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アヴィスフィア 〜両性を駆使して異世界を謳歌する〜  作者: のんから。
一章 皇国騒動
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一章14話 公爵令嬢誘拐事件02。

「……どうやら融合派の筆頭継承者は、件の公爵家の次女にお熱なのだそうだ」

「なるほど、合点がいきました。だからこそ皇帝は彼女と第一皇子の婚約を仄めかしたのですね」

「そうだ。私としても、実利のない娘自慢を聞き続けた甲斐があったということになるね」

「いくら有能とて、女子供に政治が務まるはずもないだろうと旦那様がおっしゃった際の御顔は秀逸でしたな」

「少々良い方は悪かったが、娘が出来てからというもののやれこれが凄いだのあれが可愛いだの、皆の前で煩くて敵わなかったからね。彼奴にとってもいい薬だろうよ」

「誰を相手にしてもそのように接しておりましたからな。しかしだからといって、純血派の旗頭筆頭を取り込もうとするとは思いも寄りませんでしたが」


 マリアージュとの接触の後、自身の居宅である別荘の執務室にて、ブラッド伯爵は自身の執事である老年男性を会話をしていた。


 アインズ皇国の象徴である白鷺城を囲む湖の外周沿いには、多くの高位貴族達の別荘が立ち並んでいる。


 伯爵家当主であるブラットの別宅もその一角に建っており、彼が皇都に寄る際には美しい景色を望めるこの場所を好んで拠点としていた。


 水生のスライムによる浄化作用のおかげか、海水浴場としても活用できるほどに綺麗な水質を保っている湖は需要が高く、プライベートビーチを持つことが出来るというだけでその貴族がどれだけ財力を持っていることが伺える。


 要するに伯爵家はその贅沢な空間を独占出来るほどには裕福であり、皇国内での地位も高いということになる。


 ちなみに湖の内周は宮廷貴族を中心として社会が展開されており、その全てが融合派に属している。


 例外として、国家公認ギルドである『夜烏』が紅姫の名の下に治めている一部区画が存在しているが、その理由を知るものは皇家に親しい者のみであり、表向きには公平無私なギルドであることを内外に知らしめているとされている。


「ブラット叔父上。つまりは、どういうことなのですか? 私には純血派の力を削ごうとしていることしか分からないのですが」

「バインよ。私としては、それはまだ想定内であったのだ。……問題は長女ではなく、何故次女を指名したのかという点だ」

「お言葉ですが、それは長女であるマリア―ジュ様が私の婚約者だからではないでしょうか?」

「……はぁ。何度も言うようだが、お前は候補の一人であろう? それに純血派である我が系譜と融合派である彼女が交わる未来は無いのだよ」

「だからこそ少々強引にでも婚約話を浮上させたのでは? 仮に純血派の旗頭が融合派の大貴族と結ばれたとすれば、我が皇国の一大難題である派閥問題に価値のある一石を投じるとこが出来ると判断したのですよ!」

「ふむ。お主の意見は革新的で悪くはないが、皇国の歴史はその程度では揺るがない。そもそも今回の婚約は、間違いなく第一皇女の手の者による邪魔が入るだろうよ」


 執務室には二人以外に、バインという血の繋がらない息子が相席をしていた。優秀ではあるが貴族としてはまだ浅く、二人の考えが理解できていない。


 伯爵であるブラットがそれを咎めることをせずに諭すように戒め、それでも自身の考えを述べる我が子を少し誇らしそうに眺めているのが印象的だ。


 無能だと突き放した第一皇子を反対派閥である純血派へ属させたことと言い、わざとその対立を煽るように融合派筆頭継承者である娘を賛美したことと言い、見る人が見れば明らかに派閥間の軋轢を深めて衝突させようと画策している。


 その真意は定かではないが、何らかの目的に向かって思想の一本化を謀っているのだろう。


 ブラットとしては、今回の婚約は皇帝から両派閥に向けての一種の挑戦状だと考えている。養子として迎えたバインを、敢えて婚約者候補として送りつけたときから、いずれはこうなることを想定していたのだ。


