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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部
52/254

52・ぽちゃたそ爆誕

 料亭の厨房に劣らぬ広さを誇るキルシュ邸のキッチンはダテトリオ主催の食事会をするときは必ず使われる。しかし今回はここではなく、これまた広い庭が使われた。食事をするのにどうして外なのかというと、新年の行事をやるためだ。


 日本では古くから餅つきが行われていて、今でもそれは文化として残っている。それに似たものがヴァンフィールドにもあって、ジュタでも行われている。ミーナは厨房の倉庫から大きな杵と臼を父に持ち出してもらった。

「これ良い米だっていうから絶対美味いぞ」

「あー、早くやろうぜ」

 リオンは涎を拭って杵を持った。彼女には大きな杵を振るう力がある。この伝統に慣れているミーナがこねる係を担って始まったが、2人ともすぐにバテたので男子に交代した。「いいねぇ、筋肉あるねぇ」

「俺らで完成させちまいましょう」

 女子だけでは食べ切れなさそうだからという理由で呼ばれた弟レスティアことジオゴと毎度お馴染みノーランの筋肉コンビで見事な餅を作った。

「やるわね」

 ノーランと結婚してから色気がさらに増したルーシーは餅につけるものを作っていて、砂糖醤油や海苔、きなこ、ずんだを用意していた。お好みでそれを絡めていただくと、これがこの世のものとは思えないくらい美味しいのだった。

「やっべ、これいっぱい食うやつだ」

「つきたてはうめぇ~」

「今までで1番美味いな」

 素材が違うと味も違うのだと知った。余ると思われた餅はあっという間に第2弾まで完食された。腹を膨らした6人はリビングで少し休んだ後で漸く動けるようになったので解散した。しかしルシャとリオンは冬休み最後の思い出を作りたいということで今日もお泊まりをする予定だ。ピエールは娘と友達との交流を歓迎していて、2人にはいつでも門戸を開くと明言しているが、2人は堂々と空から入場するので門戸が閉じていても入れる。


 それはさておき。

 ディアス邸のジェットバスにハマる前にこの家のジェットバスにハマっていたのでミーナは日常的に尻に水流を当てる。

「あぁぁ~」

「何が問題かって、恍惚とした表情を浮かべることだよ」

 今日も3人で仲良くお風呂だ。キルシュ邸の風呂も大きいしジェットバスがついている。「あんたらもやってみたらいいよ。気持ちいいよ?筋肉が解れてる感じがして」

「私は腰に当ててるよ。効いてる感じがするよ」

「私は肩。肩甲骨のところにちょうど入る」

 各々普通の温浴より良い体験をしているようだ。それに慣れてくると新学期の話が始まって愉快な仲間たちのことが思い浮かんだ。

「ロディとラークは家族と楽しく過ごしているとして、ルートはどうなんだろうね」

「あんまり家庭が穏やかじゃないみたいだからね…去年のアレは奴なりに楽しんでもらえたようで何よりだよ」

 師匠はすっかり弟子のことを気に入っていて、彼の幸せを願うようになっていた。年明けも良い思いができていればよいのだが…と思うと、彼のことをまだまだ知らないということに気付く。

「まあ別にそこまで介入すべきじゃないのかもしれんけど、折角めでたいのに嫌な思い出しかないのはしんどいだろ?」

「そりゃ確かだ」

「ルシャたそが来てから割と悪いこと続きっぽいからね」

「それなら私が良い思いをさせてやらんとな」

「それってエ」

「エロいことじゃないぞ。あいつの口に餅を突っ込んでやるくらいのことだ」

「下手すると窒息するから気をつけてね」

 ミーナもリオンも安堵した。ルシャはルートに恋をしていない。あくまでも師匠として弟子に成長を感じさせたいのだ。


 翌日、ルシャがパジャマからラフなシャツに着替えていると、ミーナがあることに気付いた。

「あれ?ルシャたそ…」

「どうした?」

「お腹……」

「昨日で太ったかな。カロリー爆弾だからね、餅」

 ルシャはもともと痩せ型ではなかった。それに餅分の増量があったので、腹がついにパンツに乗っかった。

「ヤバいよそれは…トレーニングして減量してこう」

「お前はどうなんだ…あぁ、お前は痩せ型だな…」

 ルシャは溜息をついて寝ているリオンのシャツを捲った。彼女の腹は引き締まって腹筋が薄らに凹凸をつくっている。

「そうですかぁ…」

 ルシャは落ち込んでソファに座った。食べることが好きだから好きなだけ食べたら太った。痩せるためであっても運動する気はあまり起きない。一瞬で減量できる方法があれば良いのに…

「うぉ、これすっげ」

「モチモチだよね」

「皮をつまむな!」 

 リオンもトレーニングを推奨した。長距離走は脂肪を燃やして持久力にしてくれるため最もお勧めだというが、ルシャは走りたくなかった。そこで天才少女が考えたのは、魔法を使った減量だった。

「魔法を使うと少なからず体力を消耗するってんなら、運動になってるってことじゃないかな」

「たぶんそうだね。たそには最適の方法かもしれない。よし、じゃあ、飛ぼう!」

 ここでミーナは昔の魔法使いが飛行するときに跨がっていた箒を今になって使おうと提案した。これまで我が身1つで飛んでいたルシャは座ることでパンチラを防げるのではないかと気付いて箒を手にした。

