しい状態で召喚された異世界の民とっては理不尽以外の何物でもないが、それだけの犠牲を払ってでも価値があるものだというのはまず間違いはないだろう。


 ちなみに召喚されたものは皆一様に”勇者様”と称され、アイシュ教における”助祭”と同等の地位を約束される。


 一概に同一とは言えないが、これは他国における”子爵”に相当するため、教国やアイシュ教が浸透している地域においては絶大な権力を持つことになる。


 生涯独身を貫かねばならない司祭や司教と異なり、結婚の自由も認められているのも特徴の一つだ。


「職業? あれって適性や資格を満たす複数の中から選択するものじゃないの?」

「少なくとも私達はそうですね。スキルも身につけたものがギルドカードに記載されますが、最初からとなると才能に起因するものか私のような氏族(クラン)系の血に由来するものか、或いはシュアのように種族による特徴かの三択となると思います」

「いずれにせれ適正や練度などで個人差は付くもんやが、それを数値化して選択でくるっていうとは心情抜きに考えるなら画期的ではあるね」

「言われてみれば私が今持つ殆どのスキルは有り難いことにリンネちゃん――つまり神から与えられた恩寵だし、元々技能というのは才能という形で神様がくれたものなのかも知れないね」

「生まれる前にある程度の選別に掛けられているということですか。ゾッとしない話ですが、確かにその可能性は高いように感じますね」


 彼らの全てが女神アイシュタルの恩寵を得ており、その証拠として”職業(クラス)”と呼ばれる才能に準じた役割と技能(スキル)を与えられるのである。


 与えられた職業は自力で変更することは出来ず、必要技能を複数個極めた場合のみその上位職や第二職業(セカンドジョブ)が開放される。


 自身の能力や技能は『ステータスカード』と呼ばれる一枚のカードに記載されており、能力を数値として視認出来る他、自身の持つ技能や取得可能なもの、その派生先などが確認出来るようになっている。


 幾度となく繰り返されているであろう勇者召喚と、召喚された勇者達からの意見なども加味したうえで最適化され、夜烏などの一般的なギルドに普及する『ギルドカード』の完全な上位互換へと昇華したのだろう。


 ギルドカードと違い神から与えられた恩寵――神威スキルにより創造された聖物なので、偽装や隠蔽、破壊などはヒトでは不可能である。


 余談だが、ステータスカードで自身のステータスを振り分けるというまるでゲームのような仕様になったのは、まず間違いなく元日本人の影響を受けているに違いない。



「ふふ、ふはははっ! なんて素晴らしい日だろうか! ……苦節三年。遂に、遂にあの憎っくきアルマスめを地獄に叩き落してくれたわ! ぶははははぁぁぁっ!」

「流石はジョーカーといったところですね。切り札の名は伊達では無かったようだ」

「……まさか本当にかの英傑アルマスの暗殺を成功させるとは思いませんでした」

「ふふっ。聖女様には少々刺激が強すぎましたか? しかし外交とは時に大胆な手段を取らねばならぬときもあるのですよ」

「彼の国に逃げ込んだ獣共の慌てふためく姿を想像だけで興奮するな。もう少し儂が若ければ来る”聖戦”の前線を張って直接彼奴らを屠るのも吝かでは無いのだがね」

「尊き生命が失われるのは悲しいですが、アイシュ教の聖女である私はこの国の人々を女神様に代わって護らねばなりません。許しを請うつもりはありませんが、せめて安らかな眠りが訪れるよう願うばかりです」

「……流石に聖女様となると、おっしゃられる言葉の重みが違いますね」

「ふははっ! 違いない。しかし彼奴らは儂らヒトの生活空間を侵害する害虫に等しい故に、情け容赦など無用の長物ですぞ」


 ただヒトと少しばかり姿形が違うから、アイシュ教はヒトを護る教義であり亜人は含まれないから、本当にそんな一般的に当たり前とされる偏見で個人の権利を侵害して良いものなのでしょうか?


 女神様の敬虔なる下僕である聖女の私がそのような疑問など持つことすら許されないのでしょうが、戦時中に見た彼らの姿と生活を思い出すと、とてもですが正しい行いだとは思えません。


 何よりもそのために私の幼き日の友人――リンネや無数の教徒達を犠牲にしてまで他種族を弑する戦争など、本当にしなければならないことだったのでしょうか?


 実質的な戦果としても心情的にも、未だに納得が行きません。事実カラサギの半数は皇国の民となり、此度の暗殺も相成って再び驚異として皇国と共に我らの前に立ちはだかることになるのは明白じゃないですか。


 個人として亜人達を種として認めずに追い立てて戦果を誇る教国と、アヴィスフィア全体として差別を受ける亜人を廃せず迎え入れる皇国。……果たして正義はどちらにあるのでしょうね。


 あぁ、リンネ。私は、私は一体どうしたら良いのでしょう? 貴女が見せてくれた現実を変えようとこの年まで尽力してきたつもりでしたが、七年経った今もまだこれといって成果が上げられていません。


 司教と同等の地位とされている聖女の私ですら、教国の深部に辿り着くことが叶いません。審議会でどんなに声を上げようと、幾度となく信徒へと訴え続けても何も、何も変わらないのです。