「ブラット叔父上。そこまで分かっていながら、何を悩んでおられるのですか?」

「先程の話に戻るが要するに、何故皇帝が自身の後継である第一皇女に対しても挑発行動を起こしたか、という点が問題なのだ」

「ちょ、挑発行動?」

「そうだ。皇帝は自身の自慢の娘が公爵家の次女を好いていることを知っている。それなのに何故、敢えての長男を指名したか分かるか?」

「それは当然後継者問題からでは? 女同士では子は産めませんからね」

「うむ。表向きの理由はそれで間違いはない。……だが、その本質は違うのだよ」

「……本質、ですか?」

「そうだ。要するに皇帝は、我ら純血派を排斥する考えに至ったらしい」

「――なっ⁉ 何故そのような飛躍した話となるですか!」

「言葉の通り、自身の後継者である第一皇女を利用して、彼女に接触を試みようとする純血派の貴族達を纏めて潰そうと考えておられるのだよ」


 ブラットとしては、皇帝がアイヴィスを餌にして囲おうとする純血派の貴族を炙り出そうしているのではという考えに至ったらしい。


 自身から見れば明らかな罠なのだが、皇国の支配を目論む他の純血派からすればまたとない機会に映っているだろうと読んだのだ。


 そして、実際にそう考える貴族は多いだろう。それほどまでに第一皇女であるアイヴィスは、政略道具としての価値が高いのである。


「困ったことに、皇帝の策略は成就するだろう。我らとしても、身の振り方を考えるときが来たのかも知れぬな」

「……ゴクリ。ブラット叔父上は、どうなさるおつもりですか?」

「うむ。私としては、第一皇女に接触してみようと思う」

「――なっ⁉ 先程罠だとおっしゃったばかりではないですか!」

「そうだな。だからこそ誰よりも先に接触する必要がある。……私が戻らぬ場合はバイン、お前がこの伯爵家を継ぎなさい」

「お、叔父上それは――」

「良いかバイン。判断を誤るのはヒトの常だが、最後に決めるのは必ず自分でなければならない」

「…………」

「お前がその目で見て、聞いて、それからじっくりと一晩考えてから行動しなさい。短慮は身を滅ぼす故に、慎重に生きるのですよ?」


 皇帝の目論見は達成する。そして、その際に純血派は解体されることになるだろう。ブラットはそう考え、故に覚悟を決めたのだ。


 伯爵家の今後はこの瞬間にどう行動するかによって左右すると判断し、ならばとその中心となるであろう人物を見極めんとする。


 誰に言われる訳でもなく自身で判断を下し、その決定に責任を持つ。もしその選択が間違っていたとしても、自分の意思で決めることが重要なのだという見本を、その身を以って体現したのである。


「叔父上……。わ、分かりました。このバインに出来得る限りのことは致します。……御身の無事を、心より祈っております」

「うむ。では参ろうか」

「はい、旦那様。地獄の底までお供しましょうぞ」


 そしてブラットはアイヴィスに会うと言い残し、二度と伯爵家に戻ることは無かったのである。



「――た、大変ですわお父様! い、妹が、私のラヴィニスが屋敷に何処にも見当たりませんのっ!」

「ま、マリアージュ? お、お前がラヴィニスのことを気に掛けるなんて、一体どうしたと言うのだ?」

「問答をしている暇はありませんよお父様! 部屋も荒らされていて、このような手紙まで……。と、兎に角早く衛兵を呼んで下さいまし!」

「――こ、これはっ⁉ ま、まままさか、ほ、本当に誘拐なのか?」

「もうっ! ようやっと理解致しましたのっ⁉ しっかりなさって下さいお父様! 馬鹿な貴族が騒ぎ出す前に探し出さないと、ラヴィニスがお嫁に行けなくなってしまいますわよ!」

「――そ、それはいかん! おいそこのっ! 今直ぐ皆を集めてくるのだ!」

「こうしてはおられません! わ、私も信頼できる方に声を掛けてきますわ! お父様は捜索隊の結成と派遣の方を宜しく頼みますわね!」


 全くもう! アイヴィスさんったら、事前に連絡をして下さっても宜しいのではなくて? 騒ぎを誰よりも早く拡散しろと言われても、合図も何もなければ急ぐにも急げないではありませんか!


 それにお父様も当主なのですからしっかりなさって下さいな! そもそも私がラヴィニスを気に掛けないことなど産まれてから一日として御座いませんのに、相変わらず物事の本質を読むことがお下手で困ってしまいますわ。


 さて。私もいつまでも愚痴を言っている時間はありません。まずはブラット伯爵にお声がけしてこの事実を拡散し、純血派の皆様には大いに騒いで貰わなくてはなりませんわ。


 ……あら? 噂をすれば、あそこにおられるのはブラット伯爵ではありませんか。ふふっ。最初は不安でしたが、どうやら風向きは私に取って都合の良い方向に流れているようですわね。


