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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第1部
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7・窮地と燃える恋

どうしてかは分かりませんが今回は2話分くらい長いです。

 今日は1時間目が体育なので、ルシャは制服の下に体操服を仕込んでいた。スカートの裾からハーフパンツがハミ出ている。この地域ではもはや名物だ。

「へーい!」

 ルシャが歩いていると、誰かが突然スカートを捲ってきた。露わになるハーフパンツ。下着ではないのでルシャは恥ずかしがらなかった。

「おはよう、リオン」

「おはー。仕込んでるねぇ」

「リオンもでしょ。いきなり体育だよぉ」

「今日は体育館でバスケだったよね。私バスケは得意だからテンション上がるわー」

 リオンはバスケットボール部に所属している。ゲンナリしているルシャに優しく教えて憂鬱を解きたいところだ。

 そこへミーナも合流して学校へ向かった。ミーナも元気のない様子で、リオンに支えられながら歩いている。授業内容が思ったより楽であることに期待するしかない。


 指定体操服は速乾性を重視した薄手なので下着が透ける。女子が男子の注目を最も集める時間だが、男子が女子の注目を集めることもある。

「ロディ、乳首透けてるぞ」

「えっ!?あ、本当だ…」

 普段は制服の下に肌着を着ているが、代わりに体操服を仕込んだため体操服の下には何も着ていない。ロディは恥ずかしそうに手で胸を隠した。

「私のキャミソール着るぅ?」

 ギャルが気弱男子をからかう。彼女の弄りは止まるどころか加速していて、透けているロディの乳首を指でつつく遊びを始めた。

「ちょっ、リオン…」

 男子は赤面して身体を縮めている。ルシャがリオンの気を引くためにボールを転がすと、それを拾い上げたリオンはレイアップの練習を始めた。無駄のないステップと絶妙なコントロール。小さい四角の角に必ず当てる熟練のスキルには思わず溜息が出る。

「すごいね」

「昔からやってたからね。バスケってのはどれだけ攻撃をゴールで終えられるかの勝負だから、シュート精度を鍛えればいいんだよ」

 リオンはドリブルより先にシュートを教えるため、フリースローの位置に立ってまっすぐ撃った。

「こういう感じ。まあ、撃ってるうちに覚えるよ」

 列を作って撃っては拾いを繰り返していると、ドリブルやパスの練習を指示された。ルシャはミーナとパス交換をしているのだが、バウンドして加速する球に対応できずに腹に喰らった。

「ヴッ」

「あぁ大丈夫!?」

「うん…キャミで軽減された」

 透け防止のために着るキャミソールは厚めのを選んだ。走りながらのパス交換は運動神経の悪い人には難しいようで、バウンドパスを上手く相手の前方に出せない。ボールが転がっていってしまうため、シュートに繋げられない。

「難しいな!」

「味方の動きを先読みするわけでしょ?走ってると想定して、腕1本分前に出してみようか」

 止まった状態で伸ばした手に向かって投げる方法を試した。止まっているとかなりの確立で当たる。しかし走っていると狙えない。それを改善できないまま練習試合になってしまった。

「負け確じゃーん」

 ルシャはそう言ったが、バスケ部のリオンは勝つつもりだ。味方には男子2人がつく。1人はロディだ。

「僕もバスケは苦手で…」

「うーん、2人しか役に立たなさそう」

 しかしもう1人は182cmと長身のラークだ。彼はバレー部でバスケの知識は殆どないが、ジャンプ力を活かしたダンクを期待できる。

「よろしく」

 ラークは静かに闘志を燃やしているようで、邪魔できる雰囲気ではない。精一杯頑張っている姿を見せれば負けても怒られないだろうと思ったので、お荷物3人は顔を見合って意気を強めた。


 序盤は安定したパス回しで相手を疲れさせる。しかし空中戦では不利だから、位置取りが重要になる。そう分かったとしても動き回るのが苦手だから、思うようにボールを支配できない。動きが鈍ってきたのを突かれて攻め込まれると、ブロックできずにあっさり2点とられた。1回でもネットに入れれば負けはないわけだが、それが難しい。

