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アヴィスフィア 〜両性を駆使して異世界を謳歌する〜  作者: のんから。
一章 皇国騒動
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一章03話 使い魔(お母さん)02。

 所変わって夜烏のギルド長室に、アイヴィス含めた三人とコタロウ、ベニヒメことミク、そして母を名乗る謎のハチワレ猫が一堂に会していた。


「『二重魂魄(フタエノミタマ)』……?」

「そうニャ。猫には複数の命があるって伝説、アイちゃん知らないかニャ? その伝説に肖った伝説(レジェンド)スキルなのニャ」


 つまり、リンネちゃんみたいな分体ってこと? いや、でも彼女は女神アイシュタルが自身の一部を用いて創った別の存在らしいし、ちょっと違うのかな?


 うーん。”精神”は同じだけど、”肉体”は異なるってことかな。分体のように一部を切り離して別の個体にするわけじゃなく、”分裂”に近いのかも知れないね。


 そういえばソメイヨシノとか彼岸花って同一遺伝子だって言うし、お母さんって”ヒト”というより”花”に近いのかも。


 ふむ。実にお母さんにぴったりなスキルじゃないか。素晴らしい。ぱぁぁと咲いたような笑顔もふわふわな雰囲気も相まって”調和”してるね。


 ちなみに話しているのは子猫となったお母さんの方だ。意識しているのかは不明だが、猫なので語尾にニャを付けているのがまた愛らしい。


 言い忘れたが、レジェンドスキルとはその名の通り伝説上の人物が所持していたユニークスキルを指すものと、伝承などの言い伝えにて現在まで語り継がれてきたスキルの二種がある。


 より知名度が高いほどにその効果が向上することからも、ヒトの信仰によってその強弱が変動する神威スキルに近いと言えるが、関連性は未だ解明されていないのが現状だ。


「私はまだこう見えて、猫又としては若い個体だから魂は”二つ”しか無いのだけど、一番長命なもので最大”九つ”もあるものも居るそうよ」

「本来用途は”死を回避する保険”みたいなものなのだけど、カラサギの巫女特有の『分魂(ワケミタマ)』というユニークスキルで、どこぞの邪神のよう分体のような用途でも使用できるのニャ」

「――ギックゥ⁉」

「あらあら邪神だなんて。確かにコタロウ様を一時的に奪った憎き相手ではありますが、()()()女神様相手にそんな口を聞いたら罰が当たりますよ? ふふふっ」

「これは失敬したニャ。……とまぁこうしたように、同じ魂ではあるのだけど独立した意思だから、自問自答を客観的に行うことも出来るんだニャ」

「へ、へぇ〜。凄い便利そうだけど、色々と扱いが難しそうなスキルなんだね〜」


 び、びっくりしたぁ。お母さん、リンネちゃんとその正体について感づいたのかと思ったよ。なぜか分からないけど、俺の嘘ってお母さんには全く通用しないんだよね。


 流石に今回はそもそも嘘付く前に言ってすらいないから大丈夫だと思うけど、うん。これはより警戒しないといけないかも知れないね。


 それにしても大事な保険を俺なんぞに切ってもよいのだろうか? ギルマスだから前線に出ることは殆ど無いだろうけど、それでも緊急事態には対応しないと駄目だろうし。


 うぅ〜。正直お母さんが傍に居てくれるとめちゃくちゃ安心するし本当にありがたいんだけど、ここは断ったほうがいい気がする。


 ちなみに『分体』は文字通り身体を構成する一部を使用して()()()()を創るスキルで、”猫又”固有の派生スキルである『分魂』は”予備の魂”にその時の自分の精神を”投射コピー”して別の個体を創るスキルである。


 どちらも独立した個人を生み出すスキルだが前者は”別人”、後者は”同じ精神を持つ他人”と、その効果が少々異なっている。


 今回は子猫という形で創造したようだが、”擬人化”というレアスキルを使えば元となった当人と()()()()姿となるだろう。要するに”予備の魂”は産まれた次期やその役割によって、少々見た目が異なるのである。