「――ブ、ブラット様! どうか、どうかお待ちになって下さい!」

「これはマリアージュ様。そんなに慌てて、一体何があったというのですか?」

「い、妹が! わ、わわ私のラヴィニスが、侵入した賊に連れ去られてしまったの!」

「――なっ⁉ もしや、件の第一皇女様の手の者が動き出したのですかっ⁉」

「それは分かりませんが、あのラヴィニスを連れ去ることが出来る猛者はそうはいません。その可能性は、十分にあると思います」

「……分かりました。私の部下にもその旨を伝え、早急に捜索する部隊を手配致しますね」

「伯爵様! ご助力、感謝致しますわ。……あぁ、ラヴィニス。一体何処へ行ってしまったというの?」


 あぁ。お父様に比べ、ブラット様はいつも落ち着いていらっしゃるのね。物腰も柔らかいし、少しは見習ってほしいものですわ。


 以前仰っていたとおり協力して下さるようですし、純血派の筆頭とは思えないほど慈悲深いですわね。


 ともあれ、これでアイヴィスさんとの約束も果たせそうですわ。……全く。私したことが年甲斐もなく、焼きが回ったものですこと。


 後は白紙に戻った第一皇子の婚約者枠を私が埋めて、見事皇妃の座に収まれば万々歳と言ったところですか。


 ふふっ。そうなればアイヴィスさんもラヴィニスも私の下に就くことにならざる負えないですし、今からその時が楽しみでなりませんわね。


「それに伴ってマリアージュ様にお願いがあるのですが、宜しければ私の部隊を率いては頂けませんでしょうか?」

「――えっ? わ、私が、ですの?」

「突然のことで混乱されてらっしゃるのは重々承知なのですが、私としてもマリアージュ様と懇意にしているとアピールさせて頂きたいのです」

「……なるほど。今回の騒ぎを利用して、純血派から距離を置きたいとおっしゃるのですね?」

「流石はマリアージュ様。私の考えなど既にお見通しで御座いましたか。……身も蓋も無いことを言うのもなんですが、第一皇女という稀代の御仁がおられるこの皇国内で、彼の御方がおられる陣営と敵対するのは愚策だという考えに至った次第に御座います」

「ブラット様……。その心中、心よりお察し申し上げますわ。私としても不本意なのですが、第一皇女様とだけは対立すべきでは無いと考えておりますの」

「ふふっ。そんな事を仰ってしまったら、最悪不敬罪の罪に問われてしまいますよ? 今のは聞かなかったことに致しましょう」

「そうして頂けると助かりますわ。……それと部隊の件、了解しましたわ。私としてもただ頼むだけでは心苦しく感じておりましたので」

「心より感謝致します、マリアージュ様。これでどうにか我が家が未来へと、首の皮を一枚繋げることが出来ました」


 流石に伯爵家当主だけあって、油断も隙もありませんわね。でも貴族たるものが自身の利を疎かにするなんて、本当の意味で信を置くことは出来ませんの。


 正直今回の件が解決したら伯爵とそれとなく距離を置こうと思っていましたが、もう一度考え直してみる必要がありそうですわ。


 それに皇帝ではなく、娘であるアイヴィスさんを警戒している点もポイントが高いですわ。


 私の感覚が狂ってなければ、皇国の今後は彼女の動向次第で良くも悪くも変化することになるでしょうからね。


「――窮する要件より、横から失礼致します。ブラット様。我ら一同順調に事が進めば、日暮れ前には準備が整う次第に御座います」

「流石よな。だが、だとすれば何が問題なのだ?」

「厄介なことに、他の純血派の貴族達が私兵を招集する動きを見せています。……恐らくはこの機に乗じ、第一皇女の生命を狙う可能性が高いと思われます」

「――なっ⁉ 生命ですって⁉ あ、ああ貴方達は何をなさろうとしているのか、それがお分かりにならないの?」

「こうなってしまっては四の五の言って要られません。ま、マリアージュ様! 急かすようで申し訳ありませんが、今すぐに我らと同行し、第一皇女の元へと向かいましょう!」

「し、仕方ありませんわね! このまま放置してしまっては、最悪融合派と純血派による内戦に発展してしまう可能性が拭いきれませんから!」

「ありがとう存じますマリアージュ様! ――ルータス! 部隊を今すぐに招集しろ! 日暮れ前には”決着”を付けねばならぬ!」


 アイヴィスさんには騒ぎ立てるだけで良いと言われましたが、こうなってはそうも言っては要られませんわね。


 それに私としても妹の安否が気になります。アイヴィスさんに任せておけば問題は無いと考えておりますが、どうにも嫌な予感がしますので。


 ……ラヴィニス。私では遠く及ばない美貌と頭脳を持つだけでなく、戦闘力まで他を寄せ付けない完璧な公爵令嬢。


 公爵家のことを考えるのならば、彼女はアイヴィスさんに貰ってもらうのが一番都合がよく、私としても助かりますの。


 嫉妬? そんなものはとうの昔に捨て去りましたの。私は私にしか出来ない事をなし、その上で二人に(まさ)ってみせますからね。

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