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アヴィスフィア 〜両性を駆使して異世界を謳歌する〜  作者: のんから。
一章 皇国騒動
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一章10話 皇帝崩御01。

「……あなた。アイヴィスを皇帝に指名したという話、本当なのですか?」

「シャルルか。珍しいな、引きこもり体質の君がわざわざこんなところ(私の執務室)まで出向くなんて」

「あなた。私は質問をしているのですよ? どうしてアイヴィスを皇帝に指名などしたのですか?」

「そ、そんなに怒るでない。私とて悩んだのだが、諸々を踏まえ最適解だと判断したのだ。あの子の容姿と能力は元より、二大勢力との婚姻における最大の問題だった後継者の問題も解決したのだから」

「ですが、娘はまだ成人したばかりじゃないですか! それにあの子に皇帝は無理です。……私達とは違い、根が優しすぎるもの」


 シャルルロア。現皇帝アルマス・ロゼル・アインズブルグの正室であり、我らがアイヴィスさんの実母でもある。


 諸々の事象により成人前に嫁いだことと、子を為せる年になってからも中々子宝に恵まれなかったこともあり、側室の二人の方が先に皇子を産んでいる。


 要するにエルクドとフルマンは側室の子となるのだが、それは既に周知の事実なので今回の世継ぎには影響していない。


 あくまでも父であるアルマスは公平で、何よりそういった偏見を嫌い、故に獣人族である難民を自国民として受け入れて支援したのだ。


 事実として、いくらアイヴィスが皇国に貢献していたとしても、今回の後継者問題が解決しないようならば決して皇帝に推挙することは無かっただろう。


 皇家にとって相続問題は何よりも優先すべき由々しき問題なので、そういった意味ではアイヴィスさんが墓穴を掘ったのだ。


「シャルルよ。気持ちは分からぬでもないが、アイヴィスとて皇家の娘。民の血税あってこその貴族であり、貴族である以上その民を護らねばならないのだよ」

「おっしゃりたいことは分かりますが、だからこそあの子は国庫の十分の一にもなる大金を稼いでまで”自分の時間”という”自由”を買っていたのですよ? それなのに頭から押さえつけるような命を下すなんて、皇帝とはいえ許されることではないと思うのですが……」

「ふ、ふむぅ。……いや、だがそれとこれとは話が――」

「――変わりません! 正当な働きには正当な報酬を。あの子は十才の頃から今日までに、多大な利益をこの国に齎してくれているのですから」


 かつてアルマスはシャルルを激情家だと表現したことがあるが、彼とてここまではっきりと自身の考えを否定されたことは今までに無かった。


 なんとか反論しようと皇族の一般的な規範という正論を提示して論じているのだが、相応の働きをしているだろうという客観的な事実を感情を乗せてまくし立てる正妻のあまりの剣幕に押されてしまっているのが現状だ。


 アルマスとしてもその指摘は御尤もであると感じているのだが、皇国に利益を齎してくれる金の卵(アイヴィス)をみすみす逃すなど、為政者として許す訳にはいかないのである。


 ちなみに皇妃であるシャルルは今でこそ貞淑な淑女として傍に控えているが、学生の頃などは勉学などの座学はもちろん戦闘訓練などの実技演習にも余念がなく、元々他国の王族だったことも相まって帝王学すらをもその身に修めている女傑である。


 当然彼女としてもアルマスが為政者としての利を取る”当たり前”を実践していることを理解しているが、それでもなお一人の親として子にできる職業選択の自由という”当たり前”の配慮を優先しているのだ。


 自身が優秀だったからこそそれ以上の才覚を魅せる自身の娘に対し、皇帝という象徴に収まることなくマルチに才能を発揮して欲しいというのが彼女の本音なのだろう。


「……はぁ。しかし、仕方がなかろう? エルクドでは皇帝として頼りないし、フルマンに任せては軍に国を乗っ取られてしまう。他の候補としてはレイニーも居るが、流石に幼すぎるだろう」

「お言葉ですが、皇帝など他に適正のあるものがごまんといます! 今から養子を向かい入れることも可能ですし、あなたが認知していない市井の者との間の子も合わせればその数も増えることでしょう」

「な、なんの話か分からぬが、養子ならば確かに問題はないかも知れぬ。しかしその場合、諸侯を納得させる大義名分が必要となるではないか」

「……あなた。一体何をそんなに焦っていらっしゃるのですか? 内外ともに現在の情勢は概ね良好に推移していますし、そもそもそこまで足早に皇帝を辞する必要性があるのですか?」


