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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部・3年生編
241/254

238・ママママァ…

 昨日は寝てしまってできなかった屋内の遊びを今日はやる。プレイルームにはダーツやビリヤード、カードゲーム、ボードゲームと非常に充実した設備があり、プレーヤーが揃ったところから始めた。

「私がディーラーをやろう…そういう服装はないのかい?」

 雰囲気を大事にしたいミーナがディーラーの服を求めた。ルームサービスには部屋着とバスローブの貸し出しがあるが、ディーラーの服とは書いていない。コスプレを楽しむ客がたくさん来て需要が大きくなれば、このホテルで多様に揃えるはずだが…

「まあいいや。謎の少女の陰謀に巻き込まれた4人の挑戦者…ってことにしよう」

 ミーナが謎の少女役をやるようだ。

「私と勝負だよ、お姉さんたち!」

 謎の少女は”ヴァン”(=20)と呼ばれるカードゲームで勝負をしかけた。ブラックジャックの20版で、ディーラーは15を超えたらスタンドするルールだ。

 少女が自分と挑戦者4人に2枚のカードを配った。少女の2枚目は伏せられていて、1枚目はK=10だ。

「カードを増やすかい?」

 ルシャの手札は14。7以上でバスト(負け)だ。少女の2枚目が5以上ならヒット(追加)しなければ負ける。

(伏せカードが5ならミーナは止まる。けど5なら私は引かないと負ける…)

 確率を計算するのに時間がかかるということで、直感を信じたルシャはヒットを選んだ。

「はいどうぞ」

 8だ。

「ぬぁぁ」

 ルシャがバストしたので今回の獲得点数は0だ。ちなみに10ゲームやって最も得点の多い者はフェルピニャン巡りで賞品を買ってもらえる。

「あなたはどうする?」

 クロエの手札は18。かなり強い数字だが、ミーナが19か20なら負ける。

「スタンド。ここは出しゃばりません」

 勝負師なら2狙いでヒットするのかもしれないが、あまりにも確率が低い。クロエは堅実に18で勝負することを決めた。

「次はあなただ」

 ルートは8だ。

「ヒット」

 これは当然だろう。何を引いても10以下なのだから、最も確率の高い10(10、J、Q、K)を狙う。

「どうぞ」

 3が出た。これで10を引いたらバストになる。かといって11で勝負はできない。ミーナの1枚目が10ということは、2枚目で必ず引き分け以上になるからだ。

「もっとだ!」

 ルートに熱が入ってきた。それに呼応するかのように届いたカードが8を示した。

「よし!」

 これで19。かなり勝ちに近くなった。

「スタンド」

 勝ちを確信したルートが腕組みをして右隣のリリアを見た。彼女は13でヒットした。

「ほら」

「5か…」

 クロエと同じ18でスタンドだ。これで全員の行動が終わったため、少女が2枚目を裏返した。

「7…!」

「お見事」

 ミーナは15を超えるとそれ以上引けないので、17で確定だ。これによってルシャ以外の3人に1点が入った。

「くっそぉ、私だけ負けかよ」

「まあ、運だからね…」

「取り返してやる」

 2ゲーム目が始まる。




 一方、リオンはラークとロディを誘ってダーツを始めた。

「真ん中に当てるんでしょ?」

「そうじゃないやつにする?」

 獲得点数が多いのが勝ちというシンプルルールではなく、300から点数を減らしていって0にした者が勝ちというルールもある。

「3回ずつだぞ」

「よっしゃ」

 順番にドスドス当ててゆく。リオンが残り15点、ラークが22点、ロディが3点になった。その点を上回る得点は無効となり、すぐに次のプレーヤーへ交代となる。得意な箇所なら確実に当てられるということであれば、敢えて小さい点数を狙って持ち点を削ってゆくのもアリだ。

「いや、私は1発を狙う」

 3本投げるまでにピッタリ0になればその時点で勝利が確定するルールだ。リオンは15を狙って投げたが、隣の10のダブルに刺さってしまった。得点が20になったため、バストで交代だ。

「ちくしょー惜しい」

「隣当たっちゃうのあるよね」

 ラークは22だからシングルならどこでもよい。どの配分で削ってゆくかを選べるが、プランを組むのが面倒なので11のダブルを狙った。左端の狭いスペースを狙うのは難しいが、スポーツ全般が得意な彼はダーツも得意なのだった…が。