 余談だが、スキルとは身体ではなく”魂”に刻まれるものとされるためか、全てとはいかないもののその一部を生み出した個体に与えることが出来るそうだ。


 分かりやすく例えるなら、”ゲームの周回プレイ特典”だろうか。限られたポイントでレア度や効果によって必要ポイントが変動するスキルを選択するタイプの奴だ。


「あぁ。ちなみに一度”分魂”したら二度と元には戻れないから、その子のこと宜しくお願いね?」

「……え?」

「そうなんだニャ。自分だから分かるんだけど、私ってとても嫉妬深い性質があるのニャ」

「ふふっ、実はそうなの。だからたとえ()()()だって分かってても、私以外の()()がコタロウ様に近づくのは許せないのよね」

「お、おぉふ……」

「だからアイちゃんに貰ってもらわないと私、途方にくれちゃうんだニャ。お願いだから、”使い魔”としてそばに置いて欲しいんだにゃぁ」


 そして両者共に共通する点が、”生み出された後は独立した個体となる”ことだ。つまりはお母さんの言う通り、自分によく似た雌猫(他人)となるのである。


 ……それにしても。ひ、ひぇぇっ。今まで全く気が付かなかったけど、お母さんってめちゃくちゃ重たい束縛系地雷女だったのぉぉぉっ⁉


 ちょっ、シュア! 私、そんなの聞いてないよっ! あ、全然こっち向いてくれないってことは知ってて黙ってたなぁ〜?


 なまじ自覚して制御してるから余計に怖いよ! コタロウくんなんてあんなに凛々しくなったはずなのに、全てを悟ったお坊様みたいに遠くを見ちゃってるんだけど! ……もしかして、過去になにかあったのかな? い、いやいや止めよう! たぶん聞かないほうがいいと思うんだよねっ!


 ちょ、ちょっと考える時間を稼ごう! 目に見えている地雷を踏み抜くのは皇帝の系譜としての血が許さないし、こ、こここ、怖いからっ!


「あ、あれ? そういえば今気がついたんだけどお母さん、なんか髪色変わってない? とても良く似合ってるけども」

「あらあら、ありがとう。でもそう、不思議なこともあるものねぇ。実は私、元々名前の由来通りに体毛は紅色一色だったのよね」

「”赤白黒”の三色になったのは、私が巫女だったときに行った”降霊の儀式”で、カラサギの土地神の”白様”と”黒様”を降ろした時の”後遺症”みたいなものなのニャ」

「ふむ。その節は本当に大変だった。……前回の聖戦とやらが”死地”ならば、あの日のあの場所は等しく”地獄”と言えただろうからな」

「ふふふっ。あの時のコタロウ様、本当に勇ましゅう御座いました。あまりの格好の良さに私、微塵も我慢が出来ませんでしたからね」


 当時を思い出しているのか、妖艶な笑みでコタロウを見つめるお母さん。初めて見る”女”としての側面だが、なるほどこれは中々に苛烈と言えるねぇ。


 髪が紅色に戻った影響も多少なりあるのだろうけど、やはり七年ぶりに想い人に出会えたのが大きいのだろう。珍しくはしゃいでいる気がする。


 見つめられたコタロウも恥ずかしいのか、少し気まずそうにしている。おいおい妬かせるねぇお二人さん――って、コタロウくんキミ煤けてるよっ⁉


 え? 降霊の儀式? 聞こえないし、聞きたくない。……え、白様? 黒様? な、何言ってるの? 聞きたくないって言ってるじゃんか。


 わざわざ地獄の門を叩く必要ないじゃん! いいの! 今はそれよりこの可愛いらしい子猫ちゃんの処遇の方が大事だから。そういうことだから。


 後は宜しく頼むよコタロウくん。待たせた七年の月日を全て取り戻す勢いで奥さんを慰めてあげてね。……え、助けて欲しい? 大丈夫大丈夫、キミなら絶対何とかなるって!