 現在のアインズ皇国における政治団体の派閥は、大きく分けて三つほど存在している。


 まず一つ目は獣人を始めとした亜人を国民として正式に受け入れ、異種間同士の結婚も認める”融合派”だ。


 皇帝アルマスや第一皇女であるアイヴィスが所属する一番ポピュラーで数の多い思想であり、アインズ皇国の象徴と呼ぶべき派閥である。


 利点としては、宗教を除く多種多様な文化が混在することで、新たな試みや発見が次々に生まれて発展していくことだ。


 アイヴィスが開発したとされる調味料などもその恩恵を受けたことで、より早く材料などを仕入れるルートを確保することが出来たという経緯もある。


 欠点は見た目や食生活が異なるために、隣人同士でのトラブルが絶えないことが一つ上げられる。


 現代日本だとより顕著だが、自分と違うものは怖いので排除したくなるのがヒトの性。どうしても折り合いが付かない場合、暴力に訴える者も少なくないというのが悩ましい点である。


 二つ目がドルマスが長官として率いる”軍閥派”であり、その名の通り軍が国の舵を切る政治体制だ。


 思想としては完全なる実力主義で、有能な人材は種族や出自に関係なく採用し、積極的をその仲を深める武闘派である。別の派閥のアイヴィスが自国の防衛に関して意義を申し立てることが出来たのも、実績という確かな実力を彼らに叩きつけた結果なのだ。


 しかしその性質故に力の弱いものが淘汰される傾向があり、貧富の格差や持つものと持たざるものの間の差別が深刻化する恐れを秘めている。


 そして最後がエルクドを旗頭として掲げる”純血派”だ。ヒト族以外のヒト種はヒトではないという思想で、アヴィスフィアにおける大多数のヒト族の国家が同様の政治体制を取っている。


 中でも聖教国などの一部の国々は、ヒト族以外のヒト種を奴隷や魔物として扱うことで完全に差別化し、国家の結束を強めることを理想として掲げる極端な政策を採用している。


 それもまた他の種族に比べて数の多いヒト族ならではの思想ではあるが、ヒトの欲望は際限がないために亜人や魔物が居なくても主義主張で対立しているという本末転倒な側面も持ち合わせている。


 ちなみにアイヴィスはこの派閥とは一切の連携が取れていない。相反する主事主張のためしょうがないのだが、それ故に長兄であるエルクドとはあまり接触する機会がなく、さらに周りの妨害が合わさることによりあまり仲を深められていないのが現状だ。


