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アヴィスフィア 〜両性を駆使して異世界を謳歌する〜  作者: のんから。
序章 異世界転性
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幕間01話 ラヴィニス01。

「……おねーさんは凄いけど、椿沙ちゃんってフツーだよね?」


 比較されるのは当たり前。むしろ自慢の姉が褒められて喜びを感じる程にはシスコンである自覚があった。


 神苑学園付属高等学校一年生。多感な思春期真っ盛りであるこの時期は、私にとっても例外では無かった。


 早い話、中学校で築いた人間関係が一度リセットされ、新たな門出を迎えることとなるのだ。


 そして何よりこの学校は、三年間クラス替えが無い。つまり最初のグループを見誤ると、その後は地獄が待っている可能性があるということだ。


 でも大丈夫、問題は無い。すず姉の影に隠れ、コソコソと過ごした陰の者である私は中学卒業と既に消失した。


 すず姉仕込みのメイクや服装に抜かりは無いし、学園の教授も務めてるから困ったらいつでも駆け付けてくれる。


 そう、今の私は誰がどう見ても立派な陽キャなのだ。


 隙など塵の一つもあるはずが無い。……姉離れ? ちょっと何を言ってるか分かりませんが。


 ともあれ、話を振ってきたのは所謂クラスの上位カーストに属する陽キャ女子の一人――日向さん。


 たまにこう言った爆弾のような話題を落として場を困惑させるが、当人は気にした様子は無い。


 実際に他の同級生の女の子達が固まってしまっているので失言ではあったのだろう。


 だが私にとって姉が凄いのは常識で、それに対して思うところなど一つも無い。気持ちいいほどに他意が無かったのだ。


 ちなみに余談だが、この輪の中に男の子は一人としていない。女の子には、秘密がたくさんあるのである。


「あははっ。そうなんだよ、すず姉ってホント凄いの。この前一緒に買い物に行ったら、ジュジュのモデルやりませんかって大人のお姉さんに声掛けられたのに「妹とデート中だからそんな暇無い」って断っちゃってさ。私の方がそんなこと言っていいのってドキドキしちゃった」

「ジュジュ!? あのジュエルジュリアンのこと!? うわぁぁっ! 凄ぉぉぉっ!!」

「今一番勢いのある服飾ブランドが出してる雑誌だっけ? 流石は天条のお姉さんだ。その名の通り、格が違うね」


 ジュエルジュリアン、略してジュジュ。そして日本人とロシア人のクォーターで絶世の美女、ジュリアン・ゴトー。


 出演した映画はミリオン確実と言われるほどに人気女優である彼女が手掛けた最先端のファッション誌で、その雑誌に取り上げあられたモデルは日本に収まらずに世界の目に留まることとなる。


 私個人は余りファッションを全般としたお洒落には疎いのでよく知らないが、世間一般的にはそれは大層な出来事らしい。


 日向さんは私に向けてキラキラとした目を向けているし、そのグループの一人であるイケメン女子――風間さんも頻りに感心している。


 今思えばだが、二人の会話の端々に兆候はあった。あくまでも地味な私に付き合っているのは”すず姉がいるから”だ、と。


 そして私もカースト上位の彼女達にすず姉を認めて貰うことで、間接的にその些細な承認欲求を満たしていたのだろう。


 後悔先に立たず。今となってはどうにもならないことだが、あの時私日向さんの言葉の裏を理解し、()()()()()()()()()()、その後の展開は変わったのかも知れない。



「なんか二組の雲野くん。天条さんのこと、好きらしいよ?」

「……え、それマジ? 俺密かに天条さん狙ってたのに~」

「ぷっ。お前じゃ相手にされるわけないだろ。何なら俺の見立てでは、あのいけ好かないイケメンですらフラれるね!」

「雲じゃ天には及ばないってか? よし、座布団を二枚やろう」

「――ぶはっ! 誰が上手いこと言えって言ったよバーカ!」


 いつも通り登校し、いつも通り日向さんと風間さんと軽い雑談をし、たまたま出会った”校内カースト一位”と称される上地さんと合流して共に教室へ向かい扉に手を掛けた時、別のクラスの同級生による何気ない会話が飛び込んできた。


