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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第1部
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28・群れなすひとたち

 フリーマーケットの収益を分配したので3人とも金持ちになっていた。運の良いことにフリーマーケットの後に衣料品店のセールが行われたので、安くなっている服を好きなだけ買うことができる…手に入れることができればの話だが。

 開店間際に来た3人は既に大行列ができているのを見て肩を落とした。

「え、こんなに人気なの…?」

 大きな店なので多くの人が来るとは予想していた。しかしこれほどの数が押し寄せているとは思っていなかった。先頭のほうには意地でも服を手に入れたい意思の強い女性がいて、開店ダッシュを決めるために構えている。

「これは厳しそうだぞぉ?」

「余りモンを見ましょうや」

 小柄と小柄と細身の3人はあの中に入り込もうとしたならすぐに弾き飛ばされるし、何かの間違いで巻き込まれてしまったら圧死もあり得ると恐怖した。穏便に済ませるべく賢い選択をしなければならない。

「お待たせしましたー開店です!」

 扉が開くと先頭から凄まじい勢いで駆け込んでゆく。売り場へ群がる人たちが去ってから入ろうとした3人は壮絶な戦いの様子を観察していた。

「うーわ、あの人掴みかかってるよ」

「あんな強く引っ張ったら破けちゃう!」

「争わなくてよかった…」

 ファイターたちの狙いは何なのか。誘導をしている店員に尋ねてみると、こう返ってきた。

「今日の催しでは最大60%値引きですから、おそらくそれじゃないかと。元値が高いものもありますから、それが人気になっているのではないでしょうか」

「そういうことですか…」

「我々の予想より多くのお客さんに来てもらってますから、緊急で誘導をするってことになりました。ぼくはあの中には行きたくないですがね…」

「あはは…」

 しばらくすると誘導の効果が出てきたのでルシャたちは店内へ入ることができた。かなりの商品が買われたのでワゴンやラックにはまばらにしか残っていなかったが、あるものだけはやたらに残っていた。

「あそこだけメッチャ残ってる」

「不人気なのかな?」

 ミーナがその棚の商品を広げてみると、理由がわかった。

「子供向けだこれ」

「そういや来てるの大人ばっかりだね。でも子供の分も買うってなるんじゃない?」

「このサイズって私くらいの人に合うからじゃね?」

 ここに来る女性客の子供はルシャとミーナより小さいのでこの服は大きすぎる。ほしい人が少なかったというわけだ。

「なかなかに可愛いじゃん」

「私たち子供だしいいんじゃない?」

 ミーナは身体に当てて印象を確かめてから購入を決めた。ルシャも違うデザインのを選んで買った。秋向けの薄手の長袖とパーカーだ。

「リオンに合うサイズはないなぁ」

「これだとヘソ出しになっちゃうね」

 というわけでリオンの服を探しに違う店へ行く。この商店街はすべての店が商会に加入していて、イベントの開催時間を調節することができる。混雑による混乱を回避するために複数の店で同時に開催することにしたので、これから行く店でも安くなった服を見られる。

 既にファイターのいなくなった店の中にはそれなりに服が残っていて、リオンに合うサイズもあった。こちらは立地の問題であまり知られていなかったか。

「リオンはラフなのが好きなんだよね?」

「着やすいのがいいね」

「じゃあそういうのはいっぱい持ってるだろうから、違うの選ぶね」

「なに、お前ら買ってくれるの?」

「着てくれるならいいよ」

 ミーナはリオンにフリフリの可愛い服を着せたいらしく、秋に合うクリーム色や茶色、落ち着いたピンクのワンピースやジャンパードレスを手に取った。

「こんな可愛いのが残ってんじゃん」

「え、これ私に似合うかぁ?」

「1個くらい持っとけって。あの人が好きそうだし、うまく使えるぞ」

 邪神ミーナが唆したのでリオンが同意し、服はコレクションに加えることを条件に買われた。半額だったので金持ちの財布はびくともしない。

「そういえばみーにゃんは専属仕立屋さんとかいないの?」

「いないいない。パパ様は仕事の服か運動着しか着ないから。ママ様は…まあ、少し興味ある程度かな」

「そうなんだ。ニャンはいつもどこで買ってんの?」

「そこらへんの店」

 金持ちでも行動が庶民的なことはよくある。ミーナは服について高ければ良いというものではないという考えを持っている。財布も高級ブランドのものではなく、そこら辺の雑貨屋で売っていそうな安物だ。