「ともあれ、これでアインズ皇国は攻略したも同然。私が枢機卿の地位に再び返り咲く条件は既に満たしたと言えましょう」

「それは良い! 当然”聖戦”には儂も指揮官として参加させて貰えるのだろうな?」

「勿論です。此度の”勇者召喚”で集まった人材は数も多く個々の能力も優れた者が多い故、()()()()()()()()()()問題はないでしょう」

「ふははっ! 人聞きが悪い。それではまるで儂が”勇者様”を使い捨てのコマにしているみたいではないか! ぶははははぁぁぁっ!」


 ……下品なヒト達だこと。枢機卿として、或いは指揮官として優れた人材なのは間違いないのでしょうが、私から見たらただの性格破綻者にしか映りません。


 教皇様のご命令でなければすぐにでもこの場を立ち去りたいところですが、未だに音沙汰が無いことを鑑みるに、このまま彼らの行く末を見守る所存なのでしょう。


 それにしてもコハルはいつ戻って来るのでしょう。恙無く事が済んだのならばそろそろ報告に来ても良いはずなのですが、おかしいですね。


「た、たたた、大変です! く、傀儡の勇者様が。お、おお倒れになられました!」

「――そんなっ⁉」

「――な、なんだとっ⁉ 憎きアルマスの暗殺は成功したのではなかったのか?」

「それは間違いありません! ですがその後何者かの襲撃を受け、人形が破壊された可能性があります!」

「……ふむ。あのジョーカーの人形を破壊するとは、存外奴らも馬鹿に出来ぬな」

「敵地のど真ん中で暗殺を敢行したそうですからね。流石のジョーカーも多勢に無勢だったのでしょう。しかし、無事暗殺が成功したのならば特に問題はありません」

「そんなことよりコハルは、コハルは無事なのですかっ⁉ 以前一度だけ傀儡を失ったことがありましたが、その時は何とも無かったはずです!」

「そ、それがどうやら”呪詛返し”を受けたようなのです! 状態を見た医師によれば、呪物である仮面を介したかなり強力な呪いだそうで、最悪の場合、このまま目覚めない可能性があるとのことです!」

「そ、そんな……。コハルは七年越しに友人と再開し、漸く()()()()()と帰れるはずだったのですよ……?」


 ……コハル? コハルが、倒れた? う、嘘ですそんな、そんなの嘘ですっ!


 わ、私の護衛としてもう七年になりますが、いつもどんなときも悠々と平気な顔して格好つけてくれたじゃないですかっ!


 精神的にも肉体的にも今より辛くてキツいことだって沢山ありましたが、護ると決めたからとかなんとかいって、いつも何とかしてくれたじゃないですかっ⁉


 探していた大事な親友とも念願の再開を果たし、今回の戦果を以て私の護衛の任を正式に終えるはずだったじゃないですか……。


 ……それなのに、どうしてこんなことに。わ、私があのときもっと強い意思を持って危険な暗殺計画を止めていれば……いえ、全ては後の祭りですね。


 今はまずコハルの状態を確認しに参らねばなりません。呪術に対してどこまで効果が得られるか分かりませんが、仮にも聖女である私の治癒魔法であれば、多少なり症状が回復するかも知れませんからね。


「元の世界に帰る……? ふはっ! ふはは、ぶははははぁぁぁっ!」

「――っ⁉ な、何がそんなにおかしいのですか?」

「くっ、くふふ。ど、どうやら聖女様のお側には悪い大人がいらっしゃるらしい」

「なっ⁉ ふ、二人揃ってあまりに失礼ではありませんか? 七年に渡り私達を支えて下さったコハル――”勇者様”が倒れたのですよ! もっと心配をして下さっても宜しいではありませんか!」

「――いや、失敬。確かに聖女様の仰る通りでしたね。無論、私としても心配ですよ。何せ彼女は、あまりにも我らの秘密を知り過ぎていますからね」

「それは、どういう――」

「ふははっ! 何でも無いですぞ聖女様。儂らのように年を食うと、要らぬ心配事が増えるものなのだ」


 ま、まさかとは思いますが、勇者様――コハルを弑する心づもりでは無いですよね? コハルは、コハルはずっと私達の無茶な要求を愚直に熟して来たのですよ?


 来たるべく”勇者召喚”において、いつ来るかも分からぬ友人を待ち助けるただそれだけのためにずっと、ずっと。いきなり召喚されただけでなく望まぬ戦争に巻き込まれ、共に召喚された全ての仲間を失ってもなおもずっと我慢していたのですよ?


 嫌な予感がします。二人の反応から推察するに、そもそも”勇者召喚”には帰還方法など存在しないのかも知れません。……ですが、ですがそれは、あまりにもヒドい話では無いですか?


 成人者を対象とし、地位やお金、生活空間を如何に提供しようとも、”勇者召喚”の根本は拉致監禁に等しい愚かな行為です。


 私のように聖女の適性があり、自ら志願してなっているのならばいざ知らず、知らぬ土地に呼び出されその国を守れと言われても、得心を得られるとは思えません。


 古典的なハニートラップを設け、目に見えぬ仮初の報酬を用意し、”勇者様”達の未熟な精神に同情を働きかけ協力させる。


 実に効果的な手腕だと思いますが、やはり人道的だとは言えません。


 おかしい。どうしてこのような単純なことに今まで気が付かなかったのでしょう。


 リンネに連れられ、コハルと共に成長し、ヒマリに出会って漸く違和感を実感出来るようになったなんて。


 ……抜け出せていたと勘違いしていましたが、どうやら未だに私は”籠の中の鳥”のままだったのですね。

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