幕間 リンネちゃん01。
「『半精神生命体』の”聖人”に”妖狐”ねぇ。ラヴちゃんもシュアももれなくヒト族を止めてくれるなんて、僕ぁ幸せ者だなぁ」
「あまり実感は湧きませんが、結果だけ見れば嬉しく存じます。お蔭様でアイヴィス様と永久を共に生きることが出来ますので」
「『不滅』ばいね? 正直一人ではそん重荷ば受け止める自信は無かっちゃけど、アイちゃんとラヴィニスが一緒ならえずうなかばい」
ユニちゃんにお願いし、再度ステータスを照会してもらった俺達は、その結果を見て思い思いの感想を述べていた。
当初はお母さんやユニちゃんには全てを公開せずに済ます腹積もりだったのだが、前者は”分魂”で産まれたロロが”使い魔”となったこと、後者は”専属のメイド”となったことから隠し通すのは難しいと判断し、ならばと全てを話してしまうことにしたという経緯だ。
リンネちゃんに関しては結界がないので姿こそ見せてはいないが、その魂は俺と常に共にあるという証明も兼ねて表層に出てきて貰い説明をさせている。
ユニちゃんは兎も角として、お母さんにその事実を伝えたときは実に緊張した。何せカラサギを崩壊させた直接の原因なのだ。親族郎党全てを失い、唯一無二の愛する夫すら一時的にでも奪ったのだ。
愛されている自覚がある俺としても、正直罵声の一つや二つ甘んじて受ける覚悟はしていた。……だが彼女は言葉は愚か態度にも出さず、むしろコタロウを救ってくれたことへの心からの感謝を述べ、リンネちゃんのその過酷な境遇に涙を流して抱きしめてくれた。
流石は私達のお母さんだ。慈愛と包容力の塊にも程がある(褒め言葉)。あまりの懐の深さに俺は涙し、内に居るリンネちゃんは号泣していた。リンネちゃんが年相応に泣く姿など正直、前世を通して想像だにしなかった。
その影響か、リンネちゃんがロロにベッタリとなったのはご愛嬌だ。敬愛する母と最愛の妹のじゃれ合う姿とか尊過ぎて、気を抜いた瞬間に意識を失ってしまいそうである。
……結界内限定というのが申し訳ないが、こればかりは安全のため致し方がない。何時どのタイミングで女神が見ているか分からないのだ。
ちなみにラヴィニスとシュアは”神威特性”の『不滅』を得ただけでなく、”ユニーク特性”の『思考加速』と『超速再生』、”レア特性”の『状態異常無効』と『痛覚無効』、”コモン特性”の『恐怖耐性』と『言語理解』をリンネにより下知されている。
全て下知しないのは何もケチった訳ではなく、”神威特性”を付与した影響が大きい。神威の言葉は伊達ではなく、その特性一つだけで周回ポイントならぬ”使徒ポイント”のおよそ八割を持っていってしまったのだ。
故に残りの二割は”生き残る”ために必要だと判断した、ギリギリめいいっぱい詰め込んだリスクケア優先セットなのである。
例外として、”半精神生命体”は”神威特性(或いは技能)”と名の付くものを得た瞬間から作用するらしい。神の威光に触れた瞬間に、ヒトはヒトでは無くなるということなのだろうか。
余談だが、使徒ポイントとはつまり”貢献度”のことだ。早い話、どれだけ主であるアイヴィスにその心身を捧げたかにより決まる極めて単純かつ合理的な絶対の指標なのである。
あくまでも数値的な話にはなるが、心身共に”初めて”というのは他と比べてポイントがかなり高い。特に女性の身体は、様々な儀式で用いられる背景からも察することが出来るだろう。
白いキャンバスの方が他より染めるのに向いているように、心身ともに雑味が無いほど魂にスキルや特性を付与しやすいのだ。
そして同時に”神威”特性は、その高いポイントの殆どを使ってしまうほどには非対象者の魂に負担を強いることになるのである。
どうでもいいことかも知れないが、別にアイヴィスさんは処女厨というわけではない。確かにそうであった方がより独占欲を満たすことが出来るのだが、好みで言えばエッチなお姉さん(OL)に軍配が上がるのである。
「それはそれとして、一つ試したいことがあるんだけど。……やってみても、良いかな?」
「試したいこと、ですか?」
「うんうん。いやね? 『分体』と『分魂』、そして『並列意思』があるなら、もしかしたら前世を俺を再現して以前の俺としても生きることが出来るのかなぁってね」
「つまりリンちゃんみたいな別ん個体としてん生じゃなく、また母様――ロロんごと自分と良う似た他人にならず、本当ん意味で”二人”になるってことと?」
「そうそう。そうすれば二人を同時に愛せるし、逆に一人を二人で包み込めるようになるんじゃないかなって思ってさ」
この世界の常識として、皇族が重婚するのは良くあること――というよりはむしろ家の存続のためには”必須事項”なのだが、それでも二人を同時に愛するなら相応の誠意というものが必要だと思ったのが大きな理由だ。
