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アヴィスフィア 〜両性を駆使して異世界を謳歌する〜  作者: のんから。
一章 皇国騒動
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一章06話 晴天の霹靂03。

「……それでアイヴィス様は、その縁談を了承したということで相違ありませんね?」

「は、はい……ごめんなさい」

「妻であるうち達になんの相談もすること無う、独断で新しかお嫁しゃんば決めたちゅうことと?」

「ち、ちちち、違うってば! え、縁談だけ! ただお話をするだけだよ! 結婚なんてしないって!」

「お兄ちゃん――シュウくんってば見境無さ過ぎぃ。リンネにまで手を出したのに、まだ満足してないのかな?」

「ちょ、人聞きの悪いこと言わないでよ! それにほらあれはうん、あくまでも”自慰”だから!」


 ジト目で睨む三人娘のご指摘にタジタジとなっているのは言わずもがな、俺ことアイヴィスさんである。


 原因は当然アインズ皇国初の女帝となること……ではなく、ヴェネティア帝国辺境伯家のご息女との縁談の件だ。


 簡潔に言えば俺は、お米に目がくらんで父様に言質を取られてしまったのだ。くそう、流石は皇帝。的確に弱点を狙うとは恐ろしいぜ。


 皇女である以上政略結婚というのは特に身近な話ではあるが、件の相手は俺に何かと突っかかってくるじゃじゃ馬娘なのだ。


 何よりも俺はそんな愛のない結婚が嫌だったからこそ、アインズ皇国に対して別のアプローチを仕掛けていたのだ。それなのに父様に不意をつかれ、現在のような状況に至ってしまっているのだから情けない。


「……はぁ。やはり多少無理をしてでも、アイヴィス様の傍を離れるべきではありませんでした!」

「そうやなあ。這うてでも付いていけば良かったばい。アイちゃんな抜けとーところがあるけんね」

「シュウくん。リンネは悲しいよ。どんなときでも頼りになるシュウくんは、一体何処に行っちゃったの?」


 正直に言って、反論の余地がない。何せ自分でも馬鹿な約束をしてしまったと思っているし、縁談のことを考えるだけで頭痛が痛い。


 ラヴィニスやシュアに呆れられるのは慣れているけど、リンネちゃんもわざわざ出てきて残念なヒトを見る目で見なくてもいいじゃんか。これでもお兄ちゃん、反省してるんだぞ? ごめんってば。


 ちなみにヴェネティア帝国とはリンネちゃんが住んでいた魔の森を挟んだ隣国で、数年前から同盟関係を結んでいる親交国でもある。


 きっかけは魔の森から命からがら逃げて来た(くだん)のじゃじゃ馬娘と護衛の騎士達を救ったからなのだが、まさか同盟を結ぶまでに発展するとは思わなかった。


 というのも隣国だけあって、少しでも自国の領土を増やさんと魔の森に挑み続ける仮想敵国(ライバル)でもあるからだ。


 結果として両国共に魔の森に惨敗しているわけなのだが、それでも仲良くなるには難しい立場であることに変わりはない。


 確かに魔の森住まう魔物は強力で、中へ進めば進むほどに帰還が困難になる魔境でもある。


 しかしその分貴重な鉱物などの資源が多数確認されており、為政者としてはその利権を他国に奪われるわけにはいかないのだ。


「何処に行ったと言えばアイヴィス様、シュウ先生はどちらに行かれたのですか?」

「あー、うん。流石に俺と同一人物だと言っても信じてもらえないだろうから、近衛隊の分隊長として雇うことで差別化することにしたんだ」

「それなら確かに私達と居ても違和感がありません。……ただひとつ気になるのですが、よく許可が降りましたね」

「身元はお母さんが保証してくれたし、皇国は実力主義な面があるからね。リンネちゃんがちょっと偏ったスキル配分にしたせいか苦戦したけど、半神の半身は伊達じゃなかったよ」


 三人娘と一晩過ごした次の日、ユニちゃんの淹れた朝チュンコーヒーを一口飲んだ俺たちに、とんでもない衝撃が走った。


 ……あれ? 俺の分体(シュウくん)ってもしかして今客観的に見たら、一国の皇女と公爵令嬢、それに亡国の姫にまで手を出したヤベー奴なんじゃなかろうか。


 もし仮にこれが公になったら、せっかくリンネちゃんが苦心して創ってくれたシュウくんが、それは残酷な目にあって処刑されてしまうのではないか、と。


 そこからの俺たちの行動は迅速だった。


 まず気絶したように眠る二人とリンネちゃんを起こさぬようにこっそりと部屋から抜け出し、その足で使用人達にバレないように速攻で俺たち用の大浴場に駆け込んで、最終的に昨晩掻いた汗やらナニやらをシュウくん()アイヴィスさん()は無心で洗い流すことにしたのだ。


