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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部・2年生編
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77・スゴスギの先輩

仕事じゃないのに忘れました。すみません。

 新入生に必要なのは新たな環境や慣習に馴染むことだ。いきなり先輩2人に勝ったリリアは自分を負かしたルートが師匠になったことで負けた悔しさや劣等感より師匠への尊敬を強めて立ち直りを果たした。そのため他の生徒に怯えることなく堂々としていられる。


 今日は1時間目が体育ということで着替えを済ませて体育館に入ったのだが、クラスの誰よりも早く来たはずなのに先着した人がいた。

「あ」

 生徒は教室棟の2階以上から体育館へ移動するため体育館には2階から入る。その2階で1階の全体を見渡しながら用具を配置しているブラウン2つおさげがいたので声をかけてみた。

「ルシャ先輩」

「おっす…」

「何してんですか。先輩のクラスは体育じゃないでしょ」

 ルシャは授業をサボっているということになる。咎めようと強い言葉を用意していると、師匠の師匠はこう言った。

「魔法実技だから抜けられるんだよ。免除されてるから」

「え、そんな待遇アリですか…でも普通参加しません?」

「その日の課題を終えるべきだというのなら既にやったさ」

 ルシャは形式的にでも授業を受けたということにするためノーランの出したウルシュを倒してから来た。こうして課題を達成してノーランの許可を得た。

「はぁ…模範と言うには遠い気がしますが、先生がいいって言うならいいんでしょうね。で、なんで先生でもないのに用具を動かしてるんですか」

 リリアは今のルシャにあまり良い印象を持っていないようだ。授業には最初から最後までしっかり参加するというのが模範的な生徒であって、課題を終えたからといって授業を抜け出すのは褒めるべきことではない。

「あんたの言うことは一理ある。確かに私は自由を認められすぎているし、頑張っている生徒からしたら才能のためにこうも好き放題にできるのは憎くもあるだろう。しかしこれは協力と捉えることもできる。私は今年度から魔法実技のときに限って他の授業の手伝いをしてもいいと言われている」

「え…?先生と似た権限を持ってるってことですか?」

「勇者学校の理念は魔法だけを鍛えるのではなく全体的に優れた能力を持つ人材を育てることだ。苦手分野を克服するというのなら、後輩だろうと先輩だろうと同級生だろうと、他の優秀な生徒を見て学ぶことも必要だ。いいかリリア、既存の形式に囚われるな。この学校で最も重要なのは形式ではない。学習だ」

 それっぽい理由で説明をされたリリアはスッキリしない気持ちのまま授業に入ることを嫌って納得したフリをした。いつかその理念を受け入れられると信じて。


 というわけでルシャの用意したお馴染みのサーキットに初めて挑戦する新入生に今日の担当のプリムラ先生が説明した。

「これはジュタ勇者学校の定番…というか誰もがやることです」

 後輩が真面目に話を聞いているのでルシャは感心した。気分良く見学できると思ったその時、ルシャのことをよく知っているはずのプリムラ先生が豹変した。


「…ってわけで、そこにいるルシャさんにお手本を見せてもらいましょうか」

「!?」


 ルシャは飛び出んばかりに目を開いてプリムラを見た。プリムラは穏やかなまま理由を伝えてルシャを逃げられなくした。この先生、鬼畜生だ。

「運動が苦手という人はいるでしょう。しかし得手不得手にかかわらず向上心を持つことこそ成長に必須なことです。1年を経て少しでも成長したとか目指していたことを達成したというのは喜ばしいことです」

「もうちょっと上手な人呼びましょうよ…」

「いやぁ、いいんですよ。あまりに上手だったら苦手な人がさらに萎縮しちゃうでしょう?」

 運動が苦手な生徒に最初から諦めてほしくないがためにルシャに手本を頼んだのだ。悪い気がしなくなったのでルシャがスタート地点に立つと、リリアたちがそちらを向いて注目した。さあ、お馴染みのやつだ!




