49・雪の日の誓い
これはデートか?と問われた。
「デートです」
「デートかぁ。カップル不成立なのいるけど」
複数カップルのデートというのはたまに聞くことだが、奇数人というのはなかなかに斬新である。もちろんこの3人は誰が誰を取るのか決めることができずに輪になってイチャイチャし始めるので、カップルは成立しない。加わりそうな人は皆王都にいるのである。
今日は年に一度の冬の大イベント、サン・アルテミス祭である。日本におけるクリスマスみたいなものだが、異なる点は準備や片付けを除いてこの1日しか装飾されないことである。この日のために特別な商品を作る店は多く、それ目当てに人が集まる。一人で行けば周りがカップルだらけで絶望すること間違いなし。ルシャはこれまで数回母と行ったくらいで、毎年行きたいほどの魅力的なイベントではなかった。
しかし今年は2人の友人がいるため、カップルがいようとお構いなしにこの催しを楽しむことができそうだ。しかも奇跡的に雪が降っていて雰囲気が最高だ。単身者のルシャの家に集合したミーナとリオンはトイレを済ませてから会場入りした。複数箇所に設置された仮設トイレに大行列ができるのもこのイベントの特徴で、それを知らないと地獄を見る。
「うわぁ既にいっぱいのカッポゥが」
「色めきだちやがって…」
「まあ今日くらいいいじゃない。私たちだってカップルみたいなもんだし」
「それよりはぐれないようにしないと。団子みたいに連なっていこう」
手を繋いでいると寒さ対策に着ている厚手のコートが擦れてゴワゴワするが、誰もがコートを着ているのではぐれたときに極めて探しにくい。雰囲気を楽しみたいがために魔法で飛べることを忘れている3人である。
日没を迎えて店が開くと3人は片っ端から店を覗いて気になるものを手に入れた。市場のはずれにあるのは仮設テントの出店で、主に飲食物が売られている。ここで腹いっぱい食べたい気があっても飲み食いしすぎるとあとで後悔するので控えめにしておく。チョコレートの名店によるホットココアは1杯で100セリカという観光地価格になっているが、この程度で財布を手放す3人ではない。紙コップが真っ白になるまで舐め尽くしてから次の店へ。
「雑貨とか見る?」
「そうだね。新年を迎えるにあたっていろいろ新調したい気がする」
というわけで自分向けでなさそうな店は見ずに中心部へと進んだ。雑貨店には綺麗な装飾のアクセサリーやブックカバーなどがあってどれも魅力的に見える。
「中央の人になんか買ってってあげようか」
「そうだね。限定品だからね」
というわけで躊躇せずに欲しいものはすべて買うことにするとともに中央のフラン、ルリー、ドニエル、リーシャへのプレゼントを選ぶ。
「ドニエルさんは可愛いのじゃなくて大人っぽくて高級感のあるやつがいいかな?」
「あの人に似合いそうな雑貨ねぇ…万年筆とか?」
「それは高すぎて向こうが萎縮しない?」
「どうだろう。でもラーメンどんぶりストラップとかだと他3人と比べてアレじゃない?」
「うーん」
無難なハンカチが最適だということで暫定して他も探す。10分以上かけてドニエルに似合いそうな紺と灰のチェック柄のハンカチを選び抜いて次の店へ行けるようになった。
「お腹空いてきたわ」
「なんか食べる?」
「私ここでガッツリ食べようと思って昼食べてないんだぁ」
それは大変だということですぐに公園の特設会場の1つを陣取ってジャンケンで負けたミーナが代金を出すから買いに行けということでリオンが3人分を買いに行った。
3人が仲良くステーキを食べていると白いパーカーとカーゴパンツの男がやってきて空いているリオンの隣に座った。
「よぉ」
「お前だけはいないと思ってた!」
「誰かと一緒じゃないの?」
ルシャの弟子、ルートだ。彼は孤高を愛し馴れ合いを嫌うため人と人との触れ合いばかりのこのイベントを忌み嫌っているかと思われていたが、真逆のことを言い出した。
「冷めた家庭で育ってこんなイベントとは無縁だった。憧れはいつかなくなると思っていたが、今でも消えてなかった。今年はお前のおかげ…っていうか、流れで、俺のことを受け入れてくれる人ができたから、ここに来てもいいかと思ったんだ」
一瞬にしてルート少年の幼少期を想像したルシャたちは同情のつもりで頷いた。彼が早めに3人を見つけられたのは幸いと言って暫しの親交を許した。
「会えなかったら寂しい気持ちを増やしたまま帰ることになったのでは?」
ミーナは約束をすればよかったと言った。恥ずかしいし断られることを恐れていたルートが正直に打ち明けると、ルシャはここぞとばかりに喋った。
「お前の中にはあたしらを友達と思う心はないのか?あたしらはとっくにお前を友達と思っていたんだが、違ったか」
「ルシャ……!」
ルートはだいぶ感情的になったことを自嘲しながらも涙ではなく雪解けが目の下を垂れたのだと釈明した。闇の力を振り払ってから人の優しさに触れることの多くなった彼は浅く腰掛けていたのを正して財布を開いた。
