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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部・3年生編
251/254

248・やってるかしら?

 ルシャ、ルート、クロエの3人暮らしが始まってパーティーもやって慣れてきた今日この頃。そろそろフリーマーケットが始まるということで、ルシャは殆どの時間を手芸に充てていた。

 ルートはこの前言っていた荷運び業の開業準備をキルシュの助けを借りながら進め、クロエは成績を落とさないように予習復習をしっかりやっている。


 何も問題なくやれている3人のところへ、ある人物が来るという話だ。

「…行くことを宣言しなくてもいい立場なんだけどね。ルートとクロエがいるから気を遣ったんだろうね」

 この家はすべてフランの金で新築されたし、契約者はフランになっている。だからフランにとってはもう1つの自宅に行くことなのだが、心の持ちようがだいぶ違うだろうということだ。

「私たちの生活がしっかりしているか見に来るってことかな。しっかりしてるけどね」

「そうだよなぁ。掃除もクロエがやってくれてるし、規則正しい生活してるし」

「他に用事があるのでは?様子を見に来るためだけにわざわざ王都から100km以上も飛んで来るんですか?」

「政府の仕事があるのかもね。現場主義ってことでいろいろ飛んでるみたいだから、自分の担当する分野で話をしたけりゃ来るんだろう…普通は列車で来るけど」

「フランさんも飛んでこられるもんね。魔王との戦いが終わったときにジュタから来てくれたもんね」

「そういやそうだね」

 ルシャはあれがもしかしたら人類史上最速だったかもしれないと振り返った。息をするほどとは言わないが、常人より遥かに効率よく長く飛べるフランなら、お金のことではなく列車の速度のことで飛行を選ぶかもしれない。




 フランに怒られないようにしっかりと掃除をすると誓った3人だが、クロエの掃除の質が高いのでどこも汚れていない。

「汚いと言われるとしたら心だろうね」

「私もそこまでは掃除できません…」

「そんなに汚くねぇだろ。人助けとかしまくってるし」

 忘れがちだがルシャとルートは勲章を持っている。地震が起きたときに避難場所に物資を運んで人々を助けたからだ。それを自ら行う心が少しの汚れに支配されてしまうことはない。

「偉大な人だけど何も心配は要らないよ。楽しくやってりゃいい」

 ダテっているほうが安心できるはずなので、ヘンに生活を乱さない。


    ☆


 フランはジュタの家を泊まる場所としてアテにしておらず、日帰りの仕事のついでだと言った。

「いい感じにしてもらったわね。久しぶりで感慨深いわ」

「ちょっとデカくなった昔の家だからね」

「何か困ってない?」

「万事大丈夫だよ。快適」

「ええ。改めてになりますが、俺たちを受け入れてくれてありがとうございます」

 ルートとクロエが頭を下げた。フランは前と同じようにルシャの精神的な支えになるからいいのだと返し、ルシャが不摂生をしないように監視しておくよう頼んだ。

「クロエが決まった時間に料理を出してくれるから、それに合わせると規則正しく生活できるんだよ」

「夜更かししてないでしょうね」

「大丈夫だよ。眠くなる体質だから」

 母とはお節介をする生き物だからルシャはいろいろ質問されたが、ルートとクロエがしっかりしているので改善すべきことはない。

「むしろお母さん寂しくない?紛らすためにワイン飲んでベロベロになってないでしょうね!」

 ルシャの反撃が始まると、フランは1歩退いて狼狽えた。

「ルリーとドニエル以外に仲の良い部下が来るから寂しくないわ。お酒は…飲み過ぎてはないと思う」

「大臣っていろんな責任があって、気にしないわけにいかないだろうから辛そうだよなぁ」

「そうねぇ、矜恃を失えばできなくなる仕事よ」

「辛くなったら言ってね?」

「大丈夫よ。この前の旅行でだいぶ楽になったし、趣味に大金を注いで思い切り楽しめるし」

「ほう」

 大臣はどんなものに金を使うのだろうか。フランは部屋を改装して書庫にしたと言い、そこにお気に入りの作家の本を詰め込むことで完成させようとしているそうだ。それから買った本を片っ端から読んでゆくのが楽しみということで、想像したルシャたちも高揚した。

「じゃ、私は帰るわ。明日も仕事なのよね」

「もう帰っちゃうんですか!?」

 滞在時間は5分ほどだ。あまりにも短くてルシャは寂しい。

「お母さんが仕事で忙しくしてることは理解してるつもりだけど…」

「また来るから。それよりあんたが救護の仕事でこっちに来るかしら」

「かもしれない。ルートのレースの翌日に救護があるときは泊まらせてもらうね」

「ええ。全員で来てもいいのよ…うるさくしなければ」

 ルシャはルリーたちと一緒に食べてくれと言って饅頭の詰め合わせを渡した。これは本来ルシャたちが食べるつもりで彼女が買ってきたのだが、折角来てくれた母に何も渡せないのはダサいということで、あげることにした。フランは自分が持ってこられずに申し訳ないと言ったので、ルシャたちは大人だなぁと思った。


     ☆


 こうしてたまにフランが来るので清潔を保っておく。今はクロエがやってくれているからよいのだが、彼女が就職してどこかへ移ることになったらどうなるだろう。ルシャは彼女やルートに任せっきりにするのではなく、たまには自分でやろうと思った。

「腕が鈍るかもしれないからね」

「…じゃあ今日やりますか!?」

「ダテってんなぁ」

 そう言われたら一緒に作るのがダテなので、ルートに買い物に行かせてルシャとクロエが料理をする。役割が決まっていてもそれに拘泥することなく柔軟にやっていくのでもいいのだ…誰もやらなくなるのはダメだが。




