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アヴィスフィア 〜両性を駆使して異世界を謳歌する〜  作者: のんから。
一章 皇国騒動
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一章17話 公爵令嬢誘拐事件05

「――え? 俺らの秘密基地が攻められてるって、マジ?」

「はい。紅姫様から緊急の連絡を頂いたので、私が使いとして馳せ参じました」

「ちなみにユニちゃん、何処のお馬鹿さんが攻めてきたのかな?」

「リリティア家の手の者だと聞き及んでおりますが、詳細は定かでは有りません。未確認ですが、複数の純血派に属する貴族達の姿も散見されているそうです。中には主犯格であろうブラット伯爵と、ラヴィニス様の姉君であるマリアージュ様の姿も見受けられたとのことですが、こちらも詳細は分かっておりません」

「……ま、マリ姉様が現場に居るの? 騒ぎを大きくするだけで良いと伝えていたはずなのに、何がどうなったらクーデターに繋がってしまうのだろう」

「差し出がましいことをお聞きして申し訳ありませんが、アイヴィス様はお父上――六代目皇帝が動くと考えて居られるのですか?」

「いや、父様は兵を用意するだけして傍観すると思うよ。問題はシュアが――」


 たとえラヴィニスを救うためとは言え、一方的で独りよがりな計画に二人を巻き込んでしまうお詫びを考えていた俺の元に、風雲急を告げる知らせが舞い込んできた。


 どうやらマリ姉様のご実家の家紋を掲げた混合軍が、俺とシュアで作り上げた秘密組織NULLのアジトを襲撃してきたらしいのだ。


 ユニちゃんに寄ればマリ姉様ご本人の姿も見受けられたらしいのだが、一体全体何が起こっているのだろう。


 NULLは義賊として世間に認知されているものの、俺――つまりは皇女の息がかかるズブズブの国家公認組織である。


 要するにリリティア家を旗頭として掲げる軍隊は、正面から皇家――ひいてはアインズ皇国にクーデターを起こしたということになるのだ。


 当然その罪は重く失敗に終われば主犯格は処刑され、参加した系譜は皆お取り潰しとなるのは必至。


 マリ姉様に反逆の意思が無くとも、反乱の主導者であろう純血派のブラット伯爵と行動を共にしていた時点で”黒”だと断罪されることがたやすく想像出来てしまうのも残念だ。


 この時代の裁判は物的証拠よりも状況証拠を優先しがちな気質があるし、そもそも前提として”公平”ではない。このクーデターが鎮圧されたその時には実妹を弑する毒姉として処刑されてしまう可能性が高いだろう。


「――アイヴィス様! 御身はご無事でございますかっ⁉」

「ラヴちゃん! 良かった。転移門は無事に稼働したんだね」

「怪我一つ無う無事に届けたばい。褒めてくるーと嬉しかね」

「シュアに任せて本当に良かった、ありがとね。それとシュア自身にも怪我が無いようで安心したよ」

「シュアったらまるで私をお嬢様のように扱うのですよ? くすぐったくて仕方ありませんでした」

「……いやいや。ラヴちゃん貴女、紛うことなきお嬢様でしょうが」

「そうばい。確かにエスコートしとーうち自身も違和感あったばってん、ラヴィニスは立派なお嬢様ばい」


 襲撃されたと聞いて内心物凄く焦ってはいたんだけど、ラヴィニスもシュアも見る限り損傷は無さそうだし本当に良かった。


 万が一の保険のつもりだったけど、事前に転移門を設営した俺を褒めておこう。一応あれ以外にも幾つか仕掛けは施してあるけど、過激なものが多いからなぁ。


 それにしてもラヴィニスは自分の身より、誘拐の主犯格である俺のことを心配していたらしいな。


 俺が関係していることなど百も承知だろうし、本来であれば巻き込まれたことを憤っていてもおかしくはないはずなんだが、そんな気配を一ミリも感じないんだよね。


 前から思ってはいたけどラヴちゃんって、俺にとって都合が良すぎないか? 誰よりも一番近くに居て、一番長い時間を共に過ごしているけど、基本的に俺のやること成すことの全てを肯定してくれるんだよね。


 愛されてる自覚は有るしそれ故の行動なのだろうが、心が男である俺には乙女心という繊細な感情は一生理解することが出来ないのかも知れないな。


 ……良し。悩んでも分からないものは聞いてみようか。聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥というしね。


「……ラヴちゃん、怒ってないの?」

「怒る? 何故私がアイヴィス様に怒らねばならないのですか? ……もしかして知らない女の子を、私に内緒で何処かで拾って来ちゃったりしたんですかそうなんですか?」

「い、いやいやいや! そ、そんなことするわけ無いじゃんか! い、嫌だなぁ」

「……ふーん? ユニちゃんのときは事後承諾だったと思ったのですが、私の記憶違いでしたか?」

「ひ、ひぃ。あ、あのときはしょうがなかったの! ここで逃したら一生後悔するって、本能が俺に囁きかけて来てたんだから!」


 ひ、ひぃぃっ⁉ え? ちょ、ちょっと待って? なんか様子がおかしいんだけど! 俺、やましいことなんてしてないよっ!