「金持ちっていうステータスを纏うことで云々って言うじゃん。そういうのはないの?」

「ないない。狙われるし」

 中途半端な金持ちアピールが最も危険だというのは、知り合いから教わったことである。アピールをしたいのなら両脇に黒スーツの長身男をつけるべきだという。

「まあ私の場合は長身男じゃなくてたそとリオンがいるから問題ないわけだが…ちなみにこの財布もう4年くらい使ってる」

 金持ちの秘訣はものを大切にすることにこそあると言うので新しい服を買っても古い服を捨てはしないと決めた。

「うちクローゼットがないから全部箪笥に入れるんだけど、そろそろいっぱいになりそうだ」

 貧乏家庭のリオンの部屋にはハンガーラックを置くスペースがなく、入りきらない服は箪笥の上に置くしかなくなる。そこでミーナがある提案をした。

「研究室の謎ロッカーに入れれば?」

「あれなんで置いてあるんだろうね?雰囲気?」

 ノーランが小物や白衣を入れるために買ったものらしいが、彼が使っているところを見たことはない。現在はルーシーのコスプレ服が入っているだけだ。

「あ、あれ金色でゴージャスよ」

 よく見ると黄色なのだが遠くから見ると金色に見えるのだ。サイズはミーナに合いそうなので身体に当ててみた。

「おお、雰囲気ある」

「そうかな?私はよく幼稚園のスモックが似合うって言われるけど」

「ぷふっ…」

「似合うと思ったろ?買ってくれよスモック。着るから」

 ミーナが自虐に奔ったのですぐに止めさせて大人っぽい服を探す。しかしサイズの都合が合わないので買い物が長引いている。

「子供服で大人らしさを出す方法を考えよう。組み合わせがあるはずだ」

 もはやセールのことがどうでもよくなった3人は別の店に入って大人コーデを考えた。いくつかディスプレーがあるので、それを参考にすればよいだけだ。

「お姉さんって言ったらニットだけどニットって冬よね」

「じゃあ色だな。モノトーンとかいいんじゃない?」

「いかん、スモックが頭にちらついてイメージがまとまらない…」

「買えよ!」

 ミーナが機嫌を損ねてしまったのでルシャが胸を押し当てることで宥めつつ買い物を続行させた。提案を却下する度に『ちくしょう』と小さく呟くのが怖かった。それでもなんとか彼女に似合う秋の服を見つけ出し、漸く機嫌は戻ったのだった。

「ふぅ、気が気でなかった」

「こう見えてお姉ちゃんなんですよ。だからロリっ子扱いされるのは嫌なの」

「ごめんね」

「10cmのヒール履いてルシャたそを超えてやる…」

「こけるよ」

 運動が苦手でバランス感覚の悪いミーナがハイヒールを履くと1歩で転ぶので何かしらの支えが必要になる。彼女は少し涙目になりながら買い物袋を提げて帰路についた。




 なんとこのセール、3日かけてやる。明日も同じような混雑が予想されるので、開店時間はセールをしていない店に行くことになった。

「テーマを決めようや」

「テーマ?」

「これから秋だろ?秋らしい服っていう漠然としたものじゃなくて、本の虫みたいなコーデとか、元気よく出てきたのに公園で迷子になって困ってて、Tシャツと短パンだから少し寒くなってきた季節には耐えがたい感じで震えてる少年を保護するときとか」

「後者はわかんねぇよ」

「私の体験でした」

 社交的なリオンはよく人助けをするし、しても怪しまれない。彼女はそのときのコーデを思い出し、こう言った。

「…制服だったわ」

「…各々考えるってことで。また明日~」

「じゃーね~」

 豪邸の庭の木々はそろそろ枯れるのか、あるいは常緑樹なのかと考えながら隣のリオンの話を殆ど受け流したルシャはリオンみたいにスタイルがよければいろいろなコーデが似合うのだろうと羨んで背伸びをしてみた。

「どしたの?」

「私もっと背が欲しい」

「ルシャたそはそれで完成されてるんだよ。それ以上でも以下でも不完全、神の造形と言ってもいいくらい可愛いよ」

「胸だけでかくたってしょうがないんだよ」

「胸がでけぇだけいいだろぉ!?肩凝れ!メチャメチャに肩凝れ!」

 胸と背、どちらを選ぶかは人それぞれだろう。ルシャは長身向けの服はあるのに巨乳向けの服がないことを嘆いた。




 翌朝、集合場所に来たルシャを見たミーナとリオンが鼻をつまんだ。

「なんかスースーする」

「メッチャ肩凝っててさ…」

「呪われた!」

 冗談のつもりで放った呪詛が通じてしまって苦しんでいるルシャを見たリオンは詫びのつもりで彼女に似合う巨乳向けの服を探すことにした。

「私は呪ってないけど可哀想だからオススメの整体師紹介するね」

 何かしらに引っかかりを持ちながら暮らしている3人は人の波に巻き込まれずに服を買うことができたが、空いてから行こうと決めていた店の棚はすっかり空になっていて、安く買うことはできなかった。