「よいしょ…」

 流石は世界一魔法の上手な人だ。困難なく箒に座るとそのまま飛び上がってどこかへ行ってしまった。

「あぁ、そういう座り方するんだね…こうさぁ、跨がって…じゃねぇのかぁ」

「尾てい骨とか擦れて痛いんじゃね?」

 試しにやってみると別のところが擦れたのでミーナは跨がるスタイルにした。そしてリオンは座るでも跨がるでもなく2本脚で立つスケボースタイルで華麗に飛んだ。ちなみにこれが最も難しい飛び方で、極めて繊細な魔法を使えないとバランスを保つことすらできない。

 ルシャは魔法なら得意だし特訓を兼ねたダイエットなら歓迎だとして1時間ほど飛んでから帰ってきた。ミーナとリオンはすっかり飽きて家の中で紅茶を飲んでいたので、親友がどこまで行ったのか尋ねた。

「王都らへんまで…」

「列車要らないじゃんか」

「そうだね。でもバテた。結局疲れちゃったよ」

「じゃあ良い運動になったんじゃないの?続けよう!」

 そのうち天気が『晴れ時々ルシャ』とかそんな感じになりそうだ。




 翌日…

「ふー、やっぱり飛行は楽しいなぁ」

 非行じゃなくてよかったというのはあくまでも翻訳の話だ。

 今日も王都近くまで飛んで戻ってきたルシャはジュタの街をより詳しく見るため低空を飛んでいた。すると急浮上した魔法使いが彼女を見下ろす位置に降り立った。

「あいつは…」

 自分が見上げる位置だったのはよかったかもしれない。彼は見下ろされることを嫌うし、ルシャはスカートの中を見られることがない。

「冬休みだというのに鍛錬か。師匠らしいがお前らしくないな」

「てめぇがあたしの何を知ってるって言うんだい?冬休みなのに飛ばなきゃいけない理由があるんだよ」

「ほう?餅の食べ過ぎか?」

 弟子は意外と鋭かった。ルシャはデリカシーに欠けるルートを責めようとしたが、その前に彼の腹を見た。

「うわぁ」

「親は相変わらず静かだったが俺が外に出ることを許可してくれた。だから友人の家で餅つきをして食べたんだ。そうしたらこのザマだ」

「引き締まった腹筋が特別好きというわけではないが、それほどに弛んでいるのは印象が悪い。私が言えた口ではないけどね…それはまあいいとして、くれぐれも飛行の邪魔をしないでくれよ。私が太ったままだったらお前のせいだからな」

 ルートは再び杖に座るとその場を去ろうとした。しかしルシャは1人でエアレースをやるより2人の方がよいとして彼を競争に誘った。

「俺はもう飛行は終わりでランニングをしようと思っていたんだがな」

「師匠の言うことを聞け。ほんの僅かだとしてもお前を気にしてやったことに感謝しろよ」

「そんな憎まれ口をたたくより俺らはもっと焦るべきだろう?飛行よりランニングのほうがずっと消費する。新学期までもう3日しかないんだぞ」

「黙ってついてこい」

 ルシャがスタートしたのでルートはそれを追った。魔法の扱いに長けるルシャが入り組んだ経路を選ぶのでルートは時折壁にぶつかりそうになりながらもなんとか1周を終えた。

「相変わらず俺だけには厳しいな」

「優しくする理由がないだろう?まあ今日はこのくらいにしてやる。3日後にがっかりさせるなよ」

 ルシャは期待していることをルートに気付かれないまま別れることができて安堵した。それよりもランニングのほうが消費が大きいというのが引っかかっていて、たとえ短い距離でも走るべきか悩まされた。結局走らずに家に帰ってきたルシャはそのストレスを晴らすべくサラダチキンにタルタルソースをかけて食べた。

「おいしい!やっぱり美味しいものは食べずにはいられないなぁ…」

 これではルートにバカにされる。しかしそのために美味しいものを我慢する気はない。




 翌日…

 ミーナが箒に跨がる飛び方をやっていたのを思い出したルシャは飛行性能の向上を期して彼女の真似をしてみた。

「ほー…これは」

 なかなかに違和感がある。脚を揃えて座るほうが楽な気がするが、もしかしたらこちらのほうが早く飛べるかもしれないと思って検証してみた。

「ん…」

 やはり違和感がある。飛行の揺れのせいで箒がずれる度に股に擦れる。これはミーナが好むわけだ…と思っていると力が抜けてきたので途中で降りて座り方を変えた。

「やっぱりこっちだな。はぁ、へんな汗かいた」

 この発汗が消費に役立つのだとしたら、人気のないところを飛び回ることで痩せることができそうだ。ミーナのことが思い浮かんだので彼女の家のトレーニングルームを使わせてもらうことにしてキルシュ邸のチャイムを鳴らした。

「すぐ会いたくなっちゃうもんなぁ」

 ミーナに使用許可を取るとルシャは魔法を使わずに器具を動かし始めた。

「う…筋力のない私にはしんどいなぁ…でも汗はかく!」

「おーい、タオルも持たずに始めるとは随分と熱心じゃないか」

 ミーナがタオルを持って来てくれたのでルシャは汗を服に大量に吸わせることがなかった。

「これ重くない?」

「パパ様仕様だからねー。調節するかい?」

 筋トレ初心者のためにミーナがインストラクターをやってくれたのでルシャは健康的に汗を流すことができた。

「これはかなりいい運動だよ。しんどいけど」

「ああ。けどぽちゃたそが筋トレのせいでムキムキたそになったら悲しいなぁ」

「そこまですぐに結果は出ないでしょうよ…」

 果たしてルシャは新学期までに痩せられるのか。それと、ルートは腹筋を割ることができるのか…!

元々けっこうふくよかなルシャがさらにふくよかになっておいしそうになりました。お腹の肉はつまめるくらいついてます。

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