 何故だかラヴちゃんの瞳のハイトーンが失われてしまったのだが、ど、どどど、どうしたら良いの?


 しゅ、シュアちゃん見てないで助けてよぉ! 俺まだ何もしていないのに、ラヴちゃんに虚勢され兼ねない勢いで迫られてるんだって!


「こぉらラヴィニス。アイちゃんがえずがっとーやろ? ……全く。重たか愛情とは常日頃から思うとったが、流石に今日は度が過ぎるばい?」

「ご、ごめんなさいアイヴィス様。……私、その。選んでもらえた幸福とシュアへの嫉妬で少々情緒が不安定になってしまっていまして」

「……え、情緒? 何かあったの?」

「皇子との婚約を父に仄めかされたとき、私は心の底から絶望を感じました。政略結婚なんて、言葉でしか知りませんでしたから」

「あー。確かに前世とは価値観が違うもんね。俺としてもそんなのは、断固として反対よ!」

「ふふっ。そう言い切れるのはアイヴィス様の強さだと思います。そして、そんな貴方にいつも助けられて来ましたから」

「俺はただ皇女という立場を死ぬほど利用して、我儘放題に振る舞っていただけなんだけどな」

「今回の件もそうですが、私は今までその我儘に救われて来たのです。自分らしく生きるという当たり前を当たり前に実行することって、アイヴィス様が言うよりずっと難しいことなのですよ?」

「そんなもんかねぇ。まぁ確かに皇女様だからこそ許されてるみたいなところもあるし、そういった意味ではこの立場に感謝しているよ」

「私も公爵令嬢で良かったです。アイヴィス様と違い私は幼少期から記憶が有りましたので、新鮮な気持ちで貴方の成長を見守ることが出来ましたから」

「ぐぬぬ……。気が付いていたなら言ってくれれば良かったのに。この歳でおねしょとかを見られるの、恥以外の何もないんだからね?」


 どうやら誘拐事件のことは怒っていないらしい。それどころか感謝しているらしく、俺としてはなんと言えばいいか分からないや。


 これは主観だが、もしかしたらラヴィニスは俺と一緒に入れるなら何でも良いのかも知れないな。


 ユニちゃんを買ったときに今度からは連れて行って欲しいと懇願されたし、最近は何処に行くにも付いて来たがるからなぁ。


 ま、俺としてはそんな彼女が可愛くて仕方がない訳なのだけどね。言い方は悪いけど、それだけで許されるなら色々と都合が良いからさ。


 シュアはシュアで進言はするものの、基本的には静々と三歩下がって着いてくる大和撫子だから、何というかやりたい放題なんだよね。


 とはいえ俺も一応皇女様なわけでして。例え欲求不満に支配されたとしても、夜のお店に足を運ぶのは流石に外聞が悪すぎるから通うことなど出来はしない。


 まぁそれ以前に男の象徴たるものを前世に置き忘れているわけでして。どちらにせよ、そういう意味でもどうしようもないんですよね。へへ……。


 余りの悲しさと喪失感故に”術者と感覚を共有することが出来るスキルを持つ異界のつる植物”を召喚して品種改良を施し、今ではまるで自分の手足のように扱えるようになった俺をどうか見ないで下さい。


 ……色々とやりたい放題やって、方向性を間違えた至高の無駄を求めてしまったんですごめんなさい。


 もし仮にその偽物で二人の初めてを貰っても、言いようのない喪失感と虚しさに襲われること請け合いだって、極めてから漸く気が付いたんですよね。へ、へへ……えへへへへ……。


 ちなみに余談だが、その過程でヒトの丹田――魔力の大元とされる(へそ)下三寸に根を張り寄生することで苗床となったヒトと共生する『御薦薔薇《ベガ―ロゼス》』の種子を手に入れたのはここだけの話だ。


「いつもんことだばってん、こうも二人の世界に入らるーとうちも思うところがあるね」

「――ごめんシュア。気が回らなかった」

「大丈夫、気にしとらんばい。ほんなこつアイちゃんなラヴィニスんこと好きっちゃんね」

「うん、大好き。絶対にエル兄様なんかに――いや、誰にも渡さないからね!」

「わ、私も大好きですアイヴィス様ぁ。う、嬉しくて私、どうにかなってしまいそうですぅ」

「……はいはい、ご馳走様やった」

「あ、勿論シュアも私のだからね? 逃さないよ?」

「ちょっ⁉ アイちゃんったら何ば言いよーと? ま、全くもう」


 俺の黒歴史(現在進行系)は兎も角として、せっかく金持ちかつ美少女に産まれたからには最大限に利用しなくては勿体ない。


 欲しいものを手に入れられる条件が揃っているというのに、常識や外聞に左右されるなんて甘ちゃんよ!