「わ、分かったよお母さん。二人がいいなら一緒に行こ? 使い魔がお母さんだなんて私、最高に嬉しいよ!」

「ベニヒメ様が一緒に居てくださるなら心強い。アイ共々、末永くご指導ご鞭撻のほど宜しくお願い致します!」

「え、ええっ? 母様も一緒に来ると? い、いや別に他意はなかっちゃけど恥ずかしかて言うか何ちゅうか……」


 うん、これがきっとこの場での”正解”だと思う。お母さんって”女”としてはすごく面倒くさそうだけど、”母”としてなら他に類を見ないほど素晴らしい女性だからね!


 面倒見はいいしご飯は美味しいし、多少我儘言っても許してくれるし、何より本当の我が子のように可愛がってくれる。


 何より両親が忙しくあまり合うこと出来なかった俺の中のアイヴィスとしての感情が、彼女の存在を求めている。そうだ、何も迷う必要はない。


 ベニヒメとしてのお母さんはコタロウが必ず護ってくれる。ならば俺はこの子猫となったこの可愛らしいお母さんを全力で護ればいいんだ!


「そうと決まれば早速名前を付けないと! う〜ん、白と黒でしょ? ……そうだ! ”ロロ”にしよう!」

「敢えて下から取るのですね……とても可愛らしい名ですが」

「それよりもうちの母様に勝手に名前ば付けとーことにたまがって? 確かに同じベニヒメやと区別付けづらかとは思うっちゃけども」

「え? でももう私()()使い魔(お母さん)だし。シュアにはベニヒメお母さんが居るんだから貰っても良いでしょ? ね?」

「玩具じゃないのですからそういう言い方は不謹慎ですよ? ……アイ、後で私にもモフらせて下さい」

「独占欲ばまるで隠す気がなか! いや、そげな正直なところもうち実は好かんやなかだけど……」

「ラヴちゃんとシュアだって私のものなんだから、勝手にどっかに言っちゃ駄目だよ? そもそも逃がす気は無いけどね」


 考えてみたら、独占欲が強くて惚れやすい俺みたいな女が一番の地雷なのかもね。なまじ権力もお金も容姿も揃ってるせいか歯止めが聞かなくなっている気もするし、間違っても彼女達を不幸な目に合わせることだけはしないように努力せねばな。


 両手に愛くるしい二人の嫁を抱え、心には最愛の妹が住み、懐は愛しの母が温めてくれる。……なにこれこの世の天国なの? 最高すぎるんだが。


 ……あれ? もしかして俺、死ぬの? 消える前の蝋燭の灯火的な状態じゃあないよねっ⁉ やだよ、まだ死にたくないよ!


 と、とりあえずラヴちゃんがロロを撫で回したいみたいだから渡してあげよう。こ、こういう小さな気遣いが後々大事になってくるものだからね。


 ていうかシュアちゃんったら俺の独占欲むき出しの言葉を聞いてずっとモジモジしてるんだが。え? め、めっちゃ可愛いけど、チョロ過ぎん?


 ……ふむ。俺としては実にありがたいんだが、シュアもラヴちゃんのこと言えないのでは無いだろうか。


「そういうことだからコタロウ。お母さんのこと、宜しく頼んだよ?」

「ご命令とあらば勿論承ります。……何よりその命は、私にとっても望むものでありますので」

「――はぁぅっ⁉ こ、コタロウ様ぁ……」


 うんうん。これで、万事解決かな。……何となくこの後コタロウくんが捕食されてしまう気もしないでもないが、それもまた人生って奴だよね?


 大丈夫、安心していいよコタロウくん。なにせキミの主でもある俺は、”半神半人”の上に”不滅”持ちだからね。……身も蓋もない言い方をすれば、”底なし”だから!


