レモンde爆破
文学ネタを詰め込みました。
どこまで通じるかは、謎。
吾輩は、リア充滅殺団員である。
名は、基と言う。
公序良俗を重んじ、この令和の時代においても清く正しく生きる高校生である。
今週も全ての課業を修め、駅ビル内の書店へと向かう。
吾輩は、本屋が好きである。
新しい本の匂いを嗅ぐだけで、喜びに満ち溢れる。
小説に雑誌、マンガに教養本。
様々な彩りの知識と嗜好、そして装丁の美しさ。
雑多な中にも規律と清浄さを感じられる。
その素晴らしい場所である本屋で、高尚な読書に相応しい作品を買い求める。
太宰治?
島崎藤村?
吉行淳之介?
却下だ!
リア充滅殺団員として、最も相応しい作家は、非モテの宮澤賢治先生だ。
吾輩は、文庫コーナーで宮澤賢治先生の作品を手に取る。
うむ。これで素晴らしい週末を過ごせる。
レジに向かうべく顔を上げると、画集コーナーが目に入った。
偶には良かろうと、足を進める。
美麗なる装丁の本たち。
画家について詳しくはないが、ピカソだけはリア充滅殺団員として手に取るわけにはいかない。
破廉恥な!
汚さないように画集を手に取ろうとしたその時。
「あら?梶くん、偶然ね」
かけられた声の主を見れば、同じクラスのマドンナの小野さんが!
「お、小野さん!こ、こんにちは!」
エレガントに吾輩が挨拶を返すと、彼女の背後から男の声。
「千代子ちゃん、知り合い?」
「あ、志郎さん。うん、同じクラスの梶くん。
梶くん、こちらは私の彼ぴの志郎さん」
吾輩の記憶はここから朧げである。
しかし、当たり障りの無い会話をしたように思う。
気が付いた時には、画集コーナーの前にひとりで立っていた。
「そうか…小野さんは、彼ぴが居たのか…」
吾輩にとって聖域である本屋が、急に不潔で重苦しいものに変わってしまったように思えた。
暫くは呆然と立っていたが、ポケットの中にあるレモンイエローの塊を思い出した。
吾輩は画集コーナーの片隅に、レモン型爆弾を置くと、宮澤賢治先生の文庫を購入するために、レジに向かった。
会計を済ませた後に、旅行雑誌コーナーの前に居た小野さんと志郎さんに声を掛ける。
「が、画集コーナーに忘れ物があったけれど、小野さんのじゃないかな?
勘違いだったら、ごめん」
キャッキャウフフと夢の国特集の雑誌を見ていた2人は、吾輩の言葉を信じて画集コーナーへと向かった。
吾輩は2人を見送ってから、下りのエスカレーターに乗り、爆破宣言をした。
「リア充、滅殺…!」
手元のスマホで爆破スイッチを起動。
ボタンの部分をタッチする。
階上から響く爆発音。
きっと今頃は破裂したレモン爆弾から、爽やかなレモンの香りが縦横無尽に撒き散らされていることだろう。
あの2人を中心に、空調機を経由して本屋のある駅ビルすべてが、レモン爆弾の被害を受けていく。
聖域の本屋が汚されてしまった悲しみは、駅ビル全体を覆うレモン爆弾が清めていく。
その様子を想像すると、不思議と吾輩はくすぐったい気持ちになった。微笑みすら浮かぶ。むずむずと頬を緩ませた吾輩は、カバーをつけてもらった文庫本を胸に抱き、広告ディスプレイや看板に彩られた雑多な街の中へと走り出して行った。
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