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アヴィスフィア 〜両性を駆使して異世界を謳歌する〜  作者: のんから。
一章 皇国騒動
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一章18話 公爵令嬢誘拐事件06。

「――お母さん私、軍隊が欲しい! たった千人ぽっちで良いからね、ね? お願ぁい♡」

「……愛娘が初めて欲しいものをねだってくれたと思ったらまさかの軍隊だなんて、私は一体どうしたら良いのかしら」


 というわけで、早速俺はお母さんに甘えに来た。何がというわけだかは分からないかも知れないが、そんなことはどうでもいい。


 俺は今、俺たちに喧嘩を売って来やがった純血派の貴族共を駆逐するため、圧倒的な戦力差で磨り潰しでやろうと考えている。


 お母さん――紅姫さんを頼ったのも、彼女が某国カラサギの元王妃だからであり、何より多くの難民をそのカリスマ力で支え続けている辣腕を買ってのことである。


 亜人差別が酷い他の国家群を頼れなかったこともあり、その当時で皇国が抱える難民の数は約五十万人に上った。これは皇国全体の凡そ一割にに値し、皇国内の亜人の半数を占めるほどの大所帯となる。


 仮にこれがヒト族であったならば、一人で全てを纏め支え続けるなど到底無理だったであろう。


 だがカラサギは元を辿ればコタロウを族長としたカラサギ族であり、彼個人の能力や人柄に惹かれた同族が次々と傘下に下り国となった異質な国家だ。その彼を唯一の妻として支えた紅姫を信頼し、難民のほぼ全員が自身の進退を委ねたのである。


 そして紅姫は唯一の王妃としてその期待に答えた。コタロウと異なり旧友を頼る形ではあるが、たった一つの残された希望としてその役割を十全に果たしてきたのだ。


 当然難民はおろか、皇国内に元々住んでいた獣人達からの信頼も厚い。故に彼女が声を掛ければ千人や二千人など数日と待たずに揃ってしまうだろう。


「大丈夫。相手は木っ端貴族の私兵だから! 皆の力と数が有れば、一方的に蹂躙できること間違いなしだよ!」

「アイちゃんあのね、お母さんはそういうことが言いたいのではなくて――」

「――ごめんお母さん本当に時間が無くて、準備終えたらまた来るから宜しくお願いします!」

「あ、ちょっと! もう、アイちゃんったら。お母さんまだまだ言いたいこと沢山あったのに。後できちんと言って聞かせないと駄目ね」


 良し。これで人員の方は問題ない。お母さんにはちょっと迷惑変えてしまうけど、後でお手伝いすることでお詫びにさせて貰おうかな。


 問題は移動手段と武装蜂起の理由だけど、前者は既に陥落してるであろう防衛拠点の隠し部屋に通じてるから使用は困難だし、そもそも多くの人材の輸送には向いていない。後者は自衛のためという理由を掲げると皇国と盗賊団との蜜月関係を認めることになってしまう。


 はぁ。あまりやりたくないが仕方がない。今回の誘拐は、優秀過ぎる実妹を妬んでいたマリアージュ様の感情を利用した、心無い純血派の貴族達という構図にするしか無いな。


 純血派貴族の狙いが何だったのかはよく分からないが、どうせ碌なことではない筈だ。皇国としても思想の一本化はいずれ図りたかった目標でもあるし、その理由ならば父様も兵を動かさざる負えまい。


 何せ第一皇子である婚約者候補のラヴィニスを弑する計画を企てた、いわばクーデターなのだ。何にせよ、誰かが罰を受けなければ場は収まらない。


 当事者はおろか犯人である俺が何を言っているのだと思うかも知れないが、そうすることで皇国が纏まり、ラヴィニスの婚約も無傷で解消出来るのだから結果としては申し分がない。


 ……あーあ。想定していた中では最悪に近い部類に入るなぁ。これ、多分だけど父様の思惑通りの展開になってるよね。


 これだから為政者っていうのはたちが悪い。俺の感情とラヴィニスの立場、何よりその姉君であるマリアージュ様を犠牲にしてまで純血派の主要派閥を潰す必要性が果たして本当にあるだろうか。


 思うところは多々あるが、俺の選択肢は限られている。俺にとって大事なのはまず自分であり、次点にラヴィニスなのだ。その双方の未来が懸かっているこの状況で、受け身で静観するなど出来るはずがない。


