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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部
57/254

57・ついに!!

 大規模な戦闘を避けるためか、地下の住人は滓宝の力を使って滓宝持ちを呼び出すことこそあれ、外に出てきて滓宝持ちを積極的に潰すことはなかった。それが地上の安定を維持することに繋がっているのだが、中央の官僚は不安要素が残ることを嫌って決定的な対処を考えている。それは呼応した滓宝持ちの力を結集して圧倒的な力で敵を倒すことなのだが、相手のホームゲームである限り不利を否めない。

「かといって地上に引きずり出して倒すのにもジュタに避難命令を出さなきゃいけなくて…」

「だから少数精鋭に全国から集まった滓宝を持たせて戦うんでしょ」

「相手が出てこないから人材を厳選する時間がある。最終的に決まった人だけで行って解決するわよ」

「シャペシュの腕を取り戻さないといけませんからねー。私は奪われずに済んだけど」

「あれ?ルリーさんも滓宝持ち?」

「そうですよ?」

 ルリーはこれまで見せなかったが鞄の中にあるものを入れていた。それはこのジュタでは珍しい刀だ。刃渡りは40センチくらいで、やはり宝珠がついている。

「これです」

「ほぇー、きれい」

 ルシャが触るとやはり白く光る。この滓宝を持っていることでルリーも強くなるのだが、彼女はフランと違って携帯していない。

「まあ私は持って行けと言われたから持って行くわけであって持っていなくてもそれなりに戦えると思っていたんですよ。持ってても全然ダメでした」

「うーん、奪われずに戻ってこられただけいいと思うか…私なんか完全にやられちゃってますからね。ドニエルさんが来なかったらどうなっていたことやら」

「そうですよ。女の子があんな危険なところに1人で行っちゃダメです」

「私ならいけると思ったんですよぉ」

 誰もが敵の強さを見誤っていたということだ。次に挑むときはまだ見ぬ力を警戒して過剰なまでの戦力で行く。

 

 こちらの計画はどのくらい進んでいるのか、ルシャはすぐに答えを得ることができる。

「滓宝って今どのくらい集まってるの?」

「もうだいぶ所持者との接触ができていて、王都に集まってる。結構な数がジュタに入ってるんじゃないかな」

「ってことはこの街にいま大量の滓宝がある?」

「そういうこと」

 全員が集まったら首脳が主導してメンバーを決定し、すべての滓宝を持たせて突入させる。それで負けたなら滓宝は諦めるしかない。決戦が近づくにつれて緊張が高まる。

「あんたを上回る戦力を用意できるけどあんたがいたほうが強いのは明らかよ。だからあんたには短い間に鍛えてもらって、元から圧倒的なのがさらに圧倒的になる。幸いにも伸びしろが長いからすぐに効果が出る。きっと次に戦うときは前より長く戦えるわ」

 フランもまだ衰えるより伸びるほうだと自覚しているため、次の戦いに参加して前回より貢献することが期待されている。

「そして私もね。正直負けてかなり悔しい思いをしたのでリベンジマッチでボコボコにしてやりますよ。元特強がナメられたままっていうのは腹の虫が治まらないのでね」

 このときルシャはルリーがこれまであまり見せなかった闘争心を見た。彼女はかなりの負け嫌いだ。実力のある強者は常勝が当たり前だが、負けることに慣れていないため非常に強い感情を抱く。ルリーに隠さず曝け出すよう言うと彼女は爆発した。

「ぜってぇブチのめす。あいつだけは赦さない」

「すっげぇ怒るじゃん!」

 ルリーはその負け嫌いで力を欲しがり、実力を得て特強になった。驕り高ぶっていた自分を捨ててさらなる強さを求めれば、彼女は比肩するもののない強者になるだろう。追いつかれるのを黙って見ているルシャではない。

「よーしまた鍛えるぞ!」

 ルシャは乗り気でなくても取りあえず着替えて外に出ることで運命を受け入れるようになる。ルリーに続いて走り出すとルリーが王都での楽しい思い出を語ってくれるので身体は疲れても心はあまり疲れずに済む。今日もルリーは涼しい顔で、ルシャはやる気を失ってはいないものの汗だくでエロくなっている。

