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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部
55/254

55・滓宝融合

臨時出勤に精神を割かれました

 ルシャはフランが目のことを秘密にしたいのではないかと思って黙っていたが、あちらから言及されたので好き放題に調べた。

「滓宝を有事の際に運用する、あるいは悪用を防ぐために回収することを実力のある中央の官僚に命じて私もそれに参加してたのよ。偶然にもすぐに見つかっちゃって私が所持することになったけど、この滓宝だけは特殊だったみたいで…」

「なんで目に着けちゃったの?」

「私が触れたら突然目にくっついたのよ。剥がせないしムリに剥がそうとすると目ごと剥がれそうで…しょうがないから放置してたらすっかり一部になっちゃったわけ」

「くっついた…触れた瞬間に目覚めて機能を持ったってわけか。そういう滓宝もあるんだねぇ」

 フランによると滓宝が魔法から生まれたことを考えればいかなる形状でも不自然ではないという。癒着してしまった目は生涯の伴侶となった。言い換えればフランは常に強化された状態ということだ。

「色が違うだけで出っ張ってるとかへこんでるとかってわけじゃないね」

「綺麗とも怖いとも言える色ですよねー。子供は怖がるかも」

 禍々しい色は所持者の容態に応じて輝きを増減させるようだ。少し眩しくて目を細めるとフランは眼帯で覆った。

「私が強くなってるのはいいんだけど、それをもってしても簡単に勝てない相手がいるってことが問題よ。あんたがあんだけ頼ってた3人でボロボロなんだからね?」

 ルシャは自分1人でドニエル、フラン、ルリーを倒せるとは思っていない。それより強いということは到底敵うはずがない。敵を倒す最良の方法を尋ねると、フランはこう答えた。

「あんたに私のこれ以外全部の滓宝を預けて戦ってもらうこと」

「私かぁ」

「あんたは絶対そう思ってないだろうけど、あんたはたぶん私たち3人より強い…潜在的にね。だからそれを引き出して、不可能を可能にしてもらえば勝てる」

「じゃあ私出すしかないじゃん」

「そうよ。でも中央の人としてそれは言えないの。大人は子供を護るために存在してるから」

 公人というのはなかなかに辛い立場らしい。違う自分を作って素の自分を隠さねばならないのは、元来ラフな性格をしているフランにとって簡単ではなかった。

「だから私はあんたを止めるけど、もし出るならそれを力ずくで振り切って無理矢理突っ込んだってことにしてちょうだい。そうすれば中央は責任を問われない」

「なるほど…力で負けたとなればみんな『しょうがないよね』って思ってくれるかぁ」

 ルシャの強さを国民全員が知っている。魔王を相手に圧勝したルシャを誰が止められよう。今回の問題も結局は彼女によって解決されると予想する人は多いはずだ。




 ルシャは休校中は暇なのでドニエルを呼んだ。目的は、3人を相手にどれだけ戦えるかを確かめることだ。

「ちなみにもう1人呼んであります」

「どうも」

 弟子だ。彼はルシャに次ぐ能力者として認められたため、人手の要ることをするときには呼ばれる。簡単に言えば便利屋だ。

「あら!」

 フランは授業参観で暴走した男子がこうも丸っこくなったことに驚いた。

「あの時はすみませんでした。危うくルシャに危害を加えるところだったのは俺の未熟さゆえ…」

「でも魔王と戦うときに助けに来てくれたって聞いたわよ。仲間ならこれ以上過去のことを掘り返して責めるつもりはないわ。今日も手伝ってくれるんでしょ?」

「はい。なんか知らないけど呼ばれたので…」

「ルートくんをどう使うんだい?」

「ルシャさんに加勢するってこと?」

「いえ、私が致命傷を食らう前に防いでもらうためです」

 3人が一斉攻撃でルシャを襲うのにルシャが防御できない場合はルートが彼女を護る。安全に戦闘を終えるための保険というわけだ。

「お前、できなかったら私死ぬからな」

「できなかったらお前の特訓は効果がなかったってことだ」

「…上等だ。始めましょう!」

 3人は最強を相手に手加減なしで魔法を放ってきた。これを防げというのは無理難題…とルートが笑ってもその勢いが止まることはない。

「まだ元気な私たちの攻撃を涼しい顔で防ぐか」

「こっちが防戦を強いられるとはね…うっ」

「バテたらこっちのもんだ、凌ぐぞ」

 3人は共通項を持っていることを嬉しく思っていて積極的に交流してきた。その中には魔法の特訓も含まれていて、連携が高まっていた。

「あなたがダテトリオとして成長しているのは知ってます。こちらも同じように成長しているわけです!」

「なんて名前なの!?」

「名前なんてものはない!」

 仮に大臣ズとしておこう。ダテトリオに負けず劣らずの連携…と思っていたが、よく考えたらダテトリオとして誰かと戦ったことはない。

(ミーニャン枠とリオン枠が2人の比じゃないくらい強いからバランスがとれている…!)

