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アヴィスフィア 〜両性を駆使して異世界を謳歌する〜  作者: のんから。
序章 異世界転性
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序章01話 異世界転性01。

処女作のリメイク作品。

 神秘的なエメラルドグリーンの湖に浮かぶ白亜の古城には、まるでおとぎ話のように若く美しいお姫様が住んているという。


 湖面に反射する完璧に近いピラミッド型の峰々も相成り、そこにはまるでこの世ならざるほどに麗しい一枚絵のような絶景が広がっていた。


「ど、どうしてこうなった……」


 思わずと言った様子で呟き、溜息を吐きながら鏡を見つめる一人の少女がいる。


 少女の目には胸元まである可憐なピンクベージュの髪を三つ編み×ハーフアップに纏め、眉毛をへの字にしてヘーゼルアイを潤ませる自身の姿が映っていた。


 白人としては平均よりも低めの身長に、やや膨らみを携えた肉体とバランスの良い手足。もう少したっぱがあればモデル体型と言えなくも無いのだが、それを補って余りある――いや、むしろだからこそその可愛らしい容姿が際立って見えるのだ。


 見るからに高価な純白のドレスを身に纏い、そのうえで専属侍女による計算されつくされた淡い化粧で飾る彼女は、まるで地上に舞い降りた天使と見紛うほどである。


 故知らぬ他者からすれば、それほど素晴らしい容姿を持っているというのに何を物憂げに悩む必要があるのかと、文句の一つも出てくることは請け合いなのだ。


「失礼致します。アイヴィス様、お心の準備は整いましたでしょうか?」


 コンコンとノックした後、返事を待たずに入室する一人の女性騎士。一見非礼に思えるが、アイヴィスと呼ばれた少女は反応を示さない。その様子からも、二人が特に親しい間柄なのだということが分かる。


 呼びかけられた当人は未だ放心状態でブツブツと呟いており、どうやらその侵入に気が付いていないようだ。


 溜息を吐き少女に近づく女性騎士。何を思ったのかガバッと両手を広げ、後ろから覆いかぶさるようにハグを試みた。


「――ふぁぁっ!? な、何々? ……って、ラヴちゃんか! お、驚かせないでよっ!」

「……申し訳ありませんアイヴィス様。あまりの可愛らしさに不肖ラヴィニス、我を忘れて抱きついてしまいました」

「か、かかか、可愛い!? も、もうっ! は、恥ずかしいからそういうのは口にしなくて良いんだよ! ……全くもう」 


 余程驚いたのか、仰け反るように身体を硬直させるアイヴィス。ラヴィニスと呼ばれた女性騎士は、少女の抗議には応じずに尚も抱きしめている。


 耳元で囁かれた賛辞に身体をさらに強張らせて動揺し、それを悟らせまいとプイっと斜に首を捻って逸らしている。


 しかしながら、その全てを理解しているのであろうラヴィニスにさらにギュッと抱く力を強められどうしようもなくなってしまい、顔を真っ赤にしながらあわあわと小動物のようにばたつくのが精一杯のようだ。


 抵抗と呼ぶにはあまりにも可愛らしい所作も徐々に弱まり、最終的には為すがままとなるアイヴィス。


 そう。彼女は知っているのだ。こうなったときのラヴィニスがその欲求のままに愛で続け、満足するまでは絶対に放してくれないということを。


 ちなみにアイヴィスが諦め半分照れ半分なのは、(ひとえ)にラヴィニスの容姿のせいだろう。


 高身長のモデル体型。出るとこは出ていて、引っ込むところは引っ込んでいる。所謂ゴールデンカノンと呼ばれる黄金比率を体現したかような、全女性が憧れる様な理想的な身体。


 漆黒のシュシュでポニーテールを形作る流麗なプラチナブロンドの髪。美しい切れ長な目には、空のように透き通る青が澄み渡っている。


 要するに一言で言えば、滅茶苦茶カッコいいのだ。とは言っても今は相好を崩しているためその限りでは無いが。


 儀礼用なのか、胸部と腰回りを覆う白銀の騎士鎧――所謂ドレスアーマーを身に着けている。それがまた憎らしいほど似合っていて、その全容はまるで北欧神話に出てくる戦の女神のようでもある。