 機敏な動きでボールを奪ったリオンが狙うが、相手にも長身選手がいるためブロックされた。彼を封じない限りゴールはなさそうだ。

「もう動けないよぉ…」

 ルシャが脚をもつれさせて倒れた。ミーナが手を貸したが、彼女も限界だった。2人が使い物にならなくなったのでスター2名が活躍するしかなくなったのだが、ここでロディが意地を見せた。送られてきたボールを掴んでいる暇がないと判断したのか、意図的に肩に当ててラークへと飛ばしたのだ。このスーパープレーに観衆から声があがる。これを受けたラークはフリーの状態でシュートを放ち、同点へと持ち込んだ。授業でのバスケはクォーター制ではなく、8分1本勝負だ。このまま妨害に徹すれば負けることはないが、プレーヤーとして勝ちたいリオンは狙った。

「ふっ!」

 ラスト数秒で放たれたシュートは相手の頭上を越えて枠に当たった。弾んだボールが相手の手に渡るかと思われたその時、下方から飛び出した何かに当たってボールが上昇し、あろうことかリングを通過した。それと同時に笛が鳴って試合が終わった。

「ブ…」

「ブザービーター!?」

「え?」

「~っ」

 ルシャはゴールの下で倒れていて、その傍でミーナが立ち尽くしていて、観衆がどよめいている。ルシャは脳天を手で押さえて痛がったが、周囲が駆け寄って揺さぶってきたので困惑した。

「お前すげぇな!」

「頭でゴールするとか聞いたことないぜ!」

 前代未聞、ルシャはヘディングでゴールを決めたのだ。正式に2点が加算されたため、彼女のチームは勝利した。

「勝っちゃった…」

「奇跡だな。ミラクルガールめ」

 ラークが拳を突き出してきたので、ルシャはそれに小さな拳を合わせて応えた。彼女はミラクルプレーで自信をつけたのか、2試合目から急に動きが盛んになった。しかしあのようなプレーを再現することはできなかったため、すべての試合で負けた。

「いやぁ疲れた。バスケのボールって硬いねぇ」

「保健室行っとく?たんこぶできてるかもしれない」

 世話好きのミーナがルシャを連れて保健室に行ったので、リオンは先に更衣室に行って着替えを済ませた。

「腫れてはいない…髪がクッションになったようだ。脳震盪の心配もないだろう。痛みはじきに引く。授業に集中できなさそうなら少し休んでいけばいい」

 クールビューティーという言葉の似合うルーシー・マクロネア先生がセクシーに脚を組みながら言った。彼女はいつも眠そうな顔をしているので、実はノーランの妹なのではないかという説が出ている。優しいところも似ているので、言葉に甘えて少し休むことにした。ミーナは先に更衣室で着替えて2時間目に参加した。




 ルシャが保健室を出て更衣室に向かう途中、街のサイレンが鳴った。これは何かしらの危機が迫っているということで、ルシャは脚を止めて放送に耳を傾けた。

「校内の全員に連絡します。緊急避難警報が発令されました。速やかに体育館に避難してください。体育館は安全です。先生は誘導を開始してください」

 すると教室の扉が一斉に開いて生徒たちが廊下に出てくる音が聞こえた。保健室からルーシーが出てルシャを誘導した。教室の生徒とは違うルートで体育館に入った彼女はルーシーの隣に座って警報解除の時を待った。これはクラスで1人だけ体操服のルシャが注目浴びないように生徒から離したルーシーの気遣いだ。彼女はルーシーの白衣を羽織った。

「ありがとうございます。先生」

「私はお前の汗の匂いなど気にしないから前を留めろ。汗でキャミソールが透けているぞ」

「あっ」

 女性ならではの気遣いに心打たれたルシャはルーシーに従ってボタンを留めた。生徒の避難が完了すると、校長がマイクを使って喋った。

「ここ数年の間に緊急避難警報が発令されたことはなかったから驚いただろう。だが安心してほしい。この体育館はどの建物よりも頑丈に作られているから、魔族の突進や魔法では壊れない。実力のある先生が外を見張ってくれている」

