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えっ、私が勇者になるんですか!?  作者: 立川好哉
第2部・3年生編
229/254

226・芸術が爆発だ!

 ここにいる人が明日のことを不安に思う必要はない。4人の中で最も魔法が苦手なクロエも、ルートと一緒に暮らしていることで良い影響を十分に受けている。経験して掴むこともあれば聞いて理解できることもあり、クロエは恩人とも言えるルートに多くの質問をしている。

「今回のテストではみんなを驚かせることができそうかい?」

 ルートに教わり始めてからおよそ2ヶ月半、頭の良いクロエがコツを掴むのには、感覚を研ぎ澄ませるだけでよかった。急激に伸びた彼女の魔法能力は、今ではクラスメートも先生も驚かせるものになっているはずだとルシャは思っている。

「1年生の最初の期末ってことで少しは楽になってると思うけど、先生は容赦なく魔法生物を出してくるからね」

「はい」

「ウルシュになるかなぁ…」

「たぶんね」

 ウルシュはキャピシュの巨大種で、先生が勇者学校の生徒に試練として相手をさせるのに適したものとされている。ルシャには上位種のバルグシュが当てられたが、1年生はウルシュで様子を見るだろう。

「そこで大事なのが集中力…っていうか、魔法を集中させること。密度の低いウルシュだけど、並みの魔法は殆ど効かない。驚かせるってなると1発で破壊するべきだし、ルートに教わってるならそのくらいはできるはず」

 ルシャはルートの実力だけでなく指導力も高く評価している。自分とは違って物事を順序立てて考えることが上手で、感覚のみならず理論もしっかり習得していることから、理屈を説明しながら教えることができる。ルリーに似たものがあるとしている。

「確かにルートさんの指導は分かりやすいですが、私にその能力がついているかどうか…」

「君にないのは実力ではなく自信だ。実力はあると思うんだ」

「…ってか目的はテストで良い点を獲ることじゃないの?驚かせたいの?」

 アイが指導熱心になるあまり目的を逸していた2人を修正しようとした。クロエは高いものを求められる時代は終わったと言い、自らが目指す場所を決めるのだとしてテストで1位をとれればダテ特有の無慈悲な魔法はなくてもよいと伝えた。

「しかし君以外にも逸材がいるのでは?」

「その可能性はあります…中間でも授業でも目立つ子はいるので」

「そいつになくて君にあるのはダテってことだけだ。だから1位を目指すにしても少なからずダテは必要だ」

 不安を覗かせるクロエを納得させる方法がルシャにはある。空間すら自由に操作できる彼女は、この部屋を練習場にすることができる。夕飯前のちょっとした特訓として、ルシャはこんな提案をした。

「今から私がこの部屋をどんだけ魔法をぶちかましても大丈夫な防御結界にする。その中でウルシュを出すから、倒せるか試してくれ」

「はい」

「ルート、やってくれるか」

「どっちを?」

「どっちもできるような言い方だな。ウルシュだ」

「いいだろう。どっちもできるからな」

 ニヤニヤしたルシャとルートによって状況が作られた。クロエは集中して魔弾を放ち、ルシャの壮絶な茶番によって1度は放つことができた高密度の魔弾をウルシュに浴びせた。しかしルシャ製だからか、深さ3センチほどの凹みができても、貫通することは叶わなかった。

「硬い…!」

「ウルシュが授業で出てきたことは?」

「あります。全員で協力して倒そうってことで、さっき言った子が最終的にやりました」

「その子を上回るためには、もっと細くて鋭い魔法が必要だね」

 まだ集中しきれていないというアイは、自分がやって改善に繋がった名案を教えた。

「顔のすぐ前に縫い針があると思って。そこに糸を通す穴があるでしょ」

「はい」

「そこに通す。そこから射出するつもりでやってみて。最初から細くないと穴を通らないから、放つ前に極限まで凝縮するの」

 銃のないこの世界では銃のように放つという表現がない。たいていは弓矢に喩えられるが、魔弾とは感覚がだいぶ違うとアイは言う。

「この前お父さんと一緒に的当ての体験に行ったんだけど、魔弾とはかなり違う。だから弓を意識してるなら一切取り払って」

「弓はやったことがあります。的に当たるように集中するのは同じですが…確かにそのつもりでやっても上手くいきませんね」

「放つものの大きさを調節する方が的を狙うことより大事なんだよ」

 そう言う理由は、熟練すれば放った後にいくらでも修正できるからだ。ルシャやルート、リリアは放った魔弾に継続的に魔力を流すことでホーミング弾のようにできる。

「この凹みが凹みじゃなくてくり抜いたようにピンポイントに消えてればいい」

 正しく習得すればクレーターのようにはならないのだとルシャは言う。ルシャがこれを何度もやると、一つ目小僧が即死するほどのグロテスクな痕ができる。

「そうだなぁ、痕がこの範囲に収まるように頑張ってみて」

 ルシャが僅かに魔力を流し込むと、ウルシュの腹の一部に直径3センチほどの円形の変色ができた。その外…白い部分に痕が広がってはならないという課題に、クロエは最大の集中を要求された。一瞬に魔力を凝縮して放つと、魔弾は変色部ではなく白いところに当たったが、痕は小さくなっていた。