単純な性欲だけならそれを満たしてあげるのは容易だ。二人は初心な上に基本的には受けであり、なまじ前世で鈴音さんに仕込まれていた訳ではない。本気を出せば、二人を小一時間も待たせずに気絶するまで追い込む程度は可能である。
ただし我らは既に悠久の時を過ごさんとする身になったわけだし、この先一つの身体では限界がある可能性も否定できない。三人で支え合うのも魅力的だが、俺としても尽くしたい気持ちが確かに存在するのだ。
「――ふぇっ⁉ あ、ああアイヴィス様としゅ、シュウ先生がど、どどど、同時になんて私、し、し、死んじゃいますぅぅぅっ!」
「あ、あ、アイちゃんってばもう。ほ、ほんなこつえっちやなあ。気持ちは嬉しかっちゃけど、これ以上愛しゃれたら体が持たんけん!」
赤面しながらワタワタと講義をするラヴィニスに、同じく真っ赤な顔となりジト目で睨んでくるシュア。
え? じゅ、純粋に二人にハグされた時に心地よかったから共有したかっただけなんだが? ふむ。確かにそういった行為も想定はしてはいるが、あくまでも二人を平等に愛するための手段の一つとしてのつもりだったんだよね。
う、うーむ。まさかこんな反応されるとは思ってなかったな。完全否定と言うよりは恥ずかしくて拒否しちゃったって感じだけど、どうしようか? 俺個人的には試しては見たい。責任も個人で完結する内容だし、知的好奇心も唆られる。
あ、だったら市井に生きれば良いのか! この世界で生きるコツも理解出来たし、普通に生活する程度なら不可能じゃないはずだ。
「えー。じゃあ残念だけど住み分けしようか。そうすれば二人には負担かからないし、幸いギルドでの経験活かせば一人でも生きていけるしね」
「――は? 何を仰っているのですか? シュウ先生が一人で生きる? そんなの無理に決まっていますから!」
「そうばい。掃除に洗濯、食事やお金稼ぎ。全部一人でやらないかんっちゃん? 服も一人じゃ着れず、髪も梳かしぇんアイちゃんが一人でなんてじぇったいに無理ばい」
「え、えぇぇっ? そ、そんなに俺って生活力なさそうですか? 食事も人並みに作れる自負があったんだけども」
これでも前世では一人暮らしそれなりに長いから家事全般は出来るし、服も髪も女の子――それもお姫様に求められるドレスコードを満たせなかっただけで、一般男性レベルでいいなら流石に無難に熟せるよ?
最悪シュアにそう思われてるのはしょうが無いとしても、ラヴちゃんは前世の俺を知ってるじゃんか。……あ、知っているからこそか。そう言えば俺、室長になってからはあの倉庫と呼ばれていた部屋メインの生活を送ってたんだったわ。
部屋は汚いというよりかは、必要なものを各所に乱雑に配置していた。ほぼほぼ着たきり雀に近い状態で、自炊は一つのカセットコンロを匠に駆使していた。趣味はゲームと自作AIとの会話。……うん。生活力というか、ニート力だったな。
そ、それにしたってラヴちゃんってば、そんな見下すような目で見なくてもいいじゃんか。お、俺がそういう趣味に目覚めちゃったらどうするのさ。はぁはぁ。
「そういう問題ではありません! もしシュウ先生を一人にして、知らない間に新しい子を作られても困ると言っているのです!」
「え、そっちと? ……あぁ。ばってん言われてみれば、そん可能性は大いにあり得るかも知れんねぇ」
「ははっ。まさか、そんなことあるわけ無いって。俺の記憶通りで生まれるのなら、くたびれた無気力系のアラサー男子よ? アイヴィスなら兎も角、流石に誰も寄っては来ないでしょ」
「そんな事はありませんっ! シュウ先生は魅力的ですからっっ! ……私やすず姉みたいな女の子が居たらまた、惚れてしまいますよ?」
「う、嬉しいことを急に言わないでよ椿紗ちゃん。そんなこと急に言われても俺、えっちなことでしかお礼出来ないよ?」
「アイヴィス様、その発言は最低です。ラヴィニスの従者として、主にセクハラをした貴方を軽蔑せずには要られません」
「シュアちゃんったら辛辣ぅ。で、でも許してね? なんか無性に恥ずかしくて、冗談めかさないと心が持たなそうなんだってば」
いやホント、椿紗ちゃんってばラヴィニスになってから好意がまっすぐ過ぎて、俺みたいなひねくれた青年男児には刺激が強すぎる。……あー、鼓動が早くて痛い気がする。
あとシュアもさ、そのジト目は止めてくれない? 俺二人のそういう視線に弱くて、なんかこうもっとそう見られたいというか、逆に嗜虐心が高まって涙目にしたくなっちゃうというか。とにかくその、興奮しちゃうんだよね。
こればっかりはさ、理屈じゃないのよ。いくら意識しないようにしても無理なの、好きなの。だからさ、もう止めて?