「私が自分でできないことなのでできればルシャさんに叶えてほしいんですけど」

「なにを?」

「胸の谷間に滞留している空気を吸ってみたいです」

「は?」

 確かにルシャのスポブラの中には蒸れた空気が入っている。それを解放してルリーが吸引するというわけだが、どうしてルリーがそれを欲するのかは不明だ。

「自分にないものを欲するって言うじゃないですか。私は残念ながら作れないので…」

「ってか自分の嗅いでも満足できないような…気持ち悪いだけじゃない?」

 普通の人なら汗で蒸れた匂いを嫌うはずだ。しかしルリーはルシャのような可愛らしい女の子の蒸れた匂いを嗅いでみたいという。この人にミーナらしさを感じたルシャは先輩の性欲を満たしてやることにした。

「じゃあ終わったら…」

「やったぁ。やる気出るわぁ」

「後悔しないといいですけどね…」

 仮に可愛いとしても汗の匂いは臭いぞ、ということを前もって言っても聞かないので嗅がせて分からせるしかない。存分に嗅いで悶えるがよい。


 結局ルシャは3キロ走りきった。ルリーは後輩の成長に大喜びで少し強引にルシャの服を捲った。

「うぉぉ…」

 独特の匂いがするが悪くない。むしろ芳香と言えないからこそ興奮できると言い出したのでルシャはミーナを相手にするつもりで対応するようにした。

「私だけ嗅がれて不公平なので私もルリーさんのスポブラ捲りますね」

「あぁん」

「マジでミーナに似てるな!」

 ルリーはルシャの姉というよりミーナの姉なのではないか、実はルリーはディアスではなくキルシュの一員なのでは、という説が浮かんだ。

「そうに違いない。そうたくさん変態がいてたまるか…」

 ルリーの蒸れた空気もまあまあ良かった。



 一国を滅ぼす力すら与えうる滓宝を持つ者ならそれを護る力を持っていなければならないというのが当たり前だ。しかし魔王を倒して世界最強の称号を得たルシャでさえ簡単に奪われてしまったのだから、それが極めて難しいことだとわかる。

「わざわざ行くことはなかったのかな…」

 自分が滓宝を奪われたことも仲間の出撃の理由になっている。そのことに罪の意識を持っているルシャは反省の言葉を出した。過ぎたことを罰し続けるより本人に埋め合わせをさせるほうがよいというのが賢い首脳の考えで、ルシャが罪と思うのなら作戦に参加して自らの手でシャペシュの腕を取り戻すべきだとルリーは言った。

「再び危険な場所に行くということですが、状況が大きく違います。復讐を果たすには絶好の機会でしょう?」

「はい。強くなって取り返しに行くのが私のやるべきことだと思ってます」

 そこで首脳はルシャを子供だからという理由で参加させない方針を撤回した。未知の敵の次に強い彼女を加えた最大戦力で挑む。

「それが責任を果たすってことです」

「じゃあ私はルシャさんに滓宝が集まるよう手配しておきます。アクセサリーだらけの成金のようにジャラジャラ言わせながら敵をボコボコにしましょう」

「よーし」

 滓宝の魔力を重ね掛けするとルシャはチートキャラみたいになる。それに加えて膨大な魔力を流し続けても耐えられる身体を作れば完璧だ。

「それと、体育が苦手と言っていたルシャさんには酷かもしれませんが、身のこなしを鍛えないと敵の魔法を躱せないかもしれません。まさに体育でやるようなことをやらないといけませんよ?」

「うぇ、マジですか…いやまあ確かにリオンになれるなら魔法も躱せそうだけど…」

「大丈夫!このルリーさんと一緒に汗だくでムレムレのトレーニングなら辛さよりもっといいものがいっぱいになりますよ!」

 前のめって肩を掴んできたルリーが息を乱してルシャを体育に誘う。どこかにそのような運動場があるのかとルシャが尋ねると、ルリーは大きな動作で頷いた。




 ジュタ勇者学校の体育館だ。生徒が利用したい場合は管理者である校長の許可が必要になるのだが、ルリーは校長より遥かに上位の立場にいる官僚なので国権を振るって利用できる。利用者といい目的といい利用の正当性があるため誰も批判しないだろうということだ。

