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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部・2年生編
87/254

85・弟子よ

実はこの作品R-15なんですがR-18か全年齢かしか選べないので全年齢になってます。今回はその色がいつもより強いので高校生未満は読まないでね。

 男と女が2人きり。

 ルシャは意図して緩んでいるように思えて仕方がない。ルートはこれは据え膳なのではないかと疑いながらルシャのさらなる誘惑を待っていたが、どうやらルシャは本格的に眠ってしまっているようだ。

(じゃあ誘ってはないな…)

 勘違いによって過ちを犯してしまえば、今後の2人の関係が怪しくなる。健全で不義理のない付き合いをしたいルートにとって、確証を持たないままルシャを襲うことは避けるべき選択ということになっている。


 しかしこれは千載一遇のチャンスとも言える。自分に好意を抱いておらず、常日頃から2人で行動しているわけでもないルシャとこのような状況になることは今後極めて稀と考えられる。それならばこの機を逃して後悔するより、今後のあらゆる不幸を覚悟して為したいことを為すのもよいだろう。少しの勇気で彼女に触れることができれば、その先は勢い任せでも構わない。


 ルートがそっと布団を掴んでゆっくり捲ると、中のルシャは辛うじて『着ている』という状態になっていた。それならば少し衣をずらすだけで見えてしまうということで、それもまた少しの勇気を出せば果たされる。ルシャは爆睡しているから、肌に浴衣が擦れても気付かないだろう。手を伸ばしたとき、ルートにある想像が起こった。

(もしルシャが気付いてしまったら…)

『え、襲うつもりだったの…?やだ、同じ部屋で寝られないじゃん。ってかその気持ちを伝えずして手っ取り早く私を得ようなんて浅い考えだったわけ…?』

 間違いなく失望される。そこで自棄になって力ずくで襲いかかっても、魔法で撃退されるのが明白だ。

(正攻法しかないか…)

 しかし思春期男子が理知的に留まるはずがなかった。後悔するとしても、見えたものを思い返すことだけで今後生きてゆくことができる。それならそれもよいだろう。ルートは心の中で詫びてルシャの浴衣を掴んだ。


 その瞬間!


「ん…」

 姿勢に違和感があったのか、悪い夢から逃れようとしたのか、ルシャが横になった。ルートは咄嗟に手を離して退いたので悪事がバレることはなかったが、見たいものは見られなくなってしまった。

(ちっ…)

 ルートは不貞腐れて横になった。この機を逃さずラッキーなことを経験したかったのが破れた今、彼は違う方法でルシャにアピールすることを思いついた。


 それは自分の恥ずかしいところをルシャに見せるというものだ。自分がルシャで興奮したのなら、ルシャが自分で興奮する可能性を考えられる。万が一にも彼女が興奮したのならば、自分が眠っていたとしても大成功と言えよう。

「よし…」

 ルートは自分の浴衣を大胆に捲って眠った。もちろん布団もはだけさせておく。




 翌朝…

 先に眠ったため先に起きたルシャは朝食に行きたいのでルートという財布を起こそうとしてそれに気付いた。

(うわぁ)

 寝相が悪いなぁ、では済まない状況だったのでルシャは長い間見ていなかったそれを観察することにした。

(なんか別の生き物みたい)

 ルートが気付いていないのでルシャはもう少し近づいて見ることにした。彼の布団に乗ってチラチラ見ていると、ルートが寝返りを打ったので見えなくなってしまった。

(ああぁ)

 今のはあまり良くない夢だったことにして忘れたルシャがルートを起こした。起きた彼はあることに気付いてルシャに背を向けたまま座ってなかなか立とうとしない。

「具合悪いんか?」

「いや、アレだよ」

「アレって?」

 ルシャには兄弟がいないので事情が分からない。しかし男子は朝に必ず経験することがあってそれを女子に見られたくない。いや、今は絶好のアピールチャンスでルートはそれを見せることでルシャの気を引くことができるのだろうが、恥ずかしいのでしない。

