序章11話 情欲解放01。
「それじゃあお兄ちゃん、改めて覚悟はいいかな?」
「大丈夫、いつでもいいよ」
「お義姉ちゃんも、シロちゃんもいい?」
「はい、問題ありません」
「ばっちこい。何が起きたっちゃ受け止めちゃるけん」
俺の中へと宿るため、リンネは魔力の錬成に集中し始めた。夜の闇より深い漆黒の魔力光から察するに、相当に純度が高い陰属性の魔力が練られていることが傍目からでも理解できる。
魔力光とは魔力を練る際に発せられる光の事で、木は緑、火は赤、土は黄、金は銀、水は青など、それぞれに対応した独自の色を持っている。
基本的に純度が高い程原色に近づくが、個性によって差異がある。
その上軍隊が秘匿しているクラン魔法の一つにその色を偽る陰属性の魔法も存在するので、魔力光はあくまでも指標でしかない。
ちなみにリンネの得意属性は陰属性。契約や召喚などを主とし、中でも精神支配や肉体改変に長けているそうだ。
女神の一部故に彼女にしか使えないクラン魔法も存在するらしいが、一番特異なのは特性の一つである『不滅』だろう。
当然といえば当然だが、その能力の全てが俺のものとなる。予期せぬ成長だが、実にありがたいことだ。
「お兄ちゃんと私は身体を共有する一つの存在になるから、どちらかと話すときには名前を呼んでね?」
「一応俺の身体のどこからでも一時的に出ることも出来るんだったっけ?」
「うん! 同化すると言っても共存だから、ある程度の自由は残されると思う。ただどんな形であれ、お兄ちゃんの一部とリンクしてないとダメだよ」
「要するに、有線コードで繋がれているようなものなのですね。理解しました」
「注意点としては、魔力の濃い場所か結界内以外では外に出れないこと! 女神様がどこで見てるか分からないからね」
「七年前ん戦争では、女神ん御威光ば受けてなお生き長らえた尾耳ん男性に宿って逃げたんやったよね?」
「そうだよ! アストラル体を隠すにはエーテル体の中って、昔から相場は決まっているからね!」
リンネは思い出したとばかりに話し出す。一方で魔力反応はどんどん強まっているので、女性が得意とするマルチタスクというやつなのだろう。
……ふむ。こればっかりは生物学的に女子になっただけの俺には出来ない芸当だな。
ともあれ。尾耳の男性は生き残ったものの意識は混濁していて、明日も怪しいほどには今にも死にかけていたそうだ。
恩人をそのまま死なせるわけにはいかないと思ったリンネの機転でその男性は今、彼女の召喚獣という立ち位置に落ち着いているらしい。
女神の一部であるリンネは、彼が回復するまで一時的に自身の権能である『不滅』を下知しようとしたが未熟故に上手くいかず、そういった手段で助けるに至ったのだという。
不滅を与えられないならば、不滅である自身の下僕としてしまえばその恩寵を授けられると判断したのだろう。
妹を救ってくれた大恩人だ。俺個人としてもいずれ、何らかの方法で感謝を伝えなければならないな。
「最後にお兄ちゃん。副反応で、肉体改造が行われるから激痛に備えてね?」
「え、激痛?」
「うん! 同化を開始した時点から『不滅』の効果で消滅することは無くなるけど、本来は赤ちゃんからの成長過程で行う女神の媒体としての魔力的な身体強化を、半強制的に行うことになるから色々と大変なんだ~」
「ちょ、ちょっと待って聞いてないんだけど」
「気持ちが舞い上がっちゃって、言うのを忘れちゃった! てへっ」
あぁぁっ! この娘、確信犯です!! ぐぬぬ、引くに引けない状況を作り出した上でそんな大事なこと言うなんて。
くっ、なんて兄ちゃんの扱いを弁えた妹なんだ! 知ってたら数日ごねて何かしらの妥協点を見つけたのに!