 大きくバランスを崩しながらも奇跡的に倒れずに平均台を渡りきったルシャは続くマットでお決まりの前転”ころりんルシャちゃん”を披露して後輩を興奮させると、バスケットボールではバスケ部のリオンに教わった下からボールを持ち上げるようにして投げるシュートで見事にネットを揺らした。

「うお入った」

 これはルシャにも驚きだった。彼女はこれまでたった数回しかゴールしていない。

「うまくね?運動できそうには見えないけど」

「リリア、あんた昨日ルシャ先輩に会ったでしょ。なんか知らないの?」

「運動なら一緒にいたリオン先輩のほうが得意そうだったよ」

「でもさっきの前転はなんかぎこちなかったぜ」

「あれって側転するところってプリムラ先生言ってたよな」

 生徒の間で飛び交う意見はルシャには届いていなかった。彼女は比較的得意なサッカーが始まるとボールを足の裏で止めて再び蹴り出した。


 ルシャと言えばボールを止めずに流すプレーを得意としている(あるいは、偶然それが成功する)のだが、今回は完全にボールを止めてからドリブルを始めた。彼女が何をするか予想の定まらないうちに、ルシャは呟いた。


「あ、止めちゃった…」


 ボールを止めてから何かをするスキルを習得していないルシャは困ってしまったが、このままドリブルでマーカーコーンを躱したら面白くないので何かしてやろうと思った。そこでボールを爪先で浮かせて蹴り上げた。ほぼ真上に上がったボールを後輩が目で追うと、それは落ちて、

 上を向いていたルシャの胸に乗っかった。

 その瞬間、男子が一斉に立ち上がって両拳を掲げた。

「うおおおおお!!!」

 神がかった揺れに大興奮の男子の波の後ろでリリアが首を傾げている間にルシャがゴールしていたので女子は何が起きたか分からなかった。

 最後の盛り上がりのおかげで下手なパフォーマンスが全く気にならなかったのでルシャは無事に手本を終えてプリムラの隣に戻ることができた。

「はい、皆さんも1つ1つ丁寧にやって点数を稼ぎましょうねぇ」

 ルシャは及第点のパフォーマンスしかしていないので後輩は何をすれば加点されるのか知らないままだが、スポーツ自慢が自ずとスキルを使ってくれたのでそれが新たな手本となった。


 後輩の頑張りを見守り続けていたルシャだったが、リリア以外の生徒が気になったので注目した。運動の得意そうな男子は中学校では優等生で、勇者学校に入っても芳しい成績を残すとされていた。しかし憖に自信があるためか、彼は女子に良いところを見せようと難しい技に挑戦した。

「お前ら見てろよ!?俺今からバク宙するから!」

 その男子はロンダートの着地から後方宙返りへと移る難度の高い技を披露するつもりだったようだ。しかし最近やっていなくて鈍ったのか、回転が足りずに頭が下を向いたまま床に近づいていた。僅かな瞬間を見逃さなかったルシャは彼が確実に失敗して致命傷を負うことを確信して魔法を使った。

「う…?」

 静寂が訪れた。男子は致命傷こそ避けるものの、バッチリ決まらずに残念な思いをさせることを覚悟していた。しかし彼は突然空中でゆっくり回転して見事に両足の裏をマットにつけた。完璧でなかったことだけは誰もが分かっているが、失敗したなら必ず大怪我をするのに怪我1つしていないことに違和感がある。分析しようにもリプレイはない。

「今のお前がやったの?時が遅く過ぎたような気がしたけど…」

 友人が声をかけると男子は首を横に振った。その表情からは驚きが消えていない。

「あのままだったら頭から落ちて頸椎がダメになってたんじゃない?」

「だよね。けどなんかゆっくりになって、ふわっと着地したね」

 黄色い声援を送るかもしれなかった女子も戸惑いを表して誰かに説明を求めた。この現象を説明できる人はこの場所に3人いたため、その1人であるリリアが口を開いた。

「魔法を使ったんだよ」

「魔法…そうか、魔法で浮いたままにして回したのか」

「そう。大怪我にならなくてよかったけど、大怪我になるって素早く予想して、着地に間に合うように素早く魔法を使うなんて人並み外れてる…っていうか、明らかに生徒のそれじゃない。プリムラ先生が使ったんですか?」

「いいえ」

 プリムラは正解を知っていたので首を横に振ってルシャのほうを向いた。生徒たちが稀代の術者捜しに少しの時間を要した後で、ルシャの近くから波及するように気付きがあった。

「ルシャ先輩か!?」

「ん」

 ルシャは頷いて人差し指をリリアに向けた。その指をそっと上へずらすと、リリアがゆっくり浮き上がった。

「おぉ…」

「やっぱりルシャ先輩でしたか…ティム、助かったね」


 稀代の魔法使いにして先輩であるルシャに感謝を伝えたティムは授業が終わると着替える前にルシャを呼んだ。

「ありがとうございました。先輩が助けてくれなかったら今頃俺は死んでいたと思います」

「カッコいいところ見せようとしたんでしょ?」

「分かりますか」

 ルシャはティムが誰かに重なって見えた。だからこそ無謀を責めるのではなく挑戦を称えた。

「毎回そうなるってわけじゃないなら挑戦する価値はあるよね。頑張りはすぐじゃなくてもいずれ誰かに認められるはず…でも成功する前に死なないでね。体育館まで旧校舎みたいに曰く付きにしないでほしい」

