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アヴィスフィア 〜両性を駆使して異世界を謳歌する〜  作者: のんから。
序章 異世界転性
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序章04話 夜烏01。

 アインズ皇国の王都『アインズブルグ』。そしてその一角を担う”国家公認”ギルドである『夜烏よがらす』。


 数あるギルドの中でどちらかと言えば闇ギルドに分類される彼らは、現代日本における常識でいうならば黒であろう”ヒト”を商品とした商売を主として生業としていた。


 闇ギルドでありながらも皇国に認可されているのは、彼らがそれ相応の対価を国に払っているからに相違ない。


 そんな彼らの主だった生業は、亜人族と呼ばれる獣人奴隷を用いた客商売だ。


 その中でも、尾耳(おみみ)族と呼ばれるヒト族――此処でのヒト族とは、現代日本においてのヒト科ヒト属に分類される霊長類(ホモ・サピエンス)に酷似した人類のことを指す――の身体の一部に動物的な特徴――猫や犬の耳や尻尾等――を持つ獣人が大半を占めている。


 その見た目の愛らしさゆえに人気が高く、特に女性は愛玩を目的とした需要が多いのである。


 そして何より獣人は、基本的に魔法を使うことが出来ない。


 身体能力にヒト族や他の亜人族よりも優れているものの、魔力適性が低い故に誓約などの呪術に対する耐性も弱いのだ。


 そんな彼らが奴隷契約を結んだ場合、ご主人様が”絶対のルール”となる。


 そう。契約させられた内容が()()()()()()()でも、一切合切抵抗することが出来ないのだ。


 簡潔に言えば、商品としてはこれ以上ないくらい扱いやすい種族といえる。


 ちなみに夜烏内には敗残兵や犯罪奴隷と呼ばれるヒト族や他の亜人族の商品も存在するが、よほどの魔法耐性があるものでないと奴隷契約を解呪することは出来ない。


 彼らが獣人と異なる点は、ある程度主人の命令に対して抵抗することが出来るという点にある。


 仮に主人が「一日中床を舐めていろ」と命令したとする。そして奴隷である彼らはそれに従わなければならない。


 獣人の場合は”絶対の命令だから”、ヒトや他の亜人の場合は”折檻が怖いから”。


 理由は種族や個人によっても変わるが、従うという意味ではそう大差はない。


 ただしヒトや他の亜人の場合、監視の目がなくなった時点で床を舐めることを止めるのは可能だ。


 要するに、自分の意志でその命令を無視することが可能なのだ。


 ……だが、獣人は違う。


 そう。たとえ主人の監視がなくなっても、自身の意思に関係なく一日中床を舐め続けてしまうのだ。


 命令が撤回されない限り、或いは完遂するまでその行為をし続ける。当人に自我はあるため洗脳では無いが、指示された内容にどう足掻いても抵抗出来なくなってしまうのである。


 無論。命令の意味が理解出来なければ無効となるなどの例外は存在する。


 では次に、”命令違反した場合どうなるのか”という点だ。


 獣人はそもそも命令を違反出来ないので関係がない。故にペナルティは、ヒトや他の亜人に科せられるものとなる。


 まず前提条件として、”夜烏所有となった”奴隷は例外なくギルドの紋章と()()()()が刻まれた首輪を掛けられる。


 これにはとある拘束魔法が付与されており、命令に違反した場合は死なない程度に首が締まるようになっている。


 そしてこの魔法の一番重要なところが、”奴隷がご主人様を傷つけることが出来ない”という点だ。


 例えば自身が行う行為により、主人が物理的に傷つくだろうと思ったことを行動に移そうとしたとする。するとたちまち首輪が反応して重量が増し、即座に地面へとひれ伏すようになっているのだ。


 当然ながら、主人の許しがなければ解除は出来ない。最も、反抗しようとした奴隷を主人がどこまで許すかは定かではないが。


 命令違反も攻撃も不可能だと悟った奴隷が主人の隙を付き、脱走を試みて仮にそれが実現されたとする。


 首輪の呪縛の効果範囲外であれば一時的に逃げ延びることは可能だろう。


 だが、各関所に「防犯門(セキュリティゲート)」と呼ばれる犯罪阻止魔法が付与されている皇国の王都『アインズブルグ』からは、まず抜け出すことは出来ない。


 もしも脱走やそれに準ずる行為が発覚した場合、主人次第ではあるが、最悪鉱山送りになる可能性もある。


 鉱山送りとはアヴィスフィアにおいて”終身刑”と同様の重罰故に、滅多なことでは脱走を試みる奴隷など居ないのである。



「さて、何か面白いクエストは出てないかな? 最近マンネリ気味だし、刺激が欲しいよね。刺激」

「はぁ、アイ。お気持ちは分からなくもないですが、不躾ですよ?」

「そうばいアイちゃん。慣れたときこそ初心の気持ち。ウチから学んだこと、ちゃんと思い出しときんしゃい」


 秋晴れが清々しいとある日の朝。俺はラヴィニスとシュアを連れ、ギルド『夜烏』に向かっていた。


 色々と黒い噂が絶えないギルドではあるが、そのお陰もあってか個人に関心を持つような者が他に比べて少ないそうだ。


 暗い過去を持つ者や暗躍する者、奴隷だった者や現在進行形の者も少なからず存在するという事情もある。


 何分俺自身このギルド以外を知らないので客観的な評価は出来ない。だが五年経った今も皇女(笑)である俺が通えているのだから、それなりにその情報の信憑性は高いのだろう。