「有事の際に非戦闘員となるミーナさんやリオンさんがいたら賛否あったでしょうが、私とルシャさんはどちらも戦闘員なので敵に近いところにいても問題ありません。さあ、存分に身体を動かしましょう!」

 ルリーはルシャからサーキット練習をよくやるという話を聞いていたので似たようなものを作った。

「ちょっと待って」

「はい?」

 ルリーのオリジナルサーキットには問題がある。まず、最初の平均台が長すぎる。2つ繋げるとかなり長いのでルシャは途中で落ちる。次にマットが飛び地のように点在している。ジャンプの苦手なルシャは飛び込み前転をしないと届かなさそうだ。そして最後のスペース、これは授業ではフットサルのために使われているが、今回はゴールが設置されていない。

「私がそこにボールを投げます。それを躱すだけです」

 だからルリーの近くには大量のボールを入れた籠がある。マシンガンのように連射するのだろうか。

「まあ何はともあれやってみましょう。はい、行け!」

 ルシャは慌てて平均台に乗ってバランスをとろうとした。しかし胸のせいで上半身の重いルシャは足に神経を集中させても簡単に直立することができない。揺れを誤魔化すように前へ進むといつの間にか終わっているのだが、今回に限っては長さのせいで途中で崩れた。

「うおっ…」

 ルリーが魔法のクッションで衝撃を和らげた。戦闘員としてのルシャに不足しているものの1つが判った。

「バランス感覚…身体を律して思いのままに動かすことができていませんね」

「どうすればできるようになりますか?」

「特訓あるのみです。感覚というのは使えば使うほど研ぎ澄まされるものです」

「よし」

「今日は10周くらいにしておきましょうか」

 鬼教官の特訓は鬼教官自身もやる。ヘロヘロになって1周ごとに水分補給をするルシャに対してルリーは余裕の表情で平均台を駆け抜けているが、汗でシャツに染みができている。

「うーん、ルリーさんもえっちだなぁ」

「そんなことはない。だってほら、ぷるんぷるんしませんよ?」

「でも汗染みが…大人の色気っていうか…」

「感じちゃいます?じゃあ残り7周終わったら…」

 ルシャは終わったら何があるのか気になったがために必死に走ってノルマを達成した。

「ハァハァ…」

「やばい私変態かもしれない…それともルシャさんがそうさせるのかな」

「顔赤いですよ…で、ご褒美って…?」

 ルシャが紅潮した顔を上げてルリーに問うと、彼女はルシャに背中を向けてしゃがんだ。

「お姉さんがおんぶして家まで運んであげよう」

「おぉ…えっちだぁ…」

 ルシャは大喜びで飛び乗ったが家に着く頃には2人とも心身ともに冷めていて、どうしてあれほど熱心にムレムレにムラムラできたのか分からなくなっていた。


 家に着くとフランが料理を作って待っていた。ここでしっかり食べることで元気になるための栄養を得る。しかしルシャが疲れて自力でスプーンを持てなかったのでルリーが食べさせてあげた。

「あーん」

「あー…」

「あんたたち仲良いわね。そんな関係だったっけ?」

「再会できたのが嬉しくてしょうがなくてね…過剰なまでにイチャイチャしてもいいかなって思っちゃうんだ」

「私も妹がいるみたいで嬉しいです。任務中に必須な癒しですよー」

「お姉ちゃん…!」

 これまで長い間ミーナとリオンを羨んできたが、ここでその悩みが解決した。弟ではなくお姉さんでも全く問題ない。かつてない喜びに包まれたルシャはすっかりルリーのことを姉と慕って一緒に過ごすようになった。


 それでも一緒に風呂と布団はイチャつきすぎではないだろうか。

ルリーさんがミーナ色に染まってしまいました。王都に行く度にこんな感じのことが起きます。

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