「ラヴィニス~、なんしよーと? お嬢様の心の準備はまだ出来んの? 皆待っとーっちゃけど、ほら早よう――って、あぁぁっ!? ウチが完璧にセットしたドレスがくしゃくしゃになっとーたい! ああもう! ばり皺になってしもうてるやんかっ!」

「す、済まない。アイヴィス様が余りに可愛らしくて我慢が出来なかった。反省している」

「はぁ~。確かにお嬢様は天使のように愛らしかっちゃけど、時と場合はちゃんと選びんしゃい?」


 文句を言いながらも、あっと言う間にお色直しを済ませる従者の女性。またしてもされるがままになっているアイヴィスだが、何も言わずに大人しくしている。


 表情を見るに、従者の顔色を窺っているのだ。その点からも彼女がこの女性に頭が上がらないことが伺える。恐らくは日常生活において、何かとお叱りを受けることがあるのだろう。


 そんな彼女には、一目見て分かる特徴がある。


 頭の上にちょこんと生えているイヌ科キツネ属の耳と、臀部から伸びる同科目の尻尾である。


 そう。彼女は獣人だったのだ。より正確に言うならば尾耳(おみみ)族だ。その名の通り、人間の容姿に動物の尾と耳が生えている種族のことをいう。


 白い毛並みが美しくふわふわで触り心地が良さそうだが、こう見えて彼女は世にも珍しい白狐の獣人である。軽い気持ちで近寄ろうものならば化かされて、玩具にされた挙句に捕食されても可笑しくは無いだろう。


 その珍獣が一般的なメイド服を着てヒトの身の回りの世話を行うというのだから、この世は誠に不可思議である。


 ちなみに獣人は大まかに分けて二種類存在する。獣が二足歩行したような見た目をした獣頭(じゅうとう)族と、先程の尾耳族だ。


 前者は粗暴だが身体能力に長け、強靭な肉体を持つ。後者は知能が発達し、より理知的な性質を持っているのが特徴となる。


 両者ともにヒトよりも身体能力に優れているのだがその代わり、魔法が一切使えず魔力に対する耐性も低い。


 一説によれば、過酷な環境下でも生存できるようにと身体を魔力で強化するよう進化したらしい。そして、その代償として魔法を行使する力を失ったのだ。……無論、中には例外も存在する。


 アヴィスフィアと呼ばれるこの世界においても、現代日本同様にヒト科ヒト属が知的生命体として過半数を占めている。


 ヒトは自身と異なるものを嫌悪する特徴を持つ。選民思想からか、純粋な恐怖からかは分からないが、同種属ですらその色や見た目で差別化するのだ。獣人を始めとした種族を『亜人』と呼称し、排斥するのは時間の問題であった。


 亜人の中でも特に魔物に近しいとされた獣人は過酷な地に追いやられ、その土地に適応するために進化し、それが故に魔法が使えず、その事実がまた新たな差別を生むという負の連鎖に巻き込まれてしまっていた。


 ちなみにアイヴィスの住むこの国――アインズ皇国は、獣人と共存共栄を掲げている稀有な国でもある。


「お嬢様もやけんね? 嫌ならちゃんと拒否しぇなつまらんたい」

「い、いや。嫌だなんてそんなことは……むしろ嬉しいまであ――ヒッ!?」

「――時と場合を考えて下さい。これから行われる催しは、お嬢様の大事な成人のお披露目会です。きちんとしなければお嬢様だけでなく、我が家の恥となるのですよ? そこのところ、御理解頂けてますか?」