「服はこんなもんでいいかな…まだ昼過ぎだけどどうする?」

 秋が深まっても寒くない服を買って大満足なのだが、折角商店街まで来たのだからこれで終えずにもう少し買い物を楽しみたい気がしている。そこで先程の肩凝りを思い返し、連想したブラジャーを買うことになった。可愛いブラを見つけるために頻繁に店を探らねばならないのが巨乳の悩みで、自分だけでは決められなくて長引きそうなのが友人の言葉で短く済ませられるかもしれない。


 下着専門店に入ったルシャが自分のを探そうとすると、ミーナとリオンが手を繋いで右に舵を切った。

「じゃあ私たち子供下着売り場行くから…」

「あ、うん…」

 ルシャに子供下着は入らないので彼女だけは大人の下着を見ることになる。値段は高いしデザインは可愛いではなく美しいほうが多いのでなかなか気に入ったものが見つからないのが常だ。妥協点を打ってもモヤモヤした気分を早々に解消できるわけではないので、時間がかかってしまう。

「どうっすかー?」

 2人は決して貧乳というわけではないが、メーカーの予想の範囲内なのですぐに可愛いブラが見つかる。無事に新たな上下を見つけていた。

「あー、ガッツリ大人だねぇ…」

 気に入った色はあるし、気に入った装飾もある。どうしてそれを組み合わせられないのだろうか。それが不満だ。

「ルシャたそにはセクシーすぎるなぁ。それにこの色だと透けるのでは?」

 学校は具体的な色を指定していないが、『透けて見えない色』と校則に明記している。多くの生徒は白や薄めの色を選んでいるので、黒や紫を着けていたら着替えの時に注目を浴びるだろう。

「でもなぁ、薄い色はデザインがシンプルすぎるなぁ」

「確かにこれは悩むわ。他のとこ行こうか」

 ドンピシャの品を売っている店があるなら常連になるだろう。いろいろと巡ってみたが、ミーナとリオンのが増えてゆくばかりでルシャのは見つからない。結局ミーナが母に相談してオーダーメイドを承ってくれる店を探すことになった。

「私がシンプルなので妥協できればいいんだろうけど…」

「いやいや、1番近くで身につけるものを妥協しちゃいかんよ」

「気分が違うじゃん」

 2人はルシャの思いを理解して力になろうとしている。探すことも続けつつ、オーダーメイドも前向きに考える。




 家に帰ったルシャは箪笥を開けて持っている下着を確かめた。お気に入りのは可愛いし色も良いのだがサイズがきつくなってきている。それ以外はグレーや白で、レースやフリルのないシンプルなものばかり。華やかとか可愛いとかとは言い難い。

「やっぱオーダーメイドかなぁ」

 代金のことが心配で、決して多いとは言えない収入で自分を育てている母に負担を強いたくはないのだが、愚痴を吐いて困らせたくもない。これまで下着に関することなど相談していなかったので多少の躊躇いがありながらも思い切って母に相談してみると、彼女はこんな提案をした。

「あんた頑張れば作れるんじゃない?手先器用だし、縫い物得意だし」

「私が?ブラを?」

「うん。素材を集めるのは難しいかもしれないけど、集まりさえすれば合わせるだけじゃない」

「…やってみるかぁ」

 こうしてルシャは綿密な設計を要する下着の製作を始めた。手芸の得意な彼女だが、自分の胸にぴったり合うカップを作るのに苦労した。採寸は単に長さだけを測るのではなく、お椀型に合わせた湾曲を設計に含めなければならない。

「メーカーは苦労してるんだなぁ」

 もしかしたらサンプルが少ないせいでそのサイズを作れないのではないかと思いついたとき、彼女にある考えが浮かんだ。

「行こう」

 メーカーの品を売る店ではなく、メーカーに直接行くというものだった。

よくある服を買いに行く回でした。巨乳ってデザインのよいブラが見つからないと嘆きがちらしいですが、自分は巨乳ではないのでよくわかりません。

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