 夕飯後、クロエがルートにこんな質問をした。

「ルシャさんと一緒に住んだらやりたいこととかあるんですか?」

 これまでクロエと一緒に住んでいて、これといって変わったことはしていなかった。しかしルシャは恋人なので、何か特別なことをしたいのではないだろうか。

「そうだなぁ、まあ、暮らすことができてりゃいいんだよな。一緒に暮らしたことがないと、ちゃんとやれるかって段階で不安だろ?」

「確かに…私もルートさんと住むことに不安がありました」

「だろうね」

「こいつは顔のせいで悪く思われがちなんだが、掃除もするしメシもマトモなの食べるしちゃんと寝るしで案外しっかりしてるんだよなぁ」

「ルシャ…俺も人の子なんだよ?」

「冗談だよ。でもちゃんとしてそうには見えないんだ」

「ま、顔のことは今更だな。クロエの不安は俺も察してたから、できるだけちゃんとしようと思ってやってたよ。緩んでたかって言われると、そうでもないんだ」

「気を遣わせちゃいましたね」

「気を遣ってもいいって相手と、そうじゃないのがいる。ダテは前者だ。事情があってこうなったとき、不幸を承知で一緒に住むってのは俺としても嫌だからな。不快な思いをさせないように、改めるべきところを洗い出したんだ」

「そういやミーナがそんな相談を受けたって言ってたな…あいつはキルシュ様だからそういう助言ができる」

「ああ。で、話を戻すけど、やりたいことってのはルシャにとって快い同居人であることだな。ちょっとしたことが嫌になると、それが蓄積して生活が荒む。される側はマジで腹立つのに、する側は全然気付かないんだよ」

「それは経験?」

「他人のな。たとえば隣の部屋で口笛を吹くとか歌うとかの行為が集中を乱すとか、なんなら寝てるのにそれをされるとか…皿を毎回洗うかたまってから洗うとか…」

「なるほどなぁ。それが違うとイラッとするわけだ。ちなみに私はわりかしズボラで、それが嫌な人にとっちゃ最悪だろうね」

「だから明確に役割が決まっているほうがいいんです。ルシャさんが掃除をしないことにイラッとしないでしょ?掃除は私の役目なんですから」

「なるほどなぁ」

 ルシャは共同生活が簡単ではないこともあると知って頷いた。


 では現状誰かは誰かに対して不満を抱いているのだろうか。

「たぶんこの中で最もだらしないのが私なので、私はそれより綺麗であることに不満はないよ。部屋は…できればそのままがいいけど。クロエがあまり配置を変えないで拭き掃除をしてくれるから助かってる」

「あ、やっぱりそれでよかったんですね。あるはずの場所にないってのを避けるために位置を変えずにいたんです」

「それがいい。ルートとクロエは私に対して何かある?」

「いいや?全くないね」

「私も不満はありません」

「そうかい?ルートに関しては私のだらしなさを知ってるからいいとして、クロエは自分の生活と私の生活が違ってるせいで何か嫌だとかないの?」

「今のところありませんね…共用部分が汚れてるのってルシャさんだけのせいじゃないから掃除することに不満はないし、ルシャさんがわざと汚すってことはないし…」

「ならよかった。あ、ずっと一緒に入ってるけど、風呂1人で入りたければ入っていいからね?」

「はい。ルシャさんは私がいて邪魔じゃありませんか?」

「んなことないよ。ミーナとリオンのおかげで誰かと一緒に入るのに慣れてるからかな」

「……」

 ルートが何か言いたげだがルシャは気付かないフリをした。


 今のところ誰にも不満がないということなので、ルートの理想は達成されていると言える。ルシャにとって不快なことをしていないから、それを崩さないように自由をもっと広げてゆくことにした。

「さてと、湯を沸かそうかな」

「……」

「ルートさん?」

「ん、なんだ?」

「ああいえ、何か考え事をしているように見えたので」

「ああ、まあ…そうだな。節約のためだって言うなら、俺と入ってくれてもいいんだよなぁ」

「それは…えっと、ルシャさんがいいって言えば…」

 クロエはルートがルシャと一緒に風呂に入っているのを想像して赤面した。しかし2人は恋人で、生涯にわたってここで一緒に住むことを約束している関係だ。邪魔者という意識を生まないために気を遣ってイチャイチャせずにいるが、本当は風呂に入りたいくらい恋心が湧き上がっているのではないかと思ってしまった。

「ルシャは言わないだろうな。流石に裸を見せ合うのはまだだろ」

「そ、そうですよね…」

 そこへルシャが来てしまった。

「なんだ?ルートてめぇクロエにエッチなこと言ったろ」

「ちげぇよ」

「ダメだぞ!エッチなことを言いたいならせめてあたしに言え」

「お前には言っていいのかよ…」

 このままだとイケナイ感じになってくるのでルシャがぶった切った。ダテは皆変態というのは既に知れたことだが、線を超えてはならないと規定されている。

「…まあでも男の子が女の子2人と一緒に住んでるって、滅多にないよな。兄妹じゃないんだし」

「俺の理性の強さは称賛されるべきだよ。17歳の男子だぞ?」

「そうだよね。まあ、そっちのことはそっちでやってくれ。邪魔しないから」

「おう」

(何の話をしてるんだろう…?)

 結局ルシャは今日もクロエと一緒に風呂に入ってルートが悶々としたのだった。やってるかしら?

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