 自分二人が隣通しで黙々と身体を洗うというのは精神的に不具合を起こしかねない案件だったが、『並列意思』のときと同様に意外と直ぐに慣れるということを知った。


 何故かリンネちゃんまで意識が戻らなかったのは不思議だが、おそらくは同じ神格を持つが故に『超速再生』などの一部スキルや特性が機能不全を起こしたのだろう。


 ともあれ、シュウくんは身の安全を確保するためにお母さん――ミクさんの元へ、アイヴィスさんは帰還の報告とその詳細を伝えるために父様――皇帝の元へと歩を進めたというのが事の経緯である。


 ちなみに俺が『分魂』を使えたのは、お母さんの加護である『化け猫の恩寵』のお蔭だ。効果は言わずもがな、”もう一つの魂を得る”ことだ。


 そしてそれにリンネちゃんがアレンジを加え、主にえっちな方面に特化した性能を持たせたのが、”変態きんにくん”こと”シュウくん”なのである。


 彼女曰くこだわりは『不滅』というコストの高いスキルを敢えて避けて『不老』だけにすることで、『超速再生』や『絶倫』などの特別なスキルや特性を盛りに盛ることが出来たことらしい。


 分相応という言葉の通りヒトには限界があり、その限界を数値化して範囲内で能力を選ぶことで身体や精神への負担を最低限に抑えることが出来るのだそうだ。


 俺には理解出来ないが、リンネちゃんが望む望まないは別としても、伊達に何度も多種多様な人々に憑依していたわけではないのである。


 余談だが、前世の俺を忠実に再現しようとしなければ、今のアイヴィスと同等のスペックにすることも可能だったそうだ。でもリンネちゃんとしては、そこだけは譲れなかったらしい。


 以前の俺にそこまで思い入れがあるとは知らなかったが、そのこだわりに深い愛を感じてしまった俺に異論などはあるはずもなかった。


「アイちゃん。真面目な話、即位するまではじぇったいにうち達から離れんごとしぇなつまらんばい」

「あー、やっぱりシュアも気づいてる? エルクド兄様を囲ってる奴らがちょっと良からぬことを企んでるっぽいのよね」

「――そうなのですかっ⁉ 確かに普段より好機な視線を感じるとは思っていたのですが、まさかこの中に?」

「んー、そこの貴族男性と使用人は黒だね。少し前に神威スキルの『形ある想像』で『不偏なる親愛』の一部権能である”好感度可視化”をユニークスキル『好感度(フィーリング)』として創造したんだけど、彼らはレッドアラート――つまりは”敵対関係”にあるようなんだ」


 流石はシュア。俺と違い、スキルに頼らずとも”敵意”を持つものの存在に気がつくとはね。獣人ならではなのだろうか。


 ラヴィニスはラヴィニスで不穏な空気を察して目を光らせていたみたいだし、可愛いだけじゃなくて頼りにもなるなぁ。


 ――ハッ! ほっこりしてる場合じゃない! ……ふむ。あれは確か以前、リリティア公爵家に取り入ろうとしたカラム伯爵家の長男――バインだったな。


 あの系譜にはラヴィニスを虐めていた姉――マリアージュを”奴隷落ち”に追い込んだ際に十分に”分からせた”はずだったのだが、足りなかったか?


 あー、でもそうか。嫌われてるのは当たり前か。マリアの奴、外聞だけは良かったからな。憧れていたやつも大勢居たのだろう。


 女帝として君臨して有る事無い事でっち上げれば、敵対関係にある勢力を纏めて処断することは容易いだろう。


 だが逆に分かりやすく反意のあるやつを放置することで、水面下に隠れているもっと深い闇を認識して対処することも可能だ。


 そもそも全ての人間に好意を持ってもらおうなどという夢見事を言うつもりはない。貴族社会で生きようものなら、嫌われる覚悟も持ち合わせていなければ身が持たないのである。


「そう言えばうちらん感情も、数値化して見ることが出来るって言いよったっけ。改めて思うと何か裸で歩きよーごたって落ち着かんね」

「でもアイヴィス様にとっても私達がこんなにも貴方を思っているんですよってことが常に伝わるわけですから。ふふっ、大変ですね?」

「重々承知しておりますって。俺としても責任感を常に意識出来るし、何より絶対に幸せにして見せるって思えるから。存外、悪くはないよ?」


 ラヴィニスとシュア、そしてリンネちゃんだけは何があっても守り抜く。他全てを切り捨てる寂しい生き方をするつもりは毛頭ないが、いざというときのために覚悟だけは常日頃から持つように心がけねばな。