「弾かれた!」

 ダブルとシングルとの間にある枠に当たって弾かれてしまった。そのため1投目の得点は0。2投目で14のシングルに当たったため、残りが8になってしまった。11のすぐ下にある8のシングルに当てればよいので、ラークは少し余裕を持って投げた。

「あ」

 しかしリリースをミスしたため、勢いがついて9に当たってしまった。彼は残り8点で次の番を待つ。

 ロディは3か1のトリプルで1発クリアだ。難度は3のほうが楽だろうが、何故か彼は狭いスペースに当てるほうが得意なのだった。

「凄まじい勢いで数減ってったもんな」

「うん。けど当てられるところ限られちゃったから弱った」

 3のシングルを狙っても17や19に当たってしまうので、ずっと勝てずにいる。数打ちゃ当たるでそのうち3のシングルに入るだろうと思ったが、今回も当たらないのだった。

「ダメかぁ~」

 頭を抱えて笑うロディは自分の心の繊細な部分が出てしまっているのだと分析したが、ロディは繊細に見えて意外と大胆なので、誰にも同意してもらえない。

「むしろ3を狙えてないから繊細ではないのでは?」

「そうかぁ…単に精度が低いだけか。練習しないとなぁ」

「じゃあすいません、貰いますよ」

 リオンが詫びてから投げた。鋭く飛んだ矢が射貫いたのは、5のトリプルだった。

「うおおおお!」

「きました!トリプルでキメた!」

「かっけぇなぁ!」

 ロディが好きなカッコいいリオンをまた見ることができた。リオンは賞品を貰えることが確定して大喜びだ。

「ルリーさんに靴買ってもらえるし、賞品も貰えるし…最高だ!」

「お、勝ったのか?」

 最初こそ1人負けしたが、2回以降圧倒的な勝負強さで20を連発しまくった絶対王者ルシャがウィナーズサークルに入った。勝者は常に勝者になることを証明した2人は、大富豪を相手に大富豪で勝ったアイを加えて次のゲームを始めた。




 ルシャ、ミーナ、ルリー、アイによるポーカーだ。ルールを知っているミーナがディーラー兼プレーヤーになり、カードを配った。

「フフフ」

 賭けに現ナマを使うが、認定された業者ではないのでやり取りは行われない。あくまでも雰囲気のために賭ける。

「私は積むぜ」

 ルシャはさらに賭け金を置いた。どうやら揃っているようだ。これで萎縮したアイは降りたが、3人は続けた。

「勝負だ!」

 カードオープン。ルシャが2ペア、ミーナとルリーが1ペアだ。

「いいねぇ。勝負するだけのことはある」

 ここでルシャは強いペアでも弱気な顔をすることで相手の賭け金を増やせるのではないかと考えた。自分が弱ければ相手は勝てると思うので、ハッタリで場の金を増やす作戦に出た。


 しかし配られたカードはノーペアで、交換で貰っても強くなりそうにない。ここでルシャは敢えて強気になることで、相手を降ろさせようと思い立った。口角を上げた彼女を見た3人は、ハッタリかどうかをそれぞれ判断した。

「積む!」

「はッ」

 勝負に出られると弱るルシャは表情を変えた。ミーナのカードは揃っていそうだ。勝負をしているのは自分だけではないと知ったとき、自分本位でやらないほうがいいと気付いた。

「これは勝てないかな~」

 ルリーが降りてアイは積んだ。ルシャ、ミーナ、アイの勝負だ。

「オープン!」

 ルシャが1ペア、ミーナノーペア、アイフルハウスだ。

「オメェ強いのかよ!」

 真顔で動くアイの不気味さがここでフィールドを脅かした。賭け金がアイに集まり、次のゲームが始まる。

「勝ちたいなぁ」

 ルリーは年上の矜恃を見せたい。ただ、良いカードを引き寄せるのに強さや美しさは関係ない。

(来た…!)

 ルリーは既にペアが揃っているのを見て賭けに出た。

「全ベット!?」

 これはかなり自信があるようだ。萎縮した3人だが、このまま全員降りるのは情けない。

「フッ」

 ミーナが不敵に笑んだことでルリーの1人勝ちが揺らいだ。

(まさか、この子は勝つつもり…)