 ちなみに二人が愛称で呼んでいるのは身バレの防止の為ではあるが、何よりそちらの方が仲良さそうだからとゴリ押した経緯がある。


 とは言っても版画すらないこの世界で面の割れていない個人を特定するなんて、しようと思っても中々に出来るものでは無いだろうが。


「わ、分かってるって。言ってみただけだよ」

「それならば良いのです」

「たとえ忘れてしもうても、ウチがいつでもどこでもアイちゃんの心身に叩き込んじゃるけん、安心しんしゃい!」


 ひ、ひぇぇ。か、勘弁してくれよ。ただでさえたまにかつてのトラウマがフラッシュバックするっていうのに。


 よっぽど最初が酷かったのか、シュアの特訓は苛烈を極めた。


 確かに言われてみれば納得するしかないほど正論だったのだが、何時間も正座をさせられて復唱するのはもう勘弁願いたい。


 ちなみにラヴィニスは基本的に俺のことを全肯定するため、一緒になって説教を受けていたという過去を持つ。それもあってかシュアと意見が合わずに良く揉めたりするのだが、特に仲が悪いわけでは無い。


 所謂、ライバルとでも言うのだろうか。互いが互いの足りない所を補い合って尊重する。その姿は俺としても時折羨ましくなるほどである。


「いや、分かって入るんだけどね? せっかく念願のCランクになったんだよ? それなのに今日の今日まで”薬草採取”に”迷子探し”、先日に至っては”孤児院のひび割れた壁の補修”だよ!? ほぼほぼボランティアじゃあないか!」

「確かに薄給でしたが、皆さん満面の笑顔で喜んでくれたじゃないですか」

「そうばい。仕事に貴賎無し。どれもばり大切なお仕事なんやけんね」

「うー、でもたまには良いじゃんか~。”魔物討伐”とか”用心護衛”とかもしたいんだよ~」


 アヴィスフィアに点在する各ギルドには(S)から(F)まで、そのランクに応じて受けられるクエストが変化するという絶対のルールが存在する。


 一つはそのクエストの成功率を上げるため。もう一つは、依頼人と冒険者などの請負人の生命を護るため。


 身の丈以上のクエストはトラブルの元となり、双方にとって良い結果を齎さない。


 それ故に、各ランクによって受けられるクエストというのが指定されているのである。


 俺が所属する夜烏では、成人前の子供がどれだけ成果を上げてもDランクまでしかランクアップ出来ないという不文律がある。


 ちなみに一般的にはCランクが冒険者、また大人として一人前だと認められた一つの証となる。


 何故ならば、魔物討伐や用心護衛を受けることが出来るようになるからだ。そしてその証は、そういったヒトの生命に携わることに対する実力の証明としてだけではなく、諸外国へのパスポートとしての役割も果たすのだ。


 冒険者や商人以外は基本的にどの国家も、国民やそれに類する者はその都市や町、村などから出ることは殆ど無い。


 常識として生活基盤が土着するものだということもあるが、それと同時に魔物や盗賊が蔓延る世界だからという側面もある。


 どこに行くにも護衛が欠かせず、護衛を雇うためには金銭が必要で、金銭を稼ぐにはその土地や生活に見合った仕事をしなければならない。それもあり、大抵の国民は特に用も無くその土地から出ることなど無いのである。


「しょうがありませんね。では、この”魔の森に住まう者”という調査クエストは如何でしょうか?」

「魔の森と? ウチあそこ虫系統の魔物が這い寄ってくるけん好かんばいね」

「え、意外。シュアって虫とかダメな人だったんだ!」

「そうばい。ウチは基本剣士やけん、どれほど気ば付けたっちゃ体液が飛び散るけんね。服は汚るーけん腹立つし、それがまた臭うてたまらんっちゃん。ヒトや動物系の魔物なら平気――というかむしろ好きっちゃけど、虫は死滅したっちゃ良かやなか?」

「あ、はい。そうですよね、分かってました」


 だからこそCランク以上の冒険者には需要が生まれる。今回ラヴィニスが見つけたこの調査もその一つであり、撃退や討伐ではない故に危険度はCだが、下手をすれば自身らの生命が危ぶまれ兼ねない危険を孕んでいるのだ。