「そのステーキ、どこで売ってた?」
「あそこ」
ルートが列に並ぶとリオンはこう呟いた。
「あいつ意外と金欠だった」
「何に金使うんだろうね?」
それを訊くためにもしばらくここにいると決めた。ルートが戻ってくると3人は気を遣わずに質問を浴びせた。
「お前あわよくばこの中の誰かと良い感じになりたいと思ってるんだろ」
「そんなことはない。お前らは3人で完成されてるからそれを崩そうとは誰も思わない。俺が躊躇ったのはそれが理由だって言っただろ?」
「やっぱりダテトリオは完成形なのか…」
「ダテトリオって言うの?」
ここでルートはダテトリオ結成の経緯を聞くことになったがあまり興味がないのでいつか忘れる。
長居するのはマナー違反なので食事を終えてすぐに音楽ライブまでの後半戦を始めた。ルシャはルートについて来ても良いと言ったが、彼は自分は邪魔になるとして帰った。その際に放った言葉がやけにルシャの頭に残る。
「あいつ根はいい奴なんだな。なんていうか、人間味があった」
「そうだね。これまでのあいつより、奴を苦しめていたものを憎むべきだったんだな。あいつは被害者ってだけだった」
「うんうん、それに、魔王との戦いのときに私を護ろうとしたのでこれまでの悪事は全部チャラにしたつもりだよ。あいつにしちゃカッコよかったし」
「お、惚れたか?」
「あっさりやられたけどね!」
「惚れてなかった!」
あっさりやられる勇者はルシャの好みではない。好きになるかどうかは来年の彼次第だ。
3人は後半も店を巡って雑貨や服を選んだ。買った物はこのイベントのために設置された鍵付きのロッカーに預けると移動が楽で、大量購入してもそこに収めれば問題ない。
「まあその気になれば一瞬で家に運んで戻ってこられるんだけどね」
「そういえば私たち飛べるね」
今更思い出した。
普段はこの時間に鳴らない鐘が鳴ったのはライブの開始を知らせるためだ。人々がぞろぞろと公園に集まってレジャーシートを敷き始めた。ルシャたちは公園を囲う商業施設の屋上に移動して全体を俯瞰する。するとそこへお馴染みのカップルがやってきた。
「やっぱり良い場所にいたか」
「あらぁ、先生!」
高身長に似合うロングコートを着たノーランと、可愛らしい白のボアつきコートにスキニージーンズという組み合わせのルーシーも飛行できる魔法使い特有の考えを起こしていた。フェンスに凭れて丁度良い音量の音楽を聴いているとかつてない雰囲気にしんみりしてきた。
「なんか違う人になったみたい。去年までこんないい雰囲気を感じることはなかったから」
「私いますごく幸せ。雪の降るサン・アルテミスの日なんて前後にないくらいロマンチック」
「なんか涙出てくるなぁ…感動しちゃう」
こんなに良い雰囲気の後押しがあるのにこれを言わないまま帰りたくなかったので、ルシャは2人を軽く抱き寄せて言った。
「私たち、ズッ友だよ?」
「もちろんさぁ」
「来年も再来年もそのまた来年もずっとずっと一緒にいようね?」
誓いを果たすと雪が勢いを増して視界を塞いだ。音楽は負けじと鳴らしたり響かせたりしているが、ついに会場が雪に埋もれてパニックを起こすと中断された。
「すごーい!」
「これこの前みたいになるんじゃね!?」
「やばいって周り見えないよ!先生いるかー!?」
「魔法だ!ルシャ、雪雲を破壊できないか!?」
「上昇します!」
ルシャが急上昇して雲の高さに至ると水平方向に大魔法を放って雲を散らした。それによって雪が止んだため、混乱していた会場は落ち着きを取り戻した。そして誰もが思った。
「あれはルシャがやった」
ルシャが戻ってくると人々は動きを止めて星空に見蕩れた。それに背を向けて飛び立った3人は予定通りミーナの家でお泊まり会を始めた。
「やっぱりルシャたそはすげぇなぁ。雲の高さにまで上がって雲を破壊しちゃうなんて」
「まあこのくらいならできますよ」
「私もいつかそのくらいになれるかな?」
「特訓あるのみだよ。付き合ってるうちにできるようになってるだろうから来年もよろしくお付き合いくださいよ」
「おう、3年になったらみんなで大会出ようぜ」
「いいねぇ。とんでもない大会になること間違いないね」
新たな誓いが立てられたところで時計が新しい日の訪れを告げた。肌の健康のために早めに寝たい3人は大きな風呂に仲良く入ってから寝た。
3人ともロマンチックな気分が残っていたので身を寄せ合った結果、真ん中のルシャが両サイドから挟まれて寝苦しかったらしいが、それは大したことではない。どこかデコボコしている3人組の冬休みは、まだ始まったばかりだ。
第1部・完! 50話は第2部でもない謎の隙間です。爆笑狂乱の第2部は50話の3日後、なんと番外編を入れずにすぐアップしちゃいます(予定)!お楽しみに!