 しかしまぁ創ったばかりで熟練度が足りないとは言え、『フィーリング』のメリットとデメリットが浮き彫りになる形になってしまったな。


 現状では大まかに、好き(プラス)嫌い(マイナス)無関心(0)の三種とその数値しか分からない。


 仮に俺に好感を持っていたとしても”反意”があれば裏切る可能性があるし、逆に俺個人は嫌いだけど統治する上では”恭順”している場合もある。


 そして、今の俺にはその違いが分からないのだ。女帝になった後、物事の指標を得ようとする際にこのスキルに頼り過ぎるのは愚策かもね。


 余談だが、実はシュウくんにもこのスキルは実装されている。リンネちゃん曰く、行為の際の機微を瞬時に判断するためらしい。


 ここまで来ると本当にえっちなのは俺じゃなく、リンネちゃんなのではないかという疑惑が俺の中に産まれている。……言わないけどね?


「アイヴィス様、如何なさいますか? 場合によってはこのラヴィニス、今すぐにでもアイヴィス様の剣となることを厭いません!」

「いや、放置しよう。一ヶ月近く空けたせいで何やら不穏分子の活動が活発化していたみたいだし、ここは様子見して流れを見ようか」

「良かっちゃか? ほぼ確実にエルクド様に対して、既に何かしらんアクションば取っとーやろうことば予想するっちゃけども」

「うん。大丈夫、問題ないよ。エルクド兄様は何も出来ないから。仮に俺の予想を超えて来たならば、そのときは兄様に皇帝を任せればいい」


 俺が知らぬ空白の一ヶ月で、エルクド兄様が父様――六代目皇帝を引きずり下ろすほどのネタを用意出来たとは思えない。


 あくまでも予想でしかないが、十中八九獣人排斥派か女神教の盲信者に持ち上げられていい気になっていただけだろう。


 我が兄ながらどうしようもないが、あれはあれで神輿にするには最適な人材なのだ。


 ……はぁ。いつもどおり俺に担がれておけば、遠からず皇帝の座までのエスカレーターを用意してあげたのにな。


 排斥派にしろ女神派にしろ、今の俺に取っては邪魔以外の何者でもない。もしシュアやリンネに悪意を向けようものなら相応の報いを受けてもらわねばなるまい。


 俺にとって大事なのは血の繋がりではなく、”俺にとってどれだけ大切な存在なのか”の一点だけである。


「うー。シュウくんがリンネのことで熱くなってくれてるの、嬉しいなぁ。ねぇお兄ちゃん、ギュってしてもいい?」

「ちょっ、リンネちゃんっ⁉ 駄目だよ出てきちゃ! この場所結界張ってないの、知ってるでしょ?」

「ご、ごめんなさい。……で、でもシュウくんがリンネ達のことで真剣になってるの見たら我慢できなくて……」

「――んっ! ……はぁ、困ったなぁ。リンネちゃんが可愛すぎて、怒る気力がなくなっちゃったよ……」

「えへへっ。お兄ちゃん好きっ! 大好きっっ!」


 ぐぅぅ可愛ぁぁぁっ! 何もうホント! 可愛すぎるだろうがよぉぉぉっ‼‼ なにコレ辛い! 胸がキュンキュンして死んじゃいそうだよ!


 ……いや、マジでさ。俺、このままだとリンネちゃんに壊されそうなんだが? はぁ、はぁ。は、排斥派や女神派なんて、全く以て非じゃないってばよ。


 それに何かラヴィニスとシュアも距離が近いし、もう駄目。幸せすぎて飛んじゃいそう。……ふへっ、えへへへへっ。


 よし! お兄ちゃんに任せなさいっ! 大丈夫大丈夫。エルクド兄様なんてちぎって投げて肥やしにしよう! うん、それが良いな!


「だ、大丈夫なのでしょうか。何かアイヴィス様、何処かに意識を飛ばしちゃっているのですが」

「幸しぇそうだし良かやなか? 大丈夫。アイちゃんなやるときはやるヒトやけんね!」


 ――ハッ! あ、危ない危ないトリップしてた。まぁでも実際今はどうすることも出来ないし、なるようにしかならないね。


 一応保険をいくつか用意しておいて、いざというときにはこれを頼りに皇国から脱出しよう。


 お母さんにはコタロウが付いてるし、ユニちゃんはそのまま従者として連れ歩けば問題ない。巻き込んじゃうことになるけど、そこは真摯にお願いすることにしよう。それに多分だが、頼れば答えてくれると思うんだよね。

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