 他のすべてを取り零したとしても、俺とラヴィニス、そしてシュアが共に歩む未来だけは絶対に手に入れなければならないのだ。


「ここまで来ると、マリ姉様の婚約者候補にカラム家の義子が上がったときから、ある程度の目算が立っていたのかも知れないね」

「……アルマス様は、最初からお姉様を廃する心積もりだったというのですか?」

「正確には、マリ姉様を餌にして純血派を泳がせていたのかも知れない。という、俺の妄想かな」

「流石に深読みし過ぎなんやなかと? いくらアルマス様でもそこまでは見通しとられんて思うばい」

「甘い、甘いよシュア。父様は皇国きっての才覚の持ち主だよ? 身内には人情深くて甘い部分も目立つけど、その本質は冷酷無比な皇帝そのものなんだから」


 流石にマリアージュ様がブラット伯爵と共に戦場に現れるのは想定外だったかも知れないが、リリティア家の家紋を描かれた旗が純血派に流出していたという情報を事前に知っていた可能性はある。


 父様とてマリ姉様まで巻き込むつもりは無かっただろうが、状況的に切り捨ててしまう可能性は高い。


 ……正直に言って、ラヴィニスの幸せには彼女が必要だ。前世から姉というものに依存しがちだったからか、今生の姉に素気無くあしらわれても未だ一度として嫌いだという話は聞いたことがない。


 さらに言えば、NULLの残党を助けることも必須条件の一つだ。既に死者も出ているだろうから全ては無理だが、せめてあの凸凹コンビくらいは救ってやらねばならないだろう。


 俺個人としてはそこまで大きな感情は無いんだが、シュアがあの二人を気に入っていたからなぁ。彼女の心の安寧を護るためにも、この二人の救出も視野に入れねばなるまいよ。


 今回の騒動を総評して、今から可能な最善の結果を導くのならば、マリ姉様とボルボとルノーの生命をどのような形であれ救い、純血派の大多数を駆逐するという戦果を以て助命嘆願を皇帝に飲ませるのが最善かな。


 俺を巻き込んだ以上は父様もある程度譲歩せざる負えない筈だし、もし仮に通らなければ帝国へ渡れば済むだけだから問題は無いかな。


「ま、いざとなった二人共。俺と一緒に、帝国に亡命しようぜ? ……まぁ別に無理にとは言わないけども」

「ふふっ。そこはバシッと言い切って下さいアイヴィス様。私で良ければ例え火の中水の中、地獄の果てまでお供致しますよ」

「ラヴィニスぇ……。はぁ。当然うちもお供するばい。アイちゃんとラヴィニスば二人にしゃしぇたら何処でどげん事件ば起こすか分かったもんじゃ無かけんね」

「ふ、二人共……。あぁ、どうしよう好き。大好き過ぎる。あぁ。この気持ち、どうしたら表現出来るんだろう。――くぅぅぅっ! 男の身体が恋しいぜぇぇぇっ!」

「……アイヴィス様。おっしゃりたい意味は何となくお察し致しますが、皇女様が公然と男の身体が欲しいなどと叫ぶのは外聞が悪いですよ?」

「――え、アイちゃんってそっちもイケる口と? お、男ん子同士ん愛とか。そげなと禁断過ぎるんやっ⁉」

「ちょおぉっと待てぇぇぇいっ! そんなわけ無いじゃんかっ! 俺は何があっても可愛い女の子が好きだし、誰の目もはばかること無く愛したいんだよぉぉぉっ!」

「あ、アイヴィス様。私もアイヴィス様に愛されたいですが、流石にヒトの目があるところで抱かれるのは恥ずかしいです」

「う、うちもそりゃ恥ずかしかね。まぁアイちゃんとラヴィニスがてぇてぇしとーとば見るとは好いとーけん、見る分には大歓迎ばってん」

「いやいやいや⁉ そんなん俺だって恥ずかしいわっ! それにもし出来るのならば誰にも邪魔されない場所で、ゆっくりと楽しみたいしな」


 なんてな。流石にそんな選択肢を選ぶわけにはいかないか。しかしラヴィニスは兎も角として、シュアも意外と好感触なんだが。


 も、もしかしてシュアちゃんってば俺のこと好きなの? ……へ、へへ。し、知ってるもん。どうせ俺の勘違いだなんてさ。知ってるから。


 まぁ俺の性欲の叫びは置いといて、着いてきてくれると言って貰えたのは素直に嬉しいな。


 正直なところ、不安だったんだよね。明らかに俺の暴走のせいで迷惑をかけてしまっているわけだし、最悪嫌われる可能性だってあったんだからさ。


 ともあれ残るは移動手段か。仮に千人集まったとしたら移動もそれなりに時間掛かるだろうし、うーん。何かいい案が無いかなぁ。


 あ、そうか。軍隊は軍隊で誰かに指揮を取らせて、俺たちはボルボとルノーの居る場所に転移すれば良いだけじゃんか。


 そうと決まればその旨をお母さんに伝えて、二人と一緒に転移しちゃおう。あいつらに持たせている現代日本で言うGPS的な効果のある魔力鉱石のペンダントで座標は分かるし、なんとかなるっしょ。