 生徒の中には恐怖のあまりじっと座っていられない者がいて、先生がついて落ち着かせている。数人はトイレに向かった。緊張が尿意を促したのだろう。

「先生はよく落ち着いていられますね。私ドキドキしてます」

「お前の倍近く生きているからな…過去に1度だけあった。私が小学校に通っていた頃にな。その時の私は今のお前よりずっと怯えていた」

「パニックになりそうですね」

「ああ。だから先生は誰よりも冷静でなければならない。ただ、私がこうしていられるのは自分の実力を信じられるからだ。焦っている奴はまだ自信をつけていないんだ」

「なるほど…今は街の戦士が出動してるんですよね?すぐ終わりますよね?」

 ルシャはこの緊張状態を嫌って早急に解除されることを祈った。ルーシーは頷いて肯定の根拠を示した。

「魔族は斥候部隊を送り込んで帰ってきた数で攻略可能か判定する。近い過去に襲撃がなかったから、今回来たのは斥候部隊ってことだ。全滅すれば攻略不可となるから、戦士は迷わず奴らを全滅させる」

 ルシャはこの街に多くの戦士がいることを知っているため、安心を得て力を緩めた。するとルーシーと話をしたくなり、彼女の事を尋ねた。

「実を言うと私は闇魔法を最も得意としているんだ。もちろん、魔族ではないがな…闇魔法にはトリッキーなものがあって、私はそれが好きなんだ」

「トリッキー…分身とか幻覚とかですか?」

「おお、よく分かったな…私は攻撃的な性格になれなくてな…相手の意気を挫くほうがいい。だから他の先生とは違う戦い方をする。外に出ないのはそういう理由だ」

 ルーシーの喋り方がとても色っぽくて心惹かれるので、ルシャはこっそりこんなことを言ってみた。

「…先生って結婚されてるんですか」

 傷に触れていないことを祈ったが、少しだけ痛がっているような顔をされた。

「未婚だ…なんだ、勇者学校の先生だから高給取りで円満に進んでいると思ったか」

「いえ、私でもメロメロになっちゃうくらいセクシーなので、虜になった男性がいるかと思って…」

「意識したことがなかったし、お前に言われたのが初めてだ。つまりお前の感受性がおかしいってことだ」

 怒っているようではないのでひとまず安心したが、どうにか彼女の機嫌を良くしたい。しかし文言を思いつかない。黙っていると先生が察してくれた。

「私の好きな男ってのは少ないんだ。この私すら惑わせるような道化師だ。常に意外なことで楽しませてくれる人がいい」

 遊び心が必要ということで、かなり難しい要求だと思ったルシャは陽気な人を思い浮かべてモハンと言いかけたが、喋りすぎない方がいいと思って口を閉じた。

「恋を忘れて久しいから探す気もないんだ…お前らのように若い奴らの青春を見ると羨ましくなるが、もう遅いと諦めてしまう」

 悲しい気持ちになったので、ルシャはそっとルーシーに肩を寄せた。ルーシーは弱く笑んで身体を傾けてきた。

「頽廃的な恋もいいかもしれんな…この学校にいるアホ面を引っかけて無理難題を突きつける遊びでもしようか」

 ルシャは急に目を大きく開いてルーシーの肩を掴んだ。喋りたかったことを向こうから喋ってくれたからだ。

「ノーラン先生に興味あるんですか!?」

「シッ、静かに…お前、どうしてノーランだとわかった?」

「研究室にいるノーラン先生は素の顔をしています。緩い笑みを浮かべた子供みたいな顔です。アホっていうのは親近感があるって意味です」

 ルーシーは頷いて同意した。彼女が唯一学校で気になっているのがノーランらしい。独身同士だから仕掛ければいいとルシャが言うと、ルーシーはルシャにきっかけをくれと頼んだ。

「私も奴も冷めた性格だから歩み寄るのが恥ずかしい。お前が私を研究室に誘ったってことにしてくれ。そうすれば私が理由を語ることなく奴に近づける」

「わかりました。じゃあ今日の放課後にでも…」

「それまでに解除されればいいな」

 ルシャとルーシーとの間に僅かな結束ができると、2人は再び身を寄せ合っておしゃべりを続けた。




 しかし昼を過ぎても警報が解除されない。先生が戦士に加勢する許可を校長が出すと同時に、なかなか自由になれない苛立ちを募らせていたルーシーがルシャを連れてドアへ向かった。