「立ちくらみ…俺着替えてくる」

 ルートがトイレに行く途中、ルシャは意識的に彼の下腹部を見ていたので変化に気付いてしまった。

「そういうことか…」

 配慮してやればよかったと後悔した。弟子が着替えている間にルシャも普段着を着た。

「お前寝相悪いのな」

「そう?お前も服が捲れてたよ?」

 ということは見えてしまっていたかもしれないのでルートはそれを確認した。ここで本当のことを言うと見たとバレて見たがっている変態だと思われるのでルシャは嘘をついた。

「私のは見えてないよな?」

「うん」

「見たかった?」

 ルシャがからかうのでルートは赤面して首を横に振った。本当は見たかったし、それを言えばルシャがさらにからかってくるかもしれないのに拒否してしまうのは未熟だからだろう。ルシャにはそれが分かっている。師匠だから。




 えっちなことは誰の心にもあることだ。それは悪いことではない。いつまでも話をする必要はないので2人はファリーヨの中央市場に並ぶ売り物を片っ端から見ていった。

「野菜とか果物も美味そうだな!」

 ルートはこの街で暮らす人は幸せだろうと言った。確かに店の人も常連客も笑顔を見せることが多い。その雰囲気が他を巻き込んで広がったのかもしれない。ルシャは自分の代わりに戦ってくれたミーナたちへの礼として残るものを探していた。決めかねている彼女のためにルートが強い決断力で提案をした。

「いっそ楽器を買っていくのは?ミーナに渡さなくても演奏することでお礼ができるだろう」

「お前、なかなかいい考えだぞ。しかしお前に立て替える金があるのか?」

「金ならお前の母ちゃんが多めにくれたよ」

 ルートは財布の3万セリカをルシャに見せた。官僚はルシャを救おうとする意志に感銘を受けて今後を憂うことのないように多めにしたのだろう。

「還元というわけ?いや、それは違うか」

「後で払ってもらうからな。期限も利子もないわけだが」

「優しいんだから」

 踏み倒しても良いということの暗示と断定したルシャはジュタに戻ったときに忘れていなければ払うことにして小さな笛を買ってもらった。試しに演奏してみると、思ったより音が出た。

「息を吹き込みすぎだな。もっと優しく、ゆっくりでいい」

「こうか」

「ああいい具合」

 演奏で和むことが確かめられたので鞄にしまって買い物を続けた。ルートはルシャに上着を貸しているので寒さを避けるべく新しい上着を買った。

「うん、丁度良くなった」

「悪いね、私に貸しているばっかりに」

「構わん。俺ののくせによく似合ってるからやろうか?」

「誕生日の贈り物ということにするか?」

「近いのか?それは別に用意するつもりだ」

 ルシャは初めての弟子からの贈り物を喜んで受け取った。悪い思いをしたあとに続けて良い思いをしたおかげで罪を忘れたルシャはすっかり元通りになって列車に乗り込んだ。「私はいつかお前に礼をするつもりだ」

「なんの礼さ」

「今回ばかりはお前に助けてもらった。お前だけじゃないけど、こうして私の気分が戻ったのはお前のおかげだ」

「柄にもないことを…それなら帰ってから少し付き合ってもらおうか」

「いいだろう。かっこいい服が欲しいならいくらでも言ってやる」

「フフフ…」

 ルートがかつてなく嬉しそうな顔をしていたのでルシャもニヤニヤしてしまった。このまま見つめ合うのが恥ずかしいのは2人とも同じで、ほぼ同じタイミングで眠った。




 ジュタは終点ではないため寝過ごすことが懸念された。実際にジュタに差し掛かっても2人は眠ったままだったのだが、ルシャを知る隣のボックスの乗客が彼女がジュタで降りないのを訝しんで起こしてくれたため行きすぎることはなかった。