 聞いての通り、シュアは剣士の上位職である『剣聖(ソードマスター)』としてこのパーティの前衛を担っている。現代日本における日本刀と近しい獲物を得意とし、その流派は『紅烏流』という。


 察して頂けたかも知れないが、彼女は俺に冒険者としての先達の知恵だけでなく、剣での戦い方も教えてくれたのだ。


 ちなみにラヴィニスは騎士の上位職である『聖騎士(パラディン)』で、俺は一応剣と魔法を扱う複合職『魔法剣士』としてギルドに登録している。


 得意魔法は『(いばら)』。属性は木。手足のように柔軟に操作することが可能で、汎用性も高いので気に入っている。


 棘を無くした殺傷性の低い『(つる)』と使い分けることも可能なので、魔物を傷つけずに素材を収集するような目的にも対応できる優れものなのだ。


 と言っても、未だ魔物はおろか小動物一匹捕まえていないので実際に効果があるかは未知数なのだが。


 一応シュアに連れられて実戦経験――魔物の殺害や殺人もしているのだが、それよりも嬉々として相手を嬲り殺した彼女に対して若干のトラウマに近い感情を抱いている。


 ちなみに初めての殺人の対象は”死刑囚”だった。


 皇族という身分は伊達では無く、現代日本における三権――立法、行政、司法を取りまとめる絶対的な機関である。


 故にそういった人権を失った()()を所有しており、こういった用途で使われることも多々あるということだ。


 まぁ、捕縛されている対象に短剣で止めを刺すだけの簡単なお仕事だったんだけどね。ヒトが上げる最後の悲鳴……あぁ、今思い出しても震えてくる。


 シュアは普段は緩くて可愛いんだけど、スイッチが入る――丁寧語になる――と人が変わったように容赦が無くなるからなぁ。


 魔物や盗賊を捕獲したことが無いのも彼女の意向だ。


 捕獲というのは相手よりも数段上でないと安全に行うことが出来ない。下手にリスクを負って取り返しのつかない事態に陥らないため、まずは確実に仕留めることから徹底して実践する。彼女らしい実に合理的な考えである。


「しかし住まう者、ねぇ。魔の森ってその名の通り魔物で溢れてるんでしょ? そんな危険地帯にヒトが住んでるなんてこと有り得るの?」

「アイの疑問は尤もです。私もあの森に誰か住んでるとは思えません」

「やけんそん調査ばするっちゃんね? もしかしたら、魔族かも知れんよ?」


 現代日本で言えば、富士の樹海を猛獣、或いは恐竜達が我が物顔で闊歩している中で日常生活を送るというのが一番近い。


 装甲車両や重火器があるなら兎も角、そんな場所に生身で侵入しようものなら次の日はおろかその日のうちに捕食されてしまうだろう。


 アインズ皇国とその北西にある同盟国のヴェネティア帝国の間に存在する巨大な樹海であり、両国を以てしても開拓は進んでいない”未開の地”だ。


 以前皇国よりも力を持つ帝国が大々的に軍を送りその先駆けにしようとしたのだが、そこに住まう魔物の集団に敢え無く惨敗し壊滅的な被害を受けたという過去がある。


 以来まともにヒトの手が入っておらず、それなのに何者かが住み着いているという噂が立った。そしてその真偽を確かめよというのが今回のクエストだ。


 仮に魔族なら即時撤退し、皇国あるいは帝国をも巻き込んでその討伐隊を組み排除する。極端だが、それほどまでに魔族というのはヒト族にとっての脅威となり得るのだ。


「ま、魔族!? それって全てにおいてヒトを凌駕するっていうあの魔族? 大河の向こう側にしか存在しないっていうあのっ!」

「……アイちゃんぇ。普通、魔族が居ると聞いたら怖がるっちゃけど」

「そうは言われても会ったことないし、話してみれば意外と分かり合えるかも知れないじゃんか~」

「やけん友達になるってことばいね? 相変わらずやなあ」

「アイは人たらしですから。それこそ気が付けば、魔王とだって仲良くなっていそうなので不思議です」

「……二人して、一体私を何だと思ってるの?」


 興味があるものに首を突っ込んだ結果仲良くなった友達は確かにいるが、何だか俺が悪いみたいに言われて甚だ不満である。


 確かに護衛する身としては大変なのだろうと理解してはいるのだが、気が付けば勝手に身体が動いているのだからどうしようもないのだ。


 異世界。あの夢にまで見た異世界なのだ。多少自分を見失って没入したとしても、それはしょうがないことなのである。


 うん。確かにちょっと俺が悪かったかもしれない。全く懲りてないので意味は無いかも知れないけど、少し反省しようかな。


 ともあれ、まずはクエストを受注しよう。


 ……あぁ、今からワクワクが止まらない。これは気を引き締めないといけないね!

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