「この子には見せておきたい。将来必ず参加することになるのだから、今のうちに学ばせておくことは重要だ」

 そう言って説得を果たすと、職員室のある教科棟の3階から上に続く階段を上った。

「この先は生徒立ち入り禁止なんだが、私の名の下に許可しよう。最上階から街を見下ろせば、知ることがあるはずだ」

 途中からは梯子になっているのでルーシーの後に続くのだが、ルシャは見上げて赤面した。

「る、ルーシー先生、パンツ見えてますっ」

「スカートだからな…だが女子に見られてもなんとも思わん。昔は女子同士で見せ合ってたものだ」

 ルーシーは全く気にしていない様子で梯子を登りきった。ルシャは頬を染めながらも見えた景色に声を禁じた。

「ああやって防衛線を作りつつ、攻撃隊が攻撃する。防衛線を突破されたときは完全に個人の抵抗になる。そういう世界だ。もちろんだが体育館が襲撃されて先生が全員やられたら生徒が戦うことになる」

「はい…」

 ルシャはルーシーのパンツなどすっかり忘れて戦況を見守っている。高みの見物を決め込むのは性に合わないので助けに行きたいのだが、ここから飛び降りて無事に済ませるような魔法は持っていない。遠くで魔法合戦が起きていて、負傷者が防衛線の内側へと運ばれてゆくのが見える。やはり戦士は危険な職業なのだと認識すると、あそこへ行く気をなくした。

「生き物だから互いに長く戦うことはできない。先に力尽きた方が負けるという勝負なんだ。だが戦士側が不利だというのは明らかだな」

 ルーシーは極めて冷静な目をして分析した。では人間側が負けて街を侵略されてしまうのだろうか。それを問うと、ルーシーは首を横に振った。

「戦えるのは戦士だけじゃない。一般人の中にも勇者学校の卒業生がたくさんいる。そいつらが頑張れば覆せない戦況ではない。だから『人間側』ではなく『戦士側』と言ったんだ」

 その目の先では先生たちが街へ出ているのが見えた。状況判断の末に出動命令が出たということだろう。並みの戦士よりずっと強い人間が加勢したことで魔族軍は撤退を余儀なくされた。しかし結果を持ち帰らせてはいけない。もし傷ついても生還できるのならば多くの魔族を割いてでも襲うべきと判断される。先生は畳み掛けるように魔法を使って魔族を残らず殲滅した。

「終わったな。放課後までに間に合わなさそうならば私はお前を連れて出るつもりだった」

「え、私を出すんですか?それはさすがに怒られるんじゃ…」

「お前の能力を見たいんだ。残念なことに私は授業を持たないから見る機会に乏しい。お前が本気で戦っているところを見れば、お前への評価が適切なものか確かめられる」

「ああ、ルーシー先生は私の魔法実技を見てませんもんね」

「そうだ。テストなんて誰かが必ず1位になるんだから、絶対的な強さを示すものじゃない。相対的じゃわかんないだろう?」

 そこでルシャは白衣のお礼にルーシーの望みを叶えることにした。

「先生の分身って魔法で先生の本体が傷つくことはないんですよね?」

「ああ。魔法で作られているからな」

「じゃあそれを私が倒すのはどうです?」

「よかろう。分身体は魔法でできてるから、込めた魔力に応じた耐久度になる。私の魔法を簡単に破壊できると思うなよ?」

「へへ、見せてやりますよ」

 すっかり打ち解けた様子の2人だが、ルーシーが昼飯を食べに校外へ出ると言ったのでルシャはお馴染みの2人とともに研究室に行った。




 ノーランが遅いのは襲撃があったからではなく、弁当を食べていたからだ。彼はここから直接帰宅するため荷物を持ってきているのだが、先生の持ち物としておかしなものがある。

「重箱?」

「いやぁ食ったなぁ。腹の中で料亭を開けそうだ」

「消化されてるでしょ…で、今日の実験はどうするんですか?」

「あ、私ら部活行くから食べ終わったら出ます」

「そうか。まあ部活動は大事だからね…」

 ノーランが残念そうな顔をしたので、ここだと思ったルシャが立ち上がった。

「寂しいと思って今日は私がゲストを用意しました!」

「お?」

 ノーランは首を傾げて誰か予想した。彼は親交の深い先生の名を挙げたが、すべて外れていた。ルシャがゲストの訪れを待ち望んでいると、ドアがノックされて女性が入ってきた。ノーランが黒目を大きくしたように見えた。