 ルリーに焦りが表れる。彼女に萎縮していたアイが自信を取り戻したことで、ルシャを除いた3人の勝負になった。

「いざ!」

 ミーナ2ペア、ルリーストレート、アイ3カードだ。ルリーは拳を握り、受け取った額の大きさに瞳を輝かせた。


 ディーラーがまだ勝てていないが、ミーナは顔芸で有名だ。彼女はこれまで静かに戦況を見ていただけだったが、ここでかき乱すことを始めた。

「…」

「それはどんな顔?」

「……」

 黙って賭けを増やしたミーナには強いカードがあるのだろう。ただ、どれくらい強いか分からないので、ルシャたちは勝負を仕掛けた。

「オープン」

 ミーナが徐々に口角を上げ、カードを公開すると同時に大きく口を開いた。


 フォーカード


「ヒャー!」

 ミーナが飛び跳ねて勝利を喜んだ。ここにきてこれまでで最も強いカードを揃えたミーナが実力を見せつけて3人を怯えさせた。

「こいつも強ぇ!」

 強者揃いのポーカーになってしまった。安易な気持ちでこの勝負に飛び込むべきではなかったのか…蟻地獄に入ってしまったような恐怖を覚えたルシャは、自分が際立っていない場で急に弱くなった。

「く…」

「ハハハ!この場は私が支配した!」

 ミーナが大逆転の後に大虐殺を始めた。経験者というだけでなく、数々の強者とパーティーで遊んできたのだろう(ルシャの想像)、強者のエネルギーを誰よりも強く持っている。

「か、勝てない…!」


 挫けそうになったとき、同じ名を持つ真の強者が乱入した。

「ルヴァンジュで登録しているなら、途中で私にすり替わっていても問題あるまい」

「な…!」

 初期キャラで100勝しないと出て来ないレアキャラのような扱いのフランが登場した途端、ミーナの金の城を迅雷が打った。

「何回勝てば私は優勝できるのかしら?」

 妖艶な笑みに怯んだミーナが『5回です…』と言ってしまうほど異様だ。フランはミーナのエネルギーを吸い取って自分のものにしたかのように、彼女から勝ちを奪い取った。

「ほら」

「強い…!」

「恐れ入るね。これが支配者か」

 ルリーもアイも思わず俯くほどの圧倒的な結果でミーナに及ぶと、最終ゲームで真の力を見せた。


 ストレートフラッシュ…!


 非常に確率の低いこの組み合わせでミーナの城に紅蓮の旗を立てた。

「バカな…!」

「賞品はあげるわ」

「この私が…え?商品くれるの?」

 ミーナがその場に崩れ落ちて立ち上がった。カードゲームの女王の称号はフランに与えられたが、賞品は準優勝のミーナが受け取ることになった。




 最終的にルシャ、リオン、アイ、ミーナの4人が賞品を受け取ることになり、バーベキューへと移行した。食材が焼けるのを待つ間プールで涼むのはどうかという意見が出たので、折角だしここのプールを使うべく水着に着替えた。

「こっちのほうが羞恥心あるのなんでだろ」

「ね。海は水着が当たり前だからかな?でもプールも水着で当たり前だよね」

「屋内だから?」

「限られた空間のほうが恥ずかしくなるのかな」

「…私は恥ずかしくないけど」

 水に入ってしまえば羞恥心も和らぐというものだが、肉が焼けたの呼び声に応じてバーベキュー会場へ移ったとき、濡れた水着姿でいることがやたらと恥ずかしいのだった。

「そうだ、お前らが服着てるからだよ。脱げ」

「そういうもの?」

 夕飯後にプールに入っても悪くはないので、調理係も水着を纏った。これで全員が水着なので恥ずかしくない。

「フランさんポーカーやってたんですか?」

 大臣の休日に注目したミーナが尋ねる。フランはそのような機会が訪れるかもしれないと思って3人で特訓していたことを明かした。

「パーティーに招かれたときに知識すらないんじゃ、若いとの嘲笑を免れないからね」

「若輩者と下に見る老将を、大番狂わせで打ち倒すのは爽快ですな」

「それもある。新中央の若い大臣は、旧中央さらにはその前からずっとやっている人から下に見られがちなのよ。それを実績で黙らせる、それどころか焦らせるのが私たちの目標」

「新中央の持つあらゆる力にさぞ驚いたことでしょう」

「今のところはそんな感じね。王族に気に入られたことで、私たちの構造はより盤石になったし」

「そうですね。ルリーさんがこの若さで首相になるほどですもん」

「2人とも食べないのー?」

 とうに焼けているのに待てども来ないということで、肉焼き男が呼びに来た。そこからは続々と食材が焼けてゆくので、水着の濡れた男女がテントの下で飯を食うだけだった。

サブタイトルの元ネタはレディー・ガガのポーカーフェイスって曲のイントロです。聴いてみて

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