64・サイズモアプリーズ
日本には1000年に1人の美少女がいるそうだ。
ルシャはヴァンフィールドで1000年に1人の魔法使いと言われている。美少女かどうかは賛否を呼んでいるようだが、本人は否定している。
「んー、美少女かブスかって言ったら美少女だよな」
弟子は赤面しながらそう語った。師匠の予定を聞いた彼はそれに同行できないことをどれほど悔やんだことか。早くに情報を察知していたら違う行動を取れたかもしれないのに…彼は情報を掴める男になると決めた。
そんなルシャはミーナとリオンと駅で待ち合わせをしていた。グラン・コスタ区は王都を経由して西へしばらく進むとある。夕方頃には到着する予定だ。王都行きの列車は多く通っているが、王都からグラン・コスタ行きの列車は少ないと聞いた。それゆえ早めに王都に到着しておく必要があり、朝の7時に集合している。
「ふあぁあ」
朝に弱いルシャは大欠伸をこいて2人を苦笑させた。やる気に満ちている2人は煌々と光る目をいつもより大きく開いていて、最後に来たルシャがトイレを済ませるのを待った。
「私が介助してりゃ大丈夫でしょ」
リオンがルシャの荷物を持ってミーナがルシャの身体を支えた。そうして乗車券を買って列車に乗り込むと、ルシャはすぐに荷物の山に凭れて眠った。
「マジかこいつ」
「楽しみで寝られなかったのかな?」
王都に着く頃には起きてくれるだろうと希望して2人で喋っていると列車が出発した。大きく揺れても起きないので何をしても起きないと思ったミーナが邪な考えを起こした。
「こいつの替えのパンツ見たろ」
「おい」
「水着はお楽しみにしておきたいがパンツはいいだろう。見せてくれなくて見ずに終わるくらいならいま見てやる」
確固たる信念のもと行動を開始したミーナはあまりに強固な袋詰めに驚愕した。
「パンツだけ過剰包装だろ!」
「まあゴチャゴチャするから他のと分けておきたい気は分かる」
リオンもタオルとアウターとインナーとを分けているが、チャックつきの袋に入れるほど丁寧ではないという。
「ブラは…このケースに入ってるのかぁ。さすがにこれを開けて品評会のように見比べるのは失礼が過ぎるなぁ。やめとこ」
カップの形を保つためには潰れるような入れ方をしてはならない。ルシャは金属のケースにブラを入れていた。
「なんか高級品みたいな感じがするね」
「実際に高級品なんだよ」
以前ミーナはキルシュ家に専属の仕立屋さんを雇ってルシャのブラを作ってもらうと言っていた。具体的な日付は思い出せないが、少し前にそれが叶ってルシャはいくつかのブラを手に入れていた。
「こんど私のも作ってくれよ」
「帰ったら採寸だな。ちなみにコイツ前よりデカくなってましたよ」
「嘘だろ…この世の何を吸収したらデカくなるんだ」
「たぶん栄養じゃないな。だって栄養は私も摂ってるもん」
おもしろ冗談大会をしている最中にふとリオンが気付いた。
「お前らに誘われなかったから水着買ってないんだけどお前ら持って来たの?」
「おー。私はサイズ変わらないからな。持って来てないの?」
「いや持って来た。けどほら、新しいのを見たいとか言うかと思って」
その思考はこれまでのダテトリオの行動を見れば間違っていないと解る。ミーナとリオンは前回と同じものを持って来たということだが、ルシャに限ってはそうはいかないだろう。ブラのサイズが大きくなったのならば、水着のサイズも大きくなっているはずだ。
王都は終点なので乗り換えねばならない。ルシャが到着前に起きていたので予定通り駅弁を買ってからグラン・コスタ行きの列車に乗り込んだ。塩害に耐える特殊な塗装が施されていて、先程まで乗っていた列車とは色が違う。内装も違うので新鮮な気分だ。
「なんか夏気分だね」
「これから海に行くわけだからね。まだ3月なのに」
「温暖だって聞いたから夏ってことにしていいんじゃない?これで8月にも夏を味わえるんだからなんかお得な気分だぁ」
そのような理由で春にここを訪れる人は多いとピエールは言っていた。観光客が多ければホテルをとるのも一苦労で、確実に部屋をとれるのは大きなアドバンテージだ。
「惜しむらくは最初に見る海が夕方の海ということか?」
「まあそれもいいだろう」
「綺麗なので有名なら昼間に見たかったなぁ」
列車が予定より早く到着することを祈ろう。そんな祈りとは裏腹に、海に近づくにつれて風が強くなってきて列車が減速した。
「これはダメそうですよ?」
「うーん、弁当食べたら眠くなっちゃったなぁ」
ミーナがムニャムニャし始めたのでルシャが枕を担ったが、向かいで旅行雑誌を読んでいたリオンがある記事を見てミーナを揺り起こした。
「次の駅始発の特別車両は部屋になっててベッドが1個あるらしいよ!そしたらゆっくり寝られるんじゃね?」
「そりゃいいねぇ。ここより快適そうだ」
「乗り換えたら確実に夕方は過ぎる。海を見るのはできないが…どうだろう」
「わたしねむいなぁ」
「ああもうミーナさんがダメだ」
ミーナがルシャの胸に顔を預けてしまったので乗り換え決定だ。駅に着くとリオンが3人分の荷物を持ってルシャがミーナを背負った。
(こいつ、人の肩に涎垂らしてやがる……!)