 纏まると、融合派に軍閥派、そして純血派は三者三様に利点と欠点が存在し、一概に何が良いとは言えないのかも知れない。


 で、あるならば、大多数の国のようにヒト族同士で纒まった方が、少なくとも国家間のトラブルは減少傾向になるだろう。


「……これはまだ未確認の情報なのだが、どうやら聖教国が禁忌とされる”勇者召喚”を行ったという噂が巷にて流れているらしいのだ」

「――ゆ、勇者召喚!? ま、まさか魔のものを全滅させるとかいう愚かで厚顔無恥な教義を、未だに他国にまで強制しようとしているというのですか?」


 しかしそんな中でもアインズ皇国は、その利点を差し置いてまで異種間での”共存共栄”を(うた)い、理想として掲げている。


 全ては皇帝アルマスと先祖の意向であり、近年特にその傾向が強まっている。


 宗教団体を認めないのもそれが理由であり、聖教国とは表面上不干渉を互いに貫いているが、何かのきっかけで崩壊する可能性は大いにありえるのだ。


「誠に如何だが、その可能性が高い。おそらくはあの強固だったカラサギを落としたことで増長した一部の司教が暴走し、タガが外れてしまっているのだろう」

「……あの戦争で追った傷も未だ癒えぬでしょうに。……はぁ。つまり貴方はそんな愚か者共の次の標的が、このアインズ皇国であると考えているのですね?」

「ふむ。アイシュ教を断絶しているはずのこの国で聖教国の噂を耳にする時点で既に、直ぐ傍にまで擦り寄っている可能性すらある」

「そんな……。何故アイシュ教徒は歩み寄ろうともせず、全ての亜人を拒絶するのでしょう。……正直に言ってヒトなどより彼ら亜人の方が余程信頼出来るというのに」

「歩み寄らぬからこそ嫌厭され、知ろうとしないからこそ恐ろしい。ヒトは自分の信じたいものしか信じない。だからどこまでも残酷になれるのだろうよ」


 そしてそのきっかけとなりうるであろう凶手の使い手が、アルマスの予想通り既に懐に潜り込んでいた。……それも最悪な形で、である。


 近親であろうと派閥が違えば関わる機会も減る。実際にアルマスが直近でエルクドに会ったのも、アイヴィスが女帝となることが確定したあの日を最後としている。


 ジョーカーを招き入れたバイン。彼の信ずる神こそがアイシュタルであり、本人はその敬虔な教徒だったのである。


「……アイヴィス。わ、私は……貴女の実母なのに何も。……何も、出来ない」

「……はぁ、そう落ち込むでない。私から見てもあいつは特別優秀なのだから無理もなかろう」

「…………」

「理解したのなら下がるが良い。そして、今日から一ヶ月の間後宮にて過ごすことを命じる。そなたと、二人を守るために」

「……承りました。彼女たちにもそう伝えておきますね」


 落ち込んだ様子をろくに隠さずに後宮へと足を運ぶシャルルロア。その様子を気遣う様子で伺っていたアルマスだが、姿が見えなくなると顔をパチンと叩いて気合を入れ直す仕草をしている。


 どっからでもかかってこい。この私が受けて立つ。そういった力強い意思を感じる姿だが、そんな彼に数日後、災難が襲いかかることになるのだった。



「――え、エル。……ぐ、ふぅ。な、なんてことを……。バインき、貴様ぁ……良くも私の、大事な……をこ、……し、おったなぁぁぁっ!」


 フルマンがエルクドらしき人物に下った日からおよそ二週間経過した後、各所へと根回しを働きかける彼の元に伝達兵が駆けつけ、その報を受けた彼が漸く謁見の間へ辿り着いたとき、()()()()()()()()()()()


 そこでは父であり、稀代の名君と呼ばれたアルマスが長兄による剣の一撃で、それは鮮やかにかつ正確にその心臓部を貫かれていたのである。


 客人であると思しき人影が数人倒れている事実から察するに、エルクドが無差別に斬りつけたのだろう。


 そしてそのような暴挙を仕出かした愚息を止めようと、自らの足で躊躇いもなく不用意に近づいてしまったのだ。


 その結果がこの結末だ。奇しくもフルマンが指摘した、我が子への愛情という甘さを付かれ、凶刃に沈むことになってしまったのである。


「――ち、父上ー! 父上大丈夫です……こ、これは――ッ!」

「ご、ごふ。……ふ、フルマン、か? はぁ、はぁ。よく見えぬ、近うよれ息子よ……」

「ええ、ええっ! そうです、フルマンですよ父上! しっかりなさって下さい!」

「……フルマンよ。皇帝を……! あ、アイヴィスを……逃がすのだっ! あ、彼奴は私の、え、エルでは、な――」

「――ち、父上? そんな、まさか……う、うわあぁぁっ! あぁぁぁぁぁぁっ⁉」


 フルマンは即座に後悔した。自分はあのとき恭順するのだけでなく、様子のおかしな愚兄の手綱を握らねばならなかった。


 そして父の甘さを知る数少ない子として立場を鑑み、それを利用される可能性に気が付かねばならなかったのだ、と。


 何より偉大な父の下で学んだというのに、戦争というものを理解出来ていなかった。悪意は突然現れ、一瞬の内に全てを奪い去ってしまうものだったのだ。


 今日まで平和だった皇国は、祖父を始めとした歴代の皇帝と、現皇帝の血と涙によって護られていたのだという事実を彼は、漸く実感として認識したのである。


 手を焼かれた時点で違和感に気がついていたはずだ。以前の彼と比べ、明らかに不審な点しか無かったはずだ。


 だが、それでもそれなのに、自分は皇国に弓を引く悪意を受け入れ、一時的にでも受け入れてしまったのだ。


 フルマンの脳裏にはそんな自身への憤慨と理不尽に対する怒り、そして何より腹の底から湧き出る恐怖が刻み込まれてしまったのである。


 十五才で成人を迎えるアインズ皇国にとって、フルマンの年齢である十八才は立派な大人と行っても過言ではない。


 十五才で主席として軍学校を卒業した彼は実際に、社会に出て既に四年目という中々の年数と数々の実績を持っていた。


 戦争こそ無かったとは言え、疑似敵国を相手に多角的な軍略を叩きつけ、圧倒的不利な状況からの打開を図る素晴らしい戦術をも生み出した。


 しかし、いや。だからこそこのような刹那的で幼稚な方法を本当に取るものが居ることに気がつけず、遂にはエラーを起こして停止してしまったのである。


「……これは一体、何が、どうなっているのですか?」


 そのとき静かだが聞き取りやすく、それでいて明らかなる怒りを秘めた言葉が謁見の間を支配した。


 ――そう。我らがアイヴィスさんがジグルドに連れられ、混沌が渦巻く悪意の場に姿を現したのである。

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