 いつの間にやら季節は過ぎて夏が終わり、青々とした木々が恥じらうように赤く染まり始める過ごしやすい季節だ。


 そう。秋晴れと呼ばれる晴天において、まさに霹靂といった事件が起こってしまったのである。


 話題に上がった雲野くんとは、女子であれば皆が憧れる様な爽やかなイケメンかつ高身長かつ頭が良いという、三拍子そろった少女漫画におけるダーリンポジションの男の子だ。


 私個人としては話したことが余り無いので分からないが、どうやら日向さんと風間さんも彼のことが気になっているらしい。


「……ふーん。雲野くんて、椿沙ちゃんのこと好きなんだぁ~、へー」

「日向。ただの噂だ、まだそう決まったわけじゃないだろう?」

「…………」

「――そ、そうだよ! 雲野くんが私のことなんか知ってるわけないじゃん!」


 ジト目で私を睨む日向さんに、口では否定しつつもその口元をヒクつかせる風間さん。そしていつもは清楚でニコニコしている上地さんまでもが無表情で私を見つめてきた。


 鈍感な私でも流石にコレは不味いと感じて咄嗟にへりくだってみたが、自分で言っててありえないなとも感じていた。


 何と言っても()()すず姉の妹だ。先生や生徒の親兄弟すら知らない人はいない、母校の伝説の妹なのである。


「はぁ? そんなわけないじゃん。いいなぁ、お姉ちゃんが有名だと皆に認知して貰えてさぁ~」

「――日向! ……でもまあ、確かに羨ましいくはある。私がいくら努力しようとも、まるで足元にも及ばないしね」

「…………」

「――そ、そんなことないよ! 日向さんは可愛いし、風間さんは格好いいもん。……上地さんは、言うまでもなく天使だしね?」


 イライラしているのか舌打ちまでする日向さんと、諫めつつもここ数か月を振り返りしょんぼりとする風間さん。


 こと上地さんに至っては、まるで女神に人類を滅亡させよと命令された使徒を彷彿とさせるほどに感情が消え去ってしまった。


 不味いと感じるほどに焦りが生まれ、上手いフォローの言葉が浮かばない。私はそれほど人付き合いが得意じゃないのだ。


「――そ、それに私は雲野君のことなんて興味無いし、そもそも下の名前すら知らないんだからっ!!」


 故に日向さんより巨大で、風間さんよりも容赦のない、上地さん――は分からないが、特大の爆弾を投下してしまう。


 シンと静まり返る廊下、視界の端で走り去る人影。先程噂していた同級生の会話は既に聞こえず、ただただ静寂がこの場を支配する。


 言葉だけ受け取れば、何と自意識過剰な台詞だろう。皆が憧れるイケメン男子のプライドを傷つけ、あまつさえ知らないと宣ってしまったのだ。


 フォローするつもりで他の誰かを貶めるという悪循環。


 姉のようになりたいという一心でこれまで生きてきたので、他の事柄に意識を向ける余裕なんてなかった。


 しかしせめて皆の目に留まるイケメンと、流行りの楽曲やドラマなどにはしっかりと学んで置くべきだったのかも知れない。


「……あーあ、椿沙ちゃんサイテー。雲野君ショックで逃げちゃったじゃん」

「アイツのあの顔――ぶふっ! ……いや、失礼。そうだな天条、言って良いことと悪いことがあるからな?」


 ニヤニヤと笑いながら私を責める日向さん。先程の失言がそんなに嬉しいのか、今日一で機嫌がいい。


 そしてそれは風間さんも同じだ。言葉遣いこそ丁寧だが、嬉しさを噛みしめるかのようにはにかんでいる。


 どいつもこいつもヒトの失敗を喜びやがって。そんな暗い気持ちが内心に湧き上がってくるが、どうにか理性で抑え込む。


 もし仮にこのタイミングでもう一度爆弾を起動しようものなら、明日以降の私周辺に無限の荒野が出来かねないのだ。


 伊達に中学の三年間ぼっちで過ごしてきたわけじゃない。空気の一つくらい、読もうと思えば読めるのである。


「二人共、メッ! だよ? 天条さんだって悪気があって言ったわけじゃないんだから、ね?」

「うわぁぁぁん。上地さん優しい、好きぃぃぃっ!」

「――へぁっ⁉ す、好き? ……あ、ありがとぉ」


 可愛らしい膨れ面で二人を叱る上地さんと、ふんわりとした満面の笑顔を私に向けて振舞う上地さん。


 ……え、何? もしかして上地の”上”って、”神”の間違いなんじゃないの? 宗教弾圧を避けるために泣く泣く改名したんだよきっと!


 日向さんみたいに悪口――というか思ったことをそのまま言わずに優しく包み込むし、風間さんみたいにプライド高く気取るわけでも無くやんわりといなす柳のような御仁だし。


 そう。やはり校内カースト一位の名は伊達ではないのだ! ……なんで私、この子が居るグループに入れているんだろう?