 何せ騎士様と剣聖様が居るのだからね。最悪一瞬で元の場所に戻れば良いだけだし。うんうん。軽い思いつきだったけど、案外なんとかなる気がしてきたぞ。


「ラヴちゃん! シュア! 一度お母さんのところに戻ろう! 軍隊派遣の件で、独自に侵攻を開始して貰えるように頼むから!」

「……もしかしてアイヴィス様、今すぐに戦場に向かわれるのですか?」

「――えっ⁉ よく分かったな。……手遅れになる前に、マリ姉様とボルボとルノーくらいは回収したいと思ってね」

「「――ッ⁉」」

「ま、そういうわけだから。二人共、頼りにしているからね? ふふっ」

「「ま、任せて下さいアイヴィス様!」」


 良し。少しは元気になったみたいだな。行き当りばったりに見えるかも知れないけど、これが今出来る最善案だと本気で思っている。


 転移の場所とタイミングさえ間違えなければリスクは低いし、何があってもラヴィニスの防御力があれば耐えられる。


 急な接敵にはシュアが対応してくれるだろうし、俺は往還の移動手段にさえ気を配れば良いだけだ。


 ふっ。俺の用意周到さがここで生きるとはな。決してダサいからペンダントを押し付けたわけでは無かったのだよ。ふふ、ふふふふふっ。


「――というわけでお母さん。リーダーの選定と部隊の派遣、お願いしますっ!」

「ちょ、ちょっと。お母さんやっと皆を集めたところなのよ? 少しは労いの言葉があってもいいと思うの!」

「え、もう集まったの? お母さんって本当に凄いんだね! 偉い! よく頑張りましたっ!」

「も、もう。そんな子供を褒めるような言い方されてもお母さん。う、嬉しくなんて無いんだからね?」

「――はぁぅっ⁉ お母さん、可愛すぎるだろ。……ほら、よしよーし。ミクちゃんは偉いねぇ凄いねぇ」

「……うぅっ。アイちゃんのいじわる。お母さん、育て方を間違っちゃったのかしら」

「ふふっ。お母さんが私のお母さんで本当に良かったなと私は思ってるよ? 好き、だぁい好き♡」


 ――気持ち悪いとか言わないで? これでも俺、女の子なんだからね? 前世は確かに男だったけど、今生は女だから! この年までそう育てられてきたんだからしょうがないのっ!


 それにお母さんには”甘える”攻撃が効果抜群だから。それだけだから。正直流石にこれは酷いなと我ながら少々反省してはいるけれども。


 実際に言葉では怒ってるように聞こえるけど表情はふにゃふにゃに緩んでるし、頬も耳もこれでもかってくらい紅潮してるからね。


 俺としても甘えられて幸せだし、これぞWINWINの関係ってやつよ! いやぁ、ホント。美少女に産まれて良かったーっ!


「そういうことだから宜しくね、お母さん」

「しょ、しょうがないわね。――ヨタカ。用意が整い次第、直ちにかの防衛拠点に侵攻しなさい」

「も、もしかして今からですかぃギルマス。……はぁぁっ。今しがた皆とその装備をかき集めたばっかなのですがねぇ。(キョキョ! 相変わらず人使いが荒いでやんす)」

「お、ヨタカさんがリーダーなんだ。これはもう安心しかないね?」

「――アイの嬢ちゃん。ギルマスにおねだりするのは構わねぇけども、もう少し何とかならなかったのかぃ? (キョキョ! このままでは過労死するでやんす)」

「本当にごめんなさい! でも、好機を逃すと後悔することになるって、ヨタカさんいつも言ってるじゃない!」

「カカカッ! 子飼いの盗賊団を蹂躙され、今もなおでかい顔で占拠されてるって言うのにまぁそうか。好機ときたかっ! (キョキョ! 本当に肝の座ったお嬢さんでやんすね)」

「うんうん。何故か分からないけど、ボルボとルノーが主犯格と共に孤立してるみたいなの。頭を抑えるにはもってこいでしょ? ね?」

「なるほど。そいつぁ確かに好機だな。……了解した! こっちはこっちで派手にやるから、そっちは嬢ちゃんに任せるわ! カッカッカ! (キョキョ! 我が白刃の錆にしてくれる! でやんす)」


 Aランクパーティ『暁の盗賊団』のリーダーであるヨタカさんと、その愛剣である魔剣のシャム君が部隊長を務めるならもう勝ったも同然だね。


 相手は貴族の私兵のより集めで練度は低いし、そもそも連帯行動なんて穴だらけにも程があるでしょ。


 これは勝ったな。慢心なんてガラじゃないけど、皇女たるもの成功のビジョンだけを描くべきである。そう。これはもう勝ち戦なのだ!


 さてさて準備も整ったし、マリ姉様を誂いに行くとしましょうか。……ボルボとルノーにも、心配と手を煩わせた責任を取って貰わないといけないし、ね。

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