 いつかはお母さんに勝てる日が来るよ! 前世で俺が出来なかったそのミッションインポッシブル(捕食者からの勝利)はキミに託すから頑張って欲しい!


 俺? 俺は今のところ全勝だよっ! 前世で失いかけた男としてのプライドは、二人が優しく包み込んで護ってくれているからね!


「というわけだからユニちゃん。今日からお母さんじゃなくて、私のお守り――つまり専属メイドとして活動してね?」

「それは勿論構いませんが、シュア様の役割と被ってしまうのでは……」

「その点は大丈夫! シュアは今日からずっと、”私の妻”として生きて貰うからね! 寝食はもちろん、いついかなる時も一緒だから」

「畏まりました。では本日よりユニは、アイヴィス様(マスター)の専属メイドとしてお仕えさせていただきますね」


 お母さんの身辺警護はコタロウに任せればまず間違いない。国一つをその一身で護った豪傑だ。愛すべき人の一人や二人……あ、二人目なんて居たらお母さんに殺されちゃうか。……コホン。とにかく、問題はない。


 問題があるとすれば俺の世話――性的な意味じゃない――をするものが居なくなってしまうことだ。


 勿論出来ることは自分でするつもりではあるが、着付けやメイク、ヘアケアなどは正直自身がない。出来ないことは無いんだが、シュアに比べるとあんまりな出来になってしまうのだ。


 当然シュアに頼めばしてくれるだろうが、その前日に俺の欲望が溢れ出ていたとしたら行動することすら困難にさせてしまう可能性がある。


 早い話、死活問題なのだ。俺としては手を抜くなんて絶対に出来ないししたくないから容赦をするつもりはない。


 二人を本気で愛するというのは俺にとって、生半可な覚悟で挑んで良いものでは無いのである。……もちろん、性的な意味で。


 その点ユニちゃんなら安心だ。流石に見た目小学生高学年の彼女に欲情なんてするはずもないし、お母さんの世話をしていたので身の回りを任せられる。


 欲を言えばもうちょっと愛嬌が会ったほうが”皇女お付きのメイド”としては良いのかも知れないが、クール系メイドが好きな俺をしてはむしろ有り寄りの有りである。


「妻。……ふ、ふふっ。では私は、”ラヴィニスの専属メイド”として行動させて頂きますね」

「え、それじゃあ意味がないじゃんか」

「いえ、そんな事はありませんよ? 私達に一人ずつメイドを付けたら、アイヴィス様がその子達に手を出し兼ねませんから」

「信頼度ゼロなんですかっ⁉ た、たしかにラヴィニスと一緒の時と場所で”初めて”を奪っちゃったのは私だけど、酷いよぉ〜」

「両親ん前でなんてことば言うんかっ! ――ハッ⁉ ……い、いえ。信頼してないわけではなく、メイドの方が盛ってしまう危険があると言いたかったのですよ」

「えー、まぁそういうことなら別にいいけどぉ。なんか釈然としないなー。ま、それはそれとして、そうと決まればチャチャッとステータス更新してお城に帰ろっか。もしかしたらお父様もお母様も、私の帰りを待っているかも知れないしね」


 というわけで、俺付きのメイドがユニちゃん。正妻のラヴィニスと彼女付きのメイド兼側室のシュア。使い魔という名のペット枠がお母さんことロロ。


 勿論お父様の了承を得て漸くその立場が確定するわけだけど、今までも反対など一度もされていないし問題はないだろう。


 まぁ長女とは言え破天荒で嫁の貰い手も居ないと思われているだろうからそもそも俺に関心など無いでしょうし、仮に政略結婚などさせようとしたら”公爵令嬢誘拐事件”のときのような大事にして見せるしな。


 ふふっ。つまりは俺の悠々自適な自堕落ライフはもうすぐそこまで来ているのだよ。さぁいざ往かん、理想の箱庭へと! ふは、ふははははぁっ!

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