 鈍感系主人公にありがちな貞操感や、少女漫画特有のじれったいロマンスなんて俺には無用の長物だ! 分かりやすく、それでいて気持ちが良ければそれでいいっ!


 誰がなんと言おうと、たとえ全人類が否定しようとも、都合のいい女こそが至高なんだからなぁぁぁっ‼⁉


 そしてその至高の存在が、美少女かつナイスバディと来て性格までをも完璧な究極完全体ときたもんだ。そんな極上かつ最良の物件を逃すとか、男どころかヒトじゃねえぇぇんだよぉぉぉっ‼‼‼


 俺は元来性悪説派だ! ヒトは欲には敵わねぇ! だったら敵うものから叶えれば良いんだろーがよぉっ!


 踊れや狂えやこの世は華よ! 派手に短く図太く生きろや! 悔いも憂いも纏めて散らせよぉいっとぉ!


 ――はっ! トリップしてた。でもそれでも、自分でも最低だと思うけどそれでも……責任を以って、二人を愛す所存だから。何が何でも、幸せを感じさせて魅せるから。


「――シュア。それにラヴィニスも。俺と一緒に、秘密基地に行こっか!」

「な、何を言っているのですかアイヴィス様! あの場所は今、血で血を洗うような恐ろしい戦場なのですよっ⁉」

「そうばいアイちゃん考え直して! 今戻ったら生命が危なかかも知れんけん!」

「だとしても二人が俺のことを護ってくれるでしょ? それになんだ、シュアが辛そうな顔しているのを黙って見過ごせないからさ」

「「――ッ⁉」」

「やだなぁ、俺だってそのくらい分かるよ? シュアってば口では冷たく突き放しがちだけど、俺ら三人の中で一番情が厚いからねぇ」

「……あ、アイちゃん」

「ぶっすぅ。正妻たる私の目の前でシュアを口説くなんて、いい根性してますねアイヴィス様ぁ」

「嫉妬してるラヴちゃんも可愛いよ。なんだろうこう、ずっと見ていたくなるね」

「「……アイヴィス様(アイちゃん)は、最低です(ばい)っ!」」

「ふふっ。褒め言葉として受け取っておくよ、二人共♡」


 さて、ここらでバッチリと好感度を上げときますか。男として生きてきた以上、格好付けなきゃ行けないときは必ず来るものだからね。ここで逃げたら男が廃るってもんよ。


 それに皇族として産まれてきたこともあり、ヒトを殺したことが無いわけではない。正確にはギルドで冒険者となる過程で必要になったのだが、それはそれだ。


 アヴィスフィアのアインズ皇国という異なる世界の異なる国で産まれ育ち、皇族という至高の貴族として生きる以上、徴兵や殺人は通過儀礼である。


 現代日本と違い治安も悪く、郊外はおろか都市部ですらヒトは死ぬ。裁判とは名ばかりで補償など無く、相手が貴族であれば冤罪などザラにある世知辛い情勢なのだ。


 前世を知る俺が皇族として産まれたのも何かの縁だと思い徐々に改善案を練ってはいるが、それが形となるにはまだまだ時間を要するだろう。


 そう、俺は皇族だ。この国における絶対唯一のルールなのだ。その俺が好き勝手やるためにも、ルールはしっかりと定めなければならない。


 自由とは厳格に定められたルールの元に成立する、極めて合理的かつ繊細な概念なのである。


 故にそのルール――皇族を揺るがすクーデターを許してはならない。例えそこにどんな真実が隠されていたとしても、全てを無に帰さなければならないのだ。


「――マリ姉様。許せとは言いませんが、どうかお覚悟下さいませ。私は私と二人の幸せのために、貴女とその系譜の尊厳を踏み躙ることを厭いません。せめて協力して下さった貴女様の最後に慈悲を一つ、私自ら捧げて差し上げようじゃあありませんか」


 マリアージュ様。可愛いラヴィニスの、たった一人のお姉さま。俺個人としても憎からず思っていたのだけど、こうなってしまっては仕方が無いね。


 俺は確かに転生者だし、殺人や冤罪には今もなお言いようもない忌避感を抱いている。


 だが、同時に俺は皇族なのだ。国を護るなどという理想を掲げるつもりなど毛頭ないが、愛する二人の居場所は何に変えても護らねばならない。


 そう。言い方は良くないが、善悪など正直なところ知ったことではない。所詮この世は弱肉強食。勝った方こそが正義で、かつ絶対のルールなのだから。


 さてさて、早速心躍る進退をかけた生存競争へと洒落込みましょうかね。……あーあ、本当に世の中ってのは世知辛いねぇ。

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