 男子から学年問わず何度となく告白され、あまつさえ女子からも求愛されているが、その悉く「皆と友達でいたいから」の一点張りで崩さない身持ちの固さ。


 今ではその牙城の余りの高さに”信仰の対象”とされている節があり、実際にその現状に違和感が皆無なのだ。


 ある意味この学園で、すず姉と肩を並べることが出来る唯一の女の子なのかも知れないな。


 と言っても、すず姉は”烏丸朱羽”とかいう何処かの朴念仁と付き合っているから少し事情が異なるのだけども。


 朱羽さん。すず姉の彼氏で、私のゲーム友達。三流の田舎大学出身のくせに、すず姉の紹介で何故か学園の研究室の室長をしている普通のヒトだ。


 現在はうちのクラスの担任が産休に入ってしまったので、”臨時教員”として私のクラスを受け持っている。


 顔は悪くないけど取り立ててイケメンという訳でも無く、かと言って勉学やスポーツに優れているわけでもない。


 しいて言えばゲームが上手で、自分でも何やら自作している趣味のヒトで……後は私に過剰に優しいくらいだが、すず姉を取った相手なので正直いけ好かない。


 全く、あんなののどこがいいのだか。私にはさっぱり分からないよ。確かに優しくて面倒見もいいけど、それだけだもん。


陽葵(ひまり)ちゃんに庇ってもらったからってニヤニヤし過ぎだから! ――え、もしかして椿沙ちゃんってそっち系?」

「何っ! やっぱりそうだったのか天条! ……くっ、まさかこんな身近に毒虫が紛れ込んでいようとは……」

「……て、天条さんって、お、おおお、女の子が好きなの? ふ、ふ~ん。そうなんだぁ」

「――ちょっ、えっ!? い、いやいや違うから! ちゃんと男のヒトが好きだから! や、好きでも何でも無いんだけどね!? そ、それに女の子が好きというか、上地さんが好きなだけで……」

「て、天条さんったらもう。好意が真っ直ぐすぎて私、困っちゃうよぉ」


 日向さんったらなんてとんでもない勘違いをするの!? ていうか風間さん、半年以上同じグループにいる私を毒虫扱いは、流石に酷いと思うんだけど。


 ともあれ。……あぁ、上地さんがあまりの衝撃に身体をプルプルさせてお顔を真っ赤っ赤にしていらっしゃる。尊い。天使。


 その他大勢なんて気にせず、彼女の反応だけを楽しめたらどれだけ学園生活が充実しようか。……なんて、現実逃避してる場合じゃないな。


 ていうか何で男のヒトってワードで朱羽さんが浮かぶの? おかしいおかしい、私別に何とも思って無いし! だって好きどころか嫌いまであるし! ほ、本当だしっ!


(椿沙ちゃんってゲーム上手だよね。俺もそれなりに自信あったけど、椿沙ちゃんには適わないなぁ)


 ああもうっ! 褒めるな出てくるな! ほんともー。ちゃん付けしていいなんて私、一言も言ってませんからね朱羽さん!


(……え? 何で見つめるのって? いや、ゲームしてるときの椿沙ちゃん、良い顔してるなーって思ってさ。喜怒哀楽の表現が豊かっていうか見てて飽きないというか。ん~、そうだな。一言で言うなら、”めっちゃ可愛いな”ってね)


 ちょっと。なんで急に口説いてくるんですか朱羽さんのすけこまし! す、すず姉に言い付けますよ! まったくもー。


「あれ。私もしかして、また言い過ぎちゃった? 椿沙ちゃん、帰ってこないんだけど……」

「あぁ、こうなった天条はしばらくは駄目だな。私も口が過ぎた、反省しないといけないね」

「ふふっ。おめめをグルグルさせちゃって、天条さんって本当に可愛いなぁ。……はぁ、持って帰りたい」

「「……えっ?」」

「――こほんっ。いえ、何でも無いですよ?」


 ――ハッ!? しまった何にも聞いてなかった! あれもこれも朱羽さんのせいです! 私、絶対に許しませんからね!


 だいたいすず姉がいるのに仕事で忙しそうだからって私の部屋で遊んだり、一緒に料理作って驚かせて上げようとか言って嬉しそうにニコニコしたり、待ってる間に疲れたからって無防備に寝顔を晒したり、危機感が足りません!


 勉強を教えてくれようとして、実際に基礎的な内容は分かり易かったですけど、応用になると臨時教師のくせにてんで駄目でしたし。


 専攻が違うからとかなんとかいってましたが何というか、隙が多すぎます! 全く何でまたこんな朴念仁を好きに――いや、すず姉は好きになっちゃったのか。……はぁ。


「お、おいなんか雲野が凄い形相で走って行ってしまったんだが。……え? もしかして俺、嫌われてる?」

「うぎゃぁっ⁉ で、出ましたね朱羽さん! ここであったが百年目っ!」

「なんか面白いことになっているけど、どうしたの椿沙ちゃん? それに学校では一応、”先生”って呼んで欲しいんだが」

「面白くありませんし、朱羽さ――シュウ先生のせいですから。責任取って下さいっ!」

「分かった取るから落ち着きなさい。……ほら、キミ達も授業始めるから教室に入った入った」

「「「はーい」」」


 え、え? い、今責任取るって言ったよね? 言ったよね! 言質取ったよ⁉ もう撤回できないからね、シュウ先生!


 ねえちょっと、こっち向いてよ! 嘘だって言ってももう遅いからね! すず姉と私、しっかりと面倒見て貰いますから。


 え? なんでそんな残念なヒトを見る目で見るの? ――あ、ちょっ! て、手を繋いで教室に入ろうとしないでシュウ先生!


 は、恥ずかしいよぉ。そんな引っ張らなくてもちゃんと授業受けるからぁ。あぁ、皆に見られてる恥ずかしいぃぃっ!


「ほらほらさっさと席につけー。早くしないともれなく、”先生と手を繋ぎながら授業を受ける権利”を強制的にプレゼントすることになるからなー?」


 それセクハラですよ!? 私じゃ無かったら訴えてますから! まったくもう。本当にシュウ先生は、しょうがありませんね!


 ともあれ。私はこの時点で既に、自分のしでかしたことをすっかり忘れてしまっていたのだった……。

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