 貶したくはないがダテトリオ内に実力差があるのは確かだ。それに対して大臣ズは全員が同じくらいの能力を持っている。

「これを喰らえ!」

「範囲攻撃っ…」

 ルシャは硬質防御壁を展開してその中に反撃を仕込んだ。壁が分解されると同時に中から無数の刃が発射される。畳み掛けられるのを防ぐとともに相手に防御を強いる。おそらくこの戦い、ルシャの攻勢に出るチャンスは少ない。防御と同時に反撃できるなら、相手の意表を突いて望む展開に近づけられるかもしれない。

「ちっ…」

 個々の弱い刃は防御魔法に簡単に阻まれてしまう。インパクトのない魔法では3人を倒すことはできなさそうと見ると、残っている膨大な魔力を使って『あれ』を呼び出した。

「うわぁ出た!」

 地下遺跡で巨大な魔族が出た時に召喚した巨大像だ。以前は上半身だけだったが、今回は下半身もあって機動力を持っている。

「こんなものまで出すとは…」

「でも本体を狙えばそいつも消えるわ!」

 フランは魔力を得た代わりに片目を失っているため視界が狭い。ルシャと像との距離によっては2者を同時に捉えることができない。守備をドニエルに任せてルシャへ向かった。

「防ぎきれるかな!?」

 兵士の持つ剣ほどの大きさの魔法が凄まじい勢いで飛んでくると、ルシャの急造の盾は貫かれてしまう。ルートが1歩踏み出して防御魔法を使おうとすると、ルシャは内側に高密度の盾を作ってあと一寸のところで防いでいた。

(いや、今作ったんじゃない…)

 ルシャはもともと自分を覆うように魔法を巡らせていたのだ。それに追加の魔力を流し込むことで密度を増す。どの物質よりも硬い鎧を纏っている彼女はそれを斥力で弾き飛ばして攻撃とすることさえできてしまう。徹底して防御の直後に反撃していると、ルシャの攻撃に対応した3人は巨大像からの重厚な攻撃を防ぎにくくなった。

「疲れてきた…よし、座っちゃおう」

 ルシャは身のこなしに一切の期待をしていない。そのため動かずして勝つことに特化していて、体術に体力を使わないことで節約することができている。立つことすらやめると、ルシャは像を遠隔操作しながら自分を盾で護ることに徹した。

「でも疲れてるのは確か…どこまでもつか」

 ルートはルシャの状況を確認しながら盾を出すタイミングを伺っている。まだ大丈夫そうだ。

「持久戦になると厳しいかな!?」

「ここまで耐える人ってそんないないと思います!」

「確かに!でも次の相手は耐えるわよ!」

「がんばれ~!」

 呑気なルリーが強い攻撃でルシャを襲う。それを巨大像が弾き飛ばすと、腕の振りを勢いにしてもう1回転、ルリーと高さが合った。

「よいしょ!」

 ルリーは急降下して躱しながら魔弾を撃ってきた。ルシャは大量の魔力を投じ続けたことで体力を大きく損ない、息を乱して項垂れた。纏った魔法の揺らぎを感じたルートがここでついに腕を伸ばした。


 ルシャは攻撃には気付いていたが、防御魔法を出すほど集中していなかった。しかし彼女には傷1つついていない。代わりに巨大な金色の像が盾を構えて跪いている。

「なにが…」

 ルートは腕を伸ばした勢いで前に倒れた。魔法は彼のものではない。

「おぉ」

 ルリーとドニエルは尋常ならざる魔法に驚きの表情を見せている。この中で唯一驚いていないのがフランだ。

「すごいでしょ」

 巨大な守護者は母の気持ちの表れか。小さな魔弾に対して明らかに過剰な盾を出した理由をドニエルが尋ねると、フランは自慢気にこう返した。

「娘に驚いてほしかったのよ。肝心の娘は倒れちゃったけど」

 ルートが女子を担いでよいものか悩んでいたのでルリーがルシャを背負った。


 自宅で目を覚ましたルシャは自分の至らなさを痛感して仮に腕を持っていても油断をするべきではないと強く思った。彼女は魔法の合成さえできてしまえば魔法を出せるし、合成が極めて速く進む体質なのでこれまで攻撃を防げていたが、本人が著しく疲労していて力尽きる直前に限っては機能しない。呼吸が乱れると魔法の合成も乱れると思えばよい。

「体力が弱点だなぁ…鍛えないといけないのかぁ」

 露骨に嫌そうな顔をしてもそれしか道がないのだから大切な人を魔法の力で護りたいのなら運動をするしかない。辛い道を渡る覚悟があるかというと、今のところはない。

「滓宝を持った私たちにもそれは言えることだと思う。体力自慢で魔力のほうが先に尽きるっていうのが常識なんだけど、奴との戦いで初めてあんたの気持ちが分かったよ」

「でしょー?体力が魔法の最大値を決めると言ってもいいよね」

 昔から身体を鍛えることが習慣になっていて体力が衰えていない中年も一緒になって体力増強を重視する方針を固めたため、3人がここにいる間は毎日のようにランニングをすることになるだろう。ルシャはやはり嫌がったが尊敬する3人に引っ張られるのなら頑張らないわけにはいかない。




 昼はルリーとフランが買い物に行ったので今回はルシャが買い物に行くことになった。

(荷物持ちがいればよかったなぁ)

 野郎を召喚する魔法を持っていないことが悔やまれる。ルシャは1人で大量の食材を買って両手の手提げ鞄いっぱいにして歩くのを嫌って飛んで帰った。

「食べるものはいいと思うんだけどなぁ。やっぱり運動の習慣がないと太っちゃうねぇ」

「あんた太りやすい体質なのよ。運動好きにしなかった私の責任でもあるんだけど…それはまあ、いいじゃない」

「よくないよ!体育めっちゃ辛いんだからね!」

「でも萌え萌えな仕草ばっかりだって聞きましたよ?」

「あの野郎!」

 誰かはなんとなく見当がついている。ルシャはそいつを見返すために走ることを決意した。しかし今は食う。食うことでこそ自分は自分でいられる気がする。




 その夜、ルシャはルリーと一緒に風呂に入った。王都での暮らしを尋ねたルシャはルリーの新たな発見を聞いて驚いた。


「私よりデカい人がいるのか…王都、恐るべし!」

フランさんの超巨大な像が出ました。ここからいろんな人がパクります。

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