「お邪魔するぞ…」

「ルーシーかよ!一番俺の実験に興味なさそうな奴がどうして…」

「私が誘ったって言ったじゃないですか。トリッキーな魔法が役に立つと思ったんですよぉ」

 愛弟子がそう言うのだから疑いを消そう。ノーランはルーシーを受け入れ、紅茶を勧めた。

「こんな場所だとはな。お前の趣味じゃないんだろう?」

「当たり前だろ。仲良し3人組がやったんだよ。俺は快適だから容認しているだけだ」

「ふーん…で、どんな実験をしているんだ」

 ルーシーがノーランの机に近寄ると、香水に気付いた。

「これは誰のだ?」

「俺のだ」

「本当に?」

 どうしてルーシーがここまで質問をするのかは分かっている。ルーシーはキャップを開けて匂いを嗅ぐと、身体につけずに戻した。

「タバコの臭いを消すためだ」

「お前タバコを吸うのか…身体に害だから辞めればいいのに」

「お前には俺がタバコを吸う理由がわかるまい」

 ノーランが魔族を生け捕りにするため罠を持って出た後、ルーシーはルシャの隣に座って”理由”を聞いた。

「…なるほど。だったらいっそ私が住み着いてやろうか」

「大胆すぎぃ!」

 ルシャはセクシーで大胆な先生にドキドキが止まらなくなり、2人が同棲している様子を想像して悶えた。

「きゃー!」

「なんだ…?」

 ルーシーは怯えつつもどこかこの想像力に憧れるような様子だった。ほどなくしてノーランが戻ってきて2人を連れ出した。特設会場の広い空間で罠を置いた彼はルーシーに向かって説明をした。

「お前はたしか分身の魔法を使えるな。今回はそれを囮にして、魔族に魔法を使わせる。暑いときと冷たいときは検証済みだ。あとは…」

 酵素の働きだけを見るのなら酸性とアルカリ性を試したいが、魔族をその液に浸けたら溶けて死んでしまう。他の条件はあるかと考えたが、何も思い浮かばなかった。

「うーん、酵素は関係ないと結論をつけちゃっていいかもしれませんね」

「かもしれないな…こいつは何にも使われずに犠牲になるのか…」

「湿度はどうだ?水を撒いて火の魔法で蒸発させれば高い湿度の空間を作れる」

 魔法は”化学”反応を起こさないため変化する側を魔法以外にする。湿度によって酵素の働きが変わるかはまだ検証していない。

「湿度か。試す価値はあるな」

 そこで3人はバケツに近くの水道から水を汲んで特設会場に撒き散らした。大雨の後のような水たまりができた後、ルシャが火の魔法を放って蒸発させた。これでかなり高い湿度の空間になった。そこへ魔族を放ち、ルーシーが分身を作った。

「これが分身…本物と見分けがつかない!」

 魔族が最も近い分身体へ魔法を放つ。蒸気の中にいるが、問題なく発動している。

「関係ないか…」

 ノーランは他の検証を考えることなく魔族を殺し、残念そうに腕を組んだ。

「酵素は関係ないとしてもいいな…こうなると遺伝子まで解析する必要があるが、うちの実験室ではできそうにない…」

「うーん、残念…でも今日はこれだけじゃない!ルーシー先生の分身を私が倒すっていう一大イベントがありますよ!」

 ルシャはノーランの注意を引いてルーシーの分身体へ魔法を放った。いきなりの上位魔法を極大で放つと、分身体が大きく飛ばされた。

「あっ」

 分身体は本体から切り離された魔法であるため操作することができない。ルーシーの分身体は飛ばされたとき両脚を開いていたため、スカートの中が見えてしまっていた。

「しまった、1撃で消せなかったから…」

「気にするな…」

 ルーシーは平気そうだ。ノーランは目のやり場に困って顔を逸らしている。

「しかし今ので消えないか…かなり強いのを放ったつもりでしたがね」

 ノーランにはそれだけを見てほしい。ルーシーの魔力が高いことの証明以外は必要ない。ルシャが2撃目を与えても分身体はまた吹っ飛ぶだけで消えない。かなり高密度の魔法のようだ。これにはノーランも目の色を変えている。

「おい…ルシャでダメなら誰が倒せるってんだ」

 これは高評価ととってよさそうだから、ルーシーは口角を上げた。しかしルシャが3回目の攻撃で分身体を消滅させると、ノーランの注目はルシャに向かった。

「上位魔法を3回も使って全くバテてないなんてな」

「3回も打たなきゃ壊れない魔法がすごいんですよ」

 ルシャはノーランの注目をルーシーに向かわせることが正義だと思い、自分よりルーシーがノーランに近くなるように移動した。するとノーランがルーシーのほうを見て赤面したので、こっそり会場を去った。