無事に乗り換えが成功したのでルシャはミーナをベッドに寝かせて彼女のポケットに入っていたハンカチで涎を拭いた。
「まったく…涎ってけっこう臭いんだぞ?」
うつ伏せで寝ているとたまに涎を垂らしていて、それが鼻に近づくとなかなかな臭いがするのをリオンは知っている。
「あと1時間くらい?」
「もうちょいかかるかな。しかしこの部屋、なかなかに快適だね」
ベッドの他に小さな机とソファがある。もともと複数人の利用を想定していたのは観光地へ向かうからだろう。ソファに座ったルシャはこのまま眠れそうな気がしたので眠そうなリオンに場所を譲った。
「んんむ…」
「眠たいときの声かわいいな…」
1人起きたままのルシャは本を読みながら誰かが起きるか列車がグラン・コスタに着くのを待った。分厚い雑誌を貰ったので充分に暇を潰せたが、着いた頃にはすっかり日が暮れていた。
「しかし夜の列車というのもなかなかいいものですなぁ」
「残念ながらもう降りなきゃいけないけどね。夜に通ってる列車はないし」
「うーん、暗い!パパ様の言っていたホテルは…あの噴水あるとこかな」
駅舎を出てすぐ大きな広場があってその奥のほうに噴水が見える。そこを入り口とする大きなホテルの11階の角が今回の滞在場所だ。
「ピエール・キルシュの紹介で来ました」
「伺っております!すぐにご案内致します。お手回り品、お運びします」
「ありがとうございます!」
キルシュ家のご令嬢のミーナと魔王キラーのルシャに挟まれた一般人リオンはどう振る舞えば良いのか分からないでいるが、この待遇に悪い気はしなかった。部屋に入ったダテトリオは設えの良さやサービスの豊かさに驚きながらもまずは風呂だということでタオルと着替えを用意した。
「すっかり夜になってしまった」
「でも来て早速風呂っていうのもいいもんだ」
「…3人同時に入る浴槽じゃないぞ?」
当然のように3人とも服を脱いで洗濯かごに放り込んだので1人ずつ入るわけにはいかなくなった。結果、ルシャとリオンが向かい合って脚の間にミーナが体育座りをすることになった。
「先生、私が上に乗ってはダメでしょうか」
「既に人の上にいる人はダメです」
「じゃあ私はオッケーだな」
「潰れるのでダメです」
裸を重ねるほど性的に進んだ仲ではないので小さなミーナが大きなリオンの上に乗ることはなかった。自由に脚を伸ばせないのでルシャはさっさと身体を洗って出て行った。快適な移動のおかげでさほど疲れていなかったが、流石の高級ホテルのベッドは眠らせるために作られているだけのことはあって彼女を眠りへ誘った。
「……スヤスヤしている」
「こいつうつ伏せで寝られなくて大変だなぁ」
どうでもいいことを言いながら写真を撮った2人は両隣のベッドにうつ伏せに眠った。
翌朝、ミーナのシーツにだけ涎の染みがついていて少し恥ずかしかった。
今日はお待ちかね海水浴……
…といきたいところだが、朝から雨が降っている。これではダメだということで運営は海岸を閉鎖していたが、キルシュというだけで運営側の気持ちになっていたミーナの提案でルシャが運営にあることを相談した。いくら魔王を倒した魔法使いとは言えそれは無理だろうと言う大多数に甘く見たことを後悔させるべく奮起した彼女の超巨大な1撃によって天気が強制的に晴れになったため、運営は急遽閉鎖を解除して客を海へ入れた。
「…よし!」
「お前…マジですげぇな。神かなんか?」
天地創造をするのが神ならば晴れという天気を創るルシャも神の同族かもしれない。それはさておき、無事に海に出られることになったので意気良く更衣室へ向かった。その途中で初めて綺麗な海を見てテンションがさらに上がった。
お待ちかね、ルシャの新しい水着披露タイムだ。ミーナとリオンが鼻の穴を広げて興奮していると、ルシャが袋から水着を取り出した。お気に入りのイエローとは違う印象を与えるライトグリーンのビキニだ。腰に巻く布がないのでルシャはその豊満ボディを惜しみなく披露することになる。
「もうちょいデカくてもよかったんじゃねぇの?大胆すぎない?」
「買いに行った日さぁ、腹の調子が良くて気分もよかったから勢いだけで行動してたんだよ。冷静になれば素の私ってそんな大胆じゃないのは知ってるだろうけど、折角買ったものを返品する気が引けてね…」