「うん。これなら良い点貰えるよ」

 凹みが深くなっていたので、ルシャは及第点を与えた。これはダテの及第点なので、学校のテストではもっと良い点を貰えるだろう。

「夕飯前でお腹空いてるし、その状態でこれだけできれば十分。私だってお腹空いてるときはいいの出ないもん」

 どうやら展開された結界とウルシュはルシャにとって傑作ではないようだ。これほどにタフなウルシュを空腹に乱された集中でも出せるのは、おそらくこの世でルシャだけだろう。

「さて、ご飯作ろう。冷たいスープと赤身肉のステーキだ」

 ルシャは手際良く調理して10分ほどで完成させた。米も炊けて良い感じになっているので、4人で食卓を囲って食べる。

  

    ☆

 

 ルシャは魔法理論を終えて最後の科目に挑んだ。3年の期末ということでウルシュではなく上位のバルグシュが出てきたが、ルシャはこれを一瞬にして消し飛ばしてしまった。「うーわ…」

 パァン!という破裂音とともに一瞬で魔力の粒子が散ったのを見た生徒は揃って苦笑した。この再現ができるのはルートくらいだが、ルートはそこまでの高出力をせずにバルグシュを破壊した。続くアイも一瞬で倒したため、後続が同じことをしなければならないのだと思って萎縮した。ダテの民が何度か放って消すに至り、苦手な生徒は消せずに凹みを作っただけで先生の『そこまで』の合図に止められた。


     ☆


 リリアも問題なく試練を突破したようだ。ではウルシュ撃破に課題の残るクロエはどうだったのか。

 彼女は昨日3人の先輩に教わったことを反芻していた。意識を集中させて目の前に針穴を置く。そこから出せる大きさにまで凝縮して放つ…

「!」

 ルシャのシュートより速い凄まじい速度で射出された弾丸がウルシュを強く圧した。大きさとしてはベストではないが、結果としてウルシュには大きな傷がついていた。

「回転…」

 弾丸は無回転でまっすぐ飛んだのではなく、高速回転しながら飛んでいたようだ。ウルシュに着弾した後その回転が抉る力となり、ウルシュの魔法でできた肉体を大きく削ぐに至った。

 これによって最も大きなダメージを与えたため、クロエはおそらく1位になるだろうと思われた。しかし後続の”目立つ子”はストレート弾でクロエより深い傷をつけたため、1位がどちらか判定が分かれることになった。

「まあでも良い結果なのは確かだ。先輩に誇れるだろう」

「そうだね。思ったより緊張しなくて済んだ」

 マクスがクロエの肩をポンポン叩いて励ました。その彼はあまり良くなかったようで、ボールをぶつけたほうが遥かにいいと言って周囲を笑わせた。


    ☆

 

「問題ないでしょう。みんなお疲れ様。追試があるかどうかは終業式の後に発表されるから、それまでは気楽にいてね」

 プリムラの優しい声はまるで夏休み開始を告げているようで、ダテはもう夏休み気分になっていた。

「高校生最後の夏休み、一生モノの思い出を作ってください。友達や家族とどこかへ遊びに行くのもいいですし、進路を意識した行動をしてもいいでしょう。犯罪だけはしないように、健全に楽しんでください…あ、これ終業式の日に言うやつだった」

「先生ったら」

 プリムラも早く夏休みが来てほしいようで、これから筆記の採点をしなければならないのを忘れていた。これからは先生のほうが忙しくなる。

「先生は夏休みどこ行くの?」

「そうだねぇ…ハーバーズ・エンドまで飛んでいくのもいいし、列車でゆっくり行くのもいいですね」

「列車がゆっくりなのか…」

 田舎のほうの列車は最高速度が遅いので飛行のほうが速い…プリムラなら。ただ、彼女に並行できる者がごく少数しかいないため、ソロ旅でないなら列車を使うのだろう。

「ってわけでテストはこれで終わり。あとはちゃんと学校に来て終業式を迎えるだけです。浮かれすぎないようにね」

 ホームルームが終わって解散すると、ルシャたちはダテを集めて近くの店に入った。そこでお疲れ様会をしてからキルシュ邸か溜まり場に移動して夏休み会議を行う予定だ。

深夜に働いているせいか目が光に弱いです。夜勤明けに予約投稿の作業をしているのですが、液タブの明るさを調整できないからまぶしぃ

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