 ここで新入生ティムは旧校舎の昔話を知った。それは何よりも貴重な話で、ティムは挑戦を後悔せずに前向きに考えることができた。

「さて知ってしまったのならモテそうな見た目のキミに頼み事をしよう…」

「まあ、人並み以上にはモテますかね…お礼にその頼み事、可能な限り果たしましょう」

「今じゃない。たぶん、場合によるけどいずれ頼むことになると思う。貸しがあるってことだけちゃんと憶えといて」

 ティムはルシャが将来に抱える問題を解決することになった。それがどんな頼みであれ命を救ってもらったことに勝ることではないため、彼は快諾して自分の持ち物に書いておくと約束した。

「あとキミ、リリアは注目株だよ。これから凄まじい成長を遂げるだろうからいろいろ知っておくといいよ」

「リリア?あぁ、まあなんか自信ありそうですね。話してみます」

 ルシャは自身の経験からラーク枠が必要だと思ってリリアにとってのラーク枠にこのティムを当てはめようとした。ではロディ枠とダテ枠とルート枠は誰になるのか…




 後日、ルートとリリアが特訓をするというのでルシャは見に行くことにした。崖登りの名所フッカーズ・ヒルの絶壁に足の裏をつけて地面とほぼ平行になっているルートは師匠の登場に手を振って応えた。

「この春のうちに差をつけてしまおうという狙いだ。ルシャのように魔法はぶっちぎりの1位を目指す」

「ん、いけるんじゃね」

「リリア、新入生の中に注目している奴はいるか?」

「これまでの授業じゃ判断つきませんね。これから見極めるつもりです」

「まあまだ1週間も経ってないもんな。俺のように頭1つ抜けた奴がいるなら厳しい戦いになる。基準がないならひたすらに上を目指すに尽きる。まずは俺の考えたメニューをやって、慣れてきたら俺のやってるメニューを試そう。言っておくが尋常じゃないぞ」

 ルートが脅しをかけてもリリアは怯まず意欲を見せた。小さな子が両拳を握って意気込んでいる姿が可愛かったのでルシャはニヤニヤした。もはやリリアはダテトリオの獲物だ。


 リリアは崖登りを簡単にやって見せた。ルートは満足げに何度も頷いてルシャに見込みを尋ねた。

「うん、すごくいい印象。これは覇権獲れるよ…私とお前の去った後で」

「そうだろ?弟子にしてよかった」

「ししょー!次は何するんですかぁー!?」

 意欲的な弟子が師匠を急かすのでルートは短距離エアレースのためにまず家まで走って着替えるよう指示した。リリアが家に帰って着替えて戻るまでルシャとルートはコースを考える。

「…このままやればパンツ見られたかもよ?」

「バーカ、パンツ担当はお前だけでいいんだよ」

「え、私パンツ担当なの?そういう陰謀に巻き込まれたの?」

 ルートに絡むことで悪いことには悪いと言うのがルシャなのでパンツ担当を返上しておいた。

「あれはマジでうっかりしてたからで、見せたくて見せたわけじゃない。お前が私のことをパンツとセットで考えるなら私はお前の幸せを1つ奪うぞ」

「…失礼。お前らのおかげで人らしさが増したと思うけど、節度を失うことが多くなった。パンツパンツ言うのはたまに表に出る性だな」

「お前に彼女ができればパンツパンツ言えるのにな」

「そうだな…言わせてくれる人がいいな…じゃなくて、コース考えるんだろ?」

「そうだった。ちょっと上から見るか」

 こうして2人で飛んでいると下がよく見えるのでリリアが飛んで戻ってくるのも見えた。


 リリアはエアレースも問題なくこなして師匠を感心させた。師匠の師匠はこれからは3人で競えると強い期待を寄せて弟子と弟子の弟子との特訓に頻繁に介入することを宣言した。予想外に優秀だったので弟子に任せっきりにしたくなくなったのだ。果たしてリリアは先輩2人から見られるプレッシャーに耐えられるだろうか…

スゴスギの先輩は4章の眠らせてくる先輩とは別人です。

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