それに消滅はしないけど、死ぬ可能性はあるってことだよね? リンネちゃん誤魔化してるけど、つまりはそういうことだよね!?
「あぁんもう! そんな顔で睨まないでよお兄ちゃん。頑張って痛いの我慢したら、お兄ちゃんが夢見て止まない凄ぉいスキルが手に入るから!」
「むむっ? それは一体、どのような素敵なスキルなのですか?」
「えっとね、『転性』っていうユニークスキルだよ! 男の子なら女の子に、女の子なら男の子にいつでもなれる、とっても珍しいスキルなの!」
「な、ななな、何ですとぉぉぉっ!? つ、つまりは女の子故に我慢してたあんなことやこんなことが出来てしまうということですかリンネちゃん!!」
「う、うん! そ、そうなんだけど。か、顔が近いし、目が充血してて怖いよお兄ちゃん」
リンネちゃん曰く、人柱として最適な個体が女の子とは限らず、そういった場合の対策としてそのような素敵スキルを授かったそうだ。
どうやら女神と同性である女性を人柱とすることで親和性を高め、神威の効果を上昇させることが出来るらしい。
それが如何程の効果を齎すかは定かでは無いが、俺にとって重要な点はそこではない。
つまり俺の嫁――ラヴィニスと、えっちが出来るってことかぁぁぁっ!! ……その一点に限るのである。
何度夢見てきたことだろう。同性同士故にその肢体を拝むことは幾度となく出来るものの、最後の一線だけは超えることが出来ない。
その苦痛ともいえるもどかしさがまた切なく、いつか叶うならばと願わない日など今の一度も無かったのだ。
「リンネちゃん、大丈夫。全てお兄ちゃんに任せなさい。そんな痛みなど、如何程も効かないと証明してあげよう」
「わぁぁっ、どうしよう。私を受け入れてくれたときは感動した台詞なのに、今はただ煩悩に支配された最低な言葉に聞こえるよぅ」
「はっはっは。嫌だなリンネちゃん。俺がこういう性格なのは、キミが一番知っているだろう?」
「……うん、知ってる。そしてそんなお兄ちゃんが別に嫌いじゃない自分に、ちょっと自己嫌悪してるかな」
辛辣ぅ。リンネちゃんったら、そんなゴミを見る様な目で兄ちゃんを見ないで欲しいな。ちょっとだけ、ほんのちょぉぉっとだけ興奮しちゃうからサ。
何とも素晴らしいことに、転性は一度行えば二回目以降はいつでもどこでも可能らしい。
身体情報であるエーテル体とアストラル体に記憶されているためだそうだが、俺には難しくて理解が出来なかった。
そして大事なのはその事実だけだ。一時的な痛みなど、大事の前の小事に過ぎないのである。
「ぐあぁぁっ!? う、ぐぅぅぅ、ぬぁぁぁっ!! ぐぞがぁぁぁぁぁぁっ!!!!」
――そう思っていた時期が俺にもありました。
……これは痛い。陣痛が鼻からメロンと表現されるが、この痛みはそのメロンが全身の血管を循環してるのではないかと錯覚するほどだ。
今なら胴体を真っ二つにされようが、強酸で半身浴をしようが何の痛痒も感じないだろう。
それにしては余裕があるねと言いたいと思う。……だが、それは大きな間違いだ。実際に余裕が有るわけでは無く、三日目にして『痛み耐性』のスキルが思考出来るまで強化されただけである。
このままいけば、『痛覚無効』のスキルも夢ではないだろう。振り返れば初日は糞尿を撒き散らしながら気絶と覚醒を繰り返し、二日目はとても復唱できないような下品な罵倒を叫び散らした。
三日目にして漸く唸ることで思考するまでに至ったが、ラヴィニスとシュアは途轍もない醜態を晒してしまったのは間違いない。
これはあくまでも予想だが、四日目は羞恥で動くこともままならない事態となるだろう。百年の恋も冷めるほどには酷かったという自負もある。