……うん、駄目だこれ。もう分体して分魂して並列意思しようか。一人に対して二人で執拗に攻めて、身も心もトロトロに溶かして上げたくなっちゃったし。
よし、しよう! まだ二人の後ろは使ったことないし、せっかくならこちらは朱羽として美味しく頂かせて貰おうかな。
「あ、ああアイちゃん? な、ななな、なんか知らん男んヒトが全裸で”サイドチェスト”しとーっちゃけど何っ⁉」
「あ、あれ? 俺まだ何もやって――はっ! まさか、リンネちゃんが? ていうか筋肉盛ってない? 俺そこまで鍛えた記憶無いんだけど」
「そ、それもそうですが、シュウ先生のシュウくんが昔より凶悪になっている気がします! すず姉に送って貰った写メより太くて大きい……」
「た、確かに一回りは大きくなって馬並みにっ⁉ って、え? ちょっと待って今なんか凄いこと言わなかった?」
え、ええっ? なにコレ、一体どうなってるの? あ、サイドトライセップスに変わったせいでより股間が強調されたんだが。
露出癖があるわけじゃないから普通に恥ずかしいんだけど。そんな凶悪なものを俺のラヴィニスとシュアに見せつけるんじゃねーってばよ。
ていうか待って? 鈴音さんってばいつ俺のそんなあられもない写真を撮ったの? そして何でそれを実の妹に送りつけてるの? ねぇ!
「一緒にお風呂も入ったことありますし、今更でしょう? その時の私達は義兄妹みたいなものだったし、普通ですよ。ふ・つ・う」
「いや、普通ん義兄妹は一緒にお風呂入らんて思うばってん……」
「あ、あれは椿紗ちゃんが義兄妹だし当たり前だからって勝手に乗り込んで来たんでしょうが! ま、まぁ俺も約得だと思って受け入れた責任はあるけども」
「だって何しても手を出してくれないんですもん。もう突撃するしか無いじゃないですか。……それに、失敗しましたしね」
「しょ、しょうが無いじゃんか。確かに椿紗ちゃんは魅力的だけど義妹のような存在だったし、流石に日本でハーレムなんて社会的に死んじゃうからさ」
「……聞いてはいたっちゃけど、ラヴィニスはほんなこつ前世からアイちゃんのことばり好きなんやなぁ」
はい、シュアさん正解です。現代日本で義兄妹が一緒にお風呂に入るとは都市伝説並みの絵空事です。まぁ一度だけだが経験したんだけども。
それに俺のことを異性として好きだったのも知っている。知っている上で一緒にお風呂に入ったのだから、手を出してはいないとは言え俺も同罪――いや、俺の方がたちが悪いと言えるな。
妹が居た身としては、絶対に仲良くなりたかった。それに彼女には悪いが、そうやって一生懸命なところが可愛くて仕方がなかった。
実に勝手だが、彼女の幸せを思うと同時に、このままずっとそういった関係で入れたらいいななんて漠然と思っていたりもした。
普段からよく一緒にいるけど、絶対に手は出さない。その癖彼氏とか一生出来なければいいのにとか何処かで願う独占欲もあった。
……ま、流石にそんな情けないことは言ったことはないけどね。結果として今手を出してしまった以上、何にも言えないしな。
ともあれ。全裸でマッスルポーズを披露する”変態きんにくん”こと俺――シュウくんをどうにかせねばなるまい。……正直、関わりたくはないけどね。