「は、はい! もちろんです!」

「お、おいシュア。何もそこまで言わなくてもアイヴィス様だって――ヒッ!?」

「――誰のせいだと思ってるのですか? きちんと反省して下さい。貴女は近衛騎士の隊長なのですよ?」

「は、はい! もちろんです!」


 少し癖の強い方言が丁寧なものに変わるとき、それ即ちシュアと呼ばれたメイドのスイッチのオンを示す。


 何がオンされたのか、二人は身をもって知っている。このような式典パーティの最中でなければ正座で何時間も説教をされていてもおかしくは無い。


 普段は優しく、緩く、ふわふわとした印象なのだが、故にたまの折檻が怖ろしいのである。何より怒ると瞳孔が開く狐目の碧眼が、ヒトの根源的な恐怖を煽るのだ。


 それに彼女は間違ったことは言っていない。主を正しき道へと導く従者として、常日頃からメイド長である彼女の母にメイドとは何たるかを徹底的に仕込まれているからだ。


 そしてそのメイド長は、アイヴィスにとっては育ての親――乳母である。故にその優しさと恐ろしさを芯から実感している。それは、二才年上の幼馴染でもあるラヴィニスも然りなのだ。


 ちなみにシュアも二人の幼馴染だ。ラヴィニス同様に年齢は十七才。成人が十五才だということ鑑みるに婚約者の一人でも居て然るべきなのだが、シュアはアイヴィスのメイドとしてその生涯を捧げており、ラヴィニスもまた彼女を溺愛しているのでこの歳まで無縁なのである。


「さて、お小言はここまでとしましょう。……ほら、二人ともなんしよーと? 皆待っとーっちゃけん、早う来んしゃい」

「う、うん。分かったよ」

「りょ、了解した。私がアイヴィス様を完璧にエスコートしてみせようじゃあないか!」

「ラヴィニス、控えなさい。貴女はただでさえ目立つのです。今日のメインはお嬢様なのですよ?」

「ぐっ……だがしかし、私はアイヴィス様の傍に控え、お守りせねば――」

「そう考えるならば立場もしっかり守って下さい。それも近衛騎士として重要な役割ですので」

「う……む。そ、そうだな。善処する」

「あの……主役を食われるぞって言われて傷ついている私の自尊心も守って欲しいのですがそれは……」

「そんなものは犬も食いませんので、捨て置いて下さい」

「――割と酷いこと言ってるよっ!? ……あれ? でももしかして私が間違ってるのかな?」


 困惑するアイヴィスに、理詰めされて唸るラヴィニス。そして、そんな二人を満足そうに眺めるシュア。


 そこからもこの三人の力関係が理解できる。……仲が良い。それはまず間違いない。


 だがそれだけではなく、言うならば、姉妹のような関係なのだろう。その上で騎士として、また従者としてアイヴィスに対して確かな敬意を払っているのだ。


 一見すると、そうには見えないというのが難点ではあるのだが。


「――って、ちょっと待ってよ! 今はそんなことはどうでも良いの!! い、言ったでしょっ! 私――いや、俺は男だって! 何が悲しくてこんなひらひらした格好で人前に出なけりゃならねーんだよっ!」