《お兄ちゃんもう少しだけ頑張って! 後一時間程で痛みは治まると思うから!!》
これが内側から聞こえる? ……そうか、これがリンネちゃんと”一緒になる”っていう感覚なのか。
「ぐ、ぅ。……なるほど。これは、悪くないね」
率直な感想だった。痛みは未だ退かないけど、前世から内に抱えていた孤独感が根本的に解消されていくように思える。
アヴィスフィアでラヴィニス――椿沙ちゃんと出会えたことで、今の今まで実感出来ていなかったその懐かしい感覚。
忘れることなく覚えていた古い記憶ではあったが二人、いや三人に会えたことで雪解け水のように跡形もなくなったのだ。
「あ、あああ、アイヴィス様? もしや、痛みに耐えかねておかしくなってしまったのですか?」
「アイちゃん。遂に開いてはならん新しか扉ば……。こん事ば母様が知ったら、きっと悲しむことやろう」
少しやつれた様子で覗きこむラヴィニス。そしてどこから出したのか美しい刺繡の入ったハンカチで涙を拭うふりをするシュア。
甚だ不満だが、この三日間あのような醜態を晒した俺を献身的に介護してくれた二人を思えば我慢など容易い。
そう。ヨヨヨとわざとらしく崩れ落ちるシュアを見ても冷静だし、本当に俺が被虐趣味に目覚めたと勘違いして本気で心配するラヴィニスを止めようとも思わない。
決して痛みに屈したわけでも、現状を受け入れたわけでもない。私は皇女。少々失礼な我が騎士と従者に誰よりも寛容な、一国の尊きお姫様なのだから。
ともあれ、痛みは既に無い。どうやら予想通り、『痛覚無効』のスキルを習得出来たようだ。
少々状態に不安が残るが、新スキルである『転性』が本当に上手くいくのか、早速試してみようではないか。
それ如何では、ようやっと悲願であったラヴィニスと心身共に結ばれることが出来るのだ。ふ、ふふふ、ふははははははっ!!
「……あ、あの、アイヴィス様? そ、その股間に生えた立派なモノは、もしかしなくても、だ、だだだ、男性器ですか?」
――どうしてこうなった。何度でも言おう。どうして、こうなった……っ!?
おかしいだろ! 確かに転性はしてるよ? で、でも胸も……その、女性器も健在なんですがががっ!?
くっ。ここ数日の顛末のせいで、全裸だったのが仇となった。こんな半端な性を、隠すことも出来ないなんて……。
「……あ、アイちゃんのアレ、凄く、大きいです。どうしましょう。私、あんなの大きなモノを受け止めきれるでしょうか?」
――ちょっ!? えぇ、何言ってるのシュア! いつもの愛らしい博多弁はどうしちゃったの? そんなに目をグルグルさせて、普段の冷静沈着なキミは一体どこに行ってしまったんだいぃぃっ!?!?
ラヴちゃんも顔を手で隠しつつも頬を紅潮させているし……もしかしなくても、興奮してます?
あれ? こんな気持ち悪い身体じゃ流石にと思ったけど、案外勢いで何とかなっちゃいそうじゃない?
『転性』に関しては後日練度を高めるとして、目の前に置かれた美味しそうな果実を頂くことこそが今すべき最善なのでは?
据え膳食わぬは男の恥というし、何より死線をさまよったせいか興奮が収まらない。――えぇい、ままよ!
……いや、待てよ? 身体こそ拭いて貰っているが、清潔とは言いづらい。それに状況としてもロマンティックとは程遠い。
俺やラヴちゃんは兎も角、意外にピュアなシュアは下手したらトラウマになってしまうのでは? ……ぐぬぬ、それは不味い。
た、助けてリンネちゃん。兄ちゃんこのままじゃ、女の子を無理やり襲う変態さんの仲間入りしちゃうよぉぉぉっ!
《そ、そうだよね。お兄ちゃんもその、男の子だもんね? ……大丈夫。可愛いリンネがその欲求、まるっと全て解消させて上げるからねっ!! ――『情欲解放』》
「ぐぁぁっ!? な、何だこの感覚は! う、ぐぅ。こ、これはヤバいっ!」
「アイヴィス様!? だ、大丈夫ですか? もしかしてお身体の調子がどこか――ひゃぁっ!?」
「……ごめん、ごめんねラヴちゃん。もう駄目だ。我慢、出来ない……っ!」
ちょ、ちょっとリンネちゃん違うよっ!? な、何で後押ししちゃうの? 兄ちゃんもうこれ自分じゃ、どうにもならないよ?
不味い不味い不味い。な、ななな、何なんだこれはっ!? か、身体が言うことを聞かないし、脳髄が沸騰しそうだ!!
うぅっ。ラヴちゃんの事、かなり乱暴に押し倒してしまった。それに……あぁっ。滅茶苦茶いい匂いがするせいか、視界がクラクラして、喉もカラカラになってきた。
「……いいですよ、アイヴィス様。どうかお好きなようになさって下さい。私は頑丈なので、多少の無理は問題ありませんから」
「だ、だけどこんな流されるような形でなんてそんなの――っ!?」
「――んっ。……ふふっ、私は貴方のお嫁さんなのですよ? ぜ、前世通しては、ははは、初めてですが、いつでもお役目を果たせるように既に覚悟は出来ていますから、その。……だ、大丈夫ですっ!」
触れる様なソフトなキスで全てを受け入れる覚悟を示すラヴィニス。もはや言葉は要らないだろう。というか何も、考えられなどしなかった。
可愛い。好きだ。目の前の羞恥で真っ赤に染まる女の子が、愛しくてもどかしくて仕方がない。
こうなってしまってはどうにもならない。……頭がもう、真っ白なのだから。
「…………。――あぁぁっ、好きだラヴィニスっ! 大好きだあぁぁっ!!」
「――ンあぁぁっ!? わ、私も好き、大好きですアイヴィス様あぁぁっ!!」
月並みだが、好きだというラヴィニスへの純粋なる愛の言葉以外に開く口を持てない。今はただ彼女に触れ、その全てを貪る獣へと堕ちることしか出来ない愚者と化してしまった。
前世の経験などまるで最初から無かったかのような一方的で乱暴な俺の行為を、上気した幸せそうな表情で包み込み受け入れてくれる彼女。
時折痛そうな表情も浮かべるが、それすらも興奮に繋がってしまい、暴走した俺の性欲は留まることを知らなかった。
『不滅』という特異な特性のせいか全く衰えることない欲求。健闘してはくれたが、ラヴィニスは数戦前から事切れたかのように動かなくなってしまった。
ふと不安になり、彼女の心臓付近に手を当てて脈を確認する。
結果だけで言えば無事だったが、無理をさせてしまったのは間違いない。
「――ひぁっ!?」
ふと、事の顛末を最初から最後まで見ていた者と目が合った。恥ずかしさからか顔を真っ赤に染め、それでもこの場から去らずに傍観していたシュアその人である。
一人でしていたのだろう。彼女の下半身はその予想が間違いないと確信するほどに湿っていた。
目線に気が付いたのか、先程と比較しても赤いところが無いくらいに肌を紅潮させるシュア。
……あざと可愛い過ぎる彼女をみて我慢できる男など居ないだろう。今宵の獣は恐れを知らず。視界に収めた極上の餌を逃すなど、ありえるはずが無い。
余談だが、シュアとの初めては両者の準備が万端に出来ていたためか、ラヴィニスとの情事に比べてスマートにリード出来たと自負している次第である。
閑話休題。
行為は三日三晩の後一日休息日とし、その一日で『転性』を極めたアイヴィスにより、更に三日三晩続いたことを此処に記す。