 そんなことには気付かない2人は見つめ合って少し笑う。互いに知っているのに2人きりだと恥ずかしくなってしまう。先に口を開いたのは挑戦者のルーシーのほうだった。

「お前、1人暮らしで寂しい思いをしてるんだってな」

「…ルシャか。あいつはよく喋るな」

「ああ…で、その…うち、親が遠くに引っ越すつもりらしくて、仕事を続けるなら2人とは別れなきゃいけないんだ。そこで、もしよかったら、よかったらでいいんだが…その、一緒に暮らさないか!?」

 ノーランはルーシーがどうしてこんなに恥ずかしがっているのか気になっていたので、このような意図があったことを知って急にラフになった。

「ハハハ、お前がいつもと調子が違うからおかしいと思っていたんだが、そういうことだったか。俺のところに来れば仕事も続けられれば1人で寂しく過ごすこともないってわけだ。ついでに俺の問題も解決できる。非常に合理的だ」

 ルーシーは赤面を隠すように両手を頬に当てながらもじもじしている。クールビューティーな印象が崩れたので、ノーランはギャップに萌えている。

「どうだ…こんな私でもいいなら、匿ってほしいんだが…あ、もちろん家事はするしいろんなことを手伝える。お前に仕事以外で楽をさせられると思うんだ…」

 ノーランは一緒に暮らしたときのことを想像した。洗濯の時にあのパンツを干す。自分のパンツをルーシーが干す。なんて素晴らしいことだろう。しかもルーシーはクールに見えて実は情熱的だということを知っているから、本気で恋をすれば飽きないだろう。こんな日にいきなり人生を左右する選択を迫られるとは予想だにしていなかったが、ノーランは最適解を出す方法を知っていた。

「お前が勇気を出して俺に伝えてくれたなら、俺も黙ったままじゃない。ルーシー、俺は…」

 ノーランが胸に手を当てて鼓動を落ち着かせようとしているが、まったく効果がない。近い位置で対面する2人を物陰から見ていたルシャは口を半開きにしたままだ。

「結構前から、お前のことが気になっていた…!」

「じゃあ一緒に住まわせてくれる?」

「ああ!」

 その瞬間、ルシャがワールドカップで優勝したときのベンチメンバーのように飛び出した。

「いえええええええい!!!」

 最大の祝福をすると、ルーシーはルシャを抱きしめて感謝の言葉を述べた。

「いやぁ感動しました。見てる私までドキドキしちゃいましたよ」

「お前が仕込んだことだってのは気付いていた。粋なことしやがって。だが1人が寂しいと話したのは俺だから、俺は助けてもらったと思うべきなんだろう。ありがとな、ルシャ」

「えへへ」

 帰宅時間になったため、ルシャは部活を終えた2人と合流して帰宅した。ルーシーはノーランの家に寄ってから両親に報告すると言ってカップルで帰った。




 ルシャが母に自分がキューピッドとなったことを報告すると、母は嬉しそうに娘を褒めた。

「でもノーラン先生ってあんたが気になってたんじゃないの?自分からくっつけてあげるなんてお人好しすぎない?」

「いいの。私はお嫁さんじゃなくて友達みたいな感じがいいから。ノーラン先生が求めてるのはしっかり者のお嫁さんだから、ルーシー先生が一番合ってるの」

「ふーん…生徒たちがそれを知ってからかわなきゃいいけどねぇ」

 あらぬ噂のために調子を崩したり、別れるきっかけとなってしまうことは非常に悲しい。ルシャはそこまでケアするのはキューピッドの義務ではないと言いながらも、2人が円満に結ばれることを願って活動を続けると決めた。おそらく2人は一緒にいる時間を長くとるために研究を減らすだろうが、ルシャはそれでも構わなかった。


 その夜、ルシャはルーシーのパンツを思い出して妄想を巡らせた。

「まだ仰向けでよかったわ。うつ伏せに吹っ飛んでたらヤバかった…」

見てくれた方、ポイントをくれた方、ありがとうございます。それぞれとの仲が深まるにつれて面白くなっていくはずなので今後もよろしくお願いします

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