「戻ってきたね」

「ああ。戦いを終えたせいか感動的な帰還だ」

「あいつらどこにいるかな」

「学校じゃないのか?今日は平日だろ」

「あ、そうか…お前は学校を休むのを厭わず助けに来てくれたんだな」

「考えていなかった。あの時は夢中で飛び出したさ…今日は家でゆっくり休むほうがいいと思う。明日になればいつも通り学校で会える」

 ルートの気遣いのある提案を受け入れたルシャは弟子に感謝を伝えてから家に帰った。「見せてやればよかったかな。何よりのお礼になったかもしれない」

 軽い気持ちでそうするべきでないと分かっていても、感謝の気持ち、あるいは好意が溢れ出ている。ルートには何かとびきり良い思いをしてもらいたい。今度のデートがそれにあたるにしても、贈り物か何かでサプライズをしたくなった。

「それを探しに行こう」

 ゆっくり休みたいほど疲れていないルシャは市場で買い物をした。ルートには何が似合うか考えてからふと思ったのは、売られているものを買うより自分で作って贈るほうが気持ちが伝わるだろうということだった。そこで彼女は家に戻って手芸を始めた。

(あいつティッシュいっぱい使うだろうしケースでもいいけど、勉強熱心なところもあるから文房具入れとかでもいいかな…あ、でもこの先暑くなるから水筒入れでもいいか。よし、全部作ろう)

 いつもより意欲的になったので夜までにはすべてが完成していた。これをデートのときに渡せば喜んでもらえるだろう。完全に乙女になっていることを自嘲しながらも、その日を楽しみにせずにはいられないのだった。

「弟子よ…明日にでもデートに誘うのです…!」




 その頃…

「今思ったけどルートって完全にルシャの王子様だったよな」

 ミーナが脚を組んでリラックスしながら、向かいでレオを膝の上に乗せて座るリオンに言った。メルヘンなことを考えるのが苦手なリオンでもルートの正義の行動がルシャに好意的に受け取られるというのを理解できる。

「好感度は上がっただろうね。フランさんがあれだけ高く評価するほどになったんなら、ルシャの求めてる強い奴にもなったってことだろう」

「そうだよね。じゃあルシャはルートのことを認めて付き合うのかな?」

 俄然ドキドキしてきたミーナが脚をバタバタさせて悶える一方でリオンは渋い顔をした。

「顔がタイプじゃないって言ってたろ。ってかリリアを弟子にしたのって、ルートの好意を自分からリリアに逸らすためじゃねぇの?」

「なるほど?じゃあルシャはもうルートと恋する気がないってことかい。しかしルートはルシャが好きでリリアのことは弟子としか思ってないんじゃない?」

「今のところそうだろうね。けどリリアはすっかりルートのことを慕ってるから、修行しているうちに気分をよくしてその気になるんじゃないの?」

 慕われることの幸せがルシャに好かれる幸せを上回ったのならダテ2人の予想通りになるのだろうが、こうしてルートがルシャによって幸せになった今、リリアは霞んでいるに違いない。

「だとすると弟子入りして一緒に頑張ってるのに師匠が別の子と付き合うことになってしまうリリアがかわいそうじゃない?」

 疑問が次々に浮かんでくる。3者のことに介入するのはお節介が過ぎると思うのでここだけの話にしておくし、それなら好き放題に喋っても問題はない。レオが眠くなってルカと一緒に部屋に行ったのでリオンも脚を組んで背中をソファに預けた。

「ふー…たぶんルシャの思い通りになるよ。ルートのことを好きになっちゃったらルートと付き合うだろうし、そうじゃないならルートはリリアとくっつくよ。私たちはそれを具に読み取って見守るだけさ」

 親友がこんな話をしているとは夢にも思わないルシャとルートであった。

前書きで期待させてしまったかもしれませんがこの作品はR-15なので露骨なエロはありません。エロいのは本編とは別にやるやつなので悪しからず。

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