選択肢の少ない中で最適を選んでもらったため返品することは店員のチョイスを否定することになる…という懸念からこれを着ることを決めたルシャは恥ずかしそうに下着を脱ぎ始めた。
「おふ…」
「お前らも着替えろよ」
「すっげぇなぁ。あぁすっげぇ」
「うるせぇな。パーカー着るわ」
白いパーカーを着ても主張はされたままなのでミーナは鼻血を噴きそうになるのを堪えて砂浜へ出た。この先は何をすると決まっていないのでとりあえず砂で城を作ってみた。海ではジェットボートがフロートを引っ張るスリル満点のアトラクションを楽しめるそうだ。それ以外にも海上アスレチックや海中に通された筒状の通路を通って海を下から見上げることもできる。陸にもジャングルを模した冒険コースやショッピングモールがあっていろいろと楽しめそうだ。
「勇者学校できたー」
「お前やっぱり器用だな!」
「なぁ私身体動かしたいからビーチサッカーしねぇ?」
「じゃあ私ボール借りてくる」
ルシャが海の家にボールを借りに行こうとすると、砂浜ではお決まりのナンパ野郎が徒党を組んでやってきた。背が高くて強そうではあるが顔が好みではない。どうせ胸がデカいから1発…という考えなのだろう。それが何よりも嫌だったルシャは見ぬフリをして海の家に入った。しかしボールを貰ってきてもまた話しかけてきたので急いで2人のところに戻った。
「ちょっと、別の人と遊ぶので…」
しかしリーダーらしき人が行き先に立ち塞がったのでルシャはこの男が自分のことを知らないのだと思って溜息をついた。この次の男の行動が彼の命運を左右することになる。そのような状況で男は攻めを選んでしまった。
「いいだろぉ?楽しいことしようよぉ」
ここでルシャは我慢ならなくなって輝いた。眩んだ男たちはルシャを捕まえることができずに辺りを探したが、彼女はとうに2人に合流していた。
「あー、まあ…気の毒に」
「私は絡まれないだろうなぁ。まあ、なんかあったらパパ様が権力を使うよ」
娘の友人に危険が迫っているとあれば全力で防ぐのが父の役目だ。キルシュがこの地域でもボスと知れば2度と手を出してこないだろう。
魔法の力でナンパを退けたルシャはビーチサッカーに興じて腕を擦り剥いた。
「でもパーカー着てたから浅い」
「治療しよう。ちゃんとしないと痕ができる」
まだ海に入っていなかったので水着の上にアウターを着てホテルに戻った。処置を済ませるとまた海に戻ってきて浅いところで遊んだ。
「濡れてナンボだろ!」
「お前それ脱げよな」
「あ、どうしよ置いてこようかな」
しかしルシャは運良く魔法で何でもできることを思い出したので防水の魔法を使ってパーカーを守った。結局2人がルシャの素敵な谷間を見ることはなかった。
「なんだよお前折角買ったんだから惜しげもなく見せろよ」
「うんまあ水着を見せることに抵抗はさほどないんだけどさぁ」
「うん?」
「あの時いつもと気分が違って面積狭めの買っちゃったから動きすぎるとこぼれるんだよね」
「!!!」
建物の裏に連れ込んでパーカーを脱がせてみると、確かにルシャのビキニは下端がおかしな位置にあった。ポロリしないためには定期的にそれを胸の下までずらす必要がある。
「あー、これハプニング狙いのやつじゃねぇの?」
世の中には意中の男性をスケベなハプニングで堕とすための水着があるらしく、ルシャはそうとは知らずに店員に騙されていたのだ。しかし思えば春に水着を買うのはいささか早い気がするし、意中の男性を一刻も早く堕としたい、時間をかけると他の女子に奪われてしまうから急ぎたいという意図を誤って汲まれても仕方がないかもしれない。試着して違和感に気付けなかった自分も悪いし騙されたというのは少し人聞きの悪い言い方だったと悔いたが、これを曝け出して暴れ回るのは危険だ。
「明らかにちっちゃいねぇ」
「下乳がすっげぇ…」
「動かなければ大事なところが隠れてるからいいんだけどさぁ…」
この水着は然るべきときにまた着ることにして今日中に水着を買いにショッピングモールへ向かった。今度は騙されない。
海に行くとナンパされる人ばかり登場していますが作者は海に行ってナンパされたことがないので実際どんな感じなのかよく分かりません。1つ言えるのは、簡単についていくような女ではないということです。




