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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部
67/322

67・目立たなくなる女

 危険要素が去ったのなら旧校舎の地下は正義の力によって獲得した領域で、校長はその全容を把握して活用できるか確かめるべくルシャに調査を打診をした。魔族の棲み着いていた頃から調査に携わっていた彼女はこれを快諾したが、単独で突入することに対して以前の事件を理由に拒否した。

「最も信頼できる仲間を連れて行きたいです。魔王との戦いで王都にいた人なら適役でしょう」

 それは最早人名を言っているのと同じであって校長はいつものメンバーに相談を持ちかけた。


 ダテトリオの残り2人と成績上位のルート、身体的に優れているラークが校長室に入った。

「私はもちろん参加しますよ」

「私たちいつも3人ですから。大した危険もないことでしょうし、大丈夫でしょう」

「戦闘力を担保するというときにこいつら以外となると俺しかいないでしょう」

 ミーナとリオンには負けるがその次を譲るつもりはない弟子が胸を張る。更生した後のルートの実力は校長も認めるほどで、次回の魔法大会の最有力候補だ。そこへフィジカルエリートのラークが加わることで欠点のない組織が完成する。

「全員参加してくれるということでいいかな」

「はい!」

 ルシャに助けられた人は今こそ結束して彼女の助けになろうとした。

「えーっと…ルシャとルートは週末のエアレースリーグに呼ばれてるから週末じゃなくする必要がある…か?」

 ダテトリオに最も馴染みの深い先生としてノーランが同席している。2人の事情を考慮したスケジューリングを提案したいところだが、エアレースを避けて日曜日に調査をすると休日がなくなってしまうため平日に置くことも提案した。

「いやでも私たちは学校生活を大事にしたいので平日は普通に通いたいです」

「そうだよなぁ…土日が潰れるのはいいのか?」

「いいっすよ。救護なんて座って見てるだけですから。危なかったら出るだけですし、他にもいっぱいいるわけですし」

 ルートが頷いたので調査は日曜日に行うことに決まった。

「それじゃあ俺らも参加するかな。大人がいれば安心感が増すだろ」

「いいんですか?折角の休日をルーシー先生と2人きりじゃなくて…」

「たまに代行が来るかもしれない」

 新婚夫婦にとって休日は重要だ。平日に学校のことで頭がいっぱいになっているのに休日までそうなるわけにはいかない。ここでしっかりと2人の時間を確保することを明言しておけば生徒に良い印象を持たれるし、休日に無理矢理に連行されることはないだろう。

「ではそういうことで頼む。毎回の終わりに報告をしてもらって、必要に応じて中央に協力を依頼する。君たちの協力に感謝するよ。わざわざ休日に呼び出してすまなかった」

「いえいえ、早いうちに安心要素を得ておきたいというのは私たちも同じですから」

「さて、特訓しますかね」

「あ、そうだ」

 いつものメンバーが揃っている今を逃すと連絡を取るのが面倒なのでルシャは部屋を出てすぐ仲間に声をかけた。

「暇な日教えて。食事会するから」

「お」

 明後日に開催できるということなのでミーナは貴重な食材の発注を今日のうちに行うべく家に帰った。ルシャは今日明日を特訓に費やすことにして新たな方法を考えた。




 ルシャの欠点は筋肉が弱いことと持久力が足りないことだ。個々に解決するとして、まずは筋肉の増強だ。市場に行って軽めのダンベルを買った彼女は腕の上げ下げを始めるもすぐに疲れて下ろしてしまった。

「うーん、すぐに結果の出ることのほうが合ってるなぁ…」

 そうでなければ楽しいこと。というわけで得意の飛行に出た。飛行も単調なスピードで飛ぶのではなく緩急をつけることで特訓になる。急制動を完璧に効かせることができるようになればどんな攻撃も避けられる。最強がより強くなることで仲間の安心感も増すだろう。


 飛んでいる間にルシャはあることに気付いた。

「開発進んでるなぁ」

 中央集権的な旧中央が資源を地方へ分配することを渋っていたため開発の進まなかった地方各所がかつてないペースで進めている。単なる経由地ではなく拠点化、あるいはあるジャンルでの中心地となるような施策が打ち出されてからは人流も増えて賑わっている。都市文化が伝わってより多くの人が同じ娯楽を共有できるようになれば、イベントはこれまでにない盛り上がりを見せることだろう。

「ジュタもなぁ」

 ジュタ区を何かの中心地にすることを考えたときに真っ先に浮かぶものがない。名物と言えばフリーマーケットくらいだし、それは王都でも定期的に開かれている。周りの区にまで影響を与えるほどのビッグイベントがあってほしい。

(旧校舎の地下がなんかそういうアトラクション的なものになれば盛り上がるなぁ…)

 非常に広大な施設であるため有効に利用できるなら大勢の集客を見込める。運営に回って儲けられるのならフリーマーケット以上の収入源になるはずで笑みが浮かぶ。


 持久力を高めようといつもより遠くまで飛んでみたはよいが途中でバテてしまったので勇者降臨して休憩することにした。

「あの~」

 ルシャに声をかけられた街の女性はびっくりするあまり鞄を落としかけた。臆病なこの女性は新聞でルシャのことを知っていて、恐縮しながら甘味処の場所を教えてくれた。

(気配しなかったかな?後ろから声を掛けるのはやめよう)