「お嬢様。そのようなはしたない言葉を使わないで下さい。それに何度も伝えたはずです。()()貴女は皇国の第一皇女なのだから、相応の態度を取るべきだ、と」

「そうですよ、アイヴィス――いや、シュウ先生。私達はもう()()()()()()なんですから、諦めて新たな人生を謳歌しましょうよ!」

「シュア、そうは言うが、心は男のままなんだよ……。それに椿()()ちゃん。誰もがそう簡単に割り切れるもんじゃないんだってばよ……」

「「アイヴィス(お嬢)様。女は度胸ですよ(たい)」」


 だから俺は男なんだって~、ていうかそんなドロドロしそうな思想は嫌だ~。と引っ張られていくのはアイヴィスさん。


 先程までの言い合いは何だったのか、ぴったりと息の合うラヴィニスとシュアに両脇を抑えられているので脱出は不可能だろう。


 異世界転生。それは時としてTS女子を生む。二十七才独身男性は十五才の少女(皇女)として、新たな地――アヴィスフィアにて二度目の成人をしたのである。



 俺の名は烏丸(からすま)朱羽(しゅう)。都内の山間部にあるとある大学のとある研究所にて室長を務める、二十七歳の独身男性だ。


 田舎の三流大学出身の若造が何故室長などという大層な役職についているかなど、当の本人であるはずの俺が一番理解に苦しんでいる。


 だがそれはあるとき突然に訪れ、気がつけば三年の月日が経とうとしている。


「え? シュウくんってば、個人でゲームを創ったりしてるんだ? ねね、私にもちょっとやらせてよっ! 良いでしょ? 駄目?」


 転機はネット上で知り合った類稀なる天才の、そんな軽めの一言だった。


 何を思ったのか、彼女は自身が所長として取り仕切る研究所内の一室を受け持つ室長の座に俺を配属させるべく申請を出し、事後報告という形で知らせてきたのだ。


 就活戦争に負けた俺の選択肢はあまりにも少なく、その魅力的な提案はまるで神からの啓示のように思えた。……そして今、現在に至るのである。


 ちなみに俺の名字である『烏丸』は、その昔農家だった先祖が平安時代の華族に憧れて命名したらしい。


 祖先曰く「語呂がなんかかっこいい!」という、何とも適当な理由だったとも言い伝えられている。


 基本的には祖先譲りの適当――良く言えばおおらかな性格なのだが、ただ一つだけ幼少期より思い悩まされている何事にも変え難い難問を一つ抱えている。


 俺自身もそれを解決するのはあまりに荒唐無稽で、現実的ではないという自覚もある。


 ……だがそれでも、どうしても譲れないことだったのだ。


 ――ヒトはなぜ生き、なぜ死ぬのだろう……。今家族といるこの幸せなひとときは、どうしていつまでも続くものではないのだろうか……。


 ――僕とはなんだ? 今考えているこの意思は、一体どこから来ているんだ? もしこの意志こそが僕なのだとしたら、僕という存在がこの世からいなくなってしまったら、その後には何が残るのだろう……。


 ――何もない、何にもないじゃないかっ! 死んでしまったら何も残らない!! 僕がいなくなった世界なんて、僕には何の意味もないじゃないかっ!?


 ――怖い……助けて……誰か、助けてよ……。


 ――なぜ誰も答えてくれないの……? どうしたらこの問題を、解決出来るの……?


 ――ねぇ、答えてよ! ……僕じゃ無理だよ、耐えられないよ……。


 小学校の高学年だった当時の俺の精神(こころ)に突然、そんな”軋み”のような感情を生まれた。


 きっかけは一体なんだったのだろう? 当時飼っていた愛犬が死んだことだったのか、それともただテレビで怖い話を聞いたからなのか。正直なところ、よく覚えていないというのが現状である。


 ただその日の自我の芽生えは俺の中に深く刻まれ、少しずつ緩やかに精神を蝕んでいった。


 大人となった今、その日理解した一つの「理不尽」を解決することが俺の人生において大きな目標の一つになっている。


 そして常日頃から、その糸口になるであろうヒトの「孤独」という感情に対しての有効的なアプローチはなんぞやという、哲学に近い試行錯誤を繰り返していた。


 ――ヒトは誰しも孤独を抱え、生きている。


 あるヒトはその孤独と向き合い、今出来る最善を尽くし前に進んでいく――。


 あるヒトはその孤独を嫌い連れ合いを求め、より大きく深い愛を求めていく――。


 あるヒトはその孤独に絶望し、閉鎖した空間の中で自己に問いかけてその殻に閉じこもっていく――。


 ヒトはなぜ孤独を感じるのか……それについては、未だ真相は明らかになってはいない。


 だがしかし、度重なる失敗を経て漸く今、そんな「孤独(ぼっち)」を克服するある一つの正解に辿り付くことが出来た。


 それはあまりにも甘美で罪深く、しかしながら誰にも迷惑をかけない想像より創造された、まさに夢のような現実を紡ぐVRの世界へのフルダイブである。

博多弁に変換するアプリをお借りしているため、表現に多少齟齬が生まれるかも知れませんがご了承下さい。

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