 情報を得るのはまずは目からなのだと思ったルシャは反省して甘味処でもまず店員の目につくように靴音を鳴らした。

「あら、あなたは…」

「ルシャっていいます」

「本物だ!」

 エプロンを着た男性は救世主の登場に感激してオーダーを聞くまでもなく白玉あんみつを持って来た。

「これは俺からのサービスです。ここにいる限り会うことはないと思っていたけど、ラッキーなこともあるもんだね」

「私を見るとラッキーっていうの、どこでもあるんですね…ジュタに来ればいるのに」

「なかなか行く時間がなくてね。こうもノンビリ過ごしてても休日は家にいたくなるんだよ。どちらかというとキミにこの街に来てほしい気のほうが強いよ。あのルシャが来たってなれば注目されるからね」

 ルシャは甘味に癒やされて緩んだ表情を見せた。その顔が周りを癒やすのでルシャを癒やすことには大きな利益がある。

「よし、これで家に帰れそうです。空から見ててなかなかいい街だと思ったのでまた来ようと思いました」

 ルシャは勢いよく飛翔してジュタへ急いだ。回復したなら特訓できるという超根性論でスピードを出して飛ぶとすぐにジュタが見えてきたが、ルシャはかなり披露していて汗もかいていた。

「う、家から遠いけど降りなきゃ…」

 街の端のほうに舞い降りると近くのベンチで休憩した。この辺りには別の学校があるので知っている子はいない。疲れているときに長話をすることはなさそうだ。近くの店で飲み物を買ってから家のほうへ歩き出すとお腹が空いてきたので汗が乾いたのをよいことに食事処に入った。窓が多く明るい屋内のカウンター席に座って特製カレーを注文するとルシャだからという理由で大盛りになっていた。

「私がいっぱい食べる人って誰から聞いたんですか」

「新聞でルリーさんが言ってましたよ」

「あぁ、地域紙のインタビューが来たって言ってましたね。それで私のことも喋ったのか」

「よく食べるから強いという話でしたよ。飲食店にとってはいい話ですね」

「魔法は強いけど身体は弱いですよ?ふつう逆では?」

「まあ…そうですねぇ。僕なんかは逆の人なのでね」

 ルシャの頭が鳩尾のあたりに来るほど大きな男性はよく食べるからまかない目当てでこの店に来たという。18のときに知り合いの紹介で来てからもう10年経つ。

 あっという間に食べ終わったことに驚いた男性がデザートを持ってきてくれたのでそれを無料でいただいた。

「私を見るとラッキーだなんて言いますけど、私がラッキーになってますね」

「たぶんそれ、見た目のいい子を見られるから眼福だねってことが曲解されて広がったんだと思いますよ」

「え?」

「その話が広がる前に友達が言ってたから奴は本当の意味を知ってると思う。女性がイケメンを見てラッキーと思うかどうかは知らないけど、男性の多くは美人を見てラッキーと思うよ」

 胸についての話はなかったがルシャはおそらくこの胸が珍しくてラッキーなのだろうと勝手に推察した。これほどに広まったならもはや勝手にしろという感じで、彼女はこの後服を買いに行くことにした。




 ジャケットのように羽織る服なら胸を目立たせないようにできると思ったルシャは薄手のカーディガンを探した。

「ちょっと大きめのサイズをお勧めします。タイトすぎると逆に強調してしまいますからね」

 肩幅より広めのを1つ選んでもらった。膨張色ではなく収縮色のダーク系を試着すると中で合わせる色が気になった。

「陰影が見えにくい色がいいですね。白ははっきりしすぎです」

「なるほど」

 ルシャはダークカラーの扉を開いた。春と言えば華やかなピンクなどが似合うが、去年とは違う趣向にするのもファッションの楽しみの1つと考えてみる。

「今のルシャさんは身体に合うサイズのを着ていらっしゃる。オーバーサイズでボディラインをブレさせるといいでしょう」

「ほうほう…かなりダボついていますが」

「そのうち慣れますよ。これで胸ばかり見られることなく、むしろ顔を見てもらえます」

「あ」

 顔と言われたルシャはあることを思い出した。

「小顔に見える服とかないですかね?」

「うーん、収縮色だと身体が小さくて相対的に顔が大きく見えがちなので肩幅を広く見せたいですね…となると肩だけ白という服…あ、あるなぁ」

 店員は男性向けのシャツを持って来てルシャの身体に当てた。すると胸が目立たないし顔も大きく見えないのでルシャは迷わず買った。

「あ、でもこれ王都のブランド物を仕入れたので高いっす」

「買います!」

 完璧な服を得たルシャは1万を失った。気の置けない友達以外に合うときはこれを着ていけばよい。胸のことばかり言う人々は力を見て彼女を評価するようになる。特訓に疲れて街に立ち寄ることになっても安心だ。


 精神的に回復したので飛んで家に帰ってきた。買ってきた服をハンガーにかけて壁に吊すと今日の成果をはっきり確かめて満足感を得られた。

「明後日着て感想聞こう」

 どうせガッカリされるのだろうが、それでいいのだ。

ルシャが服のことで迷走します。巨乳がダボい服を着るべきなのか、それを着て似合うのか…いろんなことに未だに明